しろいろの街の、その骨の体温の (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
4.00
  • (362)
  • (385)
  • (202)
  • (61)
  • (13)
本棚登録 : 5635
感想 : 410
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022647849

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  教室の中という閉鎖的で、階級的な社会の縮図の中で、主人公の結佳はクラスメイトを観察対象にすることで傷つくことを避けていた。白色の色彩を欠いた街の中で自分の感情を殺し、透明になることで日々を過ごしてきたが、感情の出し方を見失ってしまう。ある事件をきっかけにこれまで縛られ続けてきた教室という社会の価値観から外されてしまう。自分の好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、周りの価値観では醜いものでも自分が美しいと思うものは美しい。結佳は自らの内側にある自分だけの価値観の尺度を見つける。
     この小説は思春期の心と体の成長、クラスメートとの付き合い、淡い初恋など普遍的な青春の物語と同じパーツで出来上がっている。しかしその結果できあがったこの小説の完成図はひと味もふた味も異なっている。まるで小説そのもの作中のがしろいろで、どこにでもある、清潔な家々からなる不気味な街のような印象を受けた。村田沙耶香作品は一見すると過激で読むのに苦しくなるような描写を多く含む作家のように思われる。しかし、その奥に潜む結末には必ず読む人の内側に小さなあたたかいものをそっと残していくような感覚を残していく。この作品も例外ではない。これは青春小説だが、青春を通り過ぎどこか自分の内面の声に無意識に生きている大人たちにこそ読んでもらいたい作品だ。

  • なんという既視感。初めて読んだのに、最初のパートはドラマか、漫画か、はたまた別の小説なのか、そっくりの話を知っている。
    それでも、話が進むにつれ、この小説は自分を偽ってきた人に「君はきみ」というエールを送っている。
    みんなの共通した観念を見事に描いていて、一気読み。

  • スクールカーストの上と下。
    自分だって”上”ではないのに、自分より”下”の子は見下してしまう……。
    いつの時代にもどこの学校にもあるんだろうなぁ。

    もっと軽いノリで読めるかと思っていたら、想像(期待)以上に重くて心揺さぶられました。
    自分の中学時代を思い起こして頭がクラクラしたほどです。
    私から見れば主人公結佳はまだまだ”イケてる”子で、私自身は信子ちゃんや馬堀さんみたいな立場でした。
    信子ちゃんほど強くもなかったけれど。

    誰とでも分け隔てなく接する伊吹君。
    彼のような”幸せさん”は私の周りに居なかったと思います。
    居たとしても毒にも薬にもならず印象に残らないでしょうね。
    結佳がクラスメイトの”上”の男子からあからさまにからかわれていてるのを目撃してもかばうわけでもなく、飄々と彼らを「いい奴だよ」と言い切り結佳を救うどころかむしろ余計に追い詰めてる。
    伊吹君のそういう無邪気すぎるところには好感が持てませんでした。

    私も散々投げつけられた「ブス」「きもい」「死ね」の言葉たちを、結佳がすべて受け入れつつ自分の価値観を持って前向きに進むラストは清々しさを感じました。
    案外、20年後には結佳や信子ちゃんみたいな子の方が一般的な女性並みに結婚して子供も産んだりして、平凡ながら幸せに暮らしていたりするんでしょうね。
    そして”上”だった子はブイブイ言わせていた中学時代ほどぱっとした人生を送っていなかったり……。

  • 小、中学生の過酷で残酷な人間関係と、心境の変化を丹念に描いた作品。
    特に、中学生がスクールカーストに支配されて、上下をつけられて、そのランク相応に行動することを強いられる、という状況を鋭く丁寧に描いていて、読んでいて痛く苦しい気持ちになった。
    読みたくない、でも続きが読みたい…という葛藤に追い立てられるように読んだ。

    私は子供の頃主人公よりももっと下のランク(信子ちゃんや馬掘さんに近い)にいたので、正直主人公でさえもキラキラして見えて、うらやましい青春…と思えた。
    小4のときにクラスの中心メンバーだった男子にいじめられた経験もあるので、伊吹くんのような男の子なんているのかな?と思ってしまったりもした。

    でも、最後まで読んだら、霧が晴れたような気持ちになった。
    カーストのどの位置にいたとしても、それぞれの苦しさがあるんだと思ったし、でもそんなカースト内のランクなんて本当はどうでも良いんだ、とも思った。
    それぞれ自分の醜さと美しさを持っていて、それは誰に支配されるものではないから、思い切り表現して良いんだよ、と言われた気がした。

    信子ちゃんを美しい、と言ってくれる主人公が、作者が、本当に嬉しくて、私は救われた気持ちになった。

  • 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、と思いながら読んだ。でも最後にちゃんと出口からあることを祈って読み続けた。

    女子特有の自意識過剰さと大袈裟な反応、自信のなさが周囲への嫌悪に結びつくところ、学校で自分を消して同級生たちと過ごす息苦しさ… すべて覚えがある。

    勝手に大人になっていく自分と、それについて行けていない自分。中学生ってほんとうにグロテスク。成長する「いのち」を一番感じる年齢だからなんだろうな。

  • 著者の作品は初めて読みました。面白かった。スクールカースト、恐ろしい。主役は中学生の女の子、60代の爺さんの私にも、そんなようなことってあったなあと思わせる部分もありました。大人になっても、近いことはあるよなぁとも思います。どんな結末になるのか不安になります。少年少女の深い部分、それも汚い部分を生々しく描かれています。

  • 全力で、もう自分が中学生ではないということに安堵する。

    スクールカーストっていうのか。あのクラス内での身分の違い。
    残酷だけど、それを通り過ぎないと大人にならないんだな、と。
    みんなそれぞれの立場で、思春期やり過ごしてきたんだろうなぁぁぁ。

    で、本の内容だが、ここまで純粋にクラス内の女子の関係がわからない男の子なんてそうそういないだろうけど、それでも鈍感な男子っているんだろうな。
    それをとてもすんなりとは受け入れられない女の子の気持ちが痛いほどわかる。

    下に存在してるのに、心の中ではみんなを見下し、だけど鏡に写る自分の本当の姿に悩む。もうもう、いろいろわかりすぎてツラ。
    そしてけっきょく、無事にあの時代を通り過ぎてきた自分に安堵。それしかない。

    最後、そういう展開かよと思ったけど、ま、おもしろかった。立場は違えど、みんな似たようなこと経験しながら大人になるんだな。

  • たまに村田沙耶香氏が分からなくなる。これだけの物語を産み、これだけの言葉を紡ぐために、どれだけ身を切っているのだろう。まれに、作者や監督が心の奥底まで沈み込んで切り刻んで産み出した物語に出会うが、本作はそんなひとつだと感じる。

    思春期、というか中二のスクールカーストの中、抑圧と欲望の狭間でもがく女子中学生。その中で、価値観の再構築を行い、成長していく。こんな言葉でまとめると陳腐に見えるが、丹念に心理を描写し、醜い場面を描写し、ヒトを描写する。途中でこちらが逃げ出したくなるが、最後まで読み切って良かった。

    余談だけど。作中の「ニュータウン」のモデルって、作者が千葉県民出身でもあるし、もしかしたらワシの地元にも近い千葉ニュータウンかなー、とか思った。作者と世代が近いこともあって、なんとなくその街の成長と閉塞に、心覚えがある。とはいえ、ニュータウンって全国どこもこんな感じなのかもだけど。

  • なんて小説に出会ってしまったんだ。綿矢りさのこじらせと、窪美澄の閉塞感と、「君に届け」の青春のキラキラを足して割ったような話。最後は泣きそうになりながら読んでいた。あと基本小説にはさまれるR18要素いらない派なんですけど今回に限ってはすごく必要だった。

    自分の値段は0点だと思っていて、見た目に自信がないから眼鏡をかけていて、自分の輪郭をつくるような言葉はさりげなく絶対に避けて生きている。なんて、私なんだろうと思った。ちょっと違うかなと思うのは、社会を見下しているところくらい(大人になると、誰かを見下すことがいかにちっぽけかをなんとなく気づくので、そういうことをしなくなるのではないか)
    私にとっての「変わる」って、前向きで決意に満ちて、良い方向に思い切りシフトしていくことだと思っていた。でも、「本当に醜くて、ぶざまで、気持ち悪」くなることも変わることで、私に必要なのはそっちの「変わる」なのかもしれないと思った。もっと、醜く、無様に、気持ち悪くなろう。そう考えると、気分が軽くなるのはどうしてだろう。普通のこじらせ女子をさらに30倍こじらせているような彼女が自分の嫌いな自分と決別していく姿がまぶしかった。

    そして、伊吹君が一貫してかっこよかった…。故障していない鏡を持つ彼だから、社会的な価値がどうだろうと、周りがどう扱おうと関係なかったんだろうな。伊吹くん目線でこの物語を想像するとやばい…。

  • 小学校の頃はいつもつるんでいて、興味本位で真似事のキスをしてみたりもした幼馴染だったのに、中学に入ると同じクラスのはずなのに「身分が違う」相手になってしまう。そうして、ようやく自分が抱いていた恋心に気付く。
    幼馴染のほうは昔と同じように接してくれるけれど私はちっとも自分が好きになれなくて、それでも最後には彼に気持ちを伝えて、想いを遂げることが出来た…。

    という、(ざっくりした)粗筋だけにすれば、よくある青春初恋物語に聞こえなくはない(強引ではあるけれど)。

    幾つかのセリフだけ取り出してみればそれはまるでケータイ小説の中のそれのようだったり、
    幾つかの場面だけ並べてみれば、まるでティーンズラブコミックのようだったりする。
    それなのに、この小説がそれらと決定的に異なるのはどうしてだろう? どこからずれてしまったのだろう?

    この陳腐な結末にたどり着くまでに、少女は随分と遠回りをしてしまった。
    けれど、もう心配しなくていい。
    あなたもどうせ、普通の大人になるだけだから。

全410件中 21 - 30件を表示

著者プロフィール

村田沙耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県生れ。玉川大学文学部卒業。2003年『授乳』で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。09年『ギンイロノウタ』で野間文芸新人賞、13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で三島由紀夫賞、16年「コンビニ人間」で芥川賞を受賞。その他の作品に『殺人出産』、『消滅世界』、『地球星人』、『丸の内魔法少女ミラクリーナ』などがある。

「2021年 『変半身(かわりみ)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

村田沙耶香の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
西 加奈子
辻村 深月
又吉 直樹
三浦 しをん
三浦 しをん
湊 かなえ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×