f植物園の巣穴 (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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レビュー : 148
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022646675

感想・レビュー・書評

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  • 暗喩と隠喩、植物と水で作られたモザイク。
    それぞれ形は異なるもののなめらかに繋がり一つの美しい均衡を成す。

    あー、なんだかよくわからないけれど救われた気がする。おだやかにゆるやかに繋がって連なって辿り着く全体像のなんと美しいこと、まやかしもあやかしも渾然一体となって一本の糸に布になる快感。
     読み返せばきっと意味が違ってくる情景を溶けてしまった飴玉みたいに味わっている。
    あー面白かった。

  • 梨木果歩の小説は境界が曖昧だ。隣を見れば異世界。親しい人は幽霊。
    今回はそれが顕著で、まるで夜明け近くの夢の中にいるようで、はっきり筋が通っているようなのに現実味が欠けている奇妙な感覚だった。
    村田も家守もわりと時間をかけて読んだが、半年以上かかるとは予想だにしなかった。
    面白いが入り込むまでに時間がかかり、そこから浮上するのにも時間がまたかかる。
    本当なら自分一人の時間が楽しめる場所でゆるゆる読むべき本なのだが、あいにくそんな贅沢な時間は持っていない。
    しかし、千代たちについては彼の記憶は生々しい。そこだけ妙に精彩だ。
    最後にはすべて明かされ、ものすごく納得しました。
    やっぱりあのシーンと、千代さんとの思い出は泣いてしまいました。
    全体的に和風を強くした「裏庭」ぽいです。

  • 梨木ワールド。濃密で、意味が見えなくて、読み進むのが辛いが、後半で一気に世界が開けてくる。命という根っこを持つこころの機微を描き切る。誰かを深く想う気持ちとそれを失った時の受け容れ難さ、そして蘇生まで物語る。見事。

  • 久々に読んだ梨木さん作品。
    この人の作品を読むと、読後に優しい、ふわふわしたような感覚を得られるからすきです。

    現実と異界を、不安感と喪失感を携えながら主人公と共にゆらゆら旅している気分になりました。

  • 家守綺譚のような異界も全てそのまま受け入れていく雰囲気が好きでこの本を手に取りました。
    最初、主人公が過去の辛い事を思い出す必要があるのか疑問だった。
    けれど、辛い事を見なかった事のように記憶に蓋をしてしまい悲しむ事も忘れてしまった主人公にはこの異界と交差していく過程が必要だったと思う。
    喪失感というポッカリ空いた穴に涙の池が溜まるとそこから新たなモノが生みだされるんだろう。

  • 著者の村田エフェンディ滞土録、家守綺譚のような異界と交わる心地よいファンタジー。

    梨木さんの日常と異界が共存する世界観が大好きです。

  • 夢と現が混在する暗喩に満ちた物語。過去を巡り記憶が混濁する世界。人が獣の様相を帯び、水が満ち、植物が覆う世界。どう展開していくのだろうかと思っていると、全てが繋がり物語は終息を迎えます。その時の安堵感というか快感はミステリ的悦びに通じますね。なるほど、そこに行き着くのかと感服しました。これは二度三度読むとより味わい深くなるのかも。
    恐らくは100年近く前の日本を舞台にした物語な為、言葉遣いや佇まいに独特の美しさがあります。それもまた読んでいて楽しいんですね。

  •  久しぶりに心が激しく揺さぶられた。
     読みながら涙が滲んできたのはいつ以来だろう。
     最初はちょっと滑稽で、ひょうきんでさえあるのだが、次第に重たくシリアスになってくる。
     生と死、そして血の匂いも漂ってくる。
     それでもこの読後感の爽やかさは何だろう。

     それにしても素晴らしい文章だ。
     使われる単語も、その単語の置き方も、装飾の仕方も。
     スラーっと読み進めるのがとても勿体ない。
     一文一文、ゆっくりと愛でたい文章が連なっている。

  • 自分の封印していたものとは、いつか向き合わねばならない。穴、亡くした子、乳歯、蛹、カエル、大宜津比売、アイルランドの妖精、全てが滑らかに繋がっていく様、本当に素晴らしいと思う。あえて言えば『裏庭』と同じ系統の作品だが、そんなふうに分類するのもばかばかしくなる。

  • 大人になって読み返してみると、ただのファンタジーじゃなかった。

    穴ぼこだらけのまま生きていても、いつか誰かが埋めてくれる。でもぜんぶ埋まらなくても大丈夫。そう思った。

著者プロフィール

梨木 香歩(なしき かほ)
1959年、鹿児島県生まれの小説家、児童文学作家、絵本作家。
『西の魔女が死んだ』で日本児童文学者協会新人賞を受賞。映画化もされたこの受賞作が最も著名な代表作となる。
ほかに新美南吉児童文学賞、小学館文学賞を、『裏庭』で児童文学ファンタジー大賞、『渡りの足跡』で読売文学賞随筆・紀行部門をそれぞれ受賞。
受賞作以外の代表作として、『家守綺譚』、『沼地のある森を抜けて』、『ぐるりのこと』などがある。

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