生きるなんて (朝日文庫 ま 3-3)

著者 :
  • 朝日新聞社
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  • Amazon.co.jp ・本 (220ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022643971

感想・レビュー・書評

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  • 1.著者;長野県出身の小説家。高校卒業後、商社に勤務。1966年に「夏の流れ」で、当時最年少(23歳)で芥川賞受賞。その後、「雨のドラゴン」で谷崎潤一郎賞や「月に泣く」で川端康成賞、等の候補になったが、いずれの文学賞も辞退。「文学には、賞も出世も無用・・」と言い、文壇で群れている人間を嫌い、煩わしい人間関係を断ち、安曇野で執筆活動を続けている。妥協を嫌い、独自の死生観を追求し続ける孤高の作家と言われています。
    2.本書;丸山氏が、生きていく中で直面する様々な出来事に対して、自身の考えを本音で語ったエッセイ。「第一章;生きるなんて」~「第十一章;死ぬなんて」までの十一章構成。若者向けに書いたと言われているが、中身は全世代に共通するテーマ。孤独を愛する作家らしい内容です。
    3.個別感想(心に残った文章を3点に絞り込み、私の感想と共に記述);
    (1)『第一章;生きるなんて』より、「“人間らしく生きたいから”・・には二通りの解釈がある。一つは、感情や本能に赴くままに、やりたい事だけをやり、やりたくない事ははやらないという生き方です。最も自然で、最も楽な道です。・・他方においては、こんな生き方もある。・・心の底から喜びを感じ、とことん楽しめる生き方とは、・・自身で見つけた目的や目標に向かってじりじりと迫ってゆく事です。この充実感、この幸福感に優る快楽はないでしょう」
    ●感想⇒“感情や本能に赴くまま” 又は “心の底から喜びを感じる”生き方のどちらを選ぶかは、強制されるものではなく、自分で選ぶものです。森本哲郎氏の言葉を借りれば、「人間の生き方に絶対的な基準などあり得ない。理想はあり得るが、どの理想とて百人百様であろう。人間の生き方とはあくまでも一人一人が決めるもの」となります。時代環境によっては“楽”と“頑張る”を使い分ける事も出来るかもしれません。私にはそういう生き方は出来ません。人間として生を受けたからには、最低限の義務(=子供をキチンと育てて社会に送り出す、とか)を果たし、お世話になった社会に、少しでも恩返しをする事が望ましいと考えます。キングスレイ・ウォード氏は、「真の幸福感を味わうのは、自分自身に定めた何らかの目標を達成した時である」と言っています。
    (2)『第六章;親なんて』より、「“いい子を持ったおかげで幸せになれましたよ”。おのれの力と働きによって得たものではない裕福な暮らしに安住し、そのことを恥と思わず、心底から幸福と感じる、厚顔さ、無神経さ。そして、その逆の場合の親もまた多いのです。入学試験に落ちただけでも、一流企業に就職出来なかっただけでも、・・“あいつは駄目だ。失敗作だった”などと吹聴し、見限ってしまう親も決して珍しくありません」
    ●感想⇒著者が言うような親をよく見聞きします。親が子を所有物のように考えて、自立出来ないのでしょう。親がなし得なかった事を子に望んだり、親の面倒は子が見るものだというのは、化石時代の思想です。親の義務は、“家庭での子の躾と独り立ちするまでの面倒見”と思います。そうして、社会に旅立たせるのです。「事の良し悪しを自分の判断で選択できるような人間」に育てられるのが理想でしょう。親には、自分の経験(成功・失敗)から学んだ人生の知恵とノウハウの集積を子供に伝えられるような切磋琢磨が必要です。
    (3)『第七章;友人なんて』より、「不安や心配を前にした時、眼中に置くべきは他人ではありません。相談すべき相手は常に自分自身であって、他の誰かであってはならないのです。誰かに頼ろうとした瞬間に、あなたは自らを無能者扱いにしているのです。不安や心配に覆われた時こそ、あなたの真価が問われているのです。・・あなたよりあなたの事を真剣に考えてくれる者はいません」
    ●感想⇒著者の考えには多少異論があります。森本氏は、「人生は方便ではない。・・初心に帰って、根源的に問い詰めていくべきもの・・、それには、やはり人生の先輩、先人に学ぶほかない」と言いました。色々な考えを持った人の意見に耳を傾ける姿勢を保ち、時間的な制約の中では、読書も有効です。「本を一冊読む度に正しい方向に一歩前進する」とまで言う人もいます。不安・心配事が起きた時に、そうして蓄積した知恵を活かし、熟慮し、判断し、解決するのです。著者が言うように自分自身が頼りなのですから。
    4.まとめ;丸山氏は、都会の文壇や出版社の人達との交流を嫌い、長野県安曇野で作家活動をしています。私は、「生きるなんて」というテーマのエッセイはさぞかし厭世的な内容だろうと思いました。しかし、中身は、常識的で納得できる事が多くありました。テーマごとに、癒しではなく、鋭く突き刺さる数々の言葉があります。氏は俗世を離れた所に住んで、社会を鋭い目で見ているのです。まとめれば、本書は自分自身で深く熟慮する為の、数々の処方箋を与えてくれる一冊です。(以上)

  • 叱咤激励の著書。私たちは何をすべきか、考えるヒントを与えてくれている。

  • 文学

  • これは読まなくてもいい

  • 2015.5.22著者による人生論。自立とは何かを知りたくて読んだ。ひじょーに厳しく、ひじょーに耳が痛い。私のような甘ったれた人間には、「そんなに現実は悪いものかな」「そうは言うけど人間そんな強くないよ」なんていう言葉が頭の奥から響いてくる。強い言葉、人生観を投げかけられた自分を、弱い甘ったれた自立できてない自分を正当化しようと、半自動的に言い訳のような言葉と不快感が湧き上がってくる。今の私には、人生の厳しさ、不条理に立ち向かう勇気も関心もないなと、情けなくなった。ここに書かれていることに意義を唱えるためには、実際に生きて、経験して、確かめるしかない。現実を知らずのうのうと甘ったれて生きる私には文句を述べる資格はないようにも思う。少しずつでもいいから、自立した個人、私として人生を生きることのできる人間になりたい。とりあえず、無知は搾取されるのみと知り、勉強がんばろうと思う。無関心、他力依存から、自立した無頼漢になるための、厳しくも力強い人生指南書。

  • 辛口に「自立して生きていくとはどういうことか」について11の切り口から説いた本。

    全体的に何処かで聞いたことのあるような話。最初キツい言葉を並べ、現状を鑑み、筆者が嘆くといった構図のようなものが随所に見られる。
    言いたいこともわかるし、首肯できる部分もある。しかし、文章構成から「基本的に気まぐれで投げっぱなし」という印象を強く受ける。その点が不親切であるし、不快。
    中でも最も気になったのは、「現状」を裏付けするデータがないこと。それらしい「良いこと」が書かれてあったとしても、その根拠がない以上、それはただの仮説にすぎないと思う。

    散々書いたが、たしかに「自分で自分を掴みとり、上手に舵取りしていきたい」という考えを持っている人には興味深い内容かもしれない。もっとも、全てを鵜呑みにしないという前提条件は必須であると思うけれど。

  • こんな物言いじゃ世界どころか目の前の人一人だって動かせない。反面教師にはなった

  • 自己啓発本の一種で、現実に則したことを指摘しながら、どうすればいいのかを書いてある。
    しかし、私には若干、後ろ向きな発言が多く目につき、あまり前向きな気分にはなれなかった。どうしようもなく凹んでいるときに、自分を慰めてから上を向く際には、ちょうど良い本かもしれない。
    現状の私には合わない内容なので星は3つにしました。

  • 著者の人生論
    まさにそのとおりです。
    文学と言葉を極限まで格闘してきた文章と精神、
    私は好きです。

  • 自分にしんどいときに読むと、その率直な内容に叱咤激励を受ける一冊。涙が流れるのはその奥に著者の真っ直ぐな生き方を感じるからだろう。

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著者プロフィール

1943年、長野県飯山市に生れる。国立仙台電波高等学校(現在の国立仙台電波工業高等専門学校の前身)卒業後、東京の商社に勤務。66年『夏の流れ』で第23回文學界新人賞を受賞。同年、同作で芥川賞を受賞し作家活動に入る。68年に郷里の長野県に移住後、文壇とは一線を画した独自の創作活動を続ける。また、趣味で始めた作庭を自らの手による写真と文で構成した独自の表現世界も展開している。近年の作品に長編小説『我ら亡きあとに津波よ来たれ』(上・下)。『夢の夜から口笛の朝まで』『おはぐろとんぼ夜話』(全3巻)、エッセイ『人生なんてくそくらえ』、『生きることは闘うことだ』などがある。

「2020年 『ラウンド・ミッドナイト 風の言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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