- Amazon.co.jp ・本 (672ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022644008
感想・レビュー・書評
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明治維新後に北海道に入植した和人とアイヌの民の話。
文明と文明が出会うとき、多数派、科学文明の力の強い方が相手を押潰してしまう。これまで何度も繰り返されてきた。
語り部である由良の言葉にある「もっと深い恐れか憎しみか、何かとても暗くて嫌なものがあったような気がする。姿と言葉の異なる人に対する恐れと憎しみ。人間の心の中に棲むいちばん忌まわしい思い」これが人の心の中にある限り、これからも起こるのだろうか。
アイヌの民と牧場を開き、共に生きた宗形三郎の生きざまに人としての理想の姿を見る。
だからこそ結末があまりに衝撃的で哀しい…三郎のこともアイヌの民のことも。
けれどこれが現実なのだろう…つらい。
アイヌの民の気高さ、自然と共の生きる思想の深さが伝わってきた。
熊の神が語った「大地を刻んで利を漁る所業がこのまま栄続けるわけではない。いつかずっと遠い先にだが、和人がアイヌの知恵を求める時が来るだろう。神と人と大地の調和の意味を覚える日が来るだろう」それが生かされる時が来るのでしょうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アイヌの束の間の隆盛と衰退を、壮大な枠で描いた、哀しい美しさに満ちた作品。
明治初期、開拓団の家族として淡路島から北海道へやってきた、幼い宗形三郎・志郎の兄弟。
先住民であるアイヌ民族の人々と親しくなった彼らは、他の和人とは異なり、その自然の摂理に基づいた生活と信仰に魅せられます。
そして、成人して後は、馬の扱いに長けたアイヌを主体とした牧場を経営しながら、アイヌの生活と地位を守ろうします。
しかし、アイヌへの差別と、好調な事業への嫉妬が激しさを増した結果…。
宗形兄弟とアイヌの同胞たちの夢破れた物語は、哀しい末路を迎えた三郎を追慕して止まなかった弟・志郎の、自身の幼い娘・由良への昔語りとしてはじまり、やがて成人して妻となり母となった彼女の執筆という形で、昭和初期にようやくこの世に痕跡を留めることになります。
そのため、物語の開始から哀しみと追憶に満ちており、そして、結果的には差別と敗北に終わるため、途中で何度もつらい気持ちになりました。
それでも、兄弟やその家族、アイヌの仲間たちなど、彼らがお互いを愛し、認め、尊敬し、思いやった気持ちが心に染みる素敵な物語でした。
作者の池澤夏樹さんの母方の曽祖父にあたる方が三郎のモデルになっているそうで、それが物語に不思議なリアリティを添えています。
また、近年の、人間の止まないエゴによる自然破壊や種の絶滅問題などについても考えさせられることが多い作品でした。
気持ちの浮き沈みのせいで、読み終わるのにかなりの時間がかかりましたが、読んでよかったと思えた物語です。 -
ボリュームもゴツく、アイヌに深く関わる文化物と敬遠する要素満点だが、読みやすく話の進め方も魅力的で退屈せず読めた。話の要所にフックがあり丁寧。
池澤夏樹らしいスピリチュアルさも健在。 -
「熱源」を読んだという話をしたら、知人から「この本も読んで!」と勧められた。
アイヌの生活や精神、置かれた環境などを、淡路からの移民兄弟の目を通して語られた話。
熱源のように激流に飲み込まれるような激しい事件(戦争)が起こるわけではないけれど、開拓者たちが日々の生活を切り開いてゆく力強さと、それに伴う困難な状況を知ることができた。全体的にとても優しく、悲しい話だった。
この本を読んだら、次は「チームオベリベリ」を読みたくなった。 -
数年前に熊野古道を訪れた際、松浦武四郎という人の存在を知った。そこからアイヌという人たちについての本を読むことが増えた。
淡路島から幕府御一新のために北海道に入植した内地の人間が話の軸だ。
続く -
読み応え満載の1冊!
アイヌ絡みもあり、作者の熱意も読んでいるうちに伝わった!
もう少し一気に読みたかった…。
もう一度心が余裕あるときに一気に読みたい! -
北海道の開拓とアイヌのことを
少しでも知るために
この本を読んで本当に良かった。
池澤夏樹さんの語り口は
アイヌの伝承を
一層美しく引き立て
哀しくも儚い物語を色どり
心にすぅっと染み込んでくれた。 -
明治初年、淡路島から北海道の静内へ入植した一家。その地でアイヌの人々とともに牧場を開く。家族三代に渡る歴史と静内、アイヌの栄華と衰退が壮大に描き込まれている。さまざまなな文章スタイルと主観を変えて連なる物語は見事である。