ぼくらは都市を愛していた (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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本棚登録 : 155
レビュー : 12
  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022647627

作品紹介・あらすじ

デジタルデータのみを破壊する「情報震」が地球上で頻発している。原因はおろか震源地すら特定できない。あらゆる情報が崩壊し、機能を失った大都市からは人の影が消えた。偵察のためトウキョウに進駐した日本情報軍機動観測隊は、想定外の「敵」と出会う…。

感想・レビュー・書評

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  • そこでは人が独りでも生きられる。都市は母のない者に優しかった。わたしたちは〈都市〉を愛した――。

    〈情報震〉という謎の現象によってデジタルデータが破壊され、人々がコミュニケーション不全に陥り荒廃した近未来の世界。
    無人となったトウキョウシェルターで情報観測を続ける情報軍中尉綾田ミウ。
    新技術の被験体として体間通信の神経網を腹の中に生成されることで、他人の思考を感受する能力を得た公安警察官綾田カイム。

    彼らの世界でそれぞれに人が消え、死体が現れる。この不可解な事象は、いったい何を物語るのか。
    現実と仮想、自己と他者、意識と肉体。分断されたものが融合するとき、何が見える――?

    震災後を彷彿とさせる世界観のなかで、往年の神林作品が問い続けてきた命題が冴える。しかし本作はSFと見せかけて、実は恋愛小説ではないだろうか。人と人との関係、男と女の関係に、いつにない生々しさが見える。

  • 後半からグッと引き込まれる。浮いてたパズルのピースがどんどんはまっていくような。
    読後は思わず感嘆の息がこぼれた。贔屓目もあるんだろうけど、この方の綴る文章が好き。

  • 〈情報震〉や〈擬似テレパシー〉など魅力的なキーワードがいくつもある。が、残念なことにこれらがピシッとハマることはなく、消化不良な感じ。

  • デジタルデータだけを改変・消滅させる「情報震」と呼ばれる現象のために崩壊の淵に追い込まれた世界で、なお任務を遂行しようとする「情報軍」中尉。だが今や無人の都市となった東京で部下たちは姿を消し、手書きの戦闘日誌の記述や時間さえもが信頼性を失い始める。
    一方、他人の意識を読みとることができる神経網を腹部につくられてしまった公安捜査官は、加害者は自分自身に違いないという感覚にとまどいながら殺人事件を追いつつも、かつて愛した女の記憶に耽溺していく…。
    2つの物語の語り手はどうやら双子らしいが、同じ時間と空間に生きてはいないようだ。2つの東京は、どうリンクするのだろうか?
    デジタル信号のみを「揺らす」だけの震災ならば現実への影響などほとんど皆無なのではないか、とも思いたくなるが、この世界の人々は、コミュニケーション基盤が破壊されたことによってたちまち疑心暗鬼に陥り、各地で発生した戦争のためにわずか数日のうちに破滅に陥ったのだという。おそらくは人間の存在こそが引き起こしたと思われるこの「情報震」という謎の現象には、東日本大震災後にツイッターで飛び交ったデマと、露呈された都市の脆弱さを思い出さずにいられない。実際、「都市」のゲートキーパーが指摘するように、われわれの認知の外から到来した「未曾有の天災」という概念は、「人類が、自らが生み出した技術を制御できなかったために絶滅に追い込まれた、という事実から目をそらすために創りだした物語(フィクション)」にほかならないのだから。
    他人の意識と直接つながることができるかのようなICT技術があたえる感覚はまさに「偽テレパシー」に過ぎず、無数の人々が自己像(アバター)を投影しながら膨張していくネットワーク空間は、集積された人々の意識が破壊衝動へと加速化されて暴力的に現実世界に逆流する可能性をはらんでいる。「3.11」という現象はそうした人間の関係性に走る断層を露わにしたといえるのかもしれない。
    とはいえ、この物語は素朴に「リアル」な人間関係への回帰をうながすわけではない。技術に助けられて集合意識への暴走すら生み出してしまうネットワーク空間を支えているものは、自己像が他者の像と交わるメタな認識、コミュニケーションの空間なくしては存在しえない人間の本質でもあるのだ。カイムが愛した女の肉体の記憶から、彼女との関係性をとりまく「都市」そのものを構築し得たことは、つねにすでに仮想を現実としている人間にとって希望であるのかもしれないが、その構築物が現実における肉体の破壊によって分裂したこともまた、人間にとっては希望と呼んでいいのかもしれないとも思う。

  • SFはあまり読まないので、初の神林長平作品です。
    読むきっかけは、私が大好きな、アーバンギャルドにインスピレーションを受けて書かれた小説だから、です。
    解説は、アーバンギャルドのてまきゅん(松永天馬氏)!

    読んでいるうちに、成る程、アーバンギャルドの曲、『あした地震がおこったら』、だな、と感じました。

    アーバンギャルド『あした地震がおこったら』
    https://www.youtube.com/watch?v=4gLEzKPEwvo

    都市という機能や、人間の意識に関して書かれていて、とても面白かったです。

    ラストも、良かった。

  • SFだけどミステリーの要素も強いです。
    次元が違うんじゃないかっていう2つのストーリーが交互に展開します。なかなか筋が見えてこなくて、正直かなり手こずりました。ものすごく「現実感」の揺らぐお話ですね。

  • 敵の特徴は『戦闘妖精・雪風』のジャムのようであるし、
    都市の描き方は『マトリックス』とか『ゼーガペイン』を連想させられた。
    相手の思考が流れてくるというのは、ニュータイプのようであるし。
    でも一番近いと思ったのは『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』。
    なにか物語の構造そのものが似ていると思う。
    独立した物語が並行して進むというのは、村上春樹がよく使う手法のような気もする。
    『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』とか、『1Q84』とか。
    文章は『雪風』シリーズより、だいぶ読みやすい気がする。
    論理展開の仕方とかは、伊藤計劃の影響なのかなとも思える。
    先が気になって、ぐいぐい読んでしまった。
    途中からSFというより、ミステリーとして読んでいた。
    どちらにしても、面白かった!
    この勢いで『雪風』も書いてくれたらなぁ・・・。

    それと文庫版解説の松永天馬の方が、文章が上手いような気がするのは、
    気のせいかなぁ。
    目の付け所が天馬らしいとも思うけど。

  • 読み終わり、顔を上げて見た街は、なにか物凄く深い意味の分からない生き物に思えた。
    人も情報も全ては都市という脳を走る電気信号かもしれない。

  • 神林の新刊が出ているとはつゆ知らず、たまたま本屋で見つけて購入しました。
    読んだ感想としては、この作品はまさしく今読むべき作品だろう、というものでした。

    ツイッターやフェイスブック。一昔前で言えばミクシィ。ここブクログも一種であると言えますが、自分の意見や考え、ちょっとした思い付きや日々の割とどうでもいい話。そういったものを積極的に発信していく情報社会。言い方を変えれば、自らのパーソナルをウェブ上に発信する事で周囲の承認を得る。そういった現代の構図を著者独自の解釈を持ってSFという箱庭に落とし込んでいる作品でした。
    その独特な思弁的(スペキュレイティブ)な語り口調と内容は、まさしく著者独自のテイストに溢れた内容となっています。

    作中にこのような描写があります。

    『ですが、ケータイによって人間関係が前世紀時代よりも濃くなったという指摘は、そうかもしれません。孤独になれる時間などというのは、いまはだれも欲しがらないでしょう。繋がっていたいし、仲間や世界から疎外されたくない』

    携帯のせいで一人になれない、という考え方は既に古い物で。今は携帯、あるいはWebに繋がる媒体とそこから発生する繋がりこそが必須な時代となっています。
    自らの情報を切り貼りして情報を発信する。そんな現代の、相対せずに共有意識と承認欲求を満たすライフスタイルは、十年前にはまったく存在しないものであり、同時におそらく十年後にはまた形を変えてしまっているものでしょう。
    そういう意味でも、まさしく今という現在に読むべき作品であったと思います。

    未来を描いていたハインラインの『夏への扉』が懐旧を抱かせる過去の作品となったように、この作品もまたある意味、長い年月を経て懐かしさを思わせる作品になる予感を感じさせます。

  • 久し振りの神林長平。2012年に単行本として刊行されたものを文庫化。
    以前から著者が何度か用いていた、『意識』『自意識』といったテーマをより突き詰めたもの、という印象。既存作との違いはより現実的な世界を舞台にしているところだろうか(といっても神林長平をずっと追いかけていたわけではないので、他にもこういう作品があるのかもしれない……)。
    松永天馬が書いた解説冒頭の『ぼくらは死者だ』という一文は言い得て妙で、仮想現実やネットワーク、意識の流れが云々、というよりも、作品全体から受ける印象は古典的な怪談話の『実は死んでいました』世界に近い。

    暫く神林長平から離れていたので、久々に読むと、やっぱり癖の強い文体だなぁと思う。その文体こそが癖になるのだが……。

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プロフィール

1953年、新潟県新潟市生まれ。79年、短編「狐と踊れ」で作家デビュー。『敵は海賊』、『戦闘妖精・雪風』シリーズなどで数多くの星雲賞を受賞し、95年、『言壺』で第16回日本SF大賞を受賞した。『魂の駆動体』、『永久帰還装置』、『いま集合的無意識を、』、『ぼくらは都市を愛していた』など著書多数。SFファンの圧倒的な支持を受けている。

「2017年 『フォマルハウトの三つの燭台〈倭篇〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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