日本の原発、どこで間違えたのか

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023309418

感想・レビュー・書評

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  • 原発の危険性については、80年代に警告の書が多く出ているが、その多くは絶版になっていた。本書も84年と86年に出た本を再編集したもので、一つは『週刊現代』連載の記事である。『週刊現代』は現在はっきりと反原発の立場を鮮明にし、『週刊ポスト』などと対立しているが、当時からそうだったのだ。さて、当時は、まだ原発ができつつある夢の時代で、イギリスやアメリカへ学びに行った日本人もたくさんいたし、アメリカから買った原発のパイプにひびわれが起こり、それを日本の技術者が解決し、逆にアメリカに技術輸出をしたということもあったそうだ。本書は、最初から原発推進でも反原発でもなく、両者に取材しているが、結果的には原発に対する警告の書になっている。放射線はどの値になれば危険かは素人にはわかりにくいが、本書では、アメリカの原発で働く人たちを追跡し、それまで言われてきた10分の1の微量の放射能でもガンを引き起こす率が高いことを証明したマンクーゾ博士の調査を紹介する。それは、個人の生涯の履歴を管理するソーシャル・セキュリティ・ナンバーを使って追跡するという方法によったもので、アメリカ政府はその統計法を評価し、博士に放射線の人体の影響を依頼した。アメリカ政府の意図はもともと人体への影響が少ないということを期待したものであったが、結果は逆だった。その結果、博士は研究費をカットされるというめにあう。この調査報告は日本にも伝えられたが、それをまともに評価する人は少なかった。(本書では京大の研究者の評価を載せているが)本書ではさらに、原発の公聴会での原子力委員会の無能ぶり、公聴会の形式主義を実況中継のかたちで報告する。さらには、原発誘致はするものの、その危険性は起こったときのことだとたかをくくり、避難訓練もしようとしない敦賀市長の姿を暴く。この市長は、事故が起こると逆にそれで会社から保証金をとれるとうそぶく。つまりは原発にたかるだけで、地元の未来になんの責任も感じない人間である。本多勝一流にいえば「貧困なる精神」である。原発は本当に人々を豊かにしてきたのか。反原発には世界観の転換が必要だ。

  • 第5章 敦賀市長・高木孝一が能登原発候補地である石川県羽咋郡志賀町で開かれた「原発講演会」で語った内容が衝撃的(昭和58年)で醜悪で吐き気がする。

    原発おすすめ話は、ひとたび原発に事故が起こればもはや一巻の終りで逃げ惑うてみても意味はない、だから訓練などやっても仕様がない、大事故などあり得ないのであるという防災計画不要論から始まり、タナボタ論にも及んでいく。つまり、事故が起これば昆布が売れなくなるので補償交渉がはじまる。昆布ワカメは全部原電に時価で買ってもらってホクホクであり「1年一回はあんなことがあればいいなぁ」という状況で、電源三法交付金・裏金合わせて原発は”金のなる木”であることを滔々と語っていく。「その代わり、100年経って片輪が生まれてくるやら50年後に生まれた子どもが全部片輪になるやら、それは分かりませんよ。分かりませんけど、今の段階ではおやりになった方が良いのでないか」と締め括っている。

  • 「原発への警鐘」の復刻版。T65D、マンクーゾ報告。安全は無視され続け日本に原発が乱立した。第5章の元敦賀市長の問題の講演。50年後100年後にカタワが生まれようが分からないがというやつ。

  • 勉強になりました。

  • 展示期間終了後の配架場所は、開架図書(3階) 請求記号:543.5//U15

  •  正直、まず思ったのがこの本をもっと若いうちに、復刻ではなく出た当初に読んでいたならば、私に考えもかなり変わっていただろうということです。

     原発の安全性について、「公開ヒアリング」で原発建設地住民に本当にきちんと説明できていたのかということについての内橋氏のこのルポを読むとまったくできていなかった。市民との意見交換を仕切る学者も学者としての立場よりも、政府側で仕切る立場としての振る舞い、住民の安全への不安に対する質問にもまったく十分に答えないさまについては、疑惑を深めども、安心はできないということでした。

     しかし、それをお金の力で抑え込む・・・雇用を生み出し、インフラ整備が進み…だから黙る。

     それだけではなく、そのお金の力に魅せられた市長の講演会内容などは正直唖然とするばかりでした。安全性については政府お任せで疑わない、そして国や原発を持つ電力会社からのある意味迷惑料ともいえる多額のお金がもらえ、インフラ整備も思うがまま、安全神話を一遍も疑わずにのっかり、そして、お金儲けになると信じ切って行動している姿は、本当に恐ろしいという思いでした。

     また、電力コストについても、私も原発が一番コストが安いんだと教わった記憶がありましたが、そのコスト計算についてもかなり恣意的で、計算の際の前提条件と現実の条件のかい離(各発電の稼働率の違い)や、後処理まで考えていなかったこと(放射性廃棄物の処理)など、その算定についても???と思わざるえなかったと思っています。

     印象としては、政治が絡み、技術を確認する前に政治主導で進められてしまった結果、原発をつくる為の理屈付けとしての電力コスト計算の恣意的な方法や「公開ヒアリング」などでの安全に対してのまったくかみ合わない的外れといっていい回答などにつながったのではないか、もし、まずはきちんと研究が進められ、科学者・研究家の層が厚くなった上であったなら、日本の原発もまた違う形になっていたのではないかと思わざるえませんでした。

     改めて私自身、正直、1972年に生まれ育っていく間、原発を恐ろしいものとは教わることもなく、国の安全神話と未来のエネルギーイメージにとらわれ、疑うことを忘れていた自分の自戒の書ともいうべきショックを受けた1冊でした。

     

  • 東京電力福島第一原発の事故。いったい根本原因は?時計の針を逆に回して「原発誕生」からを振り返ると鮮やかに「真相」が浮かび上がる。ここに書かれてあることが積み重なってあの大惨事が起こったのかと思うと…。

    ここに書かれていることは、本来だったら闇から闇に葬られていることだったのでしょうね。しかし、関東・東北大震災と福島原発の事故によって、すべて、とはいかぬまでも日本の『国策』によって原子力事業がその土地の人々の思いをなぎ倒すようにして果ては54基も建設されたのだということがまざまざと描かれてあって、ぞっとしたことを覚えています。

    僕が一番印象に残っているのは原子力発電所が輩出する温水によって周りの海が温められ、そこで漁を営む漁民たちが昆布やわかめが昔の光沢を失ったり、環境の変化で漁獲高が大幅に減ってしまったと、実演をかねて原発を運営する側の人間に対して抗議をしている場面でした。そこである老漁師の言った

    「電力が国策なら、国民の貴重なタンパク源としての漁業も国策ではないのか。原発だけを優先し、なぜ漁業を切り捨てるのか」

    という問いが痛切でした。かと思えば原発事故で一儲け“漁夫の利”をつかもうとする人間がいて、ゲンパツ誘致によるタナボタ資金で町を興そうという人がいて、そういう考え方をする人間がいることに唖然としたことをここに付け加えておきます。その一人が講演で言った台詞がこれまたすごくて、引用すると

    「えー、その代わりに百年たって方輪が生まれてくるやら、五十年後に生まれた子どもが全部、方輪になるやら、それはわかりませんよ。わかりませんけど、いまの段階ではおやりになったほうが
    よいのではなかろうか………。こういうふうに思っております。どうもありがとうございました」

    という長くなることを承知であえてもってきましたけれど。こういうメンタリティーを持つ人間と、何が何でも原発事業を推し進めたい人間とその他もろもろが複雑に絡み合って、日本の原発事業はできていたんだなと改めて感じました。原子力発電をこれから続けるにせよ、廃炉にするにせよ。莫大な予算がかかることは明白です。さ、どうするんでしょうね。これから。

  • 2011/12/16:読了
    昔書いたものの、出し直し。
    記録的な情報の本と思われ、
    目次だけざっと読み。

  • 古い資料だが、現場の実情がよくわかる。
    これが今も同じだとすれば悲観的にならざるを得ない。
    今回の事故を契機に転換を。

  • 1984年に発刊された本の復刻と知らなかったので買ってきてちょっとがっかりした。しかしその不満は一層された。歴史的な経緯がわかりやすく、一気に読める。とくに後半(第4章、第5章)、当時の登場人物がばかばかしすぎて言葉が出ない。世の中は確実に変化している。こんなことがまかりとおるとはとても思えない。

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