- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022646675
感想・レビュー・書評
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梨木香歩の文章は読み進めるうちにその空気がページから滲み出てくる。ぬかるんだ泥、雨に濡れた道路や外壁のにおい、呼吸する木々など。
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序盤は読み辛い文体でよくわからなかったが、どんどん不思議な世界に引き込まれて行った。
植物園の木のうろに落ちて気を失っている状態、夢にありがちな辻褄の合わないめちゃくちゃなストーリーなのは想像できたが、これがどうオチがつくのか想像できなかった。
最後の最後「道彦」でこんなに温かいお話であったことに驚いた。
主人公の過去を追体験することで固定観念が外れ、カエル坊や蝶の様に見事に変態を遂げて還ってきた。
幸せな生活が待っている。
(タイトルから植物や植物園の描写が多いかと思いましたが違いました) -
ちょっと話に置いて行かれた感があった。
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2009年発行
歯痛は、直接脳にガンガン痛みが響きます。
痛みがあるのか、無いのか?疼いているコレが痛みなのか?本人にも分からない現実と夢の狭間で浮遊する主人公。
ぼや~と読み終えました。
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妻を亡くし、一人で静かに生きる植物園の園丁。痛む歯を治療し、担当の水生植物園に固執し、赤ん坊の泣き声が聞こえる椋の木のうろに引き寄せられる。
地に足のつかない非現実へ行ったり来たり、歯の痛みだけがただただ生々しく、植物の香りに酔いそうになる。不穏で痛くてなかなか読み進めない。
園丁の欠落があらわになる後半、カエル小僧との道行で、彼はやっと自分に向き合う。他人と向き合う。これは泣いてしまうわ。
「つまり痛んでいたのは私の歯ではなく、心だった、つまり、胸が傷んでいた、そう言いたいのか」
そう、最初から明示されていたのだった。
理屈の通ることなど何一つおきない世界なのに、伏線に満ち満ちた緻密な小説なのであった。傑作だと思います。 -
途中までなんとなく読んでいたおかげで、事前の予想を遥かに超える非現実性に途中でこれではいかんと気付く失態を演じてしまった。
梨木さん、スミマセン。もう一度キチンと読みます。 -
やや古めかしく硬い文体ながら、決して読みにくくはない梨木香歩。日本語の美しさと可笑しみをいつも感じさせられます。
本作も摩訶不思議な話。主人公は勤務地となった植物園の近くに引っ越す。ところがこの町はどことなくおかしい。通り過ぎる人の頭が鶏のように見えたり、歯痛に悩まされて歯科に行ってみれば、歯医者の「家内」が犬のように見える。自分の気がふれたのかと尋ねてみれば、「家内」の前世は犬で、パニくると犬になってしまうらしい。けれどしっかり日本語を話す。迷い込んだ場所でカエル少年に助けを求め、道中をともに。そこでもナマズ神主やまな板から逃げ出した鯉とも出会う。
封印してきた過去の記憶と向き合う旅が楽しく切なく心にしみます。何度も読み返したい作品です。 -
『家守綺譚』が良かったので、似ていそうな本書を購入。文体は古風だけれど、内容は児童文学のファンタジーを大人が体験するような趣。好みの問題だと思うが、次第に全てのピースが合わさっていく感じが予定調和に感じるし、全体に単調に感じて、あまり気持ちを動かされなかった。著者は『西の魔女が死んだ』から一貫して、生死という重いものをテーマにしながら温かい目線を持っているなとは思う。
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暗喩と隠喩、植物と水で作られたモザイク。
それぞれ形は異なるもののなめらかに繋がり一つの美しい均衡を成す。
あー、なんだかよくわからないけれど救われた気がする。おだやかにゆるやかに繋がって連なって辿り着く全体像のなんと美しいこと、まやかしもあやかしも渾然一体となって一本の糸に布になる快感。
読み返せばきっと意味が違ってくる情景を溶けてしまった飴玉みたいに味わっている。
あー面白かった。 -
動植物の描写が丁寧なこの作者らしく植物名が多々挙げられていてイメージがふくらむ。お話の主題的には、植物園より水生植物園や湿性花園のほうが嵌りそうにも思ったけれど、むしろ一般的な植物園の中に「隠り江」をおくことの意味合いを強く受け取っておくべきかなと。