悪人(下) (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.76
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本棚登録 : 6645
レビュー : 839
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022645241

作品紹介・あらすじ

馬込光代は双子の妹と佐賀市内のアパートに住んでいた。携帯サイトで出会った清水祐一と男女の関係になり、殺人を告白される。彼女は自首しようとする祐一を止め、一緒にいたいと強く願う。光代を駆り立てるものは何か?毎日出版文化賞と大佛次郎賞を受賞した傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • 三瀬峠で若い女性の絞殺死体が発見される。
    出会い系サイトで彼女と直前に会っていた祐一は、一時は警察の目を逃れるも、事態は急転。
    祐一は、同様に出会い系で出会った光代に、自首すると告白する。
    しかし光代は一緒にいたいと、祐一の手を取り、警察から逃れ共に逃げる。

    吉田修一さんは初めて。
    視点が色々変わるのだけれど、文章はとても読みやすい。
    昔少しだけ九州に住んでいたことがあったので、全編を通した九州弁が懐かしくて心地よかった。

    作品を流れるテーマは「悪人」。
    殺人犯で逃亡を続けた祐一は、本当に世間から「悪人」呼ばわりされるような男なのか?
    よくいえば純粋。
    悪くいえば空気が読めない、自分本位。
    ひょんなことから手にかけてしまった罪。当てもなく光代と逃亡を続ける。
    二人は愛し合っていたというより、心の隙間を埋め合う、ぴったりと嵌ってしまったパズルのピースのような関係だった。
    ただ、そのシチュエーションに酔っているような、脳内麻薬が分泌した状態だとは思うけれども。

    出会い系で売春まがいのことをしていた挙句に殺された、という娘の風聞に傷つき、怒りのもっていき場のない両親が可哀想で。
    事件のきっかけを作ったのは増尾だし、佳乃に悪いところがなかったとはいわないけれど、両親からしたら、娘の命を奪った祐一は、やっぱり「悪人」でしかない。
    殺したいと思うことと、実際に手をかけることとの間には、普通の人は飛び越えるのをためらう、深くて暗くてでっかい溝があると思うから。
    端から見ていて危なっかしいことをしていても、彼女を慈しんで育ててきた人がいて、死を悲しむ人がいた。彼女が殺される理由なんてなかったのだ。

    でも救いようのない悪人なのかと言われるとやはり違う。
    愛し愛されたかった人。許し許されたかった人。
    この人が持ってるような人間の弱い心って、誰にでもあるのだろうとも思う。

  • 下巻は、心揺さぶる言葉が多かったです。そして祐一の光代に対する最後の行いの意味とか考えると、読み終えてからもしばらくいろんな想いが駆け巡って。ふいに涙が溢れたり、心臓がドクドクしたりするんです。

    きっと。
    心に何にもない者同士がストンと堕ちちゃったんだと思うんです。それは恋に、体に、寂しさに。

    祐一は、誰かを求めると傷つくことが分かっていると思うんです。それでも求めずにいられなかったんでしょう。
    そして、何にも欲しいものもない。行きたいところもない。会いたい人もいない。そんな自分に堪えきれず声を上げて泣いていたのは光代です。

    2人は急速に愛を深めていきます。こんなの愛じゃない、雰囲気に酔ってるだけ、まやかしだよっていう人もいると思うのですが、わたしはやっぱり愛だったと信じたいのです。
    一日でもいいから一緒にいたい。自分を待っていてくれる人がいる。愛してくれる人がいる。
    2人は先のない未来に寂しくて寂しくてたまらなかったはずなのに、それでもこの瞬間、傍にある確かな温もりに幸せを感じていたはずだと思うからです。

    そして。
    光代を守るために、光代がまた笑えるように。
    祐一はそのために悪人として彼女の前からいなくなります。

    悪は日常のそこかしこに転がっています。うまく避けることが出来ればいいのだけれど、人はそれらに簡単にぶち当たってしまい、躓き転倒してしまうのではないでしょうか。そんな時、倒れたままでいるのか、同じ色に汚れてしまうのか。このやろうと蹴飛ばしてしまえるのか。それとも痛みを我慢して拾い上げてやれるのか。いろんな選択肢があると思うのです。
    祐一の祖母も、被害者の父親もそれぞれのやり方で彼らの悪に対峙しました。祐一にあっても、自分の犯した悪から逃げることをやめました。大切な人を守りたい、大切な人が頑張るから自分も頑張れる、自分を信じてくれる人がいる、これらの強い気持ちがあったからこそ悪に挑むこと、また悪に向き合って立ち上がることが出来たのだと、わたしは胸に刻み込みました。

    出会えてよかった小説でした。

  • 読みやすい。
    ちょっと悲しい。

  • 悪人はいったい誰なんやろう…。
    読みながら何度も考えました。
    祐一は絶対違う生き方ができたはず。
    なぜこうなってしまったのか?
    読みながら、焦燥感、というかあきらめ、悲しみ、憤り…複雑な感情が起こるのをとめられませんでした。

    映画では最後、えっ!という展開で終わっていたので、小説ではどう書かれてるのかと思いながら読みました。
    大筋は変わらず。
    祐一の最後の想いについては、やはり祐一にしかわからないのでしょう。
    読み手には推測することしかできない。
    やからこそ余計に考えさせられる。

    先に映画を観ていたので、映像の良さ、言葉の良さをそれぞれ感じました。
    夕日を見ていた裕一の瞳は映画でしか出せなかったし、すごく胸に迫ってくるシーンでした。
    小説では、言葉にこめられたことに対する解釈の多様性が広がるから、読む人によって感じることもそれぞれ違ったと思うし。
    でも、映画も小説もどっちもよかった、と思えた貴重な作品でした。

  • 妻夫木聡と深津絵里で映画化ということで、読んだのだけど、ものすごく読みやすいのに、人物の描写が非常に生々しくて驚いた。

    やたらと性描写があるのは作品の(悪い意味ではない)猥雑さを醸し出していると思う。
    祐一が自分の感情を素直に発露させることができるのはセックスであり、そのセックスを享受するために出会い系サイトをさまよっていたというのはその後まさにその出会い系で出会った光代との恋愛を美化しすぎないためでもあるのかも。

  • 殺人犯、被害者、被害者の両親、殺人犯の身内、そして殺人犯と一緒に逃げた女・・・

    殺人を犯すのは決して許されない行為、しかし、結局のところ最後まで読むとだれが悪人なのかは判然としなくなる。

    でも、この本を読んで一番印象に残った文といえば、被害者の父親のことばである。

    「今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎったい。大切な人がおらん人間は、何でもできると思い込む。・・・」

    この本を読むことで何かが弾けたようにふっと変わる瞬間がある。

  • 紳士服販売員の29歳の馬込光代。出合い系サイトで知り合った清水祐一と男女の関係になり、強く惹かれるが、彼から殺人を告白されてしまう。自首をしようとする祐一を、光代が止め、2人で逃亡の旅に出る。

    タイトルの「悪人」とは、誰を指しているのだろうか。
    佳乃を殺めてしまった祐一。男を手玉にとる佳乃。恵まれた環境に育ち無慈悲な心を持つ増尾圭吾。祐一を置き去りにし捨てた母。高齢者を騙す悪徳商法業者。彼らの中にも「悪」はあるのではないか。

    後半に描かれる祐一の不器用な愛情や、佳乃の両親の気持ちが胸に刺さる。愛するがゆえの悪。

    テンポよく展開していくので、引き込まれてしまうが、虚栄心、閉塞感、そして孤独感に、胸が締め付けられる作品。

  • 評価は5.

    内容(BOOKデーターベース)
    馬込光代は双子の妹と佐賀市内のアパートに住んでいた。携帯サイトで出会った清水祐一と男女の関係になり、殺人を告白される。彼女は自首しようとする祐一を止め、一緒にいたいと強く願う。光代を駆り立てるものは何か?毎日出版文化賞と大佛次郎賞を受賞した傑作長編。

    犯人清水裕一の自己犠牲の精神は何となく分からないでもない。しかし、何でも人のせいにするこの社会の中でどれだけの人が理解してくれるだろう。と考えると悲しさが残るラストだった。

  • 上巻に続いて下巻も読了。
     
    『悪人』とは結局誰のことを指して言っているのか?
     
    殺人を犯した祐一なのか?
    祐一をつれて逃げ回った光代なのか?
    殺された石橋佳乃を振った増尾圭吾なのか?
    それとも、殺された石橋佳乃なのか……?
     
    人間ってなんて愚かな生き物なんだろう、
    そんな虚無感を覚える悲しい物語。
     
    小説で人間を感じてみたい……
    そんな方におすすめしたい一冊です。

  • 祐一の本当の部分に、周りの人が触れているような、触れていないような。。。

    この周囲の人の語りは、誰が聞き役なのだろう。
    もし、これをきちんとまとめる人がいるなら、本来のマスコミの形だと思う。

    それぞれの立場、報道、周りの人達。
    果たして本当の悪人は、と考えてもキリがないし、やりきれない。

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著者プロフィール

吉田 修一(よしだ しゅういち)
1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業後、スイミングスクールのインストラクターのアルバイトなどを経験。1997年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞しデビュー。同作は第117回芥川龍之介賞候補にもなった。2002年『パレード』で第15回山本周五郎賞を同年「パーク・ライフ」で第127回芥川龍之介賞、2007年『悪人』で第61回毎日出版文化賞及び第34回大佛次郎賞、2010年『横道世之介』で第23回柴田錬三郎賞、2019年『国宝』で第14回中央公論文芸賞をそれぞれ受賞。2016年には芥川龍之介賞選考委員に就任している。その他の代表作に、2014年刊行、本屋大賞ノミネート作の『怒り』。2016年に映画化され、数々の映画賞を受賞。

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