快適生活研究 (朝日文庫 か 30-5)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022645432

感想・レビュー・書評

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  • 登場人物がちょっとづつかぶってくる連作短編集。目白四部作のキャラクターたちも途中から登場してあら懐かしい!(でも桃子ちゃんも四捨五入したらもう40歳なのか・・・)。

    タイトルに「快適」とありますが、内容のほうは作者自ら「嫌な人のカタログ」と言っちゃうくらい、どちらかというと「不快」な人物のオンパレード(苦笑)。しかしこの嫌な人の嫌な感じの書きっぷりがとにかく上手いので、作者が書きながらムカムカするのが面白かった、というのも納得。読んでてやっぱりムカっとするんだけど、それはやっぱり自分が当事者じゃなくて小説世界の中での話なので、いるんだよなあこういうタイプ、と苦笑いしながらも面白がって読めてしまいます。

    相変わらず、何か劇的な事件が起こるわけではないのだけれど、日常のディティールと一癖ある人物たちの変な個性だけで読ませてしまう手腕は流石。装丁も可愛くて良いです。

  • 作中に登場する『よゆう通信』のナルシシズム(?)が妙にオカシイ。声を出して笑いそうになったが、夜中に爆笑出来るわけもなくw
    登場人物が書く手紙といい、どうしてこうも面白いのか。外では読めないな、これ……。

  • 手紙や饒舌なお喋りなどで、いきいきと語られる~おかしな人間達。
    そんとく問答、よゆう通信、『古都』、隣の娘、地下室のメロディー、快適生活研究という章立て。

    純子は姉の良子に、母親に頼まれて純江という女性の様子を見に行かなくてはならないと愚痴る。
    母親の桃代が16歳で肋膜炎になったときに、家に手伝いに来たネエヤ。夜学に通うお手伝いさんだったのだ。
    後に資産家の後妻に入り、目白に夫婦で住んでいたが夫は亡くなる。
    純子の祖母が夫を亡くした後に、生涯の友である二つ年下の純江さんと一緒に住みたいと言いだして、実際にしばらく目白に住んだが、祖母が入院してしまい、退院後はマンションに引き取ることになった。
    そうすると、目白で一人暮らしの純江さんをどうするかが問題になったのだ。
    純子はかって不登校で、大検に合格はしたが大学には通わず、暇だろうと思われたのだった。
    あらすじを書いただけでも、急に読めばゴチャゴチャした話に思われるかも知れないけど、こんなんは序の口。
    こまごまとした描写の味わいが何とも面白いの。

    「よゆう通信」なるものを知り合い何人かに送りつける建築家のE氏。
    自己満足しているタイプで、まわりには割を食う人間がいるのだが。

    超オールドミスなどと他の人には表現される手紙魔のアキコさん。Gという男性と結婚した真理子という女性に手紙を書き続ける。
    学校の時の友達で、若い頃にも文通していたという関係はいかにもありそう。
    H・Aという女性が暮らしていたマンションを、真理子の紹介で買ったのだ。
    荷物がトランクルームに残っているのをどうするかという相談のための手紙で、ついでに延々と日常生活が語られる。
    H・Aさんにやっと連絡が付いたかと思ったら切れられたといういきさつ。離婚のためにマンションを手放したので、夫の愛人からかと勘違いしたのだった。
    アキコさんはお嬢様育ちで独身だったが、ここへ来て一変!Kという男性と結婚したのだ。
    このアキコの手紙が長々と自分のことを喋り続け、あまり悪気はなさそうだが時にはちょっと意地悪。だんだん友達が減りそうだけど、妙に面白くて。
    ぎゃあ、もうやめてーってぐらい、笑っちゃうのだ。

    母親の再婚相手の並木さんに、たまにはお寿司でもと連れて行かれた義理の娘・桃子と、その叔母のちえこ。
    その店には建築家のE夫妻がクライアントと来ていて、三度目の結婚で幸せになったと。共通の知人のKも再婚して良い奥さんを貰ったなどと言っている。
    めぐりめぐって、桃子には女子大講師の話が。

    後書きも傑作。
    「小春日和」「彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄」「文章教室」「道化師の恋」と輪舞のように登場人物がかぶっているそう。
    2006年単行本発行。

  • 大量の言葉(しかも、どうにも重要とは思えない取るに足らないことばかり)が垂れ流されるアキコさんの手紙にまず圧倒される。これは精神的に病んでるのでは?と思ったが、受け取り手もそこそこ読んでいるみたいだし、普通に暮らしているようだし、正常の域にとどまっている人らしい。
    こういう人が友人だったら大変だろうなぁ、と考えたが、そもそも近づきにはならないか。ただ、こっそり遠くから様子を伺いたいとは思うかも。まさに怖いもの見たさ。

    あとがきに「嫌なタイプの人間の『カタログ』のように」とあるが、読み終えてお腹いっぱい…。でも、ブックオフには出さないことにする。何年かしたら「怖いもの見たさ」で読みたくなりそうなので。

  • 著者おっしゃるとおり嫌な登場人物たちにムカムカしながら、そしてときどき長くてくねくねした特徴的な文体にもちょびっとイライラしながらも、やめられない、とまらないという感じでおもしろかった。

    いやいや、ほんとに自己満足をまき散らす人っていやだ。とくに中高年に多い気がする。自分の人生を肯定したいのかも、っていう。巷で耳を澄ませていると中高年のおしゃべりのほとんどが、いろいろたいへんなこともあるけれど幸せだ、って自慢し合っているような気がする。

    ほんとに、幸せになるには鈍感になればいいってことがよくわかった気が。
    足るを知ることが大切、とか、今の自分に満足しないと、とか、いろいろ言われてて、そうだよねえ、って不満の多いわたしは思っていたけれど、それもどうなのか、と思ってきたり。

    こういう自己満足をまき散らす人になりたくないなあと思って、手紙やはがき、メール、ネットになにか書くときも注意しないとなーとか思ったり。いや、注意してもだめなのかも……。なにか書くのがこわくなってきたり……。

    桃子とおばさん、はあいかわらずいい感じ。もっとふたりの話も読みたかった。桃子、就職するのかな、この先どうなるか続きが読みたい。

    • じゅんさん
      鼻持ちならない奴らのオンパレードなのに、なんでこんなに可笑しいんだろう、と思っちゃいます。(*^_^*)
      でも、そうですね、自己満足を撒き...
      鼻持ちならない奴らのオンパレードなのに、なんでこんなに可笑しいんだろう、と思っちゃいます。(*^_^*)
      でも、そうですね、自己満足を撒き散らす人にはなりたくない。それは自分の胸の中だけで温めておけばいいんじゃないかな。(でも、人に言って肯定してもらいたいんだよね、人間って。)
      桃子が大学でちゃんと講師をやれるのか、ホント、続きが読みたいです。
      2012/05/31
    • niwatokoさん
      じゅんさんが次々と四部作などを再読してらっしゃるの、わかります。わたしも今、再読したくなっていて。わたしの場合、もうすっかり忘れているし。
      ...
      じゅんさんが次々と四部作などを再読してらっしゃるの、わかります。わたしも今、再読したくなっていて。わたしの場合、もうすっかり忘れているし。
      桃子、断りそうな気もするんだけど、いわゆるちゃんとした職業に就いてどうなるのかっていうのを読んでみたいです。
      2012/05/31
  • 先月、「彼女(たち)について私の知っている二,三の事柄」をついつい再読してしまったもので、図書館本が山積みだというのに続きの「快適生活研究」が読みたくてたまらなくなり、こちらも何度めかの再読。

    う~~~ん、金井美恵子さん、好きだぁ~~~!
    ホントにホントに図書館本がドカンと一気に来てしまって、しかも、それぞれとても楽しみにしていた本ばかりなので、実は、「彼女(たち)…」で失業した桃子や、紅梅荘の面々のその後の話だけをピックアップして読むんだ!と自分に言い聞かせて^_^;本棚から出してきた本書なのに、まぁ、始めからそれは無理だってわかっていたんだよね。
    あの延々と無自覚な(無邪気な、とも言う?)しょうもない手紙を書き続けるアキコお嬢様から始まって、スノッブそのものの
    よゆう通信を知人たちに送りつける建築家、合間に語られる濃厚なチーズクッキーの美味しさ、突然現れる「文章教室」のオールスターたち(*^_^*)、など、私が抵抗できるわけないんだもの。しかも、速読なんてとんでもない。金井さんの文章は、とっておきのケーキを食べるみたいに、ゆっくり味わって読むのがお決まりだし。




    本来ならば、馬鹿丸出し(ゴメン、金井さんの文章を読んだ後なので、いつものことながら非常に口が悪くなっています。)の台詞の垂れ流しは私の最も苦手な分野のはずなのに、なんでこんなに楽しいのか、痛快なのか?

    悪意がないだけに、この苛々感がどこから醸し出されいるのかがチラッと読んだだけではわからないところを、小説内の別の人物たちがその根本の思い違いからバッサリ指摘してしまうところがいのかなぁ。私って、そんなに鬱屈した性格ではないはずなのだけど…、いや、自分がかなり意地悪であることは元々知っていたんだよね、なんて、ちょっと辺りを見回す気分にもなったりしてね。

    桃子は無事、地方大学の非常勤講師の口にありつけたけど、彼女がそこでおとなしくやっていけるのか、紅梅荘のみんなや作家のおばさんとのなんというか閉店バーゲンがずっと続いているような日々は本当に終わってしまったのか。
    この続きを金井さんは書いてくださる気はあるのだろうか。
    最新作の「ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ」がまたとても素晴らしかっただけに、桃子のことも忘れないでくださいよぉ~~!と申し上げたい・・・。

    あぁ、困った、目白4部作に遡って一気読みしたい衝動が。
    ダメだよ、今は読む本がたくさんあるんだからね。

    ・・・・・・・・・・・・・・

    以前に書いた感想です。
    こちらも貼りつけちゃいます。



    目白4部作プラス「彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄」中の愛すべき人物たちがそれぞれ年を重ねて出てくる、まぁ、オールスター編ですね。
    (新しい人たちももちろん!!こちらも金井美恵子色バリバリです。)
    あまりの面白さに、目白シリーズを再読一気読みです。

    初登場は、長々と手紙を書く女性。
    まぁ~~~!というくらい無自覚に意地悪で、いっそ気持ちがいいくらい。
    自分では「いい人」だと思ってるんだろうなぁ、というその女性特有の勘違いが、他の作家によって書かれるとタダの鼻もちならないイヤな女、になるんだろうけど、金井さんの手にかかると、なんていうか、はいはい、わかりましたよ、と笑える存在になるところがなんとも言えない・・・。

    桃子とおばさんもちゃんと出てきて、お元気だったのがとても嬉しい。

    「少女小説を究めると金井美恵子になる」って
    どこで読んだんだっけ・・・?
    なんて言い得て妙!と手を打ちました。

    これはもう、たぶん、ずっと側に置いて、
    うふふ・・・と好きなところをピックアップして楽しむ一冊になりそうです。

    • たまもひさん
      あははは、これは笑いましたよ。私も以前本作を読み返したのをきっかけに目白シリーズ再読スパイラルに陥って、もう面白いやら、他のが読めなくて困る...
      あははは、これは笑いましたよ。私も以前本作を読み返したのをきっかけに目白シリーズ再読スパイラルに陥って、もう面白いやら、他のが読めなくて困るやら、となったのを思いだしました。

      「閉店セールがずっと続いてる」というフレーズには膝を打ちました。まさに!
      実生活では「意地悪」って大嫌いなはずなのに、なんでこんなに金井さんが書くと楽しいんでしょうね。胸に手を当てて考えてみましょう。
      2012/05/13
    • じゅんさん
      >たまもひ様 (*^_^*) (*^_^*) こんなことって前にもありましたよね、私たち。時々、発作的に自ら金井美恵子に落ちていくって全く…...
      >たまもひ様 (*^_^*) (*^_^*) こんなことって前にもありましたよね、私たち。時々、発作的に自ら金井美恵子に落ちていくって全く…。他に読みたい本がある時に限って、という気もするのですけど、それも金井さんの意地悪だったりして??(*^_^*)
      はい、胸に手を当てて考えてみます。答えは出ているようにも思えるのだけど。汗
      2012/05/13
  • 意地悪だなあ〜。すごくおもしろかったです。
    話自体もとりとめがないし、文体も独特だけど、読むのが楽しくて、毎日通勤の行き帰りが待ち遠しかった。
    「嫌なタイプの人間のカタログのように」書かれた小説らしいです。
    目白四部作がとても好きだった記憶があって、その登場人物が出てくるというので楽しみに読んだのだけど、桃子たち以外はほとんど記憶になかった自分に愕然…また読み返してみよう。

  • 金井作品の文庫なら、『やわらかい土をふんで、』にしようと思ってました。でも、本屋さんで目に入ったのがこちら…装丁がきれいなものの、文庫本なのにちょっと高めだし、もう少し出せば単行本買えちゃうかも?と思った…でも、手元にあるんだ、これが(笑)。

    なーんか、すごい!とりとめなくだらだらと続くおしゃべり。どこで切れるんだか。しかも読んでてイヤな疲れが出る!でも、こういう人、いると思う…話聞いてるだけで、その人の家族の距離や今の家計の状況まで、垂れ流しでわかっちゃうようなおしゃべりをする人(もちろん、私もその一員かもしれないし、そこを楽しくおしゃべりしてくださるかたもいらっしゃいますので、そこは念のため)。「そんとく問答」なんて、問答が成り立ってないじゃん!こういう「よゆう通信」、片腹痛いわ!など、ツッコミまくり。表題作なんて、ダメ押しゴールだし。

    とはいうものの、それぞれのグダグダしゃべりの中の、ディテールの描写は圧巻。どれもちょっと高級感のあるアイテムが効いており、男性はともかく、年配の女性の「老嬢」という感じがよく出てると思います。自分と同年代の登場人物には、表現的にちぐはぐながら、ちょっとわかるところもあったけど(笑)。

    直前に読んだ中島たい子さんの『建てて、いい?』と真逆の、実に胸くそ悪い読後感(笑)。スタンドカラーが好まれる(と思われている)ギョーカイ人が出てくるところは共通点なのに。この本、狙いはなんなんだ?と思いつつ、巻末の著者さんインタビューで「あぁ、そういうことね…」。最初、「ん?」と思った帯の惹句の、意外なうまさにも気づきました。トリッキーでクレバーなお仕事(笑)。そこで、☆アップ。

    金井作品に親しんだかたなら、つくりに「ふふふ」と思われる作品だと思いますが、そこを知らなくても楽しめるような…ただし、煮詰まってないとき向けだと思います。

  • 読みたい本。
    金井美恵子さんの昔からの読者だし。
    最近の作品とはいまいち相性がよくないとは言え。

    新聞広告では「ヘンな人間のカタログのような登場人物たちに、思わず吹き出すイロニーに満ちた連作短編小説!」となっている。
    おもしろそうです。

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著者プロフィール

金井美恵子
小説家。一九四七年、群馬県高崎市生まれ。六七年、「愛の生活」でデビュー、同作品で現代詩手帖賞受賞。著書に『岸辺のない海』、『プラトン的恋愛』(泉鏡花賞)、『文章教室』、『タマや』(女流文学賞)、『カストロの尻』(芸術選奨文部大臣賞)、『映画、柔らかい肌』、『愉しみはTVの彼方に』、『鼎談集 金井姉妹のマッド・ティーパーティーへようこそ』(共著)など多数。

「2023年 『迷い猫あずかってます』 で使われていた紹介文から引用しています。」

金井美恵子の作品

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