イスラム国の正体 (朝日新書)

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.52
  • (8)
  • (28)
  • (28)
  • (7)
  • (0)
本棚登録 : 250
レビュー : 39
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022735966

作品紹介・あらすじ

【社会科学/民俗風習】新たなる同時テロの火種か、単なるテロ集団か──世界中の若者を引きつける武装組織「イスラム国」の現状・未来とは? 首切り動画や奴隷売買など、謎に包まれた組織を、元シリア大使として現地にネットワークを持つ著者が解説する。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • ◆アラブ諸国赴任歴の長い元外交官が、イラク・シリアで猛威を振るったIslamic State(IS)につき、その人・物・金・思想や、歴史的淵源にも遡り解説。注目すべきはイスラム教義の多様性を踏まえたISの支配原理◆

    2015年刊行。
    著者は元外務省在シリア特命全権大使(エジプト日本大使館一等書記官、イラク日本大使館参事官他歴任)。

     過日のニューズウィーク日本版で、シリアのIslamic State(IS/イスラム国)はほぼ掃討されたが、アサド独裁には戻らず、クルド、トルコ支援の反政府勢力、アメリカ・イスラエル支援の反政府勢力、ロシア後援のアサド政権、テロリストに逆戻りのIS残党等が、夫々のパトロンの影響下で混乱状態を続けていくとの観測記事が掲載されていた。
     そこで、この前提たるIS支配の内実。さらに残党テロ集団となるISの本義。これらを確認するために本書を紐解く。

     外務省参事官経験者らしい、地に足を付けた、かつ明快な叙述である。まるでテーマを区分けした報告書と見紛うばかりの叙述が展開されるあたりが、明快と思う所以だ。

     分析テーマとして、➀組織の変遷概要、➁金(資金)、➂人(構成員)、➃武器、➄領土=占領地支配の概要、➅依拠する思想、➆組織としての史的淵源(現代史)、➇国際情勢に絡めた要因論と未来像を列挙する。

     この点、②金の面では、税・寄付(異教徒への人頭税。また保有資産に即応した課税基準あり)。強盗(遺跡盗掘)、身代金目的誘拐。パトロンの支援や石油売却もあるとのこと。が、これは巷で言われているほど多くはないようだ。

     次に③人=構成員。外国人が多く、時には外国人でも要職につける。
     これは国際派をアピールする狙い(石油専門家をリクルートする等、テクノクラートに不足を来している可能性も)だという。
     また、イラク戦争後に四散したイラクの旧フセイン政権の軍・バース党の残党(世俗的)とともに、イスラム原理主義者との同床も見受けられるらしい(多分、異夢なんだろうなとは思う)。

     ④戦闘に必要な武器。
     これは、政府軍シリア各基地の制圧による敵武器(中露製多し)の強奪。あとは死の商人から購入とのこと(地獄の沙汰も金次第、を地で行く感じである)。

     ⑥と⑦に関連するISの支配原理。
     極端かつ少数派的解釈の「シャリーヤ」が基礎にある。
     またその根底には、一つにはⅰ)タイミーヤ理論(13Cの対イスラム改宗後のモンゴル支配への武力闘争の正当化理論)。なお、この提唱者はアハマド・イヴン・タイミーヤ。
     もう一つの根底としては、ⅱ)戦後のイスラム圏反政府武力闘争の理論的支柱「ジャーヒリーヤ社会論」(提唱者はサイイド・クトゥブ)。エジプトの世俗的指導者ナセル独裁政権に対するカウンターであり、そして、究極には正統カリフ時代を是とし、その復活を旗印に据えつつ、いわゆるサイクス・ピコ協定の全面的否定を狙う立場だという。
     このあたりが、本書の特異な叙述で、買いの部分と言えそうだ。

     また、組織変遷に関しては、合従連衡していたアルカイダとは現在は別になっている。そして、シリア内の反政府勢力とも交戦状態(だった)とのこと。

     21C湾岸諸国指導部のイスラエル敵視から、イラン敵視への転換は明快とのこと。
     このあたりが、イラン地域覇権主義へのカウンターと絡んでいるし、戦後以来のイスラエル敵視政策の実効性欠如という観点も見え隠れするところだ。
     一方で、本書にあるトルコの思惑については正鵠を射ている。
     ところが、ロシアの叙述がないのが玉にキズ。アサド政権の国際的孤立をきっちり把握しておきながら、何故に?…。とは思う部分だ。

  • 日本人があまり知りえないイスラム国について記述した一冊。

    イスラム国やその周辺国の事情について知ることができた。

  • イスラム国の案内書.歴史とか成り立ち,現状,これからの展望など分かりやすく書かれている.だけど,書かれてから3年近く経ち,テロはますます盛んになっている.一筋縄ではいかないアラブ民族,予測も何もあったもんじゃない.

  • アラブ社会の解説から目まぐるしく変動するイスラム過激派の解説.

  • (2017.04.04読了)(2017.01.14購入)(2015.02.10・第2刷)

    【目次】
    はじめに
    第1章 急速に勢力を拡大する「イスラム国」
    第2章 イスラム国の正体
    第3章 なぜ、欧米人の首を切り落とすのか?
    第4章 なぜ、世界中の若者たちを惹きつけるのか?
    第5章 際限なく続くイスラム過激派の系譜
    第6章 同時多発テロは再び起こるのか
    あとがき

    ☆関連図書(既読)
    「イスラム過激原理主義」藤原和彦著、中公新書、2001.10.25
    「イスラーム原理主義の「道しるべ」」サイイド・クトゥブ著・岡島稔訳、第三書館、2008.08.15
    「原理主義の潮流」横田貴之著、山川出版社、2009.09.30
    「現地発エジプト革命」川上泰徳著、岩波ブックレット、2011.05.10
    「革命と独裁のアラブ」佐々木良昭著、ダイヤモンド社、2011.07.14
    「中東民衆革命の真実-エジプト現地レポート-」田原牧著、集英社新書、2011.07.20
    「レバノン混迷のモザイク国家」安武塔馬著、長崎出版、2011.07.20
    「アラブ革命の衝撃」臼杵陽著、青土社、2011.09.09
    「グローバル化とイスラム」八木久美子著、世界思想社、2011.09.30
    「アラブの春は終わらない」タハール・ベン=ジェルーン著・齋藤可津子訳、河出書房新社、2011.12.30
    「ルポ難民追跡」坂口裕彦著、岩波新書、2016.10.20
    ☆酒井啓子さんの本(既読)
    「イラクとアメリカ」酒井啓子著、岩波新書、2002.08.20
    「イラク 戦争と占領」酒井啓子著、岩波新書、2004.01.20
    「イラクは食べる」酒井啓子著、岩波新書、2008.04.22
    「〈中東〉の考え方」酒井啓子著、講談社現代新書、2010.05.20
    「〈アラブ大変動〉を読む」酒井啓子編、東京外国語大学出版会、2011.08.10
    「中東から世界が見える」酒井啓子著、岩波ジュニア新書、2014.03.20
    (「BOOK」データベースより)amazon
    イラク、シリアの混乱に乗じて2014年から台頭したイスラム国。首切り、奴隷市、虐殺などのショッキングな映像のほか、SNSを駆使した巧妙なPR戦術で、世界中の若者が惹きつけられ、参入している。謎に包まれたイスラム過激派に迫る。

  • 2015年1月に出版された、イスラム国を巡る中東情勢の解説書。本書によれば、イスラム国はいずれ制圧されるが、その命脈を完全に断つことは出来ないようだ。2年経っているが、現在の状況はどうなんだろう。

  • ほんの1年前に出版された本だけど、もう100円コーナーに並んでいた。
    こういう本は、注目が集まったときにサッと売ってしまおうと言う魂胆で書かれているから、旬が過ぎたら見向きもされない。
    著者は、元外交官で中東での駐在経験も長いので、現地の空気を良く知っている。
    ほんの表面を撫でたような内容だったけれど、端端に知識の深さを感じる。
    この本の大部分は面白くない。
    しかし、最後の部分が俄然面白い。
    元外交官である以上、強く自分の意見を言うことを控えているが、それを少し出しているのが最後部。

    イスラム国は自らイスラムを名乗っているからといって、イスラムの原理に基づいていると考えるのは間違い。

    彼らを理解しようとしてイスラム教からアプローチしては、騙される。

    イスラム国に限らず、イスラムを名乗るテロは総てイスラム教とは関係ない。

    イスラム教が出現した7世紀前半からさらに過去にさかのぼらなければ、理解できない。

    即ち彼らは遊牧民であり、砂漠の民であり、ベドウィンであり、アラブ人だと理解すること。

    彼らは、宗教以前に部族社会であること。

    彼らに絶対理解できないこと、それは「国境」という概念である。

    国境という概念がなければ、「国家」という概念を持てるはずがない。

    これがアラブ問題を考える鍵であることが判った。

    まあ、この本によって気付かされたわけじゃないけど。

  • この10年間の激動・変化の背景が、大掴みできる。宗教心とは別。

  • イスラム国に対して、湧き起こる疑問に次々と答えてくれる良書だった。平和を守ることの重要さ,難しさを改めて考えさせられた。

  • 外交のバックグラウンドから、グローバルなパワーゲームの中で事象を読み解いている部分は参考になる。
    組織をつぶすとか現地の貧困をなくすといった次元のほかに、周辺中東諸国の統治がどうあるか、大国がどう動くかといったことが大きくかかわる問題。

全39件中 1 - 10件を表示

イスラム国の正体 (朝日新書)のその他の作品

イスラム国の正体 (朝日新書) オンデマンド (ペーパーバック) イスラム国の正体 (朝日新書) 国枝昌樹

国枝昌樹の作品

イスラム国の正体 (朝日新書)を本棚に登録しているひと

ツイートする