f植物園の巣穴 (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 1776
感想 : 190
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022646675

感想・レビュー・書評

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  • 噛みしめるような、味わい深い小説世界。読み終わった後も、しみじみといい小説だったという感慨に浸ることになる。この迷宮世界は、けっして直線や、幾何学的な立体を構成することはなく、まるで螺旋構造のようだ。しかも、それは末端と基点とが連続しているのである。まるでエッシャーの騙し絵の世界に迷い込んだかのように。ただ、結末はやや残念だ。

  • 梨木ワールド。濃密で、意味が見えなくて、読み進むのが辛いが、後半で一気に世界が開けてくる。命という根っこを持つこころの機微を描き切る。誰かを深く想う気持ちとそれを失った時の受け容れ難さ、そして蘇生まで物語る。見事。

  • 歯医者さんでの会話や様子が面白くて好きでした。
    全ての人、全ての物事から学ぶことがあると改めて感じました。

  • 気付ば不思議な世界に入り込んでいた。
    まったく梨木さんの独特な世界観にやられてしまった。
    家守と同じようなといってる人もいるけれど、どちらかというと沼地に近い雰囲気があった。
    (不思議な現象が起こるのは主人公の過去に関することで、きちんと意味があるということ。カッサンドラとか…)

    歯、川、カエル…関係ないかもしれないけど、心理学に通じるものがあったような気がする。
    主人公が抱えている過去のこと、不思議な世界の中でどんどん解きほぐされていって、こちらまで心がすーっとするような。

    最後は想像してなかったので拍子抜けしたけど、あったか~い気持ちになれてよかった。

  • 梨木香歩のf植物園の巣穴を読みました。

    植物園に勤務している主人公の男性が一人語りで物語を語っていきます。
    犬になってしまう歯科医の「家内」や、水辺に住んでいるカッパのような男の子と言った人々が登場する、現在と過去が混然とした物語なので、夢の中の物語なんだろうな、と思って読んでいきました。
    夢の中だったらこんな風に場面が展開し、抑圧された自分の記憶が明らかになっていくということもあるよなあ、と思うような物語でした。

    最後はちゃんと目が覚めてほっとする展開なのでした。

  • 別に読んでいただかなくても結構よ!という高飛車で高慢な文体が好きだ。美しすぎる!ファンタジーやSFは苦手なのですが、和風なら大丈夫という事に気づかせてくれた一冊。
    千代に八千代にですね。

  • 読み始めてすぐに、これは男性向けの内容だなと思いました。テーマとしては性別問わぬ普遍のものであるはずなのですが。
    現実と夢の境がない今回の構成は、意外と筒井康隆氏の書き方に似ていました。
    この作家さんは癒しについての表現が毎回上手いのですが、今回はそれほど感情移入できず残念。ラストに向けての道のくだりが、命を生み出す胎道でもあり、死と生を結ぶ黄泉比良坂でもあるという、非常にありきたりの描写だったせいかもしれません。

  • 「家守綺譚」のようなイメージに似ている。

    夢か現か・・・不可思議で解せないことに頭を捻りつつも、日常は進んでいくかにみえる。
    キツネやタヌキのしっぽが見え隠れするようなことが続くのだが、読む方も主人公と同様、足をぬかるみに取られ、この先の話から抜け出せそうにもない気がしてくる。

    カエルのようなモノと出逢い、お互い変わっていくのだが、
    このカエルは、日本神話のイザナギとイザナミとの間の異型の子である蛭子(ヒルコ ・ 一番最初に生まれた子だが、葦の船に入れて流されてしまう。)のようにも思えた。
    何度も何度も繰り返す場所・・・でも少しずつ物事が進んでいく。
    川の流れとあいまって、後半はあっという間に読み進んでしまった。

    悲しむべき物事は、しっかり悲しまないといけない。
    悲しむことを抑えると、本人の気がつかないうちに、身も心も大変なことになってしまうのだ。
    主人公の、抑圧をしまっておいた蓋を開けたのは、他でもない自分自身だという事を思うと、お腹や胸のあたりにいる「わたし」の声を聞くことはとても大切なことと思う。

  • いつものように内容とは全く関係ない感想となる。純文学はつまらない、つまらないと言えば純文学だ。なんていっていた過去の自分にこの本を読ませたい。そうするときっと過去の自分はやっぱり純文学はつまらないなどと言うだろう。ダメじゃん。

    この本はおもしろい。それは確かである。しかし、小説が面白かろうと、それを受け取る能力がなければそうは感じない。今の自分ならこの小説は面白いとはっきり言うことは可能だが、過去の自分ではこの小説は受け止めきれなかったであろう。

    小説というものは自らに新たなる物を与えるように見せかけて、自らの中から様々なことを引っ張り上げてくるものである。小説を読むのではなく、小説に読まれているのだなんて言うと哲学性を帯びちゃったりするかも知れない。小説を読むにあったてはそこに書いてある文字以上に、自らの中に含まれている文字を読むことになる。小説を読み進める内にその文字列は自らの文字列とリンクを張る、それはまるで脳内の神経細胞、ニューロンのつながりのように。

    過去につまらなかったと思う本も今読めば面白いと感じるかも知れない。「不思議の国のアリス」はつまらないなんて当時中学生だった俺は言っていたが、今読めばその感想は変わるだろう。まあ、不思議の国のアリスは原文で読みたいものだ。だが、俺は日本語しか読めない。

    日本語は読める。だからといって日本語で書かれた本なら全て読めるわけではない。単純に知識がないというわけではなく、心が未熟だという点だ。心というか、文字列が作り出したシナプスというか。脳が未熟だと物事は理解できない、文字列のシナプス結合が未熟だと物語は理解できない。だから、まあ、何が言いたいのかというと、もっと文字列のシナプスを結合しなくては、と言うことだ。

    この物語は心地よく心に澄み渡っていった。この文字列はここちよくシナプス結合した。この物語は俺の中に組みこまれた。そして、この物語は違う物語に引き出されまた結合するのだろう。この物語は違う物語を読むときにも同時に読まれるのだろう。読書とは一冊の本を読んでいるわけではない、今まで読んできた全ての本を同時に読んでいる、そう言っちゃっても良いんじゃないかな。

  • 久々に読んだ梨木さん作品。
    この人の作品を読むと、読後に優しい、ふわふわしたような感覚を得られるからすきです。

    現実と異界を、不安感と喪失感を携えながら主人公と共にゆらゆら旅している気分になりました。

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著者プロフィール

1959年生まれ。小説作品に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『丹生都比売 梨木香歩作品集』『裏庭』『沼地のある森を抜けて』『家守綺譚』『冬虫夏草』『ピスタチオ』『海うそ』『f植物園の巣穴』『椿宿の辺りに』など。エッセイに『春になったら莓を摘みに』『水辺にて』『エストニア紀行』『鳥と雲と薬草袋』『やがて満ちてくる光の』など。他に『岸辺のヤービ』『ヤービの深い秋』がある。

「2020年 『風と双眼鏡、膝掛け毛布』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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