田中角栄の昭和 (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022733443

作品紹介・あらすじ

田中角栄とは、いったい何者だったのか?時代によってつくられ、時代をつくりかえた政治家。大衆の欲望を充足させた、悲しき代弁者。死したのちにも強力な「遺伝子」を残した絶対権力者-。昭和史研究の第一人者が異能宰相の軌跡を検証し、歴史のなかに正しく刻印する。

感想・レビュー・書評

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  •  今まで読んだ田中角栄についての本の中で、一番中立的な立場で書かれた本だったような気がする。身内の人が書いた本は当然のように角栄氏の政治家として人間としての素晴らしさを称賛する内容が多い。親族が書いた本は時の人の親族になってしまったがゆえにものすごく大変な思いをしたことによる苦しみとか悔しさについて書かれていて、でもその裏にやっぱりなんだかんだ言ってもすごい人だったんだなあという畏敬の念みたいなものが透けて見えるように感じた。一方、田中の金脈問題を暴いた立花隆氏の本はこれまた当然のように全てを白昼の元に曝け出してやろうとうう強い意志や執念のようなものを感じて、まあその気持ちもわからなくもないけどあなたのその素晴らしい正義感が突っ走れば突っ走るほどなかなか困るというか悲しい思いをする人もいるわけでですね、という完全に身内贔屓な複雑な気分にもなった。
     翻ってこの本は、巻末の解説で著者ご本人もおっしゃっているように、田中角栄に惚れ込むつもりも、完全に敵対視しているわけでもなく、ただ淡々と史実を詳らかにし、当時の関係者に話を聞き、それをニュートラルに分析しているという印象を持った。綺麗事を言うよりも物質的豊かさを求める国民の欲望に忠実に寄り添った政治家であったこと。そのために危ない橋を何度も渡り、中には危ないどころではない橋もあったかもしれなかったこと。でも田中自身はそれを終始一貫して真っ向から否定し続け、裁判で明らかになるかもしれなかった真実は田中の死によって迷宮入りしてしまったこと。数々の疑惑を否定し続けた田中の言葉は必ずしも全てが嘘だったわけではなく、莫大な権力と金を有したが故に敵対勢力や外国からの罠や策略にはめられてしまった結果だという見方をする人も実際に少なくはないということ。
     わたしは、ロッキード事件の賄賂のことを「何も知らない」と言う田中の言葉は信じられない。んなこたぁないでしょうと思う。それでも、小卒から国会議員に成り上がり、想像を絶するような金脈を作り上げ、首相になって一時は歴代最高支持率を記録したり、突然毛沢東と会って日中の国交を正常化したり、当時各国から恐れられていたソ連と対等に渡り会ったり、なんかほんと規格外というか、そんなことできる人やっぱり他にいなくない?とも思う。政治家は、というか誰しもきっとクリーンに生きるべきなんだと思う。でもクリーンを貫いていたらいつまで経っても成し遂げられない大きなこともあって、田中はそこの境界を、国民の欲望を(そしてあるいは自分の欲望を)満たしてあげたいという思いがあまりに強かったから、踏み越えてしまったのかなあと思った。その結果やっぱりそれはダメでしょって言われて逮捕されてしまって、この本も最後の方は読んでいて本当に辛いというか切ない気持ちになったけれど、そういうエンディングになってしまった。でもその危ない橋を田中が渡ってくれたことこそが昭和後期の日本が新しい方向に向かって進む起爆剤になったんだとしたら、そんな頭ごなしに全否定することもできないよね、と思う。
     支離滅裂。でもとにかく、会ってみたかったなあ。会って、どんな人だったのか話してみたかった。そしたらきっともっと好きになってたんだろうなあ。歴史をもっと冷静に見られなくなっていたかもしれない。なんにせよ、30年。30年遅かったんだよなあ。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/685097

  •  田中角栄という政治家は明治・大正・昭和の<国の貧しさ>という現実を国家百年の計だとか国体、あるいは国是などのような儒教臭さに裏打ちされた大言壮語でごまかしてきた政治には見向きもせず、まず選挙民が、ひいては日本国民が豊かにならなければどんな理想を説いても空論でしかないということを身を以て体現したパイオニアと言えよう。
     本書の功績は、この政治家のもつ体質的な欠陥や、あるいは戦後の日本が必要とした政治家としての資質をも含めて、戦後日本の復興、そして高度成長の歴史の流れになかに田中角栄という良くも悪くも戦後を代表する政治家の正統な居所とその果たしてきた役割を明らかにしたところにあると思われる。

  • 日本人のための田中角栄論

  • はじめて『角栄本』を読んだが、孫引きが多く、やや期待外れ。

    彼の『遺伝子』、すなわち錬金術と無思想は、某政治家に引き継がれている。

    しかし、現実を無視した主張する政党・政治家がいる限り、遺伝子は確実にあらたな世代に引き継がれるであろう。

  • 「世の中は白と黒ばかりではなく、中間のグレーなところに真実がある」とは、まさに田中角栄の言葉だが、そのグレーを良しとし、恥じることなく、強かに、体力と行動力で昭和後期を駆け抜けた。そして老蒙と晩節をけがした(スキャンダルではなく、生き様)のが田中角栄という政治家だったのだなあ。やはり、読みはじめたら止まらないほど面白い。

    田中角栄の生い立ちから最後までの評伝は初めてなので、そういうことだったのか的感慨、事実に触れた感慨多数。保坂正康の独自の幾つかの確信めいた推論もスリリングなことは認める。

    ただ、昨今の保坂正康氏の著作は、かつての著作に垣間見えた凄みのあるインタビュー取材の集積ではなく、他書からの二次資料からの引用が多いところが興が削がれる。田中角栄を語るのに避けては通れないのだろうけど、立花隆に論を寄せすぎと感じた。

    実にユニークで、ある種の天才。けれど、まだ呪縛されている気がする。あまりにも一時代を体現した巨人はまだまだ魅了されている。でももうやはり過去の遺物にしたい気もする。

  • 田中角栄について書かれた本。
    日本の総理大臣としては稀有な経歴をもつ点で、
    特に有名だと思われます。

    彼について知りたく、購入した本です。
    体系的にまとめられており読みやすい作品でした。

  • 都市に集まったカネを地方に分配する。公共事業を通じて地方の仕事や生活を保障する。その見返りが選挙のときの票となる。高度成長期の日本では確かに再分配の政治が可能だった。カネを生み出しそのカネで権勢をつくり、カネをばら撒いて政治を動かす。そういった仕組みを編み出したのが田中角栄という政治家だった。


    本書は田中角栄という人物を描いた評伝であると同時に角栄という政治家を通して昭和に生きた日本人の姿や本音を浮き上がらせようと試みた本だ。よくある角栄礼賛本でもなければ、批判一辺倒というわけでもない。冷静に田中角栄とはどういう人物で何をし、歴史になにを刻んだのか、を評した本で読み応えがあった。



    日中国交正常化の経緯やロッキード事件の発端と概要など戦後史の入門書としても最適だ。ただ田中時代の自民党内の派閥争いや誰が首相になるか、といった当時の政局の話は興味がない人には退屈かもしれない。(僕自身読むのが退屈だった)


    興味深く感じたのが田中角栄は金権政治家とよく言われたがそれは一面であり、むしろ義理や人情といった農村共同体に息づくムラ的な感性をもった人物だったという指摘だ。
    ムラ的感性をもっていたがゆえに共同体に暮らす庶民たちがなにを望んでいるか感じ取ることができた。それは豊かになること。欲望の充足。だから政治理念よりカネや実利を重視し人々の欲望の充足を政治の目的にした。戦後の日本人の本音を代弁し代表し、何事もカネ次第といった身も蓋もない論理で政治を動かしていった。まさに高度成長期を体現する政治家だったといってもいい。



    その角栄の愛弟子・小沢一郎がいま日本の政治の中心にいる。
    角栄が残した遺産(政治の金権体質、再分配システム)あるいは田中角栄的なもの(人間万事カネ次第)はまだ生きていると思う。

  • 面白かった。時代に求められ(日本列島改造論)、時代に捨てられた(金権、汚職、日本列島改造論への失望?)。ある意味チャーチルに似ていないか。
    日本列島改造論→妖怪が田舎から都市に現れ始める時期?
    著者が再三、田中が凡人?であることを強調するのが気になった。→庶民宰相、コンピュータ付きブルドーザーといった印象の否定。

  • ロッキード事件について、田原総一郎説をとっているが、立花隆はたしかこれを一蹴していた。
    日本海のメタンハイドレード開発に関連して、前説ではないのか?と思うようになった。

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著者プロフィール

1939年生まれ。同志社大学卒業。ノンフィクション作家。とくに昭和期の軍事主導体制についての論考が多い。

「2022年 『時代の反逆者たち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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