- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784023308084
作品紹介・あらすじ
リーマンショックからわずか1年半で全米で150紙が消滅。35%の記者が失業するなど、アメリカの新聞社は苦戦を強いられ、倒産、縮小し始めている。民主主義の根幹を支えてきた「新聞」はどうなってしまうのか?ジャーナリズム史に残る事件報道を検証しながら、マスメディア、ネットの未来を予言する。
感想・レビュー・書評
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PRの様々なリレーションズ活動の中で、コアコンピタンスといわれるメディアリレーションズ。そのメディアに関する本。事例や現状はアメリカが舞台になっている。しかし、”アメリカ”や具体的なアメリカの新聞社名の部分を”日本”や日本の新聞社に置き換えてもそうおかしくはない内容だと思う。
著者は、国民が様々な議論をする上でのしっかりとした背景取材ができたニュースを”鉄心のニュース”と表現し、それを維持しているメディアは新聞だけであろうという。そしてその鉄心ニュースは、民主主義の土台となるという。テレビラジオはほとんど娯楽提供メディアもしくは鉄心ニュースから派生する議論提供メディア。市民ジャーナリズムともてはやされるWebも速報性はあるものの、ボランティアに任せた何が起きたがという表面上の情報のみ、もしくは論争の場であって、議論のもとになるような鉄心ニュースはないとする。
しかし、その新聞も鉄心ニュースを維持できなくなっているとしている。理由は鉄心ニュースがコスト(人的・時間的なものからくる金銭的なコスト)がかかってしまう点にある。そのコストを支えていた既存の広告によるが収入源の経営モデルの崩壊により経営的な危機に陥り、その鉄心ニュース提供のためのコストは賄えないばかりか、その新聞存続の為に結果国民の求める娯楽提供的な紙面を増やしているという。更に、ネットの進歩によるゲーム・ケーブルテレビ・SNS・動画サイト等々の人間にとって魅力的な強力な娯楽と競合しながら24hしかない人間を新聞に向けるのは困難になってきているとも書いている。
こんな新聞絶滅の危機に対して筆者は、WEBと紙を消費する人間のニーズ・文化の違いをしっかりと考え、全く違うものを提供すべきだとしている。そして紙はあくまでもしっかりとした調査報道を貫き(もちろんそれをオンラインで読みたい人向けにすることはすすめている)その調査報道の付加価値に金を払ってもらう。WEBではタダ新聞紙面をWEBに載せることを目的にするのではなく、WEB文化に合ったものを提供すべきだと。そしてその分野はWEBのプロに任せるとしてその両軸でジャーナリズムを守っていく事が出来るのではないかとしている。
哲学者のハンナ・アーレントの『言論の自由は、事実に基づく情報が保証されない限り茶番である』という引用が心に残った。日本でも様々な媒体がネットに踏み出しているが、この本にあるアメリカの多くの新聞の反省を生かしたものになればいいと思う。 -
もはや新聞は「消えている」が、媒体としての書籍と同じく、「紙」の利便性は忘れてはならないと思う。要は、「何が書かれているか」の質なんだな。
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ジャーナリズムの一翼を担う新聞がインターネット時代においても生き残れるか?という題についてテネシー州の一地方紙を経営する一族に生まれた専門家が書いた一冊。新聞が長期的に生き残るには、公共の奉仕を主とし、良い記事を書くこと(何が本当に起きたのかを告げること、調査報道、説明責任ニュースを行うこと)、地域との密着に尽きるとまとめる。日本の新聞社は目撃証人ニュースのレベルで追跡調査、調査報道といった鉄心を扱うものが少ないと思ったが、正直、崖っぷちの新聞という点においては超先進国の米国で起きたことと同様のことが現在進行形で進んでいると感じた。
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ニュースはどんどんバラエティになって行く。ジャーナリズムが言葉だけになる日も近いのか。
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この本を読みながら、違和感のようにずっと感じたのは、しっかりとした調査報道が消えていくことの懸念を著者は書いているが、日本の新聞なんて、彼の基準からいくとすべてがベタ記事みたいなもので、日本のジャーナリズムというのは、おそらくこの本以前の問題だろうということ。
「権力」を監視することが良質の新聞抜きで果たして可能か、というのが、今後のジャーナリズムにとって、最大にしてたぶん唯一の問題だろう。それができるのなら、何も新聞という形式にとらわれる必要はない。しかし、狡猾な権力に常に立ち向かうのは、プロのジャーナリスト集団抜きでは難しいだろう。
だから、彼らが活き活きと仕事ができる環境さえ与えられればいいのだろうと思う。そこに資金がからんでくるから難しいわけだが、良質な報道が消えることを良しとしない人々がほとんどだと思うので、どうにか新しいビジネスモデルは作れるのではないだろうか。