日本水没 (朝日新書)

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  • 朝日新聞出版
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レビュー : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784022736710

作品紹介・あらすじ

【自然科学/自然科学総記】災害研究の第一人者が緊急警告! 止まらぬ地球温暖化で殺人級大雨が日本を壊滅させる。豪雨のメカニズムと日本の深刻な水害リスクを解き、治水の歴史・現状と今後の対策を提示。「熊本地震」の原因や今後の課題についても考察。

感想・レビュー・書評

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  •  ようするに、来るべき災害に備えるべき。
     その一言に尽きる。

  • 内容が豊富。
    読みごたえあり。

  • ■鬼怒川水害で常総市の約3分の1,約40平方kmが水没したにもかかわらず犠牲者が3名に留まったのはひとえに堤防の高さが4メートルと低かったから。堤防が低いゆえに氾濫速度は遅く,氾濫水深も浅かった。
    ■雨が降るメカニズムは単純である。空気には飽和水蒸気圧という値があり,この値以上,水蒸気の形で水分を含むことができない。気温が下がるとこの飽和水蒸気圧も小さくなり,水蒸気が液体,即ち雨に変わる。これが大雨になるかは温かくて充分湿気を含んだ空気がどれくらい長期にわたって一定の方向から吹き続けるかどうかによる。
    ■大雨警報の発令基準は地域によって異なる。雨の降り方や水害の起こり方には地域性があるから。長崎市の場合には1時間に50mm,3時間に100mm,24時間に150mm以上の雨が予想されるときに発令される。長崎市に比べて平年降水量の少ない広島市ではそれぞれ50,80,120mm,札幌市では40mm,60mm,100mmとなる。
    ■警報の発令は知っていたのに漫然として何の注意も払わないという人がますます増えている。リスクコミュニケーションではこれを「知識レベルと行動レベルの不一致」と呼ぶ。万一浸水しているところに車で差し掛かったら浅いと考えて突っ込んではいけない。30cm以上の浸水深では乗用車は簡単に浮いてしまう。道路上を水が流れていたら流れと直角方向に逃げることが基本。
    ■暖かい空気と冷たい空気の塊が接すると境界面で 擾乱(じゅうらん・大気が乱れる現象)が起こり積乱雲が連続的に発生し,局所的に大雨が降る。
    ■地球温暖化の進行とともに台風やハリケーン,サイクロンなどは強大化する傾向にあり,一方発生するは減少すると言われている。
    ・これらは海面水温が27℃超える海域で発生するがあまりにも水蒸気が多いと,むしろ発生が抑制されるため
    ■台湾の面積は我が国の約10分の1であるにもかかわらず,3000m以上の山が286座ある。これは日本の21座に比べて10倍以上で我が国以上に国土が険しいといえる。
    ■すべての川筋から構成されるシステムを「水系」と呼ぶ。同じ水系に属する川の水は河口部で全て交じり合うという特徴がある。
    ・水系は我が国では便宜的に2つに分類されている。
    ①一級水系:国土交通大臣が直轄管理しており全国に109水系ある。これに14053河川が含まれる。
    ②二級水系:都道府県知事が管理し,全国に2711水系あり,7078河川ある。
    ・これらの河川ではそれぞれ何年に一度の大雨で氾濫するかの基準を設けており,これを「再現期間」と呼ぶ(例えば利根川の下流では200年)
    ・我が国の河川は最長の再現期間は200年に設定されているが,オランダの高塩堤防は高潮で決壊すると非常に大きな被害が出るため1万年が採用されている
    ■我が国の防災の歴史をみれば致命的な災害を経験しない限り過去からの考え方を変えない国であることは明らか。また法律の発案段階で画期的な取り組みを含んでいても関係省庁の調整の間に骨抜きにされる。2000年に成立した土砂災害防止法がその典型例。
    ■地下水は水温が安定し水質も良好なものが多く昭和初期から3大都市圏では第二次産業によって大量に使われてきた。無料に近い使用料もそれを助長した。東京は特に沈下が激しいが,それは地下水にメタンガスが含まれており,メタンガスを工業用に使うため,膨大な地下水が汲み上げられてきたためである。その結果,昭和初期から1985年前後までの約50年間で東京では最大4.5m,大阪では2.8mも累積沈下した地域が出現した。これらの地域は大河川が運んできた川砂や粘土が堆積した沖積平野上に位置している。このような土地では大規模に地下水を汲み上げると地下水位が下がり,粘土の中の水分が上からの圧力を受けて抜け,粘土の体積が減少し沈下する。隙間が無くなった状態のため後世になって地下水位が回復しても再び膨らむことはない。即ち,一度沈下した地盤は元の高さに戻らない。土質力学ではこの現象を「圧密沈下」という。新潟平野や筑後平野でも地盤沈下が起こっているがすべて地下水の汲み上げに由来する。
    ■先進国の大都市の多くは川が運んできた土砂が堆積してできた平野や盆地に位置しているため,川が溢れれば都市は浸水し,酷い場合は水没する。さらに海に面している地域は高潮や津波でも水没する危険がある。その典型例は大阪。
    ■我が国には世界の大都市と異なる固有の都市構造がある。それは東京23区,名古屋市,大阪市にもみられる地下空間の高度利用である。さらに50年以上にわたる野放図な地下水くみ上げの結果,いずれ広範囲に「海抜ゼロメートル地帯」が広がりそこに約400万人が生活している。
    ■東京都心が広範囲に水没すると千人単位の死者が発生することは確実。水没原因としては,利根川と荒川の氾濫や東京湾に来襲する高潮と津波が考えられる。
    ■我が国の巨大災害の四天王は歴史的に地震,津波,高潮,洪水であるが東京23区を中心とした地域はこれらの4点セットが揃っている。
    ・4点セットが揃った都市は他に横浜,名古屋,大阪があるが東京の被害規模が断然トップで世界の大都市を含めても断トツ
    ・高知市も4点セットが揃っており都市規模が小さいため被害「率」では断然大きくなる
    ■利根川は我が国で最も人工的な改変が加えられた河川であり治水だけでなく舟運や灌漑などの多目的な改修であった。しかし当時の技術では治水と利水,舟運を両立させることは不可能だった。治水は水面を下げる努力が,利水と灌漑は水面を上げる努力が必要だったからである。
    ■徳川家康によって進められた利根川の東遷工事により関宿から加工までの流路長は約120kmとなり東京湾に直流していた時代の約60kmの2倍になった。これにより河床勾配は約2分の1に小さくなったため洪水により下流に流れ下る水の深さを東遷工事前と変わらないようにするには川幅をおよそ1.4倍に広げるか,堤防の高さを1.4倍に高くする必要があった。江戸時代にはそのような科学的知識がないため東遷事業により千葉県の印旛沼付近を中心に下流でも洪水が頻発するようになった。
    ■ドイツのハンブルクでは新都市域で建物を創る場合,個人住宅,マンション,商業ビルにかかわらず浸水を前提とした街づくりをしている。
    ■建設省が洪水ハザードマップを公表するのに完成してから7年を要した。理由は不動産業界が猛反対するのではないかという心配であった。ところが公開しても何の問題も起こらなかった。不動産取引では洪水危険性などは全く考慮外というのが実態だったからである。これは現在もほぼ同様。我が国では住宅選びにおいて災害は完全に無視状態。
    ■南海トラフ巨大地震がマグニチュード9で発生した場合,大阪には3.8mの「津波が来襲すると想定されている。大阪の計画高潮位は3mとして防潮堤が建設されているからその差80cmが防潮堤などを乗り越えて市街地に入ると考えてよい。
    ■我が国で起こる大きな高潮は台風によってもたらされる。台風の中心部付近の「吸い上げ」と暴風による「吹き寄せ」の二つの効果によって海面は上昇する。
    ・台風の中心気圧が940ヘクトパスカルとすれば1気圧即ち1013ヘクトパスカルとの差の72ヘクトパスカル分海面が上昇
    ・1ヘクトパスカル低下すると約1cm上昇するから70cmは確実に上昇
    ・吹き寄せは海面近くの風速の2乗に比例し,かつ海が浅くなれば増幅するから間違いなく2~3mは海面が上昇すると考えてよい
    ■1959年の伊勢湾台風による高潮でなぜ5098人もの死者が出たのか。最大の理由は住民が洪水氾濫と高潮氾濫の違いを知らなかったからと思われる。住民は洪水と高潮の氾濫の違いを知らず,どちらも同じと錯覚していた。
    ・洪水,即ち川を流れる水量は有限で堤防が決壊した時点以降は河川の水面が下がるから洪水の破壊力は時間の経過とともに衰える一方
    ・高潮は海の水であるから堤防が決壊しても台風が通過しない限り海面は下がらず勢いがなくなる訳でもなく下手をすると一層高く海面が上がり風も勢いを増しかねない
    ■マグニチュード9の南海トラフ巨大地震が起こったとき,大阪市内では11万9千人が犠牲になることが想定されるが,この条件は東日本大震災と同じく30%の住民が避難しないという前提である。
    ■最近では洪水氾濫の危険があり避難指示や避難勧告が発令されても対象地域の住民の1%程度しか避難しないことが常態化している。こういう状況では逃げ遅れて避難できず家ごと流されて被災する住民が多数に上ることが懸念され新たな課題となっている。
    ■シェイクアウトは2008年10月にカリフォルニア州で始まった地震防災訓練のこと。シェイクアウトとは「地震を吹き飛ばせ」といった意味の造語。
    ■東京では国全体にかかわるほぼすべての重要事項の意思決定を行っていることから,気を付けなければいけないことは,人流,物流,情報など見えない「フローの被害」である。
    ・日本銀行やメガバンクなど5つのネットワークで取引される金融量は平均一日当たり約151兆円,約640万件(2014年実績)
    ・山手線,東京メトロ,都営地下鉄での一日当たり乗降客数は,それぞれ約250万人,約650万人及び約250万人
    ・首都圏で必要な食料品は一日数万トン
    ・首都直下地震は世界初の巨大フロー災害となる可能性がある
    ■自治体などから避難勧告や避難指示が発令された時に対象地域住民のうち避難所に避難する住民が近年極端に少なくなっている。
    ・2000年の東海豪雨災害に際しては愛知県では各市町村から合計約65万人の住民に避難勧告が発令されたが,実際に避難した住民は約6万人に過ぎず避難率は9%
    ・2006年11月と2007年1月に北海道千島沖で発生した地震による津波警報下での避難指示あるいは勧告では全社で13.6%,後者で8.7%の住民しか非難しなかった
    ・2010年2月のチリ沖地震津波では避難勧告・指示が約168万人に発令されたにもかかわらず3.8%の6.4万人が避難したに過ぎなかった
    ・2011年台風12号の場合,岡山市民21万4千に避難指示・勧告が発表されたが,避難したのは0.7%の1700人だった
    ・2013年9月に台風18号に伴う特別警報下で賀茂川と桂川の周辺の京都市民約30万人に避難指示・勧告が発表されたが避難したのは1%の約3000人だった
    ■低避難率の原因
    ①大雨,洪水,津波,高潮などの予報精度が必ずしも高くない
    ②避難情報を発令する市町村長の判断レベルが一定ではない
    ③災害未経験住民が避難情報を軽視する
    ④高齢者が避難のタイミングを失いやすい
    ・避難空振りの理由を殆どの場合自治体が説明しないことも低避難率の原因だろう
    ■津波時の低避難率は2011年東日本大震災における未曽有の人的被害につながった
    ・約40%近い住民が直後に避難しなかったことが分かっている
    ・一度帰宅した人が31%に達している
    ■津波の避難行動の順番
    ①津波に関する包括的な知識を身に着ける
    ②まず,自分が助かるためにはどのように避難すればよいかを訓練で覚える
    ③さらに,家族や近隣の人を助けるために,自分の役割をはっきりと認識して一緒に訓練する。このとき避難行動を困難にする制約条件を話し合いで明らかにし,状況認識を共有して近隣の人との密接で友好的な関係を作る
    ④その間,地域コミュニティにおける様々な活動を通して,住民同士が楽しい経験を共有して親しくなる
    ⑤災害図上訓練(DIG)で,更に実践して非難する場合の問題点を共同作業で見つけて改善策を考える
    ■明治以降の災害被害の多発は決して異常な自然力が多発・強化したからだけではなく,危ない場所に人がたくさん住むようになったからであるが,多くの人は災害は自然現象であると誤解している。
    ・地震・台風の発生は物理現象でハザード(hazard)で無人島では社会的・経済的被害は発生しない
    ・物理現象にとどまらず被害をもたらすことで社会現象になる(disaster)
    ■よく知らない地域で戸建て住宅を購入する場合,どのような情報が必要かという問いに対し,その土地で過去に発生した災害という答えは10位にも入っていなかった。
    ■東日本大震災で被災した津波常襲地帯では津波を知らない他所から移ってきた住民が被害者の30%を超えていた。
    ■2014年の広島市土砂災害の現場で発生した被災地の「八木」という地名は宅地造成前は「八木蛇落地悪谷」(ヤギジャラクジアシダニ)であった。
    ・江戸時代は土石流のことを「蛇抜け」(ジャヌケ)と呼び同地は50年から60ねんごとに起こる土砂災害の常襲地帯であった
    ・常総市の多くの住民は「鬼怒川(鬼が怒るような暴れ川)」や中心地の「水海道」(水に囲まれた土地)という名称に無関心だったに違いない
    ・地名に関心を持てば色々なことが理解できる
    ・漢字と災害をつなげる例として代表的には,「荒田」:天井川,「龍」:土砂災害,「谷」:地震時の液状化,「落合」:川の合流氾濫,「留」:長期湛水など
    ■resilience(レジリエンス)の類似語
    ①flexibility(柔軟性)
    ②adaptability(適応性)
    ③innovation(革新性)
    ④robustness(強靱性)
    ⑤responsiveness(応答性)
    ⑥redundancy(冗長性)
    ⑦resourcefulness(人材のゆとり)
    ⑧rapidity(即応性)
    ・つまり一言で言い表すことが不可能な言葉
    ・筆者はdisaster resilienceを「縮災」と訳した
    ・national resilience は「みんなで協力して進める縮災」であるが,国はこれを「国土強靱化」と訳した
    ・日本政府は national をいつも「国土」と訳してきたが英語で「国土」は national land である
    ■災害の歴史性を忘れてはならない。1853年から3年連続で起こった安政の巨大複合災害がきっかけとなって江戸幕府が倒れ明治維新政府が誕生した。討幕運動という内圧と開国要求という外圧だけで時代が変わるはずはない。
    ・1755年11月1日に発生したリスボン地震と津波そして火災がポルトガルを衰退させ,1789年のフランス革命につながった
    ■今年4月14日の熊本地震後,4月15日に気象庁が行った最初の記者会見で担当課長が言わなければならなかったことは「これまでの地震災害では地震の揺れによる建物の被害に伴う犠牲者のおよそ半数は本震で発生し,残りの半数は余震で起こっています。だから,被害が発生した住宅にいることは危険ですから近づかないようにしてください。」
    ■2014年9月27日の御嶽山の噴火災害でも,噴火前の8月31日から山頂付近の地震活動が始まり,9月11日には活動がピークを迎えていた。なぜ微小地震が起こっているのか科学的に分からなかったから放置していた。原因が判明せずとも取り敢えず警戒レベルを2(火口周辺規制)に上げることは可能だった。

  • 巨大災害を研究テーマとしてマスコミにもよく登場する河田先生の著書。東日本大震災以来、地震と津波のリスクはかなり考慮されるようになってきましたが、過去の発生頻度や被害規模から考えると、3大都市圏への高潮・洪水による被害リスクの方が断然大きいという著者の主張が展開されます。そして何より国難となり得るパターンは、南海トラフ地震と首都直下型地震が起こり、河川堤防などにダメージが残る状況で、温暖化によって強大化した台風や、豪雨による河川氾濫、高潮などが追い打ちをかける複合型災害であるというのは非常に説得力があります。「そんな酷い災害が、立て続けに起こるのか」という素朴な疑問が沸きますが、実は江戸時代末期、3年立て続けに南海地震(海溝型地震)、江戸地震(直下型地震)、江戸高潮災害が起こり、その被害による財政圧迫が江戸幕府が倒れる一因となった事実があるのです。
    日本の3大都市圏が広大な地下街を持つというのは先進国でも実はかなり特殊な特徴で、それらが高潮災害の際には即、水没してしまうリスクを抱えていることなど、著者の長年の研究成果をまとめた1冊となっています。
    私が大学に在学中は河田先生の授業を一度も聞いたことがなかったのですが、これからも災害リスクを広く伝える研究を続けていただきたいです。

  • 災害対策を本質的に重要視しない(重要だといいつつ、抜本的に変えない)スタンスが続くと、国は衰亡するという主張がよくわかる。

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