f植物園の巣穴 (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022646675

作品紹介・あらすじ

月下香の匂ひ漂ふ一夜。歯が痛む植物園の園丁は、誘われるように椋の木の巣穴に落ちた。前世は犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、烏帽子を被った鯉、アイルランドの治水神と出会う。動植物と地理を豊かに描き、命の連なりをえがく会心の異界譚。

感想・レビュー・書評

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  • 地球っこさんに教えていただいた前回読んだ「家守綺譚」がとっても面白かったので、次も地球っこさんが読まれていたこの本を読みました。

    うーむ とっても面白い。
    家守綺譚より、こちらの方がよりハマってしまいました。。

    解説から
    「穴」は垂直の移動。「川」は水平の移動を表す。

    語り手の人生における、三つの大きな喪失を巡る物語。

    この小説は、生と死の世界の間を往復し、死人と交流する物語でもある。

    読み終えて、初めからもう一度物語をたどり直してみると、あちこちに差し挟まれたエピソードが、初読時とは違う深い意味を帯びて迫ってくる。


    地球っこさん ありがとうございました。
    梨木香歩さんの本をもう少し読みたいと思います。。

    • いるかさん
      地球っこさん  ありがとうございます。。。

      本当に面白かったです。
      これは絶対何度か読返さないと と思います。

      梨木ワールドに...
      地球っこさん  ありがとうございます。。。

      本当に面白かったです。
      これは絶対何度か読返さないと と思います。

      梨木ワールドにすっかりハマってしまいました。
      ちょっと、ズッポリハマってみたいと思います。
      ありがとうございます。。。
      2020/11/09
    • nejidonさん
      いるかさん、横から失礼します。
      この頃小川洋子さんと梨木香歩さんの本がタイムラインによく流れるようになって、すごく喜んでいます。
      他の本...
      いるかさん、横から失礼します。
      この頃小川洋子さんと梨木香歩さんの本がタイムラインによく流れるようになって、すごく喜んでいます。
      他の本のレビューに書いたのですが、このふたりにはノーベル文学賞をとってもらいたいんですよね(*'▽')
      蟹塚縁起は手に入らなかったんでしたっけ?
      今すぐでなくとも、待っていればいつか現れることもあります。
      その時はぜひお読みくださいませ。気に入って下さるかと(^^♪
      梨木さん、良いですよね!私も大好きです!
      ではでは、突然失礼しました。
      2020/11/09
    • いるかさん
      nejidonさん
      コメントありがとうございます。
      いつもレビュー楽しみにしています。

      地球っこさんとのコメントも見せていただき、...
      nejidonさん
      コメントありがとうございます。
      いつもレビュー楽しみにしています。

      地球っこさんとのコメントも見せていただき、興味深くみていました。
      実は「蟹塚縁起」をネットでみたらブックオフで見つけました。注文したのでもうすぐ届くと思います。
      すごく楽しみです。
      小川さんと梨木さんにノーベル文学賞 私も大賛成です。

      しばらく梨木さんの世界に浸かりたいと思います。
      これからもよろしくお願いいたします。。
      2020/11/10
  • 『f植物園の巣穴』の世界は、『家守綺譚』や『冬虫夏草』のような、あちら側とこちら側の境界が曖昧な世界というよりも、まだもう少しひと側に寄った、生とか死の概念が重きを置いている世界観だったように思う。
    あちら側とこちら側が自ずから繋がったわけではなくて、不意にあちら側に落ちてしまった、まさに穴に落ちたような印象だった。

    それはそれは夢の中の出来事のようで、なんとも足元がおぼつかない読み心地だった。
    前世が犬だった歯科医の家内、ナマズ神主、烏帽子を被った鯉……
    当然のように現れては、主人公である植物園の園丁と言葉を交わす。
    少しおかしいなぁと思いながらも、ああそうか、そうだよなぁと、何だかわからないけれど、感覚的に受け入れてしまう。
    〈──それは気のせいではありません、ご安心なさい。では。〉
    はぁ、そうか。やっぱり、そうだったよなぁ……

    園丁が落ちた世界には、しばらくの間、同じところをぐるぐる回っているような焦燥感や閉塞感を覚えるときがあった。
    その原因のひとつが水の滞った川。
    この川を前にすると息苦しくなるのだ。
    園丁は切羽詰まった思いに襲われる。
    〈とにかくこの滞りを取り、水を流さねばならぬ、そうでなければもうこれ以上生きてはいけぬ……〉
    川へと手を伸ばした彼は、そこで出会ったカエル小僧とともに自身の過去を巡りはじめる。
    あとで名前をつけてやると約束したカエル小僧を「坊」と呼び、少しずつ成長していく坊とともに、園丁が己の過去に向き合いはじめたことで、物語がいよいよ生命力を帯びてきたようだった。

    園丁の落ちた穴は、彼の心の奥底へと通じているものだろう。
    二度と開けることができないように、鍵をしっかりと掛けた過去の思い出が、穴のなかで忘れ去られようとしていた。
    誰しも後悔やうしろめたさ、哀しみ、取り返しのつかない傷を、心のどこかに持っているものだ。目をそらし、無きものとしたそれらは、やがて澱となって心の奥底に沈みゆく。それは無に帰することではなく、反対に囚われ続けていることになるのではないかと、ふと思う。
    もう一度、それらへと向き合うことが出来たときに、やっと過去から解放されることになるのだろう。
    清らかな川の流れは、そっとそれらを浮かび上がらせ、泥や汚れを優しく洗い流してくれるはずだ。そうやって初めて、実はそのなかに本当の宝物が隠されていたことに気づくのかもしれない。

    あぁ、わたしはそんな宝物に気づける人になりたい。

    • 地球っこさん
      nejidonさん、酔っちゃう本ってわかります。
      わたしは小川さんの作品に多々?あります 笑
      やっぱり梨木さんと小川さんにノーベル文学賞...
      nejidonさん、酔っちゃう本ってわかります。
      わたしは小川さんの作品に多々?あります 笑
      やっぱり梨木さんと小川さんにノーベル文学賞ですね!
      そのときは乾杯いたしましょうね~
      (^_^)/□☆□\(^_^

      「蟹塚縁起」ですね、知りませんでした。
      絵本とは想像つかないなぁ。
      ぜひとも読んでみたいです(*^^*)
      nejidonさんの包装紙のたとえ、ああわかるー!
      思わず笑ってしまいました。
      2020/10/28
    • いるかさん
      こんばんは。
      家守綺譚と植物園の巣窟 購入することができました。
      nejidonさんの書かれている蟹塚縁起は出版社にも在庫がなく、取り寄...
      こんばんは。
      家守綺譚と植物園の巣窟 購入することができました。
      nejidonさんの書かれている蟹塚縁起は出版社にも在庫がなく、取り寄せ不可でした、残念。
      順番に読んでいきたいと思います。
      ありがとうございます。
      2020/10/28
    • 地球っこさん
      いるかさん、こんばんは。

      秋の夜長や雨の日の静かな時間、
      そんな雰囲気での読書が似合う小説だと思います(*^^*)

      蟹塚縁起は...
      いるかさん、こんばんは。

      秋の夜長や雨の日の静かな時間、
      そんな雰囲気での読書が似合う小説だと思います(*^^*)

      蟹塚縁起は絶版なのですね。
      わたしは図書館に予約しました。
      とても楽しみにしてます♪
      2020/10/28
  • 読了すると、色々なことが伏線だったと気づき、また再読したくなる内容でした。
    本書を是非読んで頂きたいので、お楽しみを残しておくよう詳細は割愛します。

    以下、ネタバレにはならない箇所で、クスッと笑える場面を紹介します。

    主人公の佐田豊彦が、歯の治療で無防備に口を開けていたところ、歯に〇〇セメントを入れられます。その場面の歯医者と家内が会話がシュールでした。

    歯医者の家内「え、あれで大丈夫でしょうか。」
    歯医者   「何、大丈夫だろう。」

    主人公の方の気持ちになると、よくわからない物を自分の口の入れられ、「あれで大丈夫でしょうか。」と言われたならば、『ちょっと何々?!』とプチパニックになりそうです。得体の知らないものへの不安感が伝わる場面でした。
    相似て、本書の「芋虫と蛹の描写」の場面も、得体の知れないものを知ろうとする心の描写だったのかもしれません。
    読み込む程、気づきがありそうな本です。

  • 不思議な世界感に豊彦と同じように戸惑いながら、さ迷うように読んでいました。

    読んでいくうちに、ひとつひとつの出来事が主人公の過去、現在に繋がっていって・・・
    坊との最後の会話、意識を取り戻した豊彦と千代との会話ではほろほろと涙が流れていました。
    いろんな場面に出てくる穴、水、植物、その構造が隠喩しているもの・・・
    伏線がちりばめられていたんですね。もう一度しっかり読みなおしてみようと思いました。

    シリアスな部分もありますが、不思議なことを受け入れていく豊彦の姿や歯医者とその妻とのやりとりはやはりおかしかったです。

    読み始めはじめっとした空気感が漂っていましたが、読後は雨があがった後のしっとりとした、澄んだ空気を感じることができました。

    蓋をしていた心の奥深くに、潜っていくように、穴に落ちていく。忘れてはいけないもの、命と向き合い、背負い、また上っていく。滞っていた水が流れ出したように、豊彦の人生(時間?)もやっと、穏やかに進み出したのではないでしょうか。
    穴や水、植物のモチーフが物語と繋がる味わい深いお話です。

    解説にあったタイトルについての考察がおもしろかったです!

  • 読み始めしばらく「あれ?今は現実?それとも異世界?さっきのシーンからどこに来たの?」と、どこで起きている話なのかわからなくなること数度。
    主人公の一人称なのに主人公の立ち位置がわからないので読んでるほうとしても不安定さを感じつつも、読み進める。

    物語の進行場所など考えずにさっさと物語の流れに身を任せて読むのがいいんだろうな。読んでりゃわかるだろうし―と思えるまで時間がかかってしまったのはしばらく続けてロジックたっぷりのミステリばかり読んでいたせいか。

    主人公の落ちた穴は主人公自身の心の中の深いところへ降りていく穴だったのだと思う。
    そこは「坊」や「ねえやの千代」の世界とリンクして異世界を作り出して。

    主人公は自覚せず、失くしたものも実は失くしていなかったものも、乗り越えるべき痛みごと無かったことにして心の奥深くにしまいこんでしまった。
    それはひとつの自己防衛であるのだから、掘り起こして正視するのはその時よりもさらに苦く痛いものになっている。
    だけれど、坊の助けによりその苦く痛いはずのものと向き合い受け容れる。

    滞っていた水は、滞っていた時間。
    溜まっている水を流すことは、止まっていた時間を動かすこと。
    動き出した心の時間は置き去りにしていた過去を連れてくる。
    過去は現在の自分に追いつき、融合し、喪失したものを見据えることで喪失したと思っていたものを取り戻す。
    優しい結末でよかった。

    主人公の内部という閉じられている部分のお話なので「家守綺譚」や「村田エフェンディ滞土録」などに比べると、同じ男性一人称でも主人公への共感具合によって読みやすさや好き嫌いが変わるかも。
    わたしはあまり主人公の感情に入り込めなかったのでお話自体には☆3つ。ただ梨木作品の世界や文体が好きなので☆ひとつ追加。

  • 『椿宿の辺りに』(朝日文庫)を読む前に、関連作である本書を再読。

    歯痛に悩まされる主人公の"私"が近所の歯医者に行くところから物語は始まります。
    …が、日常の一場面のはずなのに、少しずつ少しずつ、なにやらおかしなことが起こり始め…

    最初に読んだときには、苦手な歯医者でいいかげんな治療が施されている描写が印象に残ってしまっていたのですが、今回読み直してみて、梨木さん流の日常からゆるやかに異界に誘われる感じに惚れ惚れしました。
    主人公が自身で蓋をしていた記憶を拾いつつ、自身の内奥に潜っていく過程と、一度読んだのにほとんど忘れていたストーリーを思い出していく私自身の状態がリンクして、最初に読んだときよりもどっぷりと物語に浸りながら読むことができたように思います。

  • 語り手の"私"佐田豊彦は、f植物園の職員。
    水生植物園を担当しており、その水辺を「隠り江(こもりえ)」と秘かに呼んで、理想の姿に育てることに情熱を傾けている。
    やがて、日常が不思議な出来事に彩られ始める。
    思い返せば…
    植物園の大木にできたおおきな"うろ"を覗きこんだ時に、落ちた?のかもしれないのだが…

    梨木さんの作品に、水辺は多く出てくる。
    すべての命は水の中から生まれた…ということと関係しているのかもしれない。
    穴に落ちてからの不思議の連続というのは、不思議の国のアリスを連想させる。
    和風だから、遠野物語や、宮沢賢治の世界に近いのかも。
    豊彦の時代は、明治・大正…新しくても昭和初期頃だろう。
    現代よりも不思議は日常の中に混在していたかもしれず、怪異は恐ろしいと言うよりは、不条理と、哀しさも美しさも伴っている。

    なかなか醒めない夢のような豊彦の旅路は、無意識のうちに心の隅に追いやった気がかりを取り出して、もういちどあるべきところに納めるための旅だったのかもしれない。
    言ってみれば、自分の心を「治水」したのだ。
    悲しい記憶と悔恨を克服し、新しい水をさらさらと流す。
    そこには健やかな命が生まれる。

    『家守綺譚 』『冬虫夏草』と同じ傾向の作品。

  • 読み始めてみて これほどに難航するとは
    思わなかった。200ページあまりの作品に
    かなりの時間を費やしてしまった。

    佐田豊彦の
    封印していた過去の記憶に再会して子供時代から
    もう一度生き直すような時間を過ごす経験が
    父を亡くした昨春頃から始まっていた私の内面の
    化学変化に酷似しており 時折立ち止まっては
    自身の記憶を確かめずにはいられなくなったから
    である。

    豊彦の迷い込んだ世界は 面妖かもしれないが
    彼の魂を救った。

    私のたどった迷い道も どうしても思い出したく
    なくてなかったことにしてしまっていたらしい
    傲慢で利己的な性情を養った子供の頃を私に蘇らせ
    私の人間性の問題を自覚させられるものだった。

    「相手が自分を尊ばないと言って腹を立てるのは
    まちがっている。尊ばれない己が身を省みるべき
    なのであった。相手が自分に礼を尽くさない、
    目下の目上に対する礼を失している、となじる
    のは、それだけで礼を尽くされない理由になって
    いる。」

    私はそんな男だった。
    もちろん今もそのままのはずだ。
    そして…豊彦もそうだと思う。

    しかし 見ようともせず無意識に心の深奥に
    しまいこんだものに今では気づき 認めている。

    私も豊彦も 成長段階における大きな喪失から
    自身の心をかばうために
    自己による自己把握と他者による自己把握の
    あるべき統合をやめてしまった男だったのだ
    と思う。

    私たち2人の人生の共鳴・共振はおそらく
    ほかの人たちよりも強かったため 時折目眩に
    襲われながらの読了だったのである。

    まだ読んでいない人のために ストーリーへの
    言及は最小限にとどめるが
    やはり…道彦の命名の場面では
    言葉にできぬほどのあたたかさと感動に
    衝き動かされてしまった。

    梨木香歩氏の作品に出会ってからの自分の変化に徐々に気づき始めている私である。
    それは喜び以外の何物でもないが
    「以前の自分」が見失ってきたものの大切さと
    夥しさに 寂しさをかみしめる私でもある。

    半世紀を生きてようやく成長を再開した私の魂を
    静かに見守れる自分になれそうだ。

    それは、梨木作品の霊力でもあるのである。

  • 『家守奇譚』に似た不思議な異世界譚。
    読み始めは、少し難解か?と思わせる文章に躊躇しますが、慣れてしまえばその知的さ溢れる語り口に惹き込まれます。
    どこからが現実でどこからどこまでが夢なのか…
    最後まで読んで、ああそこから…!となりました。
    クライマックスの展開にはちょっとウルっともさせられ、全て読んでから、もう一度読み直したい物語だなと思いながら本を閉じました。
    繋がりがあるという『椿宿の辺りに』も読んでみたい

  • 夢の中の迷路に迷い込んだような荒唐無稽な不思議なお話。
    途中から主人公のように理屈で物を考えるのを放棄し、この世界観にどっぷり嵌まると、なんと心地よいことか。
    物語は過去へ過去へと遡り、当時味わいきらなかったため膿のように溜まっていた感情を思い出し、知らぬ間に書き換えられていた真実があきらかになっていくにつれ、本来の自分を取り戻す。
    それは癒しの旅となる。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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