ふくわらい (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.63
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本棚登録 : 1838
レビュー : 207
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022647900

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学小説】書籍編集者の鳴木戸定。彼女は幼い頃、紀行作家の父と行った旅先で特異な体験をする。不器用に生きる定はある日、自分を取り巻く世界の素晴らしさに気づき、溢れ出す熱い思いを止めることができなかった。第1回河合隼雄物語賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 変わり者、と言ってしまえばそれまでの編集者、定。

    ふくわらいをキッカケに、人の顔に飽くなき探求心を持ち、だが一方で人との関わり方を知らずにいる主人公である。
    私には分からない世界だけど、人の顔のパーツに執着する人の話を聞いたことがある。なので、意外と彼女の共感者は多いのではないかと思う。

    彼女が見つめる顔は、彼女自身が空想のなかで千変万化させ、操る術を持っている。
    つまり一方的なコミュニケーションしか成り立っていないのだと思う。だからこそ物語のはじめ、定の会話と地の文には隔たりがある。
    会話の内容と、彼女の視点が一致しない。

    けれど、定を魅了する顔の持ち主であるプロレスラーや、定に一目惚れしてしまう盲目の男性、更に一般的美女である同僚との関わりによって、定は変化していくのだった。

    特に、定が視覚に拘りを持つことと、盲目の男性が彼女に恋をすることの裏腹さは面白い。
    また、身体性と言葉を作品の中で、うまくテーマにしている。タトゥー、人肉、嘔吐、病。
    ラストになると、会話と地の文は一致を見せはじめる。物語ってこういうものだな、と、楽しませてもらった。

  • H30.6.12 読了。

    ・定、テー、廃尊、しずくなど、みんな好きだ。定が廃尊のプロレスの試合を始めてみたシーンや廃尊の自宅でカルピスを飲みながら、お互いの心の内を話すシーンもとても良かった。

    ・「定にとって、人の顔の判断基準は、美醜ではない。『面白い』かそうでないか、それだけだ。」
    ・人間は、におうのだ。どうしようもなく。」
    ・「他の誰かに変わりたいんじゃない。ただ、この私、私そのものを、愛してくれる人がいて、そして、私も愛せたら、そんな素敵なことはない、って思うんです。」

  • 身分による差別の激しかった古代インドにおいて、釈迦はこのような言葉を残したという。

    「私は人の心に見がたき『一本の矢』が刺さっているのを見た」

    「一本の矢」とは、差異へのこだわり。

    人間の中にある差別の心は、刺さった矢のように抜くことが難しい。

    それを克服しない限り、幸福も平和もないのだ、と。


    本作は、第1回河合隼雄物語賞受賞作。

    文学賞は、優れた作品に授けられるもの。

    「物語としてしか命を持ちえない作品」

    「世界をバラバラにぶっ飛ばす風のような力を持った、稀有な物語」

    との評価で、作品の方から、文学賞の性格や方向性を決定づけてしまった。



    主人公 鳴木戸定(なるきど・さだ)は、紀行作家の父と病弱な母のもとに生まれた。

    定を愛し抜いた母は若くしてなくなり、婆やの悦子が定の面倒を見た。

    父は、世界中の「秘境」の様な場所へ定を連れて歩く。

    その旅の途中、父は定の目の前でワニに食われて命を落としてしまう。

    その後の定の取った行動で社会的なバッシングを受けてしまう。

    そんな世間と隔絶するように友情や愛情を知らずに育った彼女は、編集者となった。

    担当する一癖も二癖もある作家たち。

    猪木に憧れて、闘魂三銃士と同期で、それでも地味ながらエッセイを書き続ける守口廃尊。

    「一目惚れです」と定に言い寄る盲目の青年 武智次郎。

    恋愛に失敗してばかりの後輩の美人編集者 小暮しずく。


    現実世界で出会ったのならば、「変わっている」とひとくくりにされてしまいそうな面々。

    だが、この作品では我が事のように共感しながら読み進めることが出来る。


    「変わっていない」人など、この世の中に存在しない。

    自分のことを大事にする。

    相手のことを思いやる。

    ほんの少しの強さと想像力。


    「人のこころを支えるような物語を作り出した優れた文芸作品」との評価も、心の底から共感できる。

  • 久しぶりの西加奈子さんは、とても強烈でした。
    面白かったです。
    わたしの感性では感じきれない程の、生の眩しさを感じました。
    主人公の鳴木戸定は普通がわからない、というところに「コンビニ人間」を少し思ったりしましたが、定の生きてきたこれまでがグロテスクなまでに生と死に満ち満ちていて、それでも定が生きていることになんだかほっとします。
    小暮しずくも、守口廃尊も好きです。小暮しずくもが定の友達になったことも嬉しいし、守口がリングで話した、連載の最終回の言葉も良かったです。
    しかしプロレスを文章にしたらこうなるのですね。
    最後になるにつれ、定が世界に恋していくのが素敵でした。それを恋というのなら、こんなにも美しい感情はない。
    ラストの展開もわたしは好きです。
    キラキラした定が目に見えるようでした。

  • 独特の世界観。
    小暮しずくが大泣きしているあたりから、面白さがぐっときました。

  • 強烈。その一言に尽きる。

  • おもしろいのか面白くないのか、面白いほどわからないくらい読みふけってしまいました。個の人であった定が何やら彼女の社会を持って彼女の体できっとこれからの彼女の不幸な(あるいは幸せな)人生を歩み始めます。この不思議な女性、もし気づくことができたなら、きっと惹かれていくのでしょう。
    西加奈子さん、ひとつひとつの文章に力があって、目に浮かべながらストーリーを追うことができました。エロよりもグロの方が若干きつく入っていて、美味しい良い作品でした。

  • 登場人物が揃って濃いキャラクターですが、
    「常識にとらわれずに生きる難しさ」を難しさとも感じない
    定の真っ直ぐさが読み手を惹きつけます。

    主人公の定も満身創痍のプロレスラー守口廃尊もそうですが、
    「自分に誠実に生きていれば、誰かが認めてくれる」
    というのが、大きなテーマのように感じました。

  • やっぱり西加奈子はすごいな!!
    この人にしか表現出来ない。感情の臨場感。
    大人になった私たちの中にも僅かに残ってる、ある種の純粋さを直接刺激してくる感じ。
    泣ける!と謳ってる本よりよっぽど泣ける。なぜか。
    すっごく変わってるけど、何故か共感できちゃう。
    だって心の何処かにきっとある、もしくはあった感情だから。理屈や常識や経験で押さえて忘れてきただけで。
    鬱の人も、ガンも、人肉食べるシーンもあるんだけど、ラストは爽やかな開放感。
    読後感は人間として生まれてきて、今生きてる幸せを感じた。
    ちょっと大げさか笑
    でも、そんな感じ。
    でも読書初心者には勧められないな…

  • 西加奈子、独特の世界観。
    不思議な感じのする主人公、アクの強い脇役は、西加奈子の得意とするところか。
    この体、この顔、この声、全てが自分だ。
    自分でしかないのだと改めて確認させられた。

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著者プロフィール

西加奈子(にし かなこ)
1977年、イランのテヘラン生まれ。エジプトのカイロ、大阪府堺市で育つ。関西大学法学部卒業。雑誌「ぴあ」のライターを経て、2004年『あおい』でデビュー。
2007年『通天閣』で織田作之助賞大賞、2011年咲くやこの花賞、2013年『ふくわらい』で第1回河合隼雄物語賞、2015年『サラバ!』で第152回直木三十五賞を受賞。
その他代表作として、宮崎あおい・向井理出演で映画化された絵本『きいろいゾウ』、同じく映画化された『円卓』、20万部を超えるベストセラー『さくら』、本屋大賞ノミネート作『i』など。2020年初夏、『さくら』が映画化決定。プロレス好きとして知られる。お気に入りの本は『アントニオ猪木詩集』。

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