f植物園の巣穴 (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.62
  • (55)
  • (125)
  • (113)
  • (24)
  • (5)
本棚登録 : 1224
レビュー : 147
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022646675

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 「未生」という言葉の、恐ろしさ、遙かさ、優しさ。水子。

    縁日の飴玉のようにじんわりぬるい温度でねっとりと重たく引き延ばされてはキュッと押し戻される過去と現在、すなわち内面と事実。
    子の死に直面できず(確執)妻ごと死んだと見做してしまった夫が、妻を「蘇生させ」(名前の復活)事実に向きあう。
    そのために水や植物や過去や現在が、彼の内面を攻撃、試練、というかたちで支えていたのだ。

    延々と幻想だか幻覚だかに語り手は浸されている。
    読み手は飽きても投げ出しても仕方ない、この作品は娯楽ではなく、語り手の内面にとことん寄り添っているのだから、退屈でもダレても意味不明でもいいのだ。

    失ったものを求めて。木のうろ。
    心理学というほど数値ではない。精神分析というほど理屈ではない。もっと、論理なく条痕のない軌跡。

    千代といえば川端康成を連想。
    ねえやの思い出といえば太宰治を連想。

    すべては夢。死人と傲慢にも見做していた妻が、現実に立ち返るや、現実に引き戻される。
    すべては流産に端を発した「喪の仕事」だったのだ。向き合えなかった近親者の死に向きあう。
    他人の夢に迷い込んだような。

    不思議の国のアリス、と思えば、時間がぎゅるぎゅる巻き戻されて「夢落ち」となるのにも頷ける。
    兎穴ではなく、自分の虫歯の穴、に落ち込むのは、外界のワンダーランドではなく、内界のワンダーランドに迷い込む、と。
    誰それ版アリスというのはあまりに安易だから言いたくないが、穴に落ちて世界がズレる、という作りはもはやルイス・キャロルの専売特許ではなくなった。
    小山田浩子「穴」もそうだけど。本作では少女でも女でもなく男性だけど。

    恋と家族は迂回する。

    ずーっと夢を見ていた私を、妻は看病していたか、
    死人の妻が私を通じて蘇えったのか。オシリス神のように。

  • 大人になって読み返してみると、ただのファンタジーじゃなかった。

    穴ぼこだらけのまま生きていても、いつか誰かが埋めてくれる。でもぜんぶ埋まらなくても大丈夫。そう思った。

  • 夢のようなとりとめのない話だな、と思ったら本当に夢の話だった。草木や水辺の風景などが美しく愛を持って書かれている作品。夢の中で一緒に旅した不思議な蛙小僧の出会いと別れ、そして彼の正体が判明し、最後はほっこりした結末。梨木さんらしい世界観の作品です。

  • 不思議な雰囲気の漂うお話。ちょっとした日常のずれ、認識のずれから、これは現実ではないと分かりながら、過去を辿って歩いているような気持ちになる。
    2016/5/19

  • 梨木さんヒット!と思っていたけど、これはどうにもこうにも読み進めにくく苦心。
    家守奇譚とそう変わらないように思うのだけど、異世界に入り込みすぎ、かな。
    ★2と迷って、★3。

  • 椋の木のウロに落ちて気を失い、夢のなかで向き合ってこなかった近しい者の死を見つめなおすというお話。話の構造や夢の表現がありきたりで引き込まれなかった。

  • 過去を思い出し乗り越えるような、内に向けた話。
    変わった登場人物とのやり取りが可笑しい。
    徐々に霧が晴れていくようで、穏やかな最後がよかった。

  • 面白かった!幻想的な雰囲気と、いい具合のところで、これはどうやら現実ではないなとわかったのと、切なく心温まる結末で、よいお話でした。

  • 冒頭から現実と異界の境界線が少しずつぼやけ始め、植物と水に導かれながら語り手の過去が次第に明らかになり、どんどん密度が濃くなっていく展開に流され翻弄されながら、いつの間にか読破。他人の長い夢に迷いこんだ気分になる不思議な一冊でした。

  • 終盤までが難しかった。
    結末は涙ぐんだ。
    最後読めば合点がいくのだけど、そこに行き着くまでに苦労した。
    でも、この不思議な感覚がなんとも癖になる。
    時間を作ってもう一回読みたい。

全147件中 21 - 30件を表示

著者プロフィール

梨木 香歩(なしき かほ)
1959年、鹿児島県生まれの小説家、児童文学作家、絵本作家。
『西の魔女が死んだ』で日本児童文学者協会新人賞を受賞。映画化もされたこの受賞作が最も著名な代表作となる。
ほかに新美南吉児童文学賞、小学館文学賞を、『裏庭』で児童文学ファンタジー大賞、『渡りの足跡』で読売文学賞随筆・紀行部門をそれぞれ受賞。
受賞作以外の代表作として、『家守綺譚』、『沼地のある森を抜けて』、『ぐるりのこと』などがある。

梨木香歩の作品

ツイートする