フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人 (朝日新書)

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022735393

作品紹介・あらすじ

【文学/その他】今、日本人は食を巡って大きく二つに分かれている。食の安全のためにお金を使うことを厭わない人々と、安全よりも安さと量を重視する人々。食べ物を通して歴史や社会を読み解きながら、日本人の新たな政治意識を導き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 私はフード右翼もフード左翼も体験した底辺の農村民ですが、内側から見て、啓発される情報よりも、的外れな内容・違和感を覚える点が満載でした。

    「安全志向のフード左翼は富裕層」の主張ですが、いかにも自然派といったシケた風貌の、決して少数派ではない底辺っぽいフード左翼の年収や生活は何故かスルーされています(彼らと出会っているにも関わらず)。
    有機農法の課題点も真剣に考えるべき問題ですが、取材が超適当。有機以外の環境持続可能な農法はノータッチ。有機堆肥への分析も大雑把。
    成果を上げたと書かれた遺伝子組み換えも、その後、強力な害虫が発生して収穫減といった事態を招いています。
    先進国の食糧廃棄に対する提起がないのも普通に謎です。

    何より、全体を通して、思想の左右の奥・身体に根付いている「健康」「郷土」「家庭」の視点が希薄でした。
    人々の「健康志向」は記しても、食を通じての「健康体験」については、ほぼ無視。
    昔ながらの郷土料理、各地の気候が培う農作物や保存食も皆無。
    食の基本といわれる家庭に対する考察も薄い。家庭菜園や、料理する楽しみについての記述もありません。

    三大欲のひとつ「食」を扱うにあたって、思考・味覚よりもさらに本能的な領域である身体への言及がほぼないことは、残念というより不安になります。
    「観察力」があっても、本能に基づいた「読解力」がなければ、血の通った人間の思想なんか見抜けません。
    個人的には、「フード右翼」「フード左翼」の生活を、それぞれ中途半端ではなくガッツリ1〜2ヶ月ほど続け、双方の食経験を平等に体感したのち、客観的な視点から分析して頂きたかったです。

  • 今、日本人は食をめぐって大きく二つに分かれている。自然志向、健康志向の「地産地消」「スローフード」的な食を好む人々を“フード左翼”、コンビニ食や冷凍食品、ファストフードといった「グローバル」「ジャンクフード」といった食を好む人々を“フード右翼”と置き、日本人の食をマッピングすることで新しい社会や階層、政治思想を明らかにする。

    面白いと感じたのは、どんな食べ物を好み、毎日何を選んで食べているかという食べ物の志向にその人の主義思想が表れるという点、そして食べる物によってその人を左翼・右翼に分けてしまおうとする点である。本書ではフード左翼に重きを置いて解説されていた。私自身は食を通した健康に興味があり、東京のベジフードフェスタや青山オーガニック通り等の実例からベジタリアンやビーガン、マクロビオティックといったキーワードを改めて整理できたり、有機農業のメリット・デメリット、遺伝子組み換え食品は本当に危険なのかといったことまで考えることができて、とても勉強になった。

    政治思想と言うと少し大げさかもしれないが、毎日何を選んで食べるのかというのは、選挙で1票を投じるのと同じ意味や価値を持つ行動であるということに気付かされた。現代は多様な食で溢れており、人々は単なる好き嫌いだけではなく、仕事や居住場所といったライフスタイルや環境保護、健康志向といった主義思想で自分が食べるものを選ぶことができる。日々欠かすことのできない食に、その人自身が表れているといっても過言ではないだろう。

  • どちらかと言えば「フード左翼」を中心とした解説であるが、食をめぐるポリティクスを解き明かす本書は、現在の社会運動、特に「反原発」運動やニセ科学を考える上でも非常に有用な視座を与えてくれるだろう。

    自然食やマクロビオティックに代表されるような「フード左翼」的な試みが、消費社会の動きの中で発展し、いろいろとちぐはぐな政治思想を生み出してしまったという点は、現在の「ノンベクレル」関係の動きと切り離すことはできないだろう。感情保守的(!)な新左翼運動と結びついた社会運動を見直す上で、本書は極めて優れた試みと言える。

  • 何を食べるかは、その人の生き方を表すのね。単に味の好みやお金の掛け方だけじゃない、思想が垣間見えてくる、という話。

    食品の安全性がいちばんな人もいるし、安さや量が大事な人もいる。食は最も個人的なことなんだから、どんな好みでもいいだけれど、こだわりが一定ラインを超えて「信仰」になってくると、どうも苦手。「これこそ正しい」を布教されるとうんざりだ。

    あと、読んでわかったのは、食について、私たちが得られる情報は、科学的根拠よりもイメージが優先されてることも多いのかもしれないこと。遺伝子組み換え植物は本当に悪いのか?有機農法は地球に良いのか?普通よりも多くの面積を使う有機農法は、より自然破壊につながるということも紹介されていたり。今まで持っていたイメージが変わるものもあった。何がいいのか、簡単には判断できないものだな。

  • 食において、質を重視する人を左翼、量を重視する人を右翼とした政治論。
    面白い試みではあるけれど、ひとつ重要な点が抜け落ちている。
    それはフード左翼になりたくても経済的な事情から右翼的な立場に立たざるを得ない人がたくさんいるということ。

    食の安全は金持ちのためにあるということだね。

  • 左翼の対象としてきたものの流れがつかめておもしろかった。政治闘争から自然派農業への流れはなんとなく理解していたが、なるほどねーと納得させられるものがあった。

    自分の周りを見渡しても確かにその傾向はあるかもと実感。

    有機栽培はほんとうにサステイナブルか?というポイントも興味深い。もはや態度が科学を凌駕してしまう左翼のジレンマを強く感じた。

  • 速水健朗『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』(朝日新書、2013年)は食生活の面から人々の政治意識を分析する書籍です。本書は日本社会がフード左翼とフード右翼に分断されていると主張します。
    フード左翼は有機野菜、地産地消、ベジタリアン、ビーガン、マクロビ、ローフーディズムなど自然派の食を愛好します。フード右翼はコンビニ弁当、ファーストフード、メガ盛り、B級グルメなどコスパを重視します。私の消費行動はフード右翼的です。
    フード左翼とフード右翼という視点は一般的な左翼と右翼のイメージを逆転させる要素があります。貧困問題は左翼の方が熱心というイメージがあります。しかし、フード右翼はコスパ重視の消費行動によって、安くて美味しい食を支持します。閉鎖的な業界の横並び慣行を打ち破る革新的なビジネスの追い風になります。これは食の民主化、貧困の抑制につながります。逆にフード左翼は富裕層に偏り、経済的余裕のある人の道楽という側面があります。
    また、右翼には排外主義・国粋主義的なイメージがあります。ところが、フード右翼はグローバルなファーストフードを受け入れます。逆にフード左翼の方が地産地消や国産農作物を重視します。それどころかフード左翼は福島第一原発事故後に福島産農産物を忌避するどころか排撃するなどヘイトとも親和性があります。
    フード左翼という切り口から現実の左翼の矛盾が見えてきます。困っている人々のニーズに応えられない独善性です。食費を節約している人々に健康食の購入を勧めるような頓珍漢になります。これが若年層や現役世代のリベラル離れやリベラル嫌悪の要因でしょう。
    現実に革新政党や労働組合が昭和の頃からの労働者搾取論を唱えても労働者に刺さりませんが、ゼロ年代前半にインターネット発祥のブラック企業批判に乗っかったところ支持されました。しかし、ゼロ年代後半に安倍政権が働き方改革を打ち出し、お株を奪われた状態です。これは左翼の考える点になります。観念的な昭和の労働者搾取論に逃げず(自分達は唯物論であり、観念論ではないという的外れの反論をしてくるでしょうが)、ブラック企業など現役世代の抱える問題への認識を深める必要があるでしょう。
    一方でフード右翼はどうでしょうか。グローバルなファーストフード支持が右翼になることが理解しにくいところです。TPPや移民労働者の議論を思い出しましょう。
    ここには左翼のレンズを通した右翼認識が影響しているかもしれません。対米従属の「雇われ右翼」という認識です。戦後の左翼の最大の関心事は日米安保でした。それ故に左翼視点では自分達に対峙する右翼は日米安保推進の対米従属になるでしょう。しかし、日本には「雇われ右翼」しかいないと主張するならば別として、右翼そのものの認識とは異なります。やはり右翼は国産農作物重視、チェーン店よりも個人経営店重視の傾向があるのではないでしょうか。
    それを踏まえると、本書のフード右翼は右翼よりも、合理主義的な消費者と感じます。本書はフード右翼を食に無自覚な人々と捉えますが、値段などで価値を決めず、自分の食べたいものを主体的に選択する消費者です。本来のフード右翼とフード左翼は本書のフード左翼になり、右翼も左翼も似た者同士という結論がすっきりします。
    日本では右翼は「滅私奉公」、左翼は「一人は皆のために」とどちらも全体主義的傾向があります。これに対してコスパを重視し、食べたいものを食べる本書のフード右翼は経済合理性を重視する個人主義の消費者です。対立軸は全体主義と個人主義になるのではないでしょうか。
    このように本書の対立軸には疑問がありますが、消費行動を投票行動のような選択の場と捉える視点は有用です。消費が消費者の主体的選択であることを認識し、責任を持った消費を進めます。

  • 食べ物を選べるのは、懐に余裕があり、身体を大事にする気持ちがあって出来ること。

    実家の母は生協に加入していたが、確かに政治的な偏りがあったなあ。

  • 食の安全、無添加の難しさについて改めて考えた。出来れば身体にいいもの食べたい!身体にいいことしたい!お金のある人だけの特権なのか。
    給食に全てお米を使用する三条の試み、子供達も食について考えられて画期的だな〜。牛乳撤廃はどうかなと思うけど…。

  • 食左と食右。政治思想で食の嗜好を切り分けるという着想が面白い。確かにファストフードやメガ盛りといったジャンク食を好む人間は,政治的にも右を志向する気がするし,オーガニック,マクロビ,有機栽培,ベジタリアンなどは意識の高い左側に位置するだろう。遺伝子組み換えハンターイなんかも思いっきり左寄りだ。
    まぁ実のところはそこまで深いものでもなくて,知らず知らずに健康資本主義に絡めとられていたりする。でももっとまずいのは,皆が食左を追究する社会は到底持続可能でないということ。無農薬もGM・添加物の忌避も食の効率を落としてしまい,それでは世界の人口を養うことができない。著者も食右から食左に転向した口らしいけど,結局のところ食左は一部のアッパークラスの趣味とかファッションに留まらざるを得ないんだろう。自分は基本ノンポリだけど,どちらかといったらマジョリティの食右の方かな。

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著者プロフィール

速水健朗 Kenro Hayamizu1973年生まれ。食や政治から都市にジャニーズなど手広く論じる物書き。たまにラジオやテレビにも出演。「団地団」「福島第一原発観光化計画」などでも活動中。著書に『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』(朝日新書)、『1995年』(ちくま新書)、『都市と消費とディズニーの夢』(角川Oneテーマ21)、『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)などがある。

「2014年 『すべてのニュースは賞味期限切れである』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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