沈黙の町で (文庫)

  • 朝日新聞出版 (2016年1月7日発売)
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784022648051

作品紹介・あらすじ

【文学/日本文学小説】北関東のある県で中学2年生の男子生徒が転落死した。事故か? 自殺か? それとも──。その背景には陰湿ないじめがあった。町にひろがる波紋を描くことで、地方都市の精神風土に迫る。朝日新聞連載時から大きな反響を呼んだ大問題作の文庫化。

みんなの感想まとめ

中学生の脆さと残虐性を描いたこの作品は、いじめというテーマを通じて、思春期の危うさや社会との接点の大切さを考えさせられる内容です。主人公の名倉の転落死を巡る事件は、同級生たちの無知や無関心、そして大人...

感想・レビュー・書評

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  • さすが、奥田英朗先生。
    読ませます。
    571ページとかなり厚みのある作品なのですが、ページ数を感じさせない読みやすさで、一気に読み切ってしまいました。

    物語の始まりは、中学生の転落死。
    彼の死は事故だったのか、それともいじめを苦にした自殺だったのか。
    さらに、中学生2名が逮捕、2名が補導されるという、心穏やかではいられない状況が立ちはだかります。
    冒頭から、心がざわつく展開です。
    転落死した名倉は、本当に四人の少年たちにいじめられていたのか。
    彼らと名倉の関係が、少しずつ明らかになっていきます。

    最初は私も、四人の少年たちに対して、
    「弱い者いじめなんて、けしからん!!」
    と怒りの矛先を向けていました。
    けれど、四人の生徒と名倉の関係性が見えてくるにつれて、少し印象が変わっていきます。
    特に市川と坂井に関しては、
    「たまたま部活が一緒だっただけで、巻き込まれてしまったのでは?」
    という同情の気持ちも生まれました。
    亡くなった名倉の学校での振る舞いや生活態度が明らかになるにつれ、名倉だけに一方的に同情することもできなくなってくるのです。
    彼のKYな振る舞いにも、やはり問題はあったと思います。

    おそらく名倉は、発達障害だったのではないかなぁと感じました。
    二度の流産を経て生まれた一人息子。
    しかも、家業を継ぐ存在として期待されていた子ども。
    親の愛情をたっぷり受けて育ったことは、よく分かります。
    でも同時に、親としては「普通の子とは少し違う」という現実を認めたくなかったのではないかとも思いました。
    それを認めてしまえば、跡継ぎの問題にも向き合わなくてはいけない。
    ましてや、舞台は北関東の田舎町っぽい雰囲気です。
    ご近所さんの目もあるでしょう。
    何がなんでも、我が子は普通の子である。
    そう思い込みたかったし、その思いを子どもにも押しつけていたように感じました。

    一方で、思いのほか印象に残ったのが、不良の井上です。
    彼は意外と人をよく見ている。
    生い立ちの影響もあるのでしょうが、自分が損をしないように、人を選んでいるんですよね。
    ただ乱暴なだけの子ではなく、生き延びるための嗅覚のようなものを持っているところが、妙にリアルでした。

    私はこの小説を、かなり親目線で読みました。
    だからこそ、この一文がとても刺さりました。

    “親は、自分の子供が学校でどんなキャラクターを演じ、どんなポジションにいるかを知らない。”

    そう。
    子どもが自分から言わない限り、親は知りたくても知れないのです。
    親が想像している子どもの姿と、学校での子どもの姿。
    そこにギャップがないわけがない。
    それは親自身も、かつて経験してきたことのはずです。
    だからこそ、我が子が学校でうまくやっているのか、不安になるんですよね。

    この小説は、いじめ、転落死、少年事件という重たい題材を扱っています。
    けれど、読んでいて暗・暗・暗と沈み込んでいく感じではありません。
    それはおそらく、弁護士・堀田というキャラクターの効果が大きいと思います。
    奥田先生の人気キャラクター・伊良部先生の弁護士版ともいえるのが、この堀田です。
    堀田と坂井の母親とのやり取りは、どこか伊良部と患者のやり取りを思わせます。
    題材を考えると不謹慎かもしれませんが、思わずクスリと笑ってしまう場面もありました。
    この抜け感があるからこそ、重たい話なのに最後まで読み進められたのだと思います。
    そして、少年たちの親の立場になって読むと、これまたしんどい。
    私がもし少年の親だったら、市川の母親みたいな行動を取ってしまう気がします。
    夫に当たりまくる……みたいな。
    こういうピンチの時って、本当に性格が出ますよねぇ。
    『沈黙の町で』は、単純に「いじめは悪い」「被害者がかわいそう」「加害者が悪い」と割り切れる物語ではありませんでした。
    子ども同士の関係。
    親が見ている子どもの姿。
    学校という閉じた世界。
    地方の空気。
    そして、事件が起きた時にあぶり出される大人たちの本音。
    読み進めるほどに、誰か一人を責めるだけでは終われなくなっていく。
    そこがとても奥田英朗先生らしい作品でした。

  • さすがの奥田英朗だから読みにくいってことはないのだけれど、中盤以降急に名倉が生きていた頃に戻ったり死後だったりの時系列がわかりにくかった。
    最後はちょっとほっぽり出された感じがあった。書きたかったのは、中学生の証言の難しさなのだろうか。

    中学2年の名倉が学校の敷地内で亡くなっていた。頭が割れて、つねられた痕が多数ある。同じグループの14歳になった坂井と藤田が傷害の疑いで逮捕。13歳の市川と金子は児童相談所送致つまり補導ということになる。警察は4人が銀杏の木に飛び移るよう強要したのではないかと思っているが、4人の子供たちはあまり喋らず、裏が取れない。

    3日ほどで彼らは保釈されて元の生活に戻っている。テストも終わり、何事もなかったようだ。名倉の家に4人で来るように遺族に強制され行くことになる。何度も名倉がいた時には来たことがある。子供たちは花も香典さえも持ってこなかった。そして何も収穫はなし。また来てもらうことになった。

    4人の両親もスクラムを組むことにした。だがそれも不穏である。他の誰かのせいにしたいのだ。
    遺族の申し出により4人はテニスの県大会に出られなくなる。が、坂井と市川の母は頑張って抵抗する。

  • 中学2年生という本当に不安定で脆くて危うい時に大きな事件が起こるとこんなことになってしまうんだというのが恐ろしかった。
    中学生の善悪の基準は集団の中でどう見られるかということで、大人のそれとは違う。
    でもいくら思春期で大人には素直さを見せないのだとしても、大人たちはいじめていることもいじめられていることも本当に全く気づいてなかったのかと思ってしまう。どこかで止めるタイミングはあったのではないかな…。せめてそういう遊びがあると知っていたなら、屋根には登れないようにはしていてほしかった。
    リアルで本当に面白かった。

  • 中学生って難しい!
    中学生の「団結」や「自覚のない残虐性」を認識し、危うさと怖さを感じさせられた。家族から徐々に離れ始める中学生は、社会との接点を増やし始めている。その際、良き友人に出会えば良く育ち、悪い大人や先輩に出会えば悪に染まることもできる。良し悪しや基準が分からないからこそ、何色にでもなれてしまう。人生の転換点にいるのかもしれない。

    600ページ弱の長編で、登場する中学生と、その親、学校の先生、中学生と向き合う警察や検察のそれぞれの人物が解像度高く描かれていた。それぞれに悩みや譲れぬものがあり、自分の立場が一番大切という人間らしさが溢れる登場人物たちで感情移入できた。
    ある人物に共感していると、他者から否定されて、苦しくなりながら読んだ。誰が諸悪の根源なのだろう。中学生を取り巻く社会の複雑さを感じる1冊だった。

  • 中学生の校内での不審死を発端とした物語は、宮部みゆき著『ソロモンの偽証』が白眉であるが、本作も発端は同様であるが、その後の展開は全く異なる。
    『ソロモン…』は、女子生徒が主役になって、不審死をめぐる中学生による異例な校内裁判へと進む、読者にとっても衝撃的なミステリーだった。
    対して、本作はいじめの被害者、それに関わった加害者、それぞれの家族、担任教師をはじめとする学校関係者、それに所轄警察の捜査官に、担当の検事までが登場し、それぞれの思惑が絡み合う群像劇となっている。
    前半は、一方的に不審死の裏にあるいじめの加害者を追及する場面が続くが、後半は一転する。
    事件前の時間と、事件後の時間とが、交互に語られ、真相に迫って行く。やがて、被害者側にも問題があり、加害者とみられた生徒たちにも意外な事実が判明する。
    このような作品を読むと、ストレートに正義をふりかざすメディアが報じる「いじめ事件」にも、様々な側面があるのではないかと、ふと考えた。
    「未完成な中学生」を、鮮やかに描き出した傑作と言っていい。

  • 北関東のねぎが産地のある町。そこの公立中学の2年生男子が部活の部屋の前で倒れていた。頭には挫傷があり、部活の屋根からそばの大銀杏に飛び移りそこねて落下し下の側溝の角に頭がぶつかったと思われた。自殺なのか事件なのか。華奢なその少年はいじめられていた、という証言もあるが・・ 

    息子が帰ってこないという電話を受け校内を見に行った教師が死体を見つける。冒頭から心がざわざわする。体調不良の時は読めない感じ。中学2年、あるいは残酷な年代。死んだ少年、一緒にいたテニス部の同級生、同級生の女子、校長、教頭、学年主任、担任、そして警察、検事、弁護士、新聞記者、被害者の親、加害者?とされた少年たちの親。そうだ、自分にもあった中学2年の時。そして少年の親の時。

    警察の聞き取りの間に挟まれる、過去の学校生活の描写。そして最後に明かされるその瞬間。・・なにげない言葉、行動がとりかえしのつかない結果になってしまう・・  なにか死んだ者、生き残った者、もちろん読者にもどよーんと苦い思いが残る。

    朝日新聞2011.5.7-2012.7.12連載

    2013.2.28第1刷(単行本) 図書館

    朝日新聞書評2013.3.3 評者逢坂剛
    https://book.asahi.com/article/11645332

  • 登場人物、各々の視点から事故?(と私は思ったのだけど)が浮き彫りにされて、その都度都度でいろんな想いになった。…それでもこの街で生きていかなければならないのかぁ。やっぱり奥田英朗さんはいいなぁ〜

  • 構成が妙で、読み進めるほどドキドキが高まっていく。読み終わった今、タイトルも良い。

  • 中学2年生は、精神的にも肉体的にも見た目にも大人として扱われることはないが、中学生活には慣れ、親に反抗したり、根拠のない自信を持ったりと、本人はすでに大人気分を持つことがある。受験勉強を意識するのも時期尚早なので、緊張感も責任感も薄い。そんな気分のまま大人になった人のことを「中二病」と呼ぶ。

    と、そんな言葉を思い出した。今では死語だろうけど。

    地方都市の小さな町の学校内で中学2年生の死体が発見される。自殺か、事故か、他殺か。被害者の体にはイジメを受けていた跡が残っていた。そして、被害者の同級生たちに容疑がかけられる。

    教師や親、刑事、新聞記者、検察官、弁護士など周囲の大人たちは意見を言い合いながら行動するが、中学生たちは彼らに振り回され、自ら発言することすらできない。そのため、本作品は回想シーンが、物言わぬ中学生を代弁する。そして、中学生たちは大人の知らない世界と友人とのつながりをとても大切にしていたことが明らかになる。

    事件を解決する特定の「探偵役」はいないが、しだいに事件の真相が明らかになっていく展開はスリリングで、これぞエンターテイメントミステリー。

    結局、小さな町を沈黙させた事件は解決するが、学校や住民たちにはずっと疑心暗鬼が消えないだろう。

  • いじめという重いテーマ。
    こういう小説は特定の人物の目線で書かれるためその人物に肩入れしがちだか、これは加害者、被害者などのそれぞれの立場で心理描写のため、何が正義か分からなくなってくる。

  • 被害者は圧倒的に被害者で、加害者は絶対的に加害者だ。
    法的には何があってもそれは変わることはないだろう。
    けれど、表にあらわれたものがすべてではないとしたら・・・。

    いじめられていたと思われる一人の男子中学生が死亡した。
    事故とも、事件とも、どちらとも取れるような状況が推測された。
    目撃者はいない。
    どんなに偉そうなことを言ったとしても、中学生は中学生でしかない。
    大人ぶっても、経験も足りず、精神的な強さもない。
    周りに流されることだって、感情に押さえがきかないことだって、日常にはあふれている。
    当事者の親だったら腹が立つんだろうな・・・とか、歯がゆい思いをしているんだろうな・・・とか、事実はどうなんだと問い詰めたいんだろうな・・・とか、いろいろ考えてしまった。
    親に何もかも話す中学生なんているとしても絶滅危惧種と同じようにほんのわずかだろう。
    話せばラクになる。話してくれさえすれば助けてあげられる。
    それは親の、大人の考えだ。
    話したってどうにもならない、話したくても話せない事情だってある。
    子供には子供の考えがあるのだから。
    親たち、とくに母親の子供に対する感情の激しさには圧倒された。
    時間が過ぎ自分自身が大人になれば感謝することもあるかもしれない。
    でもリアルタイムで目の当たりにしたら、ただ単純にうざったいだけだろう。
    ひとりの中学生が墜落死した。
    被害者の親。加害者の親。教師。刑事。マスコミ。
    それぞれの大切なものを守るために彼らは行動する。
    その行動によってあらたに傷つく人間がいることを無視するように。
    ある意味完結しているようなラストでもあり、始まりのようなラストでもあると感じた。
    ひとりの中学生の転落死。
    映画化で話題になっている「ソロモンの偽証」ときっかけは同じであるけれど、まったく違う印象を残す物語だった。

  • 北関東のある町で、中学二年生の名倉祐一が転落死した。事故か、自殺か、それとも…? やがて祐一が同級生からいじめを受けていたことが明らかになり、家族、学校、警察を巻き込んださざ波が町を包む…。地方都市の精神風土に迫る衝撃の問題作。

  • 中学2年の男子生徒が学校内で転落死した。自殺か事故か事件か。検視をしたところ背中に多数の内出血があったことから事件性を疑い、捜査の結果4人の生徒が被疑者として浮上、うち2名は14歳だったため逮捕、あとの2名は13歳だったため補導というのが扱いに。警察としては殺人罪も視野に入れて取り調べを進めるが被疑者4名とも黙秘を続ける。全校生徒に対する事情聴取を警察がする一方、担当となった若手検察官は被疑者との信頼関係を築き新たな事実を掘り起こしていく。
    中学生という子どもでも大人でもない世代との向き合い方の難しさ、教師たちの生徒に対する姿勢、遺族の立場、被疑者たちの保護者のエゴなど、一つの事件を通して様々な側面を深掘りしている。

    最初はいじめによる未必の殺人を証明していくような話かと思っていたが、想定以上に深かった。
    読んでいる側は大人なので、真実を全て話せばいいのにと思うが、誰かをかばうとか自己保身が裏目に出るとか、大人でないからこその部分がある一方で子どもではないからこその部分がある中学生をうまく描いているがゆえに、事件は混迷を極めていくのが読み終わった後で理解できた。
    また、自分の子を守る信じるという被疑者の保護者たちも一見すると客観性の持てない親バカに見えるが、これがリアルなのだと思う。
    事件の決着は読者におまかせというのが唯一残念なところ。

  • お、面白かった…!
    って書くと語弊があるけど。面白おかしいの面白かったじゃなくて、夢中になって読まずにはいられなかったという意味で。びっくりするくらい面白かった!まいった!

    田舎の中学校で、生徒が死んだ。部室棟の屋根から落ちたと思われるそれは、果たして事件か事故か。死んだ生徒と関係が深かったと思われる生徒が話す内容は真実なのか。

    シチュエーションだけ見るとソロモンの偽証が一瞬頭を過ぎるけど、切り口が全然違う面白さ。思惑の矛先と、感情を寄せる先。ラストにどんでん返しがあるわけじゃない。順を追って真相に迫っていく。そこに意外性はないのにこの面白さ。

    伊良部先生しか読んでこなかったのがもどかしい~!他の著作も買います…。

  • こんな作品がこの世にあるのか、と思うほどのめりこんでしまった。中学生の心理について実際の世界を見て書いたのではないかと思うほどにリアルに書かれている。自分の中学生生活を振り返ってもこの本の中の光景は至る所にあり、様々な背景の人間が入り混じる公立中学そのままを感じた。

    この小説は中学生という一つの社会の中の力学があり、その中で生じた事故(確定しないが)が、大きな衝撃をもって大人の社会を巻き込み、違う力学を持った社会同士が重なることで困惑・謎を生じている。子供が謎を抱えて亡くなるという状況で、人々はまず沈黙する。その理由は、子供社会での力学、自分への罰の意識、殺人や自殺という可能性があること、そして沈黙自体から生じるさらなる疑念・不安があるのだろう。

    彼らや子供たちが最初に黙っていたことは、大人の社会に混乱を生じたが、逆にそれだけの時間が必要だったのだろう。

    子供社会においては白黒はっきりさせずに置いておくということができないため、それぞれが持っているそれぞれの社会・家庭から受け取った大きなルールを抱えて、それを守ろうとしている。長身のテニス部は終始精神的な強さを感じさせるが、家庭での教えが彼をそうさせていると感じさせる描写はみられた。身体的に強いことも無関係ではないだろう。
    子供たちはそのルールを素直に守ろうとする一方、ノリとしか言いようのない子供社会での行動原理も持っている。そこにうまく乗れない人は一定数いて、不和を生じることで回りをいら立たせてしまう。判断ができないのではなく、そのようなルールを抱えて、それをうまく現実社会の問題に当てはめられないのだと思う。

    興味深いのは、作中で検事や一部の警察以外の大人は子供が子供社会のルールで動いていることを理解しておらず、未熟だからという点で片付けようとしている。しかしながら、この物語を読んでいるとむしろ大人や彼らの接する狭い社会でのルールや正しさを守ろうとすることが彼らを謎な行動に向かわせているように思えるのだ。

    印象に残っているシーンはいくつもあるが、
    亡くなった子供の親と、加害者とされた子供の親がスーパーで鉢合わせる。どうしようもなく規模感が街なのだ。これは鳥肌が立った。
    亡くなった子供の親が、加害者とされた子供たちを家に呼んだとき、つい優しい言葉をかけてしまうシーンも素晴らしいシーンだった。

    子供はそれぞれの思いはあれど、最終的にを亡くなった子供の背中をつねってしまう。そこは最終到達点として意識されているように思われた。ここにおいては、拒絶のあかしなのではないだろうか。
    これまで同情心やかばう心を持っていた人が、逆に加害に傾いてしまう。この背景には、かばってやったのにという気持ちと、つねる理由があるという子供社会での正しさ、その子供を侮る気持などがまじりあって生じたものだと考える。
    一方、自己だったという前提に立った時、なぜ亡くなった子供は飛んだのだろうか。孤立していく中で彼は不良だったり、一年生だったり、テニス部の同級生四人だったり、クラスだったり、テニス部自体だったり、所属できる場所に彼なりの思考方法で離れないようにしている。また、祖母にもらったラケットであることも大きかったのだろう。期待をかけてくれる、優しい祖母をがっかりさせてしまうかもしれないのだ。
    これは母親のセリフにもあったが、彼は一人っ子だったのだ。その家庭なりの愛情を一身に受けていたし、家庭の中で子供同士の社会を築く機会はなかったのだろう。
    (親戚のこどもという表現はなかったものと記憶している)
    彼はいじめられていた。いじめが彼の周りにある社会的コミュニケーションであり、彼は普通のコミュニケーションを学ぶ機会からやや外れていた。彼自身の特性もあったのだろうが、ここがとてもリアルだと思ったところだが、彼は響かない人間だと思われていた。
    この響かない人間、違う言い方をすれば他人が期待したような反応を返せない人間は、とても周りをイラつかせる。響かないから周りからの働きかけはエスカレートしていく。これは重要な点だと考えるのだが、コミュニケーションが苦手な人は、適切なリアクションを返すことも当然にして苦手なのだ(適切な反応を返せる人はそもそもその土俵に立たない)。で、響いていないように見えて実際には結構響いていたりする。

    気になった点は極めて少ないのだが、一つ上げるとすれば最後まで何かを隠している子供についてだ。
    中心人物の二人は最初から黙り通せる強さがあり、それは子供社会のルール(告げ口しないなど)や他人を守るための行動で、その行動が正しいかはさておき、自分のためだけに黙り通せるものではないと感じた。
    なので、最終的に最後まで何かを隠していた子供が、それが、たとえ本当に事故だったとしてもより踏み込んだ過失があったとしても、最後まで黙りとおせるものかと感じてしまった。
    小説の本当に最後、あの状況で死んでしまったのだと断定して助けを呼ぶ発想が出ないのは、未必の殺意なのか、そもそも助けるという発想が未熟さゆえに出なかったのか。
    最後に、罪と罰について考えてみたとき、最終的に何かを隠している子供以外の三人、他の背中をつねった人たちは漠然と、罰の意識を感じている人はいたが、明確に罪の意識を感じている人はいなかったように感じた。しかし、何かを隠している子供は、明確に罪の意識を感じている。
    罪の意識を感じるだけの、事故以上の何かが、空白の時間に彼と亡くなった子供の間にあったのではないかと空想した。

    筆者は最大限の想像を生む空白の数分間を残してくれたのだ。沈黙から抜けていく町で、最後まで残った沈黙。

  • 北関東のある県で中学2年の男子が部室屋上から転落死した。一緒にいた4人の同級生が関わったとして、傷害罪で逮捕、補導される。小さな町で誰もが真実を語らない。真相は?と言う話。最初は亡くなった子が可哀想に思えるが、様々な真実が浮かび上がる。中学生の心理を巧みに描いていて引き込まれた。人生で多分一番心と体が不安定な時期。自分たちもなにをどうすれば良いのかが分からない。苦しいのかどうかさえも。終わり方はすっきりしないのだけど、それがリアルさを増している。教師、親、検察、弁護士、それぞれのキャラの立場からの動きも良かった。

  • 中2男子生徒が、放課後の校内で遺体で発見される。

    人間、立場が変われば考え方も変わる。加えて、平常ではいられない部分も。

    という面で、被害者家族、被疑者家族、当事者生徒、教師、刑事、検事、マスコミその他モロモロの人々の書き分けが秀逸。

    とくに中学生たちの心理描写がすんばらしい。(元)中学生だった(はるか昔)身としても、全然違和感なし。
    大切にしなければならないものの優先順位が、独特の価値観でズレまくっているという。

    最後の方で、教師が元同級生と飲みながら打ち明けた話、なんだか的を得ているような気がする。

  • 死体発見から始まるり読めた。
    遺族と警察と学校の大人たちがそれぞれの考えでじたばたしてるのも滑稽だった。

    お金持ちだったら下手だろうが部活で良いウェアやラケット持つと思うので、そんなことで悪目立ちする地方の中学生社会だるいな。
    瑛介が良いやつだったけど、人の罪まで被るタイプの中学生、将来損な事が起きそう。

  • いじめを受けていた中学生が転落死という、センシティブなテーマを学校、親、同級生など関係する様々な人の気持ちから描いた。いじめられる子にはそうなる理由もあると思ったりもした。身近にはこのような状況にはないが、色々と考えさせるストーリー展開だったのは作者の素晴らしい構成力によるものだろう。

  • イジメられっ子の学校内での不審な死を巡る、人間ドラマ。群像劇形式で、イジメっ子、その親達、被害者の親、警察、教師、マスコミのそれぞれの視点から事件前後の様子が描かれる。


    奥田英朗は色んな作品があるけど、
    この作品は間違いなく真面目な力のはいった力作


    死の原因の真相究明という本筋は有るものの、
    イジメを取り巻く問題、イジメられる側、イジメる側の、微妙な空気感がリアル。


    あとは加害者や被害者の親視点がとても人間くさくて、
    記憶に残った。みんな自分の子供だけが助かれば良いと思っているんだなと。


    大人になると解るけど、
    ホントに学校は特殊な空間、
    自分がそこに戻ることは無いけど、
    いつか子どもが出来たときに向き合い方が問われる日がくるのかもしれない。

    年頃の子供がいる親御さん達に是非手にとってもらいたい一冊。

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著者プロフィール

おくだ・ひでお
1959年岐阜県生まれ。プランナー、コピーライターなどを経て1997年『ウランバーナの森』でデビュー。2002年『邪魔』で大藪春彦賞受賞。2004年『空中ブランコ』で直木賞、2007年『家日和』で柴田錬三郎賞、2009年『オリンピックの身代金』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『最悪』、『イン・ザ・プール』、『マドンナ』、『ガール』、『サウスバウンド』、『無理』、『噂の女』、『我が家のヒミツ』、『ナオミとカナコ』、『向田理髪店』など。映像化作品も多数あり、コミカルな短篇から社会派長編までさまざまな作風で人気を博している。近著に『罪の轍』。

「2021年 『邪魔(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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