- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784023309586
感想・レビュー・書評
-
ウルトラマンは、勧善懲悪の単純な子ども向け番組ではない。
正義の味方とされるウルトラマン。地球にやってくる怪獣や宇宙人を倒して、地球の平和を守るヒーローである。
しかし、実はウルトラマンと対決する怪獣や宇宙人が、がいつも完全なる悪の存在とは言えないのだ。
地球人のエゴイスティックな行為が、異星人や怪獣の生活を侵犯することになった結果、自衛として地球を攻撃するケースがある。それを、力で撃退するのだ。
人間の宇宙開発政策の犠牲になった人間が、怪獣となり地球に戻ってくる。それを知りながら、ウルトラマンは怪獣を力で滅ぼすことがあるのだ。
正義とは何処にあるのか?悪とは何なのか?
ウルトラマンは、大人の常識的な価値観をゆさぶり、問いかけてくるのである。
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
とある事情よりヒーローと正義の関係を考えたくて探し出した本。
わたし自身は性別的にもあまりウルトラマン自体を観たことはなかったけれど一通りのあらすじなどを紹介してくれるので、同じ尺度で考えることが出来たと思う。
一言で「正義」と言ってしまうにはすごく難しく扱いにくい言葉をじっくり考えられる一冊でした。 -
改めて、ウルトラマンシリーズが普遍性をもった作品だと感じさせてもらえる本でした。
ウルトラマンシリーズが扱っているのは、科学と経済の急激な発達によって、未熟なままで国際的な責任を持つようになってしまった日本人への皮肉だと、この本を読んで改めて思いました。
ここで紹介されているエピソードは、そもそも善意や自己防衛から始まったものばかりです。そういったものに付随する、社会や人間の闇が今もあるからこそ、現代を生きる生徒さんも考えさせられるのでしょう。
取り扱うエピソードのあらすじが書かれた後に、考察があるので、ウルトラシリーズを見ていない方も手に取りやすいです。
正義のヒーローの話に隠れる影を一度見てみて下さい。 -
長年、愛され「国民的ヒーロー」と言えるウルトラマン。
その人気の要因は、いろいろあるが、その中の一つに「大人の鑑賞にも耐える」という点があることは言えるだろう。
子供の頃に見たウルトラマンを成長してから改めて見てみると、驚くようなメッセージ性を持っていたりするのだ。
本書は、ウルトラマンのエピソードを教材に社会問題等について生徒に考えさせる、という授業を行っている中学校の国語教師である著者が描いた「正義」についての考察。
基本的にはウルトラマンシリーズは「勧善懲悪」のストーリーなのだが、時にウルトラマンの「正義」に疑問を感じるエピソードが語られる。
ウルトラマンのシリーズの中では決して「正義」は一つではないのだ。
「ウルトラマンガイア」に至っては、ウルトラマンアグルという信念の異なるもう一人のウルトラマンが登場し、それが明確に示される。
シリーズの中で、有名なエピソードだけをピックアップしただけで次のようなものがある。
ウルトラマン 第23話「故郷は地球」
ウルトラマンの全シリーズの中でも、おそらく最も救いのないエピソード。
科学特捜隊とウルトラマンが戦った怪獣ジャミラは、異形の姿になったとは言え「人間」だった。
しかもジャミラが異形になった原因を作ったのも人間で、ジャミラの方が犠牲者、という構図。
ウルトラマンはジャミラが「人間」であることを知りつつ、ジャミラを倒す。
この時だけ怪獣は爆発せず、ジャミラは苦しそうにのたうちまわりながら息絶える。
ラスト、ジャミラの慰霊碑が作られ、そこには「人類の夢と科学の発展のために死んだ戦士の魂、ここに眠る」と刻まれる。
一見、せめてもの救いのように思えるが、慰霊碑に礼をする科学特捜隊メンバのすぐ横を各国の高官達が通り過ぎるが、慰霊碑に目を向ける者は誰もいない。
そして、とどめの一撃となるイデ隊員の一言で物語は終わる。
「犠牲者はいつもこうだ。文句だけは美しいけれど」
ウルトラセブン 第42話「ノンマルトの使者」
海底開発を進める人類。
ウルトラ警備隊のメンバは「ノンマルトの使者」と名乗る少年に出会う。
少年は「人間は後から来て、ノンマルトを海底においやった。海底はノンマルトのものだ。海底の開発をやめろ」と言う。
その言葉を一笑に付すウルトラ警備隊。だが唯一人、ウルトラセブンであるモロボシ・ダンだけは、その言葉に愕然とする。
なぜなら、セブンの故郷、M78星雲では、人間の事を「ノンマルト」と呼んでいたから。
少年の言葉が真実ならば、人間とノンマルトは別、という事になる。
ノンマルトは本当に地球の先住民なのか、という事は不明確なまま、セブンはウルトラ警備隊のノンマルト攻撃に加担してしまう。
問題提起、という点で印象的なのは次の2編
ウルトラセブン 第8話「狙われた街」
人間の理性を狂わせる物質をタバコに混入し、そのタバコを吸った人間が暴れる事で人間同士の信頼関係を壊し、自滅させる作戦をとったメトロン星人。
「モロボシ・ダンとちゃぶ台をはさんで話をするメトロン星人」というシュールなシーンでも有名だが、最後のナレーションが痛烈。
「人間同士の信頼関係を利用するとはおそるべき宇宙人です。
でもご安心ください。この物語は遠い遠い未来の物語なのです。
え?なぜですって?
我々、人類は今、宇宙人に狙われるほど、お互いに信頼してはいませんから」
ウルトラマンマックス 第24話「狙われない街」
ウルトラセブン「狙われた街」の後日譚
ウルトラマンマックス自体、ウルトラセブンのイメージを色濃く残したデザインだけに「狙われた街」の構図も真似てパロディ的要素も濃いエピソード。
メトロン星人は実は生きていて、新しい侵略計画を実行しつつあった。今回は「携帯電話の電波に細工をして、人間を低脳化させる」というもの。
だが、メトロン星人は途中で計画を放棄して宇宙に帰ってしまう。
その理由はウルトラマンマックスに負けた訳でもなく、改心した訳でもない。
人間のバカさ加減にウンザリして、侵略の価値なし、と判断したから。
メトロン星人が去り際に
「地球の夕焼けは美しいなあ。とりわけ日本の黄昏は。…この陰翳礼讃がなによりのみやげだな」
と言うのが、またしても痛烈。
問題の背景を考えず、最近に起こった現象だけを見て「二元論」に還元しようとする人達がどこかの国の政治家に多い気がする。
が、それが如何に危険な事がこのことだけでもよく分かる。