- Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784022648549
作品紹介・あらすじ
【文学/日本文学小説】獅子文六ブーム再燃中! 納富家で隠居生活をおくるおばあさんのもとに、娘婿の浮気に孫娘の婚約騒ぎと心配の種が次々に舞い込む。人生の荒波をくぐり年を重ねた女性の知恵と気骨としたたかさで、おばあさんは厄介事の解決に奔走する。ユーモアあふれる家族小説。
感想・レビュー・書評
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納富佳年(のうとみ かね)69歳。
実家は蘭方の医者で、おばあさんは若いころは築地居留地の女学校に通うお嬢様。
午後は町内の漢学の先生の所で四書五経、その後長唄のお稽古、夜は母親から裁縫を仕込まれた。
つまり、教養のある、育ちの良い人である。
23年前に夫に先立たれ、M物産の石炭部長を務める(なかなか羽振りが良い)長男・欣一の家で隠居している。
ところがどうも。
なかなか「楽隠居」とはいかない。
おばあさんは、なるべく若い人の生活にはくちばしを入れない主義なのだが…
相談事が向こうからやってくるのだ。
医者に嫁いだ娘が亭主の浮気に怒って家出、遅く出来た三男は定職に就かず演劇に入れ込みいわゆる河原乞食…
そして、何よりもおばあさんが気にかけるのは、愛してやまない孫娘の、将来の進路と婿養子取り問題である。
正月早々噴出した家族の問題に、「今年は大変な年になりそうだ」と感じるおばあさんだが、昭和十六年という折も折である。
おばあさんは毎朝ラジオのニュースを聞き、日本が大きな戦争の波に飲み込まれようとしていることを、のんきな家族たちに先んじて感じてもいた。
おばあさんの心の中のあれこれな考え方が、さすが年の功である。
『どうも、男ッてものは、貧乏なうちがいいよ……』
『どうも、女ッてものは、美人でないほうがいいよ……』
嘆息とともに吐き出される名言の数々。
孫娘の言動に女性の生き方の変化を実感する新しさと、「家」の血統を何よりも大事に思う古さが同居しており、おばあさんの葛藤は、その間を行ったりきたりしているところにある。
頭を使い、体を使い、家族のために奔走した、納富佳年の昭和十六年。
よき時代が幕を閉じた年でもあったが、この本の感想に暗いことは書くまいと思う。
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獅子文六の、この面白さって何なのだろう!!
そして、何でもかんでも「おばあさんから言ってやってくださいよ」「おばあさんにご相談が」「おばあさんにお願いが」
なんだい、意気地の無いッ!
自分で直接お言いよ!
直接、向き合いなさいッ!
おばあさんの周りの人間には、こう叱っておきます。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
・念願の獅子文六作品第1作目。(いや、本屋での「珈琲と恋愛」を含めれば2作目か)
・丸子のような若者になれれば良いのだけれど。ていうか丸子は20歳か。時代が違うとはいえ、23歳の自分と引き比べてみても、落ち込んでしまう。早く一端の大人になりたいものだ。
・この作品全体に漂う大人なユーモアが心地よく読めた
・本屋でかじり読みしたっきりの「珈琲と恋愛」も再読したい。 -
主人公のおばあさんこと、佳年(かね)は、明治の東京のインテリ家庭でお嬢さんとして育てられ、しっかりとした家柄の納富家に嫁ぐ。
厳格で気難しい夫や姑のいじめなどに、持ち前の明るさで対処、早くに未亡人となるも、3男1女を立派に育て上げた。
物語は、戦時色漂う昭和初頭、69歳のおばあさんになった主人公が、気骨かつ快活な性分と、人生の荒波を潜り抜けてきたたくましさを生かし、子供たち一家に降りかかる難題を解決していくというもの。
大手商社の部長を務める長男の家に住むが、そこの孫娘の縁談を巡るトラブルや次女の婿の浮気騒動、演劇に没頭し、根なし草の生活を続ける三男への対処にあれやこれやと考え、知恵を絞る日々を過ごす。 おばあさんのしたたかさと登場人物たちとのユーモアあふれるかかわり合いの中に、著者ならではの明るく朗らかな描き方が感じられ読んでいて楽しくなる。
農村奉仕などの栄養学校の役割、劇団の報告文化運動など、戦時下の社会世相を垣間見れたのも良かった。
また、トラブルに介入するヤクザもの「ハリケン・政」を一喝、撃退してしまう場面は痛快であった。 -
0158
2019/11/12読了
現代の感覚だと69歳はまだまだお元気そうな感じがあるがこの時代だとすっかりおばあさんなんだなあ。
明治のハイカラな感覚と堅いところを合わせ持つおばあさんで、子供や孫たちの面倒をみている。悩みが次から次へと沸いてきて大変。おばあさんの手にかかればまあるく収まるのはさすがだなあ。与太者を退治するところがすき。
読んでて楽しかった。 -
万事恙無く「家」を取り仕切っていくおばあさんの話。息子、嫁、孫、婿、大変な問題児がいるわけではないけれど、人数が多い分、少なからずとも頭を悩ませる問題はいつでも起こってくる。それを知恵と経験とでもって時に厳しく、時に優しく回りとの調和を持って解決していくおばあさん。いつだっておばあさんは自分のことではなく「家」の行く末を一番に考えている。昨今、自分の幸せ利益を考える人間が多い世の中にあって、自己はさておき、長い目で見て将来を考え動ける人間の物語はある意味新しい。おばあさんのような大きな人に、私はなりたい。