スター (朝日文庫)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 30
  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022650924

作品紹介・あらすじ

国民的スターって、今、いないよな。…… いや、もう、いらないのかも。誰もが発信者となった今、プロとアマチュアの境界線は消えた。新時代の「スター」は誰だ。「どっちが先に有名監督になるか、勝負だな」新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した立原尚吾と大土井紘。ふたりは大学卒業後、名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という真逆の道を選ぶ。受賞歴、再生回数、完成度、利益、受け手の反応――作品の質や価値は何をもって測られるのか。私たちはこの世界に、どの物差しを添えるのか。ベストセラー『正欲』と共に作家生活10周年を飾った長編小説が待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 自分の仕事に置き換えてみると、餌付きたくなる感覚が立ち上る。

    二人の青年が作った映画が賞を獲った。
    片方の青年は、祖父が好きだった監督の下に弟子入りをして、質の高い映画作りを目指す。
    片方の青年は、人の姿そのものに魅力を感じ、それを届けるためにyoutubeで動画を更新する。

    いつだったか、テレビという媒体から芸人たちが続々とyoutubeへと進出していった時期に。
    二人の青年の葛藤と同じものが語られていた気がしたことを、思い出した。

    自分が創りたいものへの信条と価値。
    そして、人の心の揺さぶり方の善悪。

    そこに結果が生まれなければ、認められない。
    だから、簡単に消化出来るコンテンツを大量に注ぎ込んでは、霧となって消えていく。

    「一回限りの人生を、何を成し遂げることに注ぐか」

    いつか霧になった時に、自分の手元には何が残るのだろうかと、最近よく考えている。
    世間に合わせて、時には自分の感情をすり減らして、残るものがお給料以外にあるのだろうか。

    フォロワーやスポンサーとしてではなく、自分自身が残せるものって何なんだろう。

  • 朝井リョウさんの新作、文庫化まで待っていたので即購入、読了(´∀`)

    いやー、なかなかに良作でしたー( ̄∇ ̄)
    ストーリー的な面白さももちろんありましたが、新たな気付きをくれたという側面の方が大きかったかなぁと。

    「『質が高い』なんていう絶対的な価値基準は無く、それこそがとても移ろいやすいもの」、コレは自分の中でも何となく感じていた違和感を改めて言語化してもらえた気がして、ものすごくスッキリしました。

    でも一方で、自分が実際にやっていること、仕事とか、趣味とか、その内容に対しては「それが本物であり、質が高いものなんだ」となぜか無意識的に、とても盲目的に信じている部分もあるなぁと…そこにも気付くことができました。

    小説として客観的に外から俯瞰して見ることで、その考えに至ることができたのかなと。
    主人公達を意図的に?その違和感を描くことで、偏った考え方を際立たせるという作者の意図があるのかなと思いました。

    作者の提案(最後の千紗の語りの部分)、「誰かがしてることの悪いところよりも、自分がしていることの良いところを言えるようにしておきたい」、素直に良いフレーズだなぁと。

    この先の人生でも、大切にしたい考え方だなと思いました。


    <印象に残った言葉>
    ・ほんとに、本物の人たちの中で学ばせてもらえる環境にいられるのって、最高だよね。(P73、千紗)

    ・周りが取り囲むと、そこに何もなくったって、取り囲んだ人垣が輪郭になる(P133、占部)

    ・だけどあんたも、天堂奈緒も、なんか、答えを持ってる人間に思われようとしてる気がする。それって逆に、こっちからすると何かが足りない感じがする(P195、浅沼)

    ・色々話したけど、結局、自分が愛されることが目的の人は、この業界に向いてないような気がする。お金も人ももう、とっくに別の場所に流れてるから(P206、浅沼)

    ・だからきっと、どんな世界にいたって、悪い遺伝子に巻き込まれないことが大切なんです。一番怖いのは、知らないうちに悪い遺伝子に触れることで、自分も生まれ変わってしまうことです(P236、眼科医)

    ・ものを創って世に送り出すっていうのは、結局は、心の問題なんだと思う(P297、鐘ヶ江)

    ・今となっては、君のおじいさんの言葉が本当だったかどうかはわからない。おじいさんが君に観せた映画たちが本当に良質なものばかりだったかもうかもわからない。だけも、君がおじいさんの言葉をきっかけとして沢山の映画を観て過ごした時間は、紛れもなく本当なんだ(P303、鐘ヶ江)

    ・勝手に、そのジャンルで最高峰の場所で学ぶ自分は、そのジャンル全体の欲求を満たせるはずだって思い込んでた。でも私が満たしてあげられるのは、たとえ本当に最高峰の場所にいるとしても、そのジャンルの一点だけ。ピラミッドの中の一点を塗り潰す技術を学んだだけなのに、そこは頂点で、頂点を塗れる自分はそのピラミッド全部を塗り潰せるつもりでいた(P370、千紗)

    ・そのときのために、私は、誰かがしてることの悪いところよりも、自分がしてることの良いところを言えるようにしておこうかなって、思う(P372、千紗)


    <内容(「BOOK」データベースより)>
    国民的スターって、今、いないよな。…… いや、もう、いらないのかも。 誰もが発信者となった今、プロとアマチュアの境界線は消えた。 新時代の「スター」は誰だ。 「どっちが先に有名監督になるか、勝負だな」 新人の登竜門となる映画祭でグランプリを受賞した 立原尚吾と大土井紘。ふたりは大学卒業後、 名監督への弟子入りとYouTubeでの発信という真逆の道を選ぶ。 受賞歴、再生回数、完成度、利益、受け手の反応―― 作品の質や価値は何をもって測られるのか。 私たちはこの世界に、どの物差しを添えるのか。 ベストセラー『正欲』と共に作家生活10周年を飾った長編小説が待望の文庫化。

  • 朝井リョウの作品は何が正解かわからなくなってグルグル考えるという終わり方を自分の中ですることが多いが、この作品もまさにそんな感じ。手軽で質の低いものか、高価で質の高いものか、という議論は様々なジャンルにおいてなされるが、それをさらに深く考えた。
    万人に刺さるものを作ることは難しいから、せめて自分には嘘をつかないでおこう、という考え方はとても新鮮で、今後の人生で心がけていきたいところだと感じた。
    時代が進んでから読んだらまた違った印象を抱くんだろうなぁ…

  • 今だからこその物語

    10年前なら刺さらないし、
    10年後は今更何をと言われそう。

    映画から動画配信の間にはTVもあるけれど
    TVドラマの監督になりたいでは
    物語が成立しないよね。

    本書は、受け手側としては成程と面白かったが
    実際に映画に携わっている人も刺さるのかな?

  • 尚吾と絋のこれからをまだみたくなる良い余韻が残りました。

  • めちゃめちゃ面白かったです、、
    すごくお笑いが好きで、YouTuberに対して色々思うところのあった自分が読むべき作品でした。
    鐘ヶ江監督が尚吾に語った言葉、鉱が会社トップに放った言葉、千紗が尚吾に聞かせた言葉、この辺りが示唆に富んでいたと思います。
    朝井さんの多面からほんとに大切なものを浮き上がらせる手法には毎度感動させられます。

  • 感想
    誰もが発信者となれる時代。自分だけの推しに抱く感情は憧れか憐憫か。スターとの間に存在する透明なフィルムは取り除かれない。

  • ほんとに難しい時代になったなと改めて感じた。人と比較してしまうと、自分が保てなくなる。正解なんて分からない、隣の芝が青く見える。
    丁寧に言語化されていてさすがの一作。

  • -------------------------
    映画監督、YouTuber、アスリート、芸能人、インフルエンサー……
    “国民的”スターなき時代に
    あなたの心を
    動かすのは誰だ?
    誰もが発信者になった現代の光と歪を問う新世代の物語
    -------------------------
    大学の映画サークルで共同制作した作品。
    映画祭でグランプリを受賞した二人の監督。

    尚吾と紘は、大学卒業後それぞれの道へ。
    名監督への弟子入り、
    YouTubeでの制作、発信。

    質の良いものに触れろ
    良いものは自分で選べ

    二人の葛藤、嫉妬、迷い、現実、お金、名声、満足、
    何が良いのか。

    周囲の人たちが、それぞれの結論や考えを語る場面が多々ありますが、すべてが正しく思えて心に迫ってくるものがありました。読んでいて苦しかったです。

    他の本に書いてありましたが、
    一日に約80年分の動画がアップされているらしく。

    みんな発信したいし、クオリティも関係なく、
    刺激的で目に留まって、関心を集められれば、
    有名にもなれる。

    私自身も、大好きなYouTuberの動画をあっという間にすべて見て、今ではもう見ない、なんてこともあり。
    単純な量も増えているけれど、消費のスピードもかなり上がったのかも。

    尚吾と紘が見つける答え。
    最後の尚吾と千紗のやりとりは、読んでいてうすら怖い感じでした。
    ちょっと待って、これ以上言わないで、と何度も思いました。苦笑

    これは「今」読むべきかもしれないです。
    ただ、10年後にもう一度読み返してみたいです。

  • 色んな答えが目の前に差し出されていて、
    一瞬瞬きをすると、答えがなにかわからなくなる。
    答えを教えるんじゃなくて、
    問いを与えてくれるような。
    これこそ、朝井リョウの作品の良さだと思う。

    なにかを提供する側にある人は、その人の価値観というフィールドの中で戦っている。勿論人がやっている事だから、私のほうがすごい、あれは低レベルだとか、他の人の価値観と比べて、色んなことを思うのだけれど、
    どんなものや価値であっても、存在することで救われる人がいる。その事実だけは変わらない。

    多様性はその人が多様性に満ちてるんじゃなくて、
    大勢のそれぞれ違う人がたくさんいる、そういう状態を多様性という事。
    多様性が受け入れられる、自由の中の時代に生きるがんじがらめな不自由さもあるのだと思った。






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著者プロフィール

1989年岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2011年『チア男子!!』で高校生が選ぶ天竜文学賞し、13年『何者』で直木賞、14年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞した。

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