街道をゆく 12 十津川街道 (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (183ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022644572

作品紹介・あらすじ

大阪市から五條市を経由して渓谷をゆく。たどりついた奈良県十津川村に、筆者は親近感を持っていた。「幕末、十津川の人はじつによく働いた」とある。十津川郷士と呼ばれ、孝明天皇の信任を得、坂本竜馬らと親交をもち、新選組とも戦った。そのわりに明治後に栄達した人はほとんどいない。明治二十二年に大水害で村は壊滅、多くの住民が北海道に移住し、新十津川町をひらいてもいる。ドラマチックな谷間の「街道」がここにある。

感想・レビュー・書評

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  • 奈良県の十津川の街道をゆく。十津川という地名は、「遠つ川」が語源ではないかと著者は推測している。
    この作品を読んで肌で感じることができたのは、十津川が世に置き忘れられていた地であったということ。山々に囲まれ、谷を渡るのに「野猿」という道具を使い、南北を走る道路の完成までに半世紀以上を費やしていることなどから、いかに外部との接触を図ることが難しかった場所であったかが推測できる。
    おもしろかったのは、この「陸の孤島」であった十津川には、あまり否定的な側面が見受けられない点である。米が十分に獲れないということで、徳川時代には免祖地となっている。本来ならば社会に貢献できない立場として後ろめたさを持ちそうだが、著者が分析する十津川からはそれが感じられない。むしろ、免租地であることを誇りに思っていると捉えている。
    なぜ十津川の人たちは「陸の孤島」を誇りに思っていたのか。以下は自分なりの解釈であるが、こうした天嶮に阻まれた土地であるが故、いわば江戸時代に我が国が経験した「鎖国」と同様、良くも悪くも独自の文化や習慣を身に付けてきたと考えられる。本来ならば外界との接触により、差別を生んだり、支配・服従の関係を生んだり、あるいは文化や習慣も淘汰されたりするであろう。そのとき、自己否定や劣等感などの感情をもたらす。しかし、十津川は地政学的にそのような運命を辿ることはなかった。これが十津川の明るさに繋がっているではないだろうか。
    一方で、いまや人やモノ、サービスが世界規模で往来する時代である。これまでとは違い、近隣府県のみならず、世界のあらゆる波が十津川に押し寄せてくる。グローバル時代を迎えた今、十津川はどのように長年培ってきた歴史を守っていくのか、気になるところではある。

  • 桃源郷のようなところだ。いつか行きたい。
    なにか対価をもらわぬ、ただ呼ばれたときにははせ参ず、その清貧な心意気はなんと美しい事か。代わりに、支配を拒む人達。
    美しい場所なんだろうな、と思う。

  • 今年の台風で、大打撃を受けた
    五條市大塔村。
    何度も土砂崩れで、通行止めになっている
    この道について書かれている本。

    筆者の司馬遼太郎が、もしも今の状態を見ていたとしたら
    きっと加筆しただろうと思われる。

    私は、基本的に司馬氏の作品を好まない。
    その思い込みの激しい文章が読みずらいのだ。
    しかし、とにかくよく 調べている。
    司馬氏の家が、現在 資料館として残っているが
    そこに所蔵されている書籍群は、
    個人の所蔵としては、桁外れである。

    ものを調べつるとは、こういうことかと
    気づかされた。

  • 今回の旅は、奈良県南部、紀伊半島中部山塊の只中にある十津川地区を訪ねる。

    山の民がいかにして時の政権と渡り合い、そして幕末には十津川郷という、藩にも似た自治組織として歴史に人を送り込んでいく、その軌跡が実際の旅を通して展開される、著者の思索への旅で描かれる。

    中でも最も印象的なのは、出兵直前、熊野に徒歩旅行に行った時の著者のくだりである。
    著者はこの世の理不尽さに身を浸しながら、この世の名残と十津川を通って熊野に出ようとするが、途中道に迷い、とある禅寺に拾われる。そこは十津川の入り口だったのだが、今回訪ねようとすると、すでに周囲とともにダムに沈んでいた。
    著者は何とも言えない感情とともにその事実に、静かに坦々と呆然とする。

    山間の静寂の中、いかに隔世の感がある里にも、やはり時の世と同じ時間が静かに時が流れている。
    それを感じさせる1コマだった。

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著者プロフィール

司馬遼太郎は、1923年、大阪市生まれの日本の歴史小説家・エッセイストである。故人。
本名、福田 定一(ふくだ ていいち)。大阪府大阪市生まれ。筆名の由来は「司馬遷に遼(はるか)に及ばざる日本の者(故に太郎)」から来ている。
特に歴史小説の大家として知られ、代表作は「竜馬がゆく」「坂の上の雲」「翔ぶが如く」「燃えよ剣」「新撰組血風録」「菜の花の沖」「花神」「世に棲む日日」「梟の城」「関が原」「功名が辻」「国盗り物語」「街道をゆく」「十一番目の志士」「城をとる話」「風神の門」「二十一世紀に生きる君たちへ」他多数。その多くが大河ドラマ化、テレビドラマ化、映画化、コミック化などの形でマルチメディア展開されている。

司馬遼太郎は産経新聞社記者として在職中の1960年に、『梟の城』で直木賞を受賞。
1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞を受賞したのを始め、数々の賞を受賞。
戦国・幕末・明治を扱った作品が多い。
1996年2月に72歳で逝去。
2001年には、東大阪市の自宅隣に司馬遼太郎記念館が開館。

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