悪人(下) (朝日文庫)

著者 : 吉田修一
  • 朝日新聞出版 (2009年11月6日発売)
3.76
  • (549)
  • (1087)
  • (826)
  • (145)
  • (26)
  • 本棚登録 :6319
  • レビュー :808
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022645241

作品紹介・あらすじ

馬込光代は双子の妹と佐賀市内のアパートに住んでいた。携帯サイトで出会った清水祐一と男女の関係になり、殺人を告白される。彼女は自首しようとする祐一を止め、一緒にいたいと強く願う。光代を駆り立てるものは何か?毎日出版文化賞と大佛次郎賞を受賞した傑作長編。

悪人(下) (朝日文庫)の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • 三瀬峠で若い女性の絞殺死体が発見される。
    出会い系サイトで彼女と直前に会っていた祐一は、一時は警察の目を逃れるも、事態は急転。
    祐一は、同様に出会い系で出会った光代に、自首すると告白する。
    しかし光代は一緒にいたいと、祐一の手を取り、警察から逃れ共に逃げる。

    吉田修一さんは初めて。
    視点が色々変わるのだけれど、文章はとても読みやすい。
    昔少しだけ九州に住んでいたことがあったので、全編を通した九州弁が懐かしくて心地よかった。

    作品を流れるテーマは「悪人」。
    殺人犯で逃亡を続けた祐一は、本当に世間から「悪人」呼ばわりされるような男なのか?
    よくいえば純粋。
    悪くいえば空気が読めない、自分本位。
    ひょんなことから手にかけてしまった罪。当てもなく光代と逃亡を続ける。
    二人は愛し合っていたというより、心の隙間を埋め合う、ぴったりと嵌ってしまったパズルのピースのような関係だった。
    ただ、そのシチュエーションに酔っているような、脳内麻薬が分泌した状態だとは思うけれども。

    出会い系で売春まがいのことをしていた挙句に殺された、という娘の風聞に傷つき、怒りのもっていき場のない両親が可哀想で。
    事件のきっかけを作ったのは増尾だし、佳乃に悪いところがなかったとはいわないけれど、両親からしたら、娘の命を奪った祐一は、やっぱり「悪人」でしかない。
    殺したいと思うことと、実際に手をかけることとの間には、普通の人は飛び越えるのをためらう、深くて暗くてでっかい溝があると思うから。
    端から見ていて危なっかしいことをしていても、彼女を慈しんで育ててきた人がいて、死を悲しむ人がいた。彼女が殺される理由なんてなかったのだ。

    でも救いようのない悪人なのかと言われるとやはり違う。
    愛し愛されたかった人。許し許されたかった人。
    この人が持ってるような人間の弱い心って、誰にでもあるのだろうとも思う。

  • 下巻は、心揺さぶる言葉が多かったです。そして祐一の光代に対する最後の行いの意味とか考えると、読み終えてからもしばらくいろんな想いが駆け巡って。ふいに涙が溢れたり、心臓がドクドクしたりするんです。

    きっと。
    心に何にもない者同士がストンと堕ちちゃったんだと思うんです。それは恋に、体に、寂しさに。

    祐一は、誰かを求めると傷つくことが分かっていると思うんです。それでも求めずにいられなかったんでしょう。
    そして、何にも欲しいものもない。行きたいところもない。会いたい人もいない。そんな自分に堪えきれず声を上げて泣いていたのは光代です。

    2人は急速に愛を深めていきます。こんなの愛じゃない、雰囲気に酔ってるだけ、まやかしだよっていう人もいると思うのですが、わたしはやっぱり愛だったと信じたいのです。
    一日でもいいから一緒にいたい。自分を待っていてくれる人がいる。愛してくれる人がいる。
    2人は先のない未来に寂しくて寂しくてたまらなかったはずなのに、それでもこの瞬間、傍にある確かな温もりに幸せを感じていたはずだと思うからです。

    そして。
    光代を守るために、光代がまた笑えるように。
    祐一はそのために悪人として彼女の前からいなくなります。

    悪は日常のそこかしこに転がっています。うまく避けることが出来ればいいのだけれど、人はそれらに簡単にぶち当たってしまい、躓き転倒してしまうのではないでしょうか。そんな時、倒れたままでいるのか、同じ色に汚れてしまうのか。このやろうと蹴飛ばしてしまえるのか。それとも痛みを我慢して拾い上げてやれるのか。いろんな選択肢があると思うのです。
    祐一の祖母も、被害者の父親もそれぞれのやり方で彼らの悪に対峙しました。祐一にあっても、自分の犯した悪から逃げることをやめました。大切な人を守りたい、大切な人が頑張るから自分も頑張れる、自分を信じてくれる人がいる、これらの強い気持ちがあったからこそ悪に挑むこと、また悪に向き合って立ち上がることが出来たのだと、わたしは胸に刻み込みました。

    出会えてよかった小説でした。

  • 悪人はいったい誰なんやろう…。
    読みながら何度も考えました。
    祐一は絶対違う生き方ができたはず。
    なぜこうなってしまったのか?
    読みながら、焦燥感、というかあきらめ、悲しみ、憤り…複雑な感情が起こるのをとめられませんでした。

    映画では最後、えっ!という展開で終わっていたので、小説ではどう書かれてるのかと思いながら読みました。
    大筋は変わらず。
    祐一の最後の想いについては、やはり祐一にしかわからないのでしょう。
    読み手には推測することしかできない。
    やからこそ余計に考えさせられる。

    先に映画を観ていたので、映像の良さ、言葉の良さをそれぞれ感じました。
    夕日を見ていた裕一の瞳は映画でしか出せなかったし、すごく胸に迫ってくるシーンでした。
    小説では、言葉にこめられたことに対する解釈の多様性が広がるから、読む人によって感じることもそれぞれ違ったと思うし。
    でも、映画も小説もどっちもよかった、と思えた貴重な作品でした。

  • 妻夫木聡と深津絵里で映画化ということで、読んだのだけど、ものすごく読みやすいのに、人物の描写が非常に生々しくて驚いた。

    やたらと性描写があるのは作品の(悪い意味ではない)猥雑さを醸し出していると思う。
    祐一が自分の感情を素直に発露させることができるのはセックスであり、そのセックスを享受するために出会い系サイトをさまよっていたというのはその後まさにその出会い系で出会った光代との恋愛を美化しすぎないためでもあるのかも。

  • 殺人犯、被害者、被害者の両親、殺人犯の身内、そして殺人犯と一緒に逃げた女・・・

    殺人を犯すのは決して許されない行為、しかし、結局のところ最後まで読むとだれが悪人なのかは判然としなくなる。

    でも、この本を読んで一番印象に残った文といえば、被害者の父親のことばである。

    「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、何でもできると思い込む。・・・」

    この本を読むことで何かが弾けたようにふっと変わる瞬間がある。

  • 水戸黄門やウルトラマンの世界では正義と悪があり、いい人がいい事をして悪い人が悪い事をする図式である。しかし実際は性善説も性悪説もない、八面六臂、誰もが善と悪を孕んでいる。どこでどちらがが表を向くか、他人がどこを見るかの問題であろう。

  • 登場人物の内面描写が神がかってる。それぞれ違う性格なのに思わずいるいるこんなやつってなるぐらいリアリティあるので、それだけで舞台が立ちグイグイその世界にひきづりこまれる。正直こんな上手い作家いるんだと吉田修一読み漁ってるけど悪人に遥か及ばない

  • さて、「悪人」は誰でしょう。
    映画を観たときも、同じことを思った覚えがある。
    殺人を犯した祐一はもちろん、許されざることをしているのだけど、殺された佳乃も、祐一とともに逃げることを望んだ光代も、佳乃を車から蹴下ろした増尾も、みる角度によっては悪人となる。

    祐一と光代が、あんなに短時間で深く繋がったことに違和感はあったけど、いつ離ればなれになるか分からないという特異な状況がそうさせたのだろうとも思う。だからこそ、祐一が捕まった後、光代は、その想いが幻だったのかもと思っている。
    でも、祐一の側は、一時的な盛り上がりとは違う気がする。自分を受け入れてくれた光代を傷つけないために、自ら離れた。これは、愛情なのかもしれない。

    それにしても、祐一の祖父母や佳乃の父母のエピソードは切ない。親が子どものやったことに、どこまで責任があるというのか。

    なんとなく、ざらりとした感じが残る本だった。

  • 大事な人のいない人は、自分が強いつもりになっているだけ。大事な人がいる人の強さは、それぞれの登場人物のクライマックスで表現されている。人の「強さ」のパワーはものすごいと感じました。
    罪を犯したのは祐一で、それは祐一の弱さだったけど、大事な人を見つけた後は、祐一もぐんと「強さ」を身につける。

    人間が決めた「罪」だけでは、「悪人」かどうかなんて、はかれない。物語を通して、罪には問われない増尾と、罪を償う祐一の対比がされています。そんな2人を物語の中で実際に比較したのは1人被害者の佳乃だけ。見かけや条件しか見ていない薄っぺらい女の子だったのかもしれないけど、そんな彼女にも様々な側面があります。彼女は「悪人」だったのかな?悪人と言い切るまで悪い人間ではないかもしれないけど..。いろいろなかたちの「親子」が描かれるのもキーワードかなと思います。

    この物語の根底にある「悪人」の定義は、245ページの佳男のセリフなのかなと感じました。

  • 2014.2.18読了。
    悪人は誰なのか。映画の影響もあって結局のところ、悪人は祐一と言うところなのかもしれないけど、ヘルス嬢と一緒に住むためのアパートを借りてしまったり、佳乃に謝って欲しかったって追いかけて手を掛けてしまったり、本当の母親に金をせびり『どっちも被害者にはなれんたい』と呟いてみたりする不器用な祐一は、あの最後の警察に捕まってからの供述を読んでも、大切なひとのことを思って言っているように思う。でも読者も入り込むことによって光代みたいに祐一を信じたのかな。とも思う。
    母が先に読んで、私に「早く読んで!話したいっ」と言っていたのがわかった 笑
    週末にでもじっくり話すかな。
    しかし、増尾圭吾は腹立つー!!私のなかでの悪人は増尾圭吾だ。佳乃もとんでもないけど、彼女に彼女を想う両親がいたことと、彼女を想う両親が居たことが救い。
    久々に一気に読んだ。上下巻を10日で読むなんて、いつもの私にはない。

全808件中 1 - 10件を表示

吉田修一の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

悪人(下) (朝日文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする