ルノワールは無邪気に微笑む: 芸術的発想のすすめ (朝日新書 7)

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022731074

作品紹介・あらすじ

芸術とは、たとえばオフィスに一輪の花が飾られ、それを見て誰かが美しいと感じるときに生じるコミュニケーションなのです。「人生最大のピンチは?」「子どもの感性を伸ばす方法は?」さらには、「モナリザのどこが偉大なの?」時代の最先端をゆく芸術家の問答集から浮かび上がる芸術の本質とは。

感想・レビュー・書評

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  • 芸術とは「イマジネーションのコミュニケーション」。つまり、自分の感じたことを何とか相手に伝えようとする行為、また、相手の伝えようとしていることを何とか理解しようとする心の持ち方であるという。そして、こうした芸術的発想こそ、世の中の対立を排し、平和をもたらすのだという筆者の確固たる信念が全編を通して貫かれている。

    ...というか、そうした筆者の信念は、読者との問答を繰り返す中でどんどん深まり、最後の到達点として揺るぎないものになった、とも読める。まさに筆者と“イマジネーションをコミュニケーションしている”ような一冊。

  • ●建築家のフランク・ロイド・ライトが「あなたの代表作はなんですか」と聞かれて、「次に生み出す作品だ」と答えた話はあまりに有名です。代表作ができるんだったらもう既にやっている、しかしそれが作れない、描けない、描けていたとしても、それに気づくことができないと言う気持ちは皆持っているのではないでしょうか。
    ●デッサンをするときには、自然に目に入ってきた順に書く。心惹かれた描きたいものを順に書く。そしてその順を最後まで崩さないこと。これが基本です。この順番がそのまま見る方に伝わらなくては、一体何が書きたかったのか分からなくなります。
    ●日本画家や書家が長生きと言うのはわかるような気がします。それは自然のリズムとともに生活せざるを得ないからです。
    ●天然群青と金色。
    ●日本画オタクの皆さんによって日本画のイメージを作られています。芸術と言われるものは全てに対して開かれているもの、と言う大前提があったはずです。同好の士だけを最初から相手にするのではなく、わからない人に向けて開かれているコミニケーションが芸術です。
    ●たとえどんなに孤独感を味わっても、「芸術は1人でやるもの」と言うことです。群れてはいけないのです。
    ●芸術とは「俺の叫びを聞いてくれ」と言うことだと前にもお話ししました。芸術の才能とは相手を説得すると言う事と言う一面もあるわけです。芸術家で飢えて死んだ人は私の知る限りほとんどいません。
    ●グレーに対する日本人のセンス。24通りに分かれている。青は37通り。紺碧、空色、紺青、藍色〜。欧米では10通り程度か。紫も27通り。
    ●芸術は、それを芸術だと思う人に対して、芸術として存在する。
    ●サン・マルコ寺院の受胎告知という壁画を人類史上の最高傑作と考えています。

  •  ルノワールという言葉にひかれて買ってしまったのですが、この本の95%以上はルノワールと関係ありません(^^;。千住博の芸術論とか、千住博の何でもQ&Aというようなタイトルの方がぴったり来ると思います。もっとも、そんなタイトルだったら買わなかったでしょう。

     この本を読んで、芸術的発想を垣間見ることができましたが、公務員的人生の私には、あまり役に立たないかも。でも、千住さんのルノワール論は参考になりました。

     そもそも、千住家は3兄弟だったのですね。私は弟と妹しか知りませんでしたよ。それと、どうでもいいことなのですが、後ろのところを見ると、2006年10月30日第1刷発行と書いてあるのを発見してしまいました。まだ今日は27日で、この本を買ったのは1週間以上も前なのに…。出版界って面白いですね。

  • 面白いけど普通。

  •  独特の風格がある千住博。滝の絵が象徴的だ。その絵を見た時に、滝にうたれた感じがあった。滝そのものが、水の激しさをあらわし、水の一生にとっても劇的な瞬間だ。それを絵画で表現する。流れの中の激しさを感じさせる。
     千住博が、74の質問に答える。さまざまな質問があり、その質問に丁寧に答えている。
    いくつかの質問と著者の回答を、自分への質問に変えて、考えることができた。
    「芸術とはイマジネーションを伝えたいと思う心のことなのです」、「芸術とは『オレの叫びを聞いてくれ!』ということです」という。
    芸術とは、コミュニケーションであり、オレの叫びなのだ。
    絵の実力とは?
    「うまくいかないのが人生です。私は作品がうまくいかないとき、『これが本当の実力だ』と感じます」「私は何かをやろうとして上手くいかないときには、やりたいということに問題があるのではなく、その舞台の設定にこそ問題がある」ふーむ。回答が真摯に千住博として受け止めている。
    巨匠といわれる業績での質問
    「ピカソやマチスの近代絵画としての象徴的な考え方やテーマ性。セザンヌの画面構造に対するまったく新しい切り口。モネの絵画の可能性を切り開いた壮絶な挑戦の歴史。
     ルノワールの業績は何だっけ?『ほんわか』としか言いようのない、ある意味ではこれ以上は『すくい難い』ほどの無邪気な幸福感と光に満ちあふれた世界。笑顔だけを伝えなくてはならないと感じるくらい。人々は笑顔を何よりと必要としていると、彼は感じていた。それが笑顔のための笑顔。芸術の究極は乱暴を承知で煎じ詰めれば、平和のために存在するといってよいのです」という。
     これは、絵を見る視点を大きく変えることができた文章だ。なぜ絵を描くのか?そして、なぜ絵を鑑賞するのか。絵のテクニックだけの問題ではない、コミュニケーションとしての絵を読みとるかだと思った。「無邪気」を描くことができるのがすごい。
     千住さんが タイムマシンに乗って、どこへでもいけるとしたら、いつの時代に行くか?
    「勉強のためならば、長谷川等伯、狩野永徳のいる桃山時代へいく」
    タイムマシンとは、今をよりよくするために、勉強のために使うのだ。
     1枚の絵はどのくらいの時間で出来上がるものなのでしょうか?という質問に
    千住博は、「私は今48歳ですから、今描き終わった作品はすべて48年かかった」という。
    「そのモチーフは、その人が今日まで生きてきた人生の中で、であった驚き、感動、喜び、怒り、悲しみなどの積み重ねにより決まってくるものなのです」人生を賭けるという意味なんだね。
    「デッサンをするときには、自然に目に入ってきた順に描く。絵を描くときには、心ひかれた描きたいものの順位に描く」芸術とは、目から心に伝達されて昇華していく。
    「1流というのは、誰でもなろうと思えばなれる。だけど超1流というのは、違う。それは神話を持っているかどうかなんだ」という言葉を引用していた。神話ねぇ。
     最近。『天分』という言葉の意味が少しづつわかってきた。つまり、自分の天分はどこにあるか?そんなことを考えながら、歩き続けている。
     質問と回答という形式の本は、随分と自分への質問へ発展させることができた。いい編集だ。

  • タイトルはミスマッチかも。
    内容は、新聞の読者から質問を募り、それに千住さんが答えるというもの。
    この答えが冴えている。冒頭の「絶体絶命」のエピソードは鬼気迫っている。それ以外も、なるほどとうならせるエピソード満載だ。
    特に最後のルノワール絵画の解釈は、とても斬新で、唸らされた。

  •  飛び立ったら、飛び続けることです。そしてできれば少しずつ、もっと高く、高くと。
    (P.50)

     それは笑顔のための笑顔なのだ、と私は考えるに至ったのです。
     笑顔だけを伝えなくてはならないと感じるくらい、世の中にはそれが足りないと、ルノワールは考えていた。人々は「笑顔」を何より必要としていると、彼は感じていた。
    (P.243)

  • [ 内容 ]
    芸術とは、たとえばオフィスに一輪の花が飾られ、それを見て誰かが美しいと感じるときに生じるコミュニケーションなのです。
    「人生最大のピンチは?」
    「子どもの感性を伸ばす方法は?」
    さらには、「モナリザのどこが偉大なの?」
    時代の最先端をゆく芸術家の問答集から浮かび上がる芸術の本質とは。

    [ 目次 ]
    第1章 制作のこころ
    第2章 教育のこころ
    第3章 暮らしのこころ
    第4章 経済のこころ
    第5章 日本のこころ
    第6章 芸術のこころ

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    [ 参考となる書評 ]

  • 日本画家、千住博氏の著書。才気ばしった人なだけに、天才然とした文章を書く人かと思ったけれど、本を読んでみて、おもしろく思慮に富んだ人だという感想を持った。
    一般の人との質問に答える形で項目が作られており、わかりやすい。
    芸術家でも人と同じ感覚を持つところは多いんだなと、なんだか安心したけれど、やはり芸術への視点はとても鋭い。

    ルノワールに関しては、こう言い切っている。
    ― 美しい婦人が、何ら裏に隠された意味も心の駆引きもなく、ドラマの前も後もなくただただ笑っている。
    眼に見える図像的情報以外何も伝えないようにしている。
    笑顔のためだけの笑顔。それが必要な世の中だったから。―

    無意味な笑顔だという表現は衝撃的だったけれど、笑顔そのものが求められていた時代だったからという論には納得がいった。
    芸術家にありがちな上から目線ではなく、同じ視点に立った著者の立ち位置によって、読みやすい本となっている。

  • 千住博の本。

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著者プロフィール

1958年東京都生まれ。82年東京藝術大学美術学部卒業。87年東京藝術大学大学院博士課程修了。ヴェネツィア・ビエンナーレで東洋人初の名誉賞受賞。大徳寺聚光院の襖絵、羽田空港第二ターミナルの壁画、APEC JAPAN2010の会場構成など。革新的な日本画が国際的な評価を得ている。

「2015年 『千住博全版画カタログレゾネ1988-2015』 で使われていた紹介文から引用しています。」

千住博の作品

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