自伝 じょうちゃん (朝日文庫)

著者 : 松谷みよ子
  • 朝日新聞出版 (2011年12月7日発売)
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022646408

作品紹介

大正15年に東京・神田に生まれ、裕福な家庭に育った著者は、太平洋戦争下でOL生活を体験し、疎開先で生涯の師と出会う。29歳で結婚するも、のちに離婚…。激動の昭和史を生き抜いた一人の女の子が、職業を手にし、女性として自立するまでを綴った自伝。

自伝 じょうちゃん (朝日文庫)の感想・レビュー・書評

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  • モモちゃんとアカネちゃんシリーズの作者、松谷みよ子さんの自伝本。
    1926年生まれの松谷さんが、2006年から2007年の間『週刊朝日』での連載として書かれたものです。
    モモちゃんたちのママの人生ということで、子供向けの本に描かれなかったママとパパの離婚の真相っていったいどんなかしら・・・なんて思って読み始めましたが、、、

    童話の抽象性おそるべし…!
    と、いろんな意味で舌を巻いてしまいました。

    タイトルの「じょうちゃん」とは、「お嬢ちゃん」のこと。
    弁護士で衆議院議員も務めた父輿二郎のもとには、所属する弁護士やら書生、手伝いの人などもたくさんいて、そうした人たちは、八つ年上の姉のことを「お嬢様」、みよ子さんのことを「お嬢ちゃん」と呼んだそうだ。それを受けて幼いみよ子さんは自分のことを「じょうちゃん」と呼ぶようになり、いつのまにか周囲の人や家族までもが彼女を「じょうちゃん」と呼ぶようになったとのこと。

    お嬢ちゃん育ちの松谷さん、幼い頃に父を亡くし、やがて戦争の日々に突入。東京の家は焼失し、信州へ疎開して農村生活。戦後は友人のツテで企業の労働組合の書記の仕事を始め、世界は新しい民主主義の時代へ。
    労組の人たちと結成した人形劇サークルでのご縁で、瀬川拓男と出会います。

    瀬川拓男は東京生まれの満州育ち。父知一良は戦前より社会主義運動に身を投じており、拓男も深くその影響を受ける。終戦を満州で迎え、引き揚げまでの一年あまりは生きるために何でもやった。引き揚げ後、大学進学を諦めた瀬川は単身人形を担いで佐久を歩き、やがて上京、人形座の結成に参加。このときみよ子と出会う。が、人形座はやがて退き、レッドパージにあった労働者たちで作った紙芝居の会に指導者として出向くようになる。
    拓男と交際を深めていたみよ子も、病身ながら、南京虫のわくような三河島の事務所での活動に携わるようになる。

    瀬川には夢がある。全国各地の民話を採集して、国策の道具でない、ほんとうの日本の農民・民衆の子である「太郎」を見つけて、太郎座という劇団を作りたい。若いみよ子は賛成、賛成とうなずいて、結核を患っての入退院の後、結婚。

    しかし始まった結婚生活は、瀬川と夢を同じくする男たちとの雑居生活。瀬川は、それこそがプチブルのみよ子に変革をもたらすために必要なことなのだと信じていたが、結核療養中の身には堪える。それに、育ちだけでプロレタリアと称えられ、かたやプチブル、お嬢さんとおとしめられるその生活のなかに、みよ子は自分の居所のなさを感じるようになる。かつて所属した紙芝居の会や労組での付き合いのなかにはあると思われた仲間感が、そこには感じられなかった。

    そして太郎座の立ち上げがあり、
    民話採集の旅があり、
    妊娠、出産を経て、
    みよ子自身も童話を書いて国際的な賞を授かったりして世に認められるようになり、
    雑居相手が瀬川を神と崇める女たちに変わり、
    いろいろな葛藤があって、
    パパとママは離婚する。


    2007年、80才の松谷さんは書く。
    11才の時に父と死別して以降、貧しくつましく暮らしてきた。戦時中には兄ふたりが出征し、女所帯で配給だけに頼る厳しい暮らし。父の事務所も家二軒も焼失。身寄りもない信州での疎開生活。戦後、焼け跡の東京に戻って働き始めたころ、「あなたはおじょうさんだから」という友人の呟きに困惑する。そうなのだろうか。私はいまでも「じょうちゃん」の部分を抱えているのだろうか。
    と。


    生まれは裕福だけれどもたいへんなご苦労をされてきた松谷さんが「じょうちゃん」であるか否かという件について、そう思うとか思わないとか意見を交わすことにはあまり興味はありません。でも、老いてから書き綴った自伝のタイトルにこの言葉を持ってきて、上記のような戸惑いも吐露しているということが、興味深いなと思いました。
    生まれ育ちは、性別と同じように自分では決められない運命的な要素だし、現代では、建前上は、それに縛られることなく自由に生きていけるということになっているはずだけれども、結局私たちの人生は、そういうことに左右されるものなのだろうか。
    それはまあ自然なことだしそれ自体悪いことではないと思うけど、お前は○○生まれだからどうだとかあの人は○○育ちだからどうだとか、そういうことで人を評価するようになってしまうと、いろいろと問題が生じてきますね。
    あなたも私も同じであるということはないけれど、いや違うからこそ、違いをもっとこうフラットに受け入れられたらいいなと、思うんですが。
    受け入れられなかったなあ…
    っていうことが、ご自分の半生を振り返ったときに、松谷さんの心に引っ掛かったのだろうか。
    なんて、そんな勝手な推察をしてしまいました。



    ところで、戦時中の話だけが、他の部分とは別物であるかのように浮いて感じられた。
    毎日目の前でバタバタと人が死んでいくけれどもそれにいちいち何かを感じていたらやっていけない、という状況が、お金がないとか人と理解し合えないとかいう話とはレベルが違いすぎるからか。

  • 『モモちゃんとアカネちゃんの本』シリーズの松谷みよ子さんの自伝2011年に書かれたもので、今年2月に亡くなってしまったことを考えると、とても貴重な本になったのだと思う。

    弁護士で無産政党の代議士(衆議院議員)の父のこと、戦時中に軍国乙女だったこと、人形劇団座長の瀬川拓男(『モモちゃんとアカネちゃん』シリーズのパパ)との出会いと別れの内幕など、たくさんのことが書かれている。解説は綿矢りささん。

  • 自伝なので、松谷さんの生い立ちがわかるのはもちろん、その時代にどういうことがあったのか、その頃の人々がどういう暮らしをしていたのかわかるのも良かった。

  • すごくおもしろかった。
    戦前の豊かな暮らし、戦中の女性の暮らし、戦後の時代の移り変わりを一人の女性の体験を通して知ることができる。
    戦中の女性の暮らし、仕事などについて考えたことがなかったのでとても興味深かった。

  • 最初ちょっと読みづらかったのだけれど、途中からぐんぐん引き込まれました。神田岩本町生まれって、私がだいぶと前に働いていた会社の近くではないかー。

    松谷さんの作品でいちばん慣れ親しんだのは、モモちゃんとあかねちゃんシリーズであり、これを読んでからまた読み返し始めています。

    パパがいなくなるのはどうしてなんだろうと子どもごころに思ったが、そんな事情があったとは!と衝撃を受けました。

    肺病や、貧困、家族との折り合いの悪さ、戦争、などさまざまなことが起こるけれど、どこかドロドロしないのは、やはりいい意味で松谷さんが「じょうちゃん」だからなのだろうと思いました。

  • 確か小学校2年生の時のクリスマスだったと思う。
    朝起きると、枕元にサンタさんからのプレゼントが置いてあった。

    『ちいさいモモちゃん』『ちいさいアカネちゃん』
    という2冊の本だった。

    夢中でその2冊を読んだ。
    私も妹がいる姉だったからだと思うが、特に『ちいさいモモちゃん』が好きだった。
    モモちゃんが生まれた日の朝のこと。
    アイスクリームちゃんやにんじんちゃんやカレーちゃん達がお祝いに駆けつけてくれたこと。
    黒猫のクーがプーになったこと。
    モモちゃんの影が食べられちゃったこと。コウちゃんが蛇になっちゃったこと。
    それから、それから…。

    モモちゃんシリーズは暗闇の中に光が射すお話が多いように思う。
    アカネちゃんが生まれた日の話もそうだ。

    一番印象に残っているのが、やどり木の話。
    窮屈な植木鉢に植えられた、枯れかかった2本の木。
    鉢から引き抜くと、1本は歩いていき、もう1本はそこで根を生やし生き返るお話。
    その後、パパとママがお別れをしてしまう。
    幼い頃は、深い森の中のその光景が恐かった。
    パパとママがお別れしてしまうことが恐かった。
    モモちゃんシリーズは作者・松谷みよ子の体験に基づく話、というのは知っていたが、『自伝 じょうちゃん』を読んで幼い頃には理解が出来なかったパパとママの気持ちが少しわかった気がする。
    文庫版の解説(綿矢りさ)にも書いてあったが、パパとママの前に男と女だったんだ、と。

    今読み返すと、このお話も光と影だなぁと感じる。
    植木鉢から出すことによって、2つの木は息を吹き返すのだ。
    光があたるのだ。



    暗闇に光が射すような感じは『じょうちゃん』もそうで、お父様の死、その後の生活苦、戦争など…。
    決して楽ではなかったであろうに。
    だけれども軽やかに、まるで光を射すように描かれている。
    「じょうちゃん」というのは、幼い頃お手伝いのお姉さんが、松谷さんのお姉さんの事を「お嬢様」松谷さんの事を「お嬢ちゃん」と呼んでいたところからきている。
    幼い頃から自分の事を「じょうちゃん」と呼び、いつの間にか家族からも「じょうちゃん」と呼ばれていたという。
    松谷さんは結婚をするまで、自身を「じょうちゃん」と呼んでいたそうだ。

    そんな「じょうちゃん」に対して時代は厳しい。
    決して楽ではなかったと思う。
    でも「じょうちゃん」の魂でしなやかに乗り越えた松谷みよ子さん。
    そして「じょうちゃん」を支えてくれたたくさんの友人達。
    モモちゃんシリーズも、森のくまさんやおばあさん、そしてモモちゃんが生まれた日にやってきた野菜ちゃん達が、かわるがわるモモちゃん家族を助けてくれるのだ。

    「じょうちゃん」魂がなかったら、モモちゃんも他の名作もうまれなかったとだろう。

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