- Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022648389
作品紹介・あらすじ
【文学/日本文学小説】江戸が明治に改まって20年。モダン銀座の派出所に勤務する巡査の滝と原田は、日々事件や相談事の解決に奔走する。だが実は二人の身辺には、江戸から残る妖たちが見え隠れして……。摩訶不思議で時々背筋がぞくぞくする、妖怪ファンタジー。
感想・レビュー・書評
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明治を舞台に暗躍する妖のシリーズ第一弾。
明治は現在の私たちの生活と地続きのような気がするが、よくよく考えると、ちょんまげに刀を差した侍たちが歩いていた時代を知っている人がたくさんいたわけで、妖だってまだまだ身近な存在だったはずである。
舞台は明治20年ごろの銀座。アーク灯の点るモダンな煉瓦街の中に場違いのように建つ小さな木造の駐在小屋と、色ガラスのはまった流行りの牛鍋屋「百木屋」が物語の中心となる。明治生まれの長太は妖なんて時代遅れだ、と言ってのけるが、駐在所と百木屋の周辺では不可思議な事件が次々と起こる。
江戸時代を舞台に妖の活躍を描いた「しゃばけ」シリーズと同じ作者だが、どことなく牧歌的な雰囲気の「しゃばけ」シリーズに比べ、本シリーズでは全体的に凄惨な事件が多い。妖を恐れることで保たれていた秩序や倫理が失われていき、人間の欲深さや傲慢さがさらけだされた時代の雰囲気を表しているようである。
話は連作短編集の形をとっており、読み進めるうちに少しずつ巡査の原田と滝、百木屋に集う仲間たちの背景が明らかになっていく。女学校、新聞記者、免許代言人(今でいう弁護士か)など、明治ならではのアイテムがたくさん出てくる一方、一歩通りを入ると昔ながらの薄暗い路地があり、得体のしれない者たちの存在が感じられるアンバランスさがこのシリーズの魅力である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
時は明治。江戸の大火からこっち煉瓦街として生まれ変わった銀座四丁目の角にひときわ目立つみすぼらしさの巡査派出所。ここに勤務する原田・滝の両巡査と二人が贔屓にする牛鍋屋の百木屋店主百賢・常連のお高・赤手を中心に人の仕業か魔物の術か、何やら剣呑な騒ぎが起こる。
しゃばけシリーズほどキャラがきっちりと描写されておらず、誰を中心に読めばいいのか、お話の結末はどうなのか、どうにも判じかねる短編集。
あとがきを読むと、<そういうもんですの>ってなカンジなんですが、こちらとしては<そうかもしらんけど、どないやねん>と言いたくなる。
ただ、続編では原田さんと滝さんがきっちり主役で活躍するらしいので、そちらも読んでみたいと思います。
個人的に一番の問題は話の軸になるこの人たちが善なのか悪なのか(=善をなしたいのか否か)人助けをするにはするんですが、それはどういう目的なのか(純粋に助けたいのか、利用したいのか、懲らしめたいのか)、それによって読むスタンスがかわるわけですが、それがわからないこと。
もっと早い解決をしたいのなら、もっといい手がありましたよね?いくら明治20年でもそうですよね?だって今のわたしでも思いつくんですから!っていうところが多い。そういう意味でもすごく気になりまして、★★。 -
『しゃばけ』など、長年続くシリーズ作品を複数、継続している畠中恵。
明治を舞台にした、これまでとは違うシリーズを発表していると知って、文庫版で読むことにしました。
江戸から明治になって20年、街の姿が大きく変わった銀座が、物語の舞台になっています。
モダンな建物が立ち並ぶ銀座の街で、一際目を引く木造平家建て。
その巡査派出所に勤務する、二人の若い巡査。
そして彼らも通う、牛鍋屋の店主とその常連客たちが、主な登場人物です。
彼らの周囲では、行方不明や殺人事件など、物騒な事件が起こります。
これらの事件に対峙する、巡査やその仲間たちの姿が、五つの連作短編小説の形で描かれています。
今まで読んだ畠中恵の作品と比較して、特徴的だなと感じたのが、人間の負の部分が描かれていること。
読んで温かい気持ちになる『しゃばけ』シリーズに対して、こちらは首筋を冷たい手で撫でられたかのような、そんな読後感を持ちました。
もう一つ、作品のポイントとして挙げたいのが、江戸から明治への変化について。
明治を舞台にした他の作品でも取り上げられていますが、進んだ部分、失った部分そして変わらない部分が提示されているので、日本人の気質のようなことについて、考えさせてもらいました。
解説を読むと、続編も発表されているとのこと。
余韻が残っているうちに、読みたいと思います。
『若様とロマン』畠中恵
https://booklog.jp/users/makabe38/archives/1/4065118484
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単行本→文庫本と二度目です。最高!!面白すぎです!!この本は、最低でも二巡はした方が理解深まるし、登場人物たちの全体像がわかってきて良いのだと思う!単行本で読んだ時も面白いとは思ってたけど、こりゃ、面白すぎです!!明治・金色キタンもぜひ文庫化を!!
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明治と妖って珍しい組合せだけど、さすが畠中さん。
この物語では、人と人でない者の間に境界があり、読み進むにつれ、得体の知れない何かがそばにいる感覚がじわっとしてきます。
新婚で身重の奥さんをさらわれて、原田さんがあんなことになってしまったのは悲しかったなぁ。
それから、ほんとに怖いのは、妖ではなくて人の方。 -
学生の頃に読んだのを再読。いやー、面白い。
私こういうのが好きなんだなぁ。いくつになっても。 -
明治の世では武士がいなくなり文明が開けたとはいえ、少し前までは夜は真っ暗で妖の存在感があったはず。
そんな時代に文化の最先端である銀座に店を構える牛鍋屋では、どうも本当に人間なのかよく分からない人たちが集まり、まるで江戸時代の人情長屋のような日常を繰り広げる。
次作はもう少しハッキリしてくるでしょうが、そんなことより牛鍋が食べたくなった。 -
明治20年。憲法発布の2年前。江戸から明治に代わり、明治の代が確立する直前の時期。街灯の明るい光の陰に、まだ江戸の妖怪たちが潜んでいる。
東京・銀座で起こる事件を通して、登場人物の正体が少しずつ明かされる。
明治の薄明るい、光と陰の入り交じる雰囲気が感じられる。