忘れられる過去 (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 127
レビュー : 12
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022646439

作品紹介・あらすじ

鋭い批評精神とやわらかいユーモアの光る、傑作随筆全七四編。講談社エッセイ賞受賞作品。

感想・レビュー・書評

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  • 平易な言葉で語られる鋭い視点と指摘。いずれの文も氏の文学への柔らかい執着心が伝わってくる。私の文学への関心の扉を少し開いてくれたような気がする。じんわりと心に溶け込んでくる作品だった。とても良かった。

  • よかった。読んでいて少しも、まったく、苛々しない。
    言葉が、普通に本来の意味で取り扱われ、過剰でも過小でもないせいか。

    付箋をペタペタとたくさん貼った。
    気になるというより、いいなと思うことがいろいろあって。

    「メール」という短い文章もよかった。
    初めて、メールをやってみようという気になって、設定に取り組む。「さっぱり意味がわからない」「ちがう星のコトバかと思われた」「途中で何度も死にそうになった」とさんざん悪戦苦闘して、メールが出来るようになった時のこと。簡潔にして、苦労と喜びが伝わる。

    本についてや生活についての文章が多いけれど、しかし読んでいると、何よりも、時間について思いを致すことになるように思う。
    解説で川上弘美さんも書いていたらしたが、例えば「芥川龍之介の外出」。芥川の年譜をもとに、人の家を訪ねた芥川が、その家の主にどれくらいの率で会えたかを、荒川さんは丁寧に調べる。
    そうだよなあ、芥川の時代にはメールももちろん電話だって一般家庭にはないのだから、人に何か用があれば会いに行くわけだよなあということに気付く。相手がいるかいないかは行ってみないとわからないわけなのに、それでも行って、いなければいないで待たせてもらったり、一旦帰ってあらためたり。
    人と話す、人に伝える、というのは、そういう情熱の必要な、濃密なものだったのだ。

    メールや電話で繋がっている現在は、いつでも連絡がとれて便利なような、いつも繋がっているような錯覚を起こすけれど、連絡がとれる分、会わずに済んでしまう。人と話すこと、伝えることに、あまり情熱は要らなくなった。

    荒川さんの文章は全体に先を急がず、要点やあらすじにのみ重きを置いていない、と感じる。時間がゆったり流れ、だから時間てこういうふうに流れるものだったよなあ、と、考えてしまうのかもしれない。

  • 読む、ということへの向き合い方が、心地良い文章が続く。それと、読んだことのない文学への入り口として、とても魅力的な玄関になっている。

  • 本に纏わるエッセイ74編。毎回湯舟で1~2編ずつ読んだ。今は夏だしシャワーだけの日は読まない。だからえらい時間がかかってしまった。だからもう最初の方は忘れてしまった。忘れてしまっているのに忘れられない感覚が残る。荒川さんの文章はやさしくていねいで、記憶の襞にそっと沁みこんでくる。きっとこれから、本を読んでいる時や、または生活の中だったり、なにげない風景に出会った時だったり、ふとした瞬間に甦る日が訪れよう。なんだかワクワクしてきた。

  • 著者は詩人であり、エッセイも数多く書いています。
    若い詩人の詩集、とりわけ処女作を手がける出版社も営んでいたようです。

    本や文学に近い内容のものを集めた74編のエッセイたちです。

    初めて読む作家の長編のどの作品を手にとるか。
    その選択のために、膨大な手間をかけてあれこれと調べるのです。
    その間に長編のどれかを読み終えてしまいそうです。

    と思ったら、長編を読み切るのに1ヶ月もかけています。

    ひとりの作家の読み方を、何社もの出版社の作家年鑑をめくり、さまざまな読み方がされているなかから、どうやらこれだろうと見当をつける。

    言葉を、索引を、作品を、本を、編集の姿勢を、文学をとりまくあれこれを、すみずみまで味わい尽くしている著者の姿が浮かびあがってきました。

  • 講談社エッセイ賞受賞作品であることが、読み終わってから判明。

    P21 つまり読むときが来たのだ。ぼくにとって本はそういうものだ。いつか身にせまる。強くせまる。そのためにも本があること、本の空気があることがだいじだ。そこにあるものは、これからもあるということなのである。

    P24 「芥川龍之介の外出」

    P58「遠い名作」
    …「失われた時を求めて」は読むわ「ジャン・クリストフ」は読むわ「魔の山」は読むわ「夜明け前」は読むわ。そしてけろっとしているのだ。えらい人だと思うけれど、こういう人は学校を出たら突然読書と無縁になり読書そのものから「卒業」してしまうことが多い。むしろ、あれも読まない、これも読まないという人のほうが、そのあとも気になるので「晴れない」気持ちをかかえながら、読書の世界にへばりついていき、おとなになっても書物とつながっていくのだ。

  • ほとんどのエッセイが見開き2ページというコンパクトさなので、ちょっとした時間に読むのに本当にちょうどいい。

    柔らかな言葉で綴られた文章に、たくさんの著作名が出てくる。見たことのない文学者の名もたくさんあるし、聞いたことのない本もたくさん出てくる。
    でも、それを読みたくなる。
    「本を読むこと」に関して書かれたエッセイが多くて、いくらか本が好きであれば是非読んでみてほしい。立ち読みでもいいから。

    そこには「ほほぅ」と頷くことや、「くすり」と笑ってしまうこと、そして「うーむ」と唸ってしまうことが書いてあると思う。

    文学は、経済学、法律学、医学、工学などと同じように「実学」なのである。社会生活に実際に役立つものなのである。そう考えるべきだ。特に社会問題が、もっぱら人間の精神に起因する現在、文学はもっと「実」の面を強調しなければならない。—「文学は実学である」

    こうした立場が「理想的」だといくら言われようと、個人的にはこの考え方に与したい。心から。

  • 「日本全国8時です」の火曜ゲスト。
    ラジオから聞こえてくる穏和で丁寧なイメージと見事にマッチしていた。粋な言葉を操る才覚のある人だと思った。

  • ほとんどが本に関するエッセイ。初出は2001年から2003年まで。いくつか荒川洋治の本は読んだ事があるが、はじめて輪郭が見えてきた様な気がした。人そのものが感じられるような文章がいくつかあって、ぐっと距離が短くなった。
    前半の『読書のようす』が軽いタッチで気に入った一編。後半はやや重みを増した気がするが、それはそれで読み応えがあった。
    みすず書房の本が文庫化されただけで、なんか得した気分。

  • 短いエッセイの寄せ集めだが、配慮の行き届いた文は読んでいて気持ちがいい。

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