美しき日本の残像 (朝日文庫)

  • 朝日新聞出版
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  • / ISBN・EAN: 9784022642400

感想・レビュー・書評

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  • 何とも痛切な内容の本で、ページを幾たびも戻ったり考えたりしつつ、半月近くかけて読み終えた。
    タイトルだけ見れば、美しい日本に滞在した際の(或いは旅をした)回顧録とでも誤解しそうだ。
    だが話はそう単純ではなく、日本に憧れて日本に住んだ外国人が、変貌してゆく日本への失望を描いた作品なのだ。
    子どもの頃から日本家屋に憧れ、日本の歴史・文化・芸術に深い造詣を持つアレックス・カー。
    日本の山と自然を愛し、日本美術のコレクターともなった彼が、失われた日本への哀愁を込めて語る一冊がこれ。
    的を射た数々の見方・考え方に、情けなくもうな垂れるしかないというのが、私の正直な感想だ。

    何も、外国人の眼を通して日本に失望しなくても、と思われるかもしれない。
    だが彼は、来日して全国をまわりながら、結局は四国の祖谷(いや)に茅葺屋根民家を見つけ、まだここに本当の日本があると確信して住み着いたこともあるのだ。
    徳島県と高知県、愛媛県の境目にある、タバコの葉を唯一の産物とする秘境の一軒家である。それが実に1973年のこと。
    その後の20年間で土地代が半分に下落したというから、バブルにさえ見放された土地ということだ。
    画像で見れば確かに「ああ、良いところだな」と思うが、果たして私たちのうちの何人が、わざわざそこに居を求めるだろう。
    ライフラインに苦労のない、もっと便利なところ、より欲しいものが手に入りやすいところ、情報が簡単に入手できるところ。
    それを求めた結果が、私たちの日本の姿なのだ。

    彼は言う。
    【日本家屋に美しく住んでいる人は全国で20人くらいしかいないのではないでしょうか。
     ・・・・・(中略)特殊な日本人は5,6人いますが、あとはみな外国人です!】
    そしてまた、醜悪なコンクリート、パチンコ屋(本書でこのふたつは非常に多く登場する)、看板、電線に囲まれて、日本人は日本の昔の美を憎んでいるのではないかとさえ思うと。
    プランニングの発想が無いから、それぞれ勝手に家を建てて、勝手にお店を作る。
    もしも上から「この町はこういう町であるようにしましょう」といったら、町全体で、いやもしかしたら国全体で反対運動を起こすというところまで発展させてしまう。
    それだけ“上からの指示”や、理想を掲げようとする人を徹底的に嫌い排除しようという国民性を持つが、それはある意味、【身勝手】と取ることもできるし、ゆえに世代や時代の流れに逆らえず大切なものをなくし、それがいつか自分たちの衰退に繋がるかも知れない、ということへの自覚を持てないでいる。
     
    そう、何事も「民は正しく国は誤り」という考え方が実は自分たちの環境・歴史・文化さえ衰退させているということに、いい加減気づかないと手遅れなのだ。
    いや、もう遅すぎるか。
    日本人は、日本の見方さえ忘れてしまって、いまや「歌を忘れたカナリヤ」なのだと、彼は言う。
    アレックスは祖谷から、京都、東京、亀岡と住処を拠点に移動し、、今なお残る「日本」を求めようと、正面きって闘ったのだ。
    その意味では実に傾聴に値する一冊で、特に第九章の【関西七番巡り】は必読。ただし、かなりの過去記事だが。

    何度も繰り返し書かれている言葉がある。
    【観光になった京都や奈良に騙されてはいけません】
    【京風料理屋の琴を排除しなければいけない】
    【和風旅館の日本趣味がおもしろいのですか】
    【おばさんの茶の湯やお花は日本なんかではないんじゃないか】
    さて私は、一体日本の何を知っているのだろう?

    『徳不孤 心有隣』(徳は孤ならず 必ず隣あり)
    ・・心にいつも理想の炎を燃やさねばならない。
    そうして、新しい日本の美は、再び生まれるのだろうか。
    もっともっと、自分の国について知らねばと猛省した一冊。

    • vilureefさん
      すっごい面白そうな本ですねー(*^_^*)
      また、読みたい本が増えちゃった。

      日本人て“上からの指示”が嫌いな国民性だったんだー、へ...
      すっごい面白そうな本ですねー(*^_^*)
      また、読みたい本が増えちゃった。

      日本人て“上からの指示”が嫌いな国民性だったんだー、へー。
      すごい新鮮ですね、言われてみると。

      電柱、これはよく分かりますよ。
      欧米って全然ないですもんね。
      田舎はどうだか分りませんが・・・。
      石畳で埋め尽くされたローマだって電柱なんてなかったよな。
      町の景観の美しさへの情熱が日本人にないのは認めざるを得ませんよね。

      でもな、こうやって改めて言われちゃうのと反論したくなる天邪鬼の私(笑)
      これは読まないといけませんね、フフフ。
      2014/09/18
    • nejidonさん
      vilureefさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。
      はい、ぜひお読みになってくださいませ!
      たぶん、そちらの図書館にも...
      vilureefさん、こんにちは♪
      コメントありがとうございます。
      はい、ぜひお読みになってくださいませ!
      たぶん、そちらの図書館にも置いてあるかと思います。

      実は私も、どこかに反論の余地はないかと、あえてじっくり&ゆっくり読みました。
      そして、撃沈・・(大笑い)
      著者は、環境と住まい方に関して言っているだけではありません。
      すべて、日本への限りない愛情ゆえというのが分かるから、納得せざるを得ないのです。
      vilureefさんがどう思われるか、お聞かせくださいませ~
      2014/09/19
  • Dear AREX,
    著書、拝読しました。
    あなたが日本で古民家、古美術、歌舞伎など、自分が「美しい」と感じたものや、そしてその元となっている日本の自然について、まるで“MY FAVORITE THINGS”を歌うように1つ1つ調度品にように丁寧に1冊の本に並べられていたため、「次は何が出てくるのかな」と最後までわくわくしながら読めました。

    日本の美に対するあなたのユニークな考え方が、時には「外国人だから」といって特殊扱いされるのは、残念でなりません。でも全く問題ではありません。あなたがもう少し長く日本に滞在していれば、あなたの独特な視点やこだわりは「オタク」のパイオニアとして高く評価されていたでしょう。
    また、あなたを「ちょっと変わったアメリカ人」と言うのも、違うなと思います。そういう人はMLBでのプレーにこだわる日本人野球選手を「ちょっと変わった日本人」と呼ぶのでしょうか?
    自分の生まれた国以外の文化に魅了され、それをライフスタイルとして貫き通すことを、そんな素敵な対象を見つけられてうらやましいとは思っても、変だとは少しも思いません。

    90年代にすでに、もう「美しき日本」は残像しか存在しないと考えたあなたは、今の日本を見たらどう思うでしょうか?
    確かに日本はどんどんだめになっています。日本の美は壊滅状態です。でも「徳不孤」です。いつかはあなたの感性への共感が日本に広がってあなたや多くの日本人や世界の人々を引きつける、本当の美しき日本となれたらいいですね。
    おそらくこの本の読者の多くは、単にノスタルジーにひたるだけではなく、「まだまだ日本には、こんなすばらしい美も残っていたよ。」と自分なりの美しき日本を追い求めたい欲求にとりつかれるでしょう。

    それではお元気で。一度、夜を徹して日本の古い民家で語り合いたいです。
    (2007/11/16)

  • 坂東玉三郎さんや司馬さんが寄稿されています。まだ読み始めたばかりですが、こういう方の文章に出会うと、奈良が好きと綴る自分の未熟さを恥じ入ると同時に、心が嬉しさでいっぱいになります。

  • アレックス・カーは怒っている。それがこの本から伝わってくる。


    著者は、エール大学で日本学を、オックスフォードで中国学を学んだ。
    来日後、1973年から徳島の祖谷で藁葺民家を再生させる活動を始める。
    変わり者のアメリカ人が見た「日本」。


    その日本に対して辛辣だった。

    :新しい建築物は、あまりにもお粗末で話になりません。
    :日本の一般の田舎は信じられないほど醜悪と化してしまいました。
    :京都は京都が嫌いなのです。

    コンクリートとパチンコの看板。電線と鉄塔に覆われ、画一的な家と蛍光灯。
    美しい日本はどこへいったのか。
    美しいものが壊されていくのが許せないらしい。特に京都に対して手厳しい。


    読んでいて「うんうん」と頷くことも多かった。


    読後に不安になったことがひとつ。
    何が本当に美しく、何がそうでないのか判断できる眼や感性を自分はもっているのか?ということ。
    美が失われた後の日本で生まれ育った者として、そう思ってしまった。

  • 日本に魅せられ日本に長く住む、アメリカ人のアレックス・カー氏が、日本の無秩序な開発を嘆く本。特に、電線やパチンコ屋やコンクリートやネオン看板が景観を損なうのが我慢できないらしい。
    最後の章がよかった。彼は日本や中国の歴史、文化、芸術、建築などを研究し、深い精神の部分まで日本人以上に理解している。この本は翻訳ではなく、日本語で書かれたのだ。本書で初めて知ったこともたくさんあった。
    彼は1970年代の留学生時代に、四国の山奥の茅葺屋根の家に魅了される。空き家を買い、茅葺屋根を自分で修繕しつつ住んだり、京都の神社の一角を借りて住んだり、歌舞伎役者に入れ込んだり、なかなか面白い経験をしている。
    日本の美というのは、自然との調和がなければ成り立たないと考えているようで、作られた庭や生け花の不自然さより、あるがままの姿を信奉している。
    彼の交友関係もすごい。白洲正子さんや、アウンサン・スーチーさん、玉三郎、最後の対談は司馬遼太郎とだ。本を通して、日本はもう終わってる、とあり残念な気持ちになるが、読んでみたかった本なので機会があってよかった。

  • 日本の道路計画を連歌に例えている (p.61) のが言いえて妙。そして、連歌で有名な歌が多数知られているとは、私は知らない (無知なだけかもしれないが)。
    一方で日本の国民感情に「恥」だけではなく「劣等感」というのも大きなウエイトを占めているのではないかと感じた。貴族への劣等感、西欧諸国への劣等感、東京への劣等感...。唯一四季がある等々のイデオロギーを強調しておきながら、静かながらも強固な劣等感が自己 (太古からの美意識、文化の) 否定を生み出しているのではないか。同様に、繊細な古い古い美意識を解す教養が無いばかりに、書などの「その意味がわからないと不安で、〔読めるはずと思っている字なのに〕読めない自分が恥ずかしい」(p.123) という劣等感が、判りやすいところ (コンクリートブロックとアルミサッシ、蛍光灯など) に収斂してしまっているのではないだろうか。判りやすいということが、理解不要 (考えなくて済ん) で楽であるというのも、また確かと言えるし。

  • 著者のプロフィルを見ると、いったいどんな人かと驚く。
    1960年代の少年時代に、米軍付きの弁護士であった父に従い、横浜で2年過ごす。
    イェール大学で日本学を学び、その後オックスフォード大学の奨学金で中国学を学ぶ。
    日本の大本教関連の団体に就職し、古美術を紹介する活動を行う傍ら、四国祖谷の茅葺古民家の再生活動をする。
    古美術のディーラーとして活躍する中で出会ったアメリカの不動産会社の経営者に見込まれ、転職。
    バブル期の日本での土地開発にも通訳などとしてかかわったようだ。
    その傍ら、再び亀山の古民家を再生し、そこで書家として、文人のような生活をしている…

    自分でまとめていても、これが一人の人の経歴なのか?と疑ってしまうほどの幅がある。

    本書のもとになった雑誌連載は1990年ごろ。
    単行本化は1993年、文庫化は2000年。
    そこからさらに20年余が経ってしまったことになる。

    本書には随所に、日本の美しさが損なわれていくことへの哀惜が語られている。

    日本人には美しい自然があると刷り込まれていて、山がコンクリートに覆われたり鉄塔が林立しているのをみようとしていないという批判は耳が痛い。
    本書のあとの「失われた20年」で開発は止まったか、自然破壊は止まったかというとそうでもないから。
    むしろ高度成長期に建てられた建物や看板が朽ちるままになって、さらに醜さが増している気がする。

    この人の文体は不思議で、一つのトピックに対してほめたかと思ったら、次の段落では批判する。
    あるいはその逆。
    非常にゆらゆらとしていて、ある意味とらえどころがない。

    日本人あるいは日本文化が「子供」のようだという見方もそんな感じ。
    本書では日本美術の無邪気さ、自由さを称揚するキーワードでもあったりする。
    が、一方で中国文化と比較し、「子供」であるともいう。
    自分にとっても、ちょっとわかる気がするが、現代によみがえった中華思想(伝統的な考え方では中国文化を日本流にアレンジしてしまうことはとんでもない野蛮なことだったろう)ではないかと思えてくる。
    これにマッカーサーの「日本は12歳の少年」という言葉をかぶせていくので、ちょっと帝国主義的な視線も感じられなくもない。

  •  あなたは知らないのでしょう。畳の清潔さ、細枝から垣間見る岩
    肌、タヒチのような豊かな雨林、それも日本の美しさということを。
    けれど、あなたは知っています。京都や奈良の古い町を見て美しい
    と感嘆はしても、その心の中では自分たちの現代の生活とは関係が
    ないことを。いまは日本人が得意な辛抱のとき。私も同じです。ひ
    と呼吸の時期でもあります。この本は、日本人が自分の足元と周り
    を見直し、本質への視点をつくるフィルターとなるでしょう。

    引用1:葉山の別荘で初めて見た畳は美しく清潔で、部屋は明るく、二階の窓からは遠く富士山を眺めることができて、僕はまるで雲の上に浮かんでいるような気分になりました。

    引用2:谷間からは霧がまるでマジックのように湧き上がり、日本独特のデリケートな気の細枝は風に吹かれて羽根のようにふるえ、その合間に岩肌が見え隠れしていました。

    引用3:タヒチにあるような火山性の山と、豊かな「雨林」のために、日本は多分、世界で最も美しい国であったと思います。その自然がもう過去のものになりつつあります。

    引用4:日本人は京都や奈良の古い町を見て、「美しい」と感嘆はしても、その心の中では、自分たちの現代の生活とは関係がないことを知っています。

    引用5:でも「お城に住みたい」という夢は山のお城から芝居のお城へと変わりました。

    引用6:言い換えれば、オックスフォードの文明の目盛りは数百年が単位であるということなのでしょう。

    引用7:一方、日本人はつまらなさに不満を感じないように教育されていますので、きっと幸せかもしれません。

    引用8:北京市民は文化大革命でずいぶん被害を受けましたが、北京市民は北京を愛しています。でも、京都市民は京都は「東京」ではないという事実に耐えられません。

    引用9:大阪弁が醸し出す「人間らしさ」は偶然ではないと思います。京都に負けない長い歴史の結果によって成熟した人間らしさです。しかも京都は「病気」なのに、大阪は健康的な町です。

    引用10:昔の美が消えていくことは避けられないでしょう。それにしても僕は幸せだったと思います。美しい日本の最後の光を見ることができました。 


    再読でしたが、いろいろな気付きがありました。徳島の山の中にある古民家改修の印象が強かったのですが、その要素をあえて外して引用してみると、日本の美しさはどこにあり、どのようにすれば感じることができるのか、もしくはできたのか、が語られている本として全く違った読み方ができました。目次の情報が少なかったので、今回あえて英語訳として後に出ている「LOST JAPAN」を購入して並行して読んでみました。併読の効果として、タイトルや目次の構成が単純化され、本の構成がわかりやすくなりました。美しい日本の最後の光を感じることのできる「城」となった古民家や伝統芸能に対する気づきや解説と共に、その背景にある大学、職場、関西の都市が、厳しい批判や皮肉と共に記されています。アレックス・カーを通じて追体験した「美しい日本の残像」から、この自粛連休に失った旅行体験の代わりになるような新たな価値を得ることができた良い読書体験となりました。

  • 古き良き日本のよさ。それが今日本から本当になくなりかけていることを実感した。

  • 20世紀に入って東洋における文化と自然の破壊は
    著しいものだと著者は力説する。
    ヨーロッパ諸国における産業革命はゆっくりとした変化であり、
    400年以上かかって築き上げてきたものであるのに対して、
    中国や日本では、それらがあまりにも急速に起こった。
    そしてそれは100%異文化によってもたらされたものである。

    著者は合理性や効率性が優先される現代社会において、
    こぼれ落ちた価値観を拾い上げる作業をしている。

    倫理からこぼれ落ちる感覚を大切にしている。
    ロジックが西洋的なら感覚は東洋的。
    言葉の巧みさでは全てを伝えられないことを理解している。

    日本の伝統文化がすべて分業制になっているのは、
    仕事・雇用を安定させるためというのも大きな理由なんだけど、
    その技術を他に持ち出されないようにするため、
    文化を容易に盗まれないために編み出された、と訊いたことがある。

  • 日本人が(忘れてしまったわけではなく)気に留めないような外の人の目線が祖谷を美しく彩る。読めばリアルを欲する良書。

  • 自然の力を拝借しているという気持ちを常に持ち続けないといけないですね。

  • 最近クールジャパンとか言って得意気な日本が忘れてしまった感性を、外国人の著者が優しく懐かしむように書いている。「文人」とは?オックスフォード大学時代、学長から植民地の者呼ばわりされた事、野の花ならぬノーの花など、ユーモアあるエピソードも楽しかった。

  • 自分達がうつくしいと思っている田舎の風景も分明に侵食されたものというのがよくわかります。
    当たり前すぎて見えていないもの。
    HANDSの影響で(笑)電線というものがこんなに身の回りにあるんだというのも改めて気付かされました。

  • 日本人よりも日本に造詣と愛情の深い、異邦人から見た古き良き日本文化の残像について。著者は徳島県の山中にある祖谷渓谷に古民家を構え、そこから急速に失われつつある日本らしさを憂いている。

    最近になってクールジャパンという言葉が出てきて、日本文化を海外に輸出しようといった号令の下に、様々なソフト産業に対する投資が増えているが、70年代から美術品や古民家に対する投資と目利きを行なってきた著者にとっては、今やほとんど価値のある日本文化の形は残っていないと嘆く。

    我々現代の日本人にできるのは、その残像を現代のニーズに合わせて再び再構築していくことなのか。そんな問いかけをこの本を通じてされている。

  • 「犬と鬼」を読んで、さらにこの人の著作に触れたいと感じ、読んだ本。
    日本はその歴史上で、自分たちで作ったわけではない借り物の産業革命を、自分たちの文化で咀嚼するまもなく受け入れざるをえなかったために、日本の伝統的なもの全体に対するアレルギーが生じている。特にショックを受けたのは、最後のほうのこの言葉。「今の日本人は昔の美に対して何らかの恨みを持っているのではないか」、「日本の自然と伝統文化はもう駄目だ」ということ。右を見ても左を見ても荒れ果てた光景が広がり、それを当たり前とする人間ばかりになった中、確かに希望はないが、それに気づいた少数は、少数ゆえに、新たな価値を見いだせる、そして築くきっかけとなりうるんじゃないかとも感じる。

  • 日本大好きのアメリカ人である作者が、日本の芸術・芸能や、自然の素晴らしさ、美しさと、それらのものが失われていくことへの思いを綴った一冊。

    作者は、日本や中国の芸術や文化を学び、特に芸術に深い造詣をもっているようで、まぁ色々書いている。美しいものを愛でて、そこから文化や歴史を学び、自分も何かを生み出す側にたというという姿勢は素晴らしいし、自分もそうありたいなと思った。がその一方、なんだか世間知らずのボンボンというか坊ちゃんの薄っぺらな能書きに聞こえてしまうのは何故だろう?なんか薄っぺらく感じられるんだよなぁ…

    例えば、日本の自然や昔ながらの生活は美しく、それを捨て去ってしまった日本人は愚かだ、という論調。こういうのはとてもとてもありがちで、ある程度は同意できるものの、やはり若干乱暴で幼稚な意見だ。

    快適な生活や所得の増やすことを目指す欲求を持つことはある意味当然であって、そのために自然や文化が失われるのはある意味仕方がない。日本はやりすぎ感はあるとは思うけど、「藁葺文化を失ったのは間違いなのです」まで言われるとじゃあお前の家は一生藁葺にしろよこの野郎と思ってしまう。

    2割は納得。でも残り8割は「うっすいな~」と思わずにはいられない。日本かぶれの外人が書いた本、って感じです。

  • 気づいているけど、言えないことを、外国人の彼が、ガツンと言ってくれました。

  • 日本が美しさを失いつつあるってことをさくっと言うあたりが小気味良い。RCの箱に住み、教養も美意識も、足りないものだらけな自分だけど、国道沿いのパチンコ屋(特に田舎は閉店して寂れてる)への憂いとか、同じ思いがあったんだ…

  • アメリカ人である著者は日本へ旅行へきた際に四国の祖谷の民家に魅せられ「ここが幼いころにみた夢のお城である」ということで、そこの移り住みます。
    著者がこの本の中でさかんにいうことは、「日本の文化と自然はもうすでに失われた」ということです。
    今我々がみているのは、失われた後の美しい残像にすぎず、だからこそ集大成的に素晴らしいものを観ることもできたと最後にのべています。

    中国学も日本学も大学で学んだ著者は、外部の目でアジアという観点から日本の文化を見ている所がおもしろいです。
    20世紀の技術類が欧米文化の上に発展したものであったため、日本の建築は「日本古来の美」と切り離されて、行われることになりました。
    山肌をおおうコンクリート、無数の鉄塔と電線、たくさんの看板。
    日本古来の美を無視した建物。
    日本に憧れを抱いてやってきた外国人はみな「いつになったらこの看板と電線と鉄塔はきえるのか」と言うそうです。
    日本は世界の中で「最も醜悪な国」の一つになりつつあると著者は悲しみます。
    それは日本だけでなく、北京もタイもそうであり、東洋全体の悲劇であるといいます。
    欧米は自国の文化の延長線上に今があるために、それほど計画しなくても景観のバランスがとれてしまうのでしょうが…。

    最初の文章がかかれたのが1990年。それから20年あまりたったが、まったくいい方向にかわっていないのが悲しい。

    悲しい話ばかりではなく、京都・奈良の見物の仕方、歌舞伎の美しさについて、茶道や華道・書道まで日本文化への考察が多岐にわたり、「そんな見方があったのか!」とよんでいてワクワクします。

    日本文化が大好きな方、日本を違う角度から考えてみたい方におすすめ。京都や奈良の旅行の資料(特に仏閣好きの方)としても使えると思います。

    この本の中で個人的に特によかったのは、自分が好きなもののルーツが見えたこと。
    わたしの夢のお城は「縁側・自然でやさしい和の庭・茶室・文化住宅やグラバー邸」・・・。
    縁側や自然な庭は東南アジア由来の文化であり、日本の文化の基礎部分なんだそう。だから懐かしい、甘い気持ちになるのかもしれません。
    また、カー氏は現代日本人は日本文化にたいして既に外国人であると述べています。外国人であるから、西洋ミックスの文化住宅やグラバー邸が好きなのかもしれません。

  • アレックス・カー氏の講演を聞く機会があり、その予習のために読みました。日本の現状を厳しい筆致で描いています。この本を読むまで当たり前と思っていた風景が異常なものと理解しました。他の国の写真を見ると、確かに電線や鉄塔、パチンコ屋はありません。このような事実に気づかせてくれた、アレックス・カー氏に感謝します。(講演後、サインをもらいました(*^_^*))

  • 読み終わってから1ケ月以上経っているので、実は内容をかなり忘れてしまっているが、きれいな日本語と教養の深さと広さに驚いた記憶が残っている。

  • 懐古主義的かもしれないけれど、日本人は日本の文化に無神経になっていることに気付かされる。

  • 現代日本が失いつつある日本文化について、主に芸術と自然という側面から書かれています。

    日本人なのに京都がウソの世界に見えてしまう、日本人が外国人になってしまったという著者の考えには悲しいけれど納得してしまいました。

  • 2006の4月頃に熟読しておりました。
    そのわりに、あまりにも記憶があいまいなので、再読しようと、本棚を探しましたがありませんでした。
    覚えているのは、違和感と、それから能とセッションする場面で、もうやめてくれと思ったことです。
    クールジャパンも、クールジャパンに収まらない日本、ニッポンとにほん、あわれとあっぱれもいいですが、日本にとって美しいと思うこととは何なのでしょうか。
    それは複雑で多様。
    自分でとらえきれない日本の美しさがあるからこそ、自分でとらえやすい日本の美しさを嗜好する。
    歴史は繰り返しません。文化も。

  • 変わった、すごい人だとは思うけどもその文化論みたいなのには納得がいかない。生活上必要な変化や当然の変化を日本の醜悪な文化として見ている。そういう部分も当然あるとは思うが度が過ぎる。坂口安吾の堕落論や日本文化私論がよいアンチテーゼを示しているように思う。

  •  文明開化によって日本から失われた一番大きなものは風景だろう。この本の著者は、日本に留学に来た際に、四国の山中にある平家の落人の里を通りがかった際に、そこの風景に魅了され、ついには借金をしてその土地に家を買ってしまったという変わり者だ。そして今は失われた風景を守ろう、取り戻そうという活動をされている。
     さまざまな文明開化以前の資料を読んだ時はいつも、その時代に思いを馳せ、その時の風景を想像してみる。もう失われてしまったとはいえ、それは日本の文化そのものともいえるかけがえのないもので、世界の財産だった。世界の財産というのは今的な価値観で考え方で枠にハマっているかもしれないが、それだけの価値を現代人は見出すことができる。もちろん、日本が生き残っていくために変わらなければならない外敵圧力があったからこのようになったわけだから、西洋人の立場上祖先がしたことを申し訳ないという気持ちも多少はあるのかもしれない、しかし、彼は単純に美しいものを後世に残していきたいという単純な純粋な思いがあったからこそ、このような活動をしているのだと思う。
     理想論をかかげて現状を批判しているだけでは何も解決策は生まれないが、我々はまず現状と歴史をもっと深く知るべきではないだろうか?日本は内側から変えることは出来ない子になのだから、まずは自分たちが変わる。そして外からの圧力で現状が崩れ去るのを待つしか無い。そこから本当の意味でアレックス・カー氏のような人物が活躍できるようになればいいと思う。

  • 自分の知らない日本の現状を外国人から教えられる。情けない。

  • 奈良の奥山
    奈良といえば室生寺
    秋篠寺・・・伎芸天像(日本彫刻の十指に入る傑作
    孔子曰く、徳不弧、必有隣

  • 国・人によって価値観は違うので何とも言えませんが、我々が失っていることを教えてくれた本です。

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著者プロフィール

1952年米国メリーランド生まれ。1964年に初来日し、1966年まで父の仕事の関係で横浜の米軍基地に住む。1974年エール大学日本学部卒業。日本学を専攻、学士号(最優秀)取得。1972~73年まで慶應義塾大学国際センターでロータリー奨学生として日本語研修。1974~77年、英国オックスフォード大学ベイリオル・カレッジでローズ奨学生として中国学を専攻。学士号、修士号を取得。著書に、『美しき日本の残像』(新潮社学芸賞)、『ニッポン景観論』などがある。日本の魅力を広く知らしめる活動を展開中。

「2017年 『犬と鬼 知られざる日本の肖像』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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