震災と鉄道 (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022734211

作品紹介・あらすじ

「早々に当日復旧を断念したJR東日本の決断は正しかったのか?」「日本全国の海沿いの路線は、内陸に付け替えるべきか?」「地元住民にとって、バスはローカル線の代替になりうるのか?」「災害対策にならないリニア建設で誰が恩恵を受けるのか?」今こそ、鉄道の視点から、現代日本を問う。

感想・レビュー・書評

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  • 東日本大震災における各ローカル線とJR東日本の対応について、また今後の鉄道の役割についてまとめた本。全体的にJRに対して否定的なスタンスであるのは割り引く必要があるものの、鉄道を単にA地点からB地点まで乗客を輸送する手段と定義することなく、地域における多面的役割を担っているという言説は示唆に富む。

    この本のなかに挙げられていた、盛岡~宮古~釜石を結ぶJR山田線のポテンシャルについては頷ける。イーハトーブの里として風光明媚な塩の道=宮古街道から三陸海岸に抜ける路線は、スローな展望列車などで巡るには非常に魅力的である。首都圏から盛岡駅までは2時間半でアクセスできるので、宮沢賢治や柳田国男の物語と併せて巡る旅を企画すればウケるように思う。

    一方でJR東日本という巨大企業にとっては、ドル箱である首都圏の鉄道での収益力を強化していくことが事業者としての利益に適い、駅ナカビジネスを推進したり首都圏での私鉄各線との競争に勝つことが至上命題となっている。黒字企業のJR東日本は山田線のような赤字路線を復旧させるのにも自主財源で行なう必要があり、赤字路線を復活させるのは及び腰であるという。

    地方都市の駅前商店街の衰退などという問題と、JR民営化は密接に関係している。民間事業者として赤字のローカル線の本数を減らしていかざるを得なくなり、実際に北海道ではかなりの鉄道が廃止されている。また、新幹線が各地へと延伸することで、並行して走る在来線は第3セクターとなって、日常的に利用する地元客にとって割高な切符を購入せざるを得ない状況となっている。

    国土の均衡な発展を唱えて日本中の鉄道網を整備する計画をつくった1970年代から約40年、現実に整備が進められた結果、交通インフラでは大きな格差が生まれている。計画ありきでこのまま効率化を進めていってよいのか、東日本大震災という自然災害を契機に、再び考え直すべきタイミングに来ているのだと思う。

  • 著者の以前からの論の再展開。JRへの価値の多様性の是認、利用客への一元的価値の押し付けの否認。

  • 4月頭に、題名に惹かれて買った一冊。
    ようやく読了。

    正直、「鉄道好きの戯言」っていう印象。
    すでにあるデータを並べるのはいいけど、だから何なんだっていう内容が多かったように思う。

    公共性が高い鉄道事業者も、一民間企業。
    「経営」っていう目線が一切感じられない本でした。


    こういう見方もあるんだなぁ、ってことである意味勉強にはなったかも?

  •  タイトルにひかれて読んだが,ダメだった。最初は震災からの鉄道復旧の話だけど,後半になるにつれて震災とほぼ関係ない新幹線やリニアの批判になるとか,説得力のある根拠を示さずにローカル線を持ち上げ存続を訴えるとか。
     著者は日本政治思想史が専門の教授のようだが,鉄道は趣味?三陸鉄道支援のために震災からひと月後に乗りに行き,1000枚,60万円の切符を購入して配りまくっているとか。熱意は感じられるが,現実的で冷静な考察が全くできていないと感じた。JR東日本やJR東海が嫌いらしい。
     というか,根本的に,権力とか体制が嫌いなんじゃないかな。著者は。「反原発」が盛り上がっているのに「反リニア」が盛り上がっていないと嘆いてる。鉄道関係の本をいろいろと書いているようだけど,専門の政治思想史では見るべき著作があるのだろうか?

  • 全体を通じて都会の論理で事業を行うJR東日本、JR東海の批判本といった印象。3.11をきっかけに話は始まるものの話はあっちへこっちへ。中国の鉄道事故から満州鉄道、古き良き時代の鉄道旅行まで作者の熱い想いを雑多に詰め込んだ感じ。インタビューをもとにしているので読みやすく、東北の鉄道再興を考えるきっかけには良いのかも?

  • 「震災と鉄道」というタイトルからもっと震災との関連を深めて書くのかと期待していたのですが、そこは期待はずれ。ただ、3.11時の関東圏でのJR東日本の動きなどについての記載はそれなりにあり「震災とJR東日本」的な面は若干ある一冊。

  • そんなに震災のはなしはなかった。JR東の話はたくさん。

  • 東日本大震災後の鉄道の復旧について、JRと民鉄の温度差や鉄道のもつ意義などの視点で論考していく、と思いきや、後半は高速化と単一化していく鉄道政策の批判になってしまった。それはそれで大切な論考だけれども、それは別の場所で論じてほしかった。

    この本が出されたのは、震災の年。
    三陸鉄道は全線で運転再開を果たした一方で、JRの路線は復旧に格差があり、この論考で恐れている人口の流出が見られている。
    それだけに、その点に集中して掘り下げきらなかったのは残念。

  • JR東日本が東北地方の被災したローカル線より、収益だけを考えて新幹線復旧を優先したとしたら悲しい。国鉄時代の採算を度外視したかのような経営から分割民営化して赤字路線を切り捨てる経営にシフトした極端さは、実際に被災地でレールが外されたままの鉄道敷を目の当たりにして実感した。逆にJR貨物が日本海側を大きく迂回して被災地に燃料などを大量輸送したことに感動。鉄道ファンとして、鉄道には大量輸送が可能なことなどの物的な役割、沿線住民にとっての精神的役割を果たしてほしいと切に願う。

  • 私の母の実家は岩手県山田町にあるので、山田線は母の実家を訪ねるときは必ず利用した。だから、山田線についての話はありがたいとは思った。
    でも、「震災と鉄道」というタイトルなのに、後半は「震災」からは遠く離れてしまう。震災や他の災害の対策についての提案もない。また、「昔は良かった、今はダメ」という話ばかり。国鉄からJRに変わったことでたくさんメリットも生まれたはずだし、筆者もそれを享受しているはずであるのに、それは無視。効率化・利便性重視の大企業は悪、という価値観みたいだけど、効率化や利便性を望んでいるのは、ほかならぬ大多数の利用者の方ではないのか?
    こういう、自分も時代の恩恵を受けているのにそれはあえて無視して、時代の流れを批判することこそが知識人、みたいに考えているこの世代の人たち、ホント苦手だわ・・・という読後感しかない。

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著者プロフィール

1962年生まれ。早稻田大学政治経済学部卒業,東京大学大学院博士課程中退。放送大学教授,明治学院大学名誉教授。専攻は日本政治思想史。98年『「民都」大阪対「帝都」東京──思想としての関西私鉄』(講談社選書メチエ)でサントリー学芸賞、2001年『大正天皇』(朝日選書)で毎日出版文化賞、08年『滝山コミューン一九七四』(講談社)で講談社ノンフィクション賞、『昭和天皇』(岩波新書)で司馬遼太郎賞を受賞。他の著書に『皇后考』(講談社学術文庫)、『平成の終焉』(岩波新書)などがある。

「2023年 『地形の思想史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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