- Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022644527
作品紹介・あらすじ
天才歌人・啄木は貧困に苦しみながらも、新しい明日への情熱を持ち続け、二十六歳で亡くなった。亡くなる一年前に出版した『一握の砂』の歌に、啄木はさまざまな意匠を凝らし、命を吹き込んだ。初版本の体裁(四首見開き)で読むことで、我々は流れ出でる歌の意味を理解できる。啄木の生きた証しがいま甦る。
感想・レビュー・書評
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母が亡くなった後に、愛用のタンスの中にずいぶん昔の手帳があるのを見つけた。其処には啄木の歌が何首か書き抜かれていた。恋の歌が多かったと思う。その内容から10代の頃の手帳だと思った。
意外だった。母の10代は、兄2人が戦死し、父親も後を追うように亡くなり、なんとか帰郷した兄と妹と母親とで、やり繰りしながら暮らしていた頃だ。現代の十代のように青春を謳歌する暇はなかった、と聞いていた。
けれども、よく考えると、毎年のクリスマスに私へのプレゼントとして本が置かれるわけだが、小学高学年か中学生のある年は石川啄木詩集が置かれていた。母親のチョイスに、なんの疑問も持たずにざっと読んで、私は直ぐに歴史大河小説などを読んでいた。彼女としては、思い入れのある本で、渡す数日前には彼女が愛読していたのだろう。
今回改めて読み直してみると、「蟹とたはむる」なよなよしさは、一切感じず、明治後年の貧困をもたらす社会と、与謝野晶子よりも遥かに直接的な反戦歌があることに驚いた。貧困と反戦、それは戦後の母にとっては、あまりにも当たり前のことであり、だからこそ彼女は啄木に惹かれたのかもしれない。
以下、気になった歌をコピペする。
こころよく
我にはたらく仕事あれ
それを仕遂げて死なむと思ふ
何処(どこ)やらに沢山の人があらそひて
鬮(くじ)引くごとし
われも引きたし
気の変る人に仕(つか)へて
つくづくと
わが世がいやになりにける
友がみなわれよりえらく見ゆる日よ
花を買ひ来て
妻としたしむ
夜明けまであそびてくらす場所が欲し
家(いへ)をおもへば
こころ冷たし
人みなが家(いへ)を持つてふかなしみよ
墓に入るごとく
かへりて眠る
何かひとつ不思議を示し
人みなのおどろくひまに
消えむと思ふ
己(おの)が名をほのかに呼びて
涙せし
十四(じふし)の春にかへる術(すべ)なし
そのむかし秀才(しうさい)の名の高かりし
友牢にあり
秋のかぜ吹く
田も畑(はた)も売りて酒のみ
ほろびゆくふるさと人(びと)に
心寄する日
わが抱く思想はすべて
金(かね)なきに因するごとし
秋の風吹く
むやむやと
口の中(うち)にてたふとげの事を呟く
乞食(こじき)もありき
意地悪の大工の子などもかなしかり
戦(いくさ)に出(い)でしが
生きてかへらず
むらさきの袖垂れて
空を見上げゐる支那人ありき
公園の午後
忘られぬ顔なりしかな
今日街に
捕吏(ほり)にひかれて笑(ゑ)める男は
真白(ましろ)なる大根の根の肥(こ)ゆる頃
うまれて
やがて死にし児(こ)のあり
おそ秋の空気を
三尺四方(さんじやくしはう)ばかり
吸ひてわが児の死にゆきしかな
2019年3月読了 -
啄木のプライドが高いながらも脆い繊細な精神状態。
日々を彩る歌。
特に妻を思いながら書いた歌が
日常の中でとても慈しむようで好き。
あと、亡き息子への想いが最後綴られていて
とても切なくなりました。
きれいな日本語で日常を描く啄木はとても素敵。
音でも美しさを感じられるので、
ぜひ声に出して言葉にして読んでほしい作品です。
以下、心に残った詩です。
(メモ代わりなのでとても多いです。)
しつとりと/なみだを吸へる砂の玉/なみだは重きものにしあるかな
やはらかに積れる雪に/熱てる頬を埋むるごとき/恋してみたし
それもよしこれもよしとてある人の/その気がるさを/欲しくなりたり
何がなしに/息きれるまで駆け出してみたくなりたり/草原などを
とかくして家を出づれば/日光のあたたかさあり/息ふかく吸ふ
ある日のこと/室の障子をはりかへぬ/その日はそれにて心なごみき
人といふ人のこころに/一人づつ囚人がゐて/うめくかなしさ
叱られて/わつと泣き出す子供心/その心にもなりてみたきかな
顔あかめ怒りしことが/あくる日は/さほどにもなきをさびしがるかな
学校の図書庫の裏の秋の草/黄なる花咲きし/今も名知らず
さらさらと雨落ち来り/庭の面の濡れゆくを見て/涙わすれぬ
愁ひ来て/丘にのぼれば/名も知らぬ鳥啄めり赤き茨の実
西風に/内丸大路の桜の葉/かさこそ散るを踏みてあそびき
飴売のチヤルメラ聴けば/うしなひし/をさなき心ひろへるごとし
あはれ我がノスタルジヤは/金のごと/心に照れり清くしみらに
ほのかなる朽木の香り/そがなかのたけの香りに/秋やや深し
わかれ来てふと瞬けば/ゆくりなく/つめたきものの頬をつたへり
さらさらと氷の屑が/波に鳴る/磯の月夜のゆきかへりかな
さりげなく言ひし言葉は/さりげなく君も聴きつらむ/それだけのこと
世の中の明るさのみを吸ふごとき/黒き瞳の/今も目にあり
かの時に言ひそびれたる/大切の言葉は今も/胸にのこれど
山の子の/山を思ふがごとくにも/かなしき時は君を思へり
忘れをれば/ひよつとした事が思ひ出の種にまたなる/忘れかねつも
君に似し姿を街に見る時の/こころ踊りを/あはれと思へ
かの声を最一後聴かば/すつきりと/胸やはれむと今朝も思へる
時として/君を思へば/安かりし心にはかに騒ぐかなしさ
わかれ来て年を重ねて/年ごとに恋しくなれる/君にしあるかな
こころよく/春のねむりをむさぼれる/目にやはらかき庭の草かな
用もなき文など長く書きさして/ふと人こひし/街に出てゆく
するどくも/夏の来るを感じつつ/雨後の小庭の土の香を嗅ぐ
すずしげに飾り立てたる/硝子屋の前にながめし/夏の夜の月
君来るといふに夙く起き/白シヤツの/袖のよごれを気にする日かな
ゆゑもなく海が見たくて/海に来ぬ/こころ傷みてたへがたき日に
葡萄色の/長椅子の上に眠りたる猫ほの白き/秋のゆふぐれ
水のごと/身体をひたすかなしみに/葱の香などのまじれる夕 -
日常の些細なこと。愛する人々の話し。故郷を思うこころ。街の情景。日々の悲しみ。子供の死など、啄木の身の回りに起こったことについて綴った短歌。
一句一句読みながら、情景を頭に思い浮かべるると、明治時代の人になったような気がしました。 -
有名な歌集ですが、こうして本を購入して読んだのは初めてです。
「三行書き」に込められた啄木の思いが時空を超えて甦ってくるようです。
特にふるさとに関する歌が心に響きました。また時を経て何度も読み返したい一冊です。 -
石川啄木の短歌(詩)に興味があるので、読んでみたいです
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啄木度98%あまり
本に関するプレゼントとしては、小学校低学年の時に毎月父が『日本や世界のむかしばなしシリ...
本に関するプレゼントとしては、小学校低学年の時に毎月父が『日本や世界のむかしばなしシリーズ(小学館)』を手土産に渡してくれるのがいつも楽しみでした。母や弟とよく近所の図書館に行って、その帰りにおやつを買ってもらうのが楽しみでした。
江戸川乱歩や赤川次郎とか読んでいたような気がしますが、武者小路実篤『友情』ヘッセ『車輪の下』で打ちのめされて数日暗い気持ちで過ごしたり、あとは超能力を養う本を読んだりしてました。
小学4年から本プレゼントが始まったのですね!!
すでに中学生で賢治作品は8割読破、更に詩集をリクエストして愛でるだなんて、本に対する姿勢が素敵です。歴史への造詣の深さもこの時期からのようですね。
伝記シリーズは通る道でしょうが、『田中角栄の伝記』は時代を感じますね。新美南吉は読んでいないので、読みたいリストに銜えようと思います。
もう両親の思い出は上書きされることはないと思っていたのですが、「伝記」のことを書いている途中で「もしかした...
もう両親の思い出は上書きされることはないと思っていたのですが、「伝記」のことを書いている途中で「もしかしたら‥‥」という気付きがありました。
「宮沢賢治」の本をプレゼントしたら、思いの外賢治の童話をたくさん読み始めた!この子は、伝記でいろいろ学びのキッカケを作っていくのかしら?だったらもっと賢くなるように有名な科学者の伝記を読ませようかしら。あらあら、理科の点数はあまり変わらないわね。じゃあ、「少年よ大志を抱け」じゃないけど、中学生になったらともかく勉強するように角栄さんの伝記を読ませよう!
‥‥というような「考え」があった可能性が、十二分にあるような気がしてきました。
改めて、プレゼントとは、人の思いをのせてゆくものなんだと思います。何十年も経ってもいろいろ想像できるから。
>小学校低学年の時に毎月父が『日本や世界のむかしばなしシリーズ(小学館)』を手土産に渡してくれるのがいつも楽しみでした。
とっても素敵なお父さんですね。
小学生で「車輪の下」や「友情」を読んでいるなんて、あまりにも大人過ぎる!
(私は「友情」は中2旺文社文庫で、「車輪の下」だけでなく外国文学は苦手で、未だ読んでいません)
大切な気付きを与えてくださり、ありがとうございました。
ご両親の期待度、思惑に関する心のつぶやき、ありそうですなっ!
kuma0504さんの少年時代のご...
ご両親の期待度、思惑に関する心のつぶやき、ありそうですなっ!
kuma0504さんの少年時代のご家族との素敵なエピソードで元気をいただきました。
>改めて、プレゼントとは、人の思いをのせてゆくものなんだと思います。何十年も経ってもいろいろ想像できるから。
じーんときました。気づかなかった親の想い、ふとよぎることがあり、もっと優しくしておけばよかったと思います。あ、父はまだ元気です。
言葉足らずでした、「車輪の下」や「友情」は中学の時です。それで、一時期純文学が苦手になりました。外国文学は、翻訳の方の癖があるし、私もあんまり読んでません。
こちらこそ、交流くださるご縁に感謝しております。またお邪魔します。