毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記

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  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023310810

感想・レビュー・書評

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  • 率直に言って、この事件にも木嶋被告にも余り興味はなかった。
    それなのに、この本を手に取ったのは、著者のこの事件を見る「視点」に信頼を抱いたからだ。
    著者は前書きにこう書いている。
    「これまで、女性の犯罪者には、どこか同情できる面が必ずあった。たとえ幼い我が子を殺した女性にだって、もし私が彼女の立場だったならば・・・と想像を働かせるのは難しくなかった。(中略)それなのに、そういった共感や同情を、私は木嶋佳苗に、一切持たなかったのだ」
    私も全く同じである。
    木嶋被告に対し、自分とは全く違う価値観を持つ女性、自分とは違う世界に生きているような女性だと思っていた。
    しかし、本書を読む限り、木嶋被告は紛れもなく私たちと同じ現代の日本に暮らす女性であり、彼女の犯したとされる犯罪は、現代日本の性愛と結婚を具現化したものに他ならないと思えてならなかった。むしろ、彼女に比べ、私はなんと甘ちゃんでロマンチストなのだろう!と打ちのめされさえした。
    著者も書いていることであるが、木嶋被告が裁かれているのは、彼女の犯罪だけではない。彼女の性愛観、結婚観も問われており、そこからの逸脱が裁かれているのだ。
    この本のもととなった週刊誌記事の連載中、著者は「女目線の記事」との批判を浴びたらしい。この本が女目線であるのなら、この事件の裁判は、徹底して男目線ではないだろうか。有罪・無罪は別として。

    この本を読み終わった今なお、私にはやはり、木嶋被告は「理解出来ない」存在である。しかし、読む前よりずっと近くに、彼女を感じている。背筋が寒くなるほどに。

    ところで、この本の帯には「“ブス”をあざける男たち。佳苗は、そんな男たちを嘲笑うように利用した」とあり、マスコミも木嶋被告を散々、「ブス」「デブ」と罵ってきた。
    しかし、この本を読む限り、木嶋被告は自分のことを「ブス」とは思っていないのではないか、という気がしてならない。美人とも思ってはいないだろうが、彼女は「女としての自分の魅力」に揺るぎない自信を抱いているのではないだろうか。

  • ものすごく騒がれた事件。当時はあまり追ってなかったけど、こうしてまとまったものを読むと改めて壮絶な事件だったと感じた。そして壮絶さを感じさせないところがまた凄い。

    傍聴し続けた著者に、上品さを感じさせたり、殺人事件でありながら、被害者からも、その遺族からも怒りや怨念よりももっと安らかな何かが感じられたり、とにかくおかしな話だ。

    北海道の片田舎で、母と仲たがいし祖母の家で暮らし、中学の頃から援交の噂が流れていた。他人のクレジットカードを盗んだり、前科あり。真面目な父は後に自殺。父の頭の良さと、母のずれているところを受け継いだ。

    (こいつ矢に貫かれてスタンド使いになったら半端ないスタンド使いになるぞ。。。)

  • バブル後、媛交世代。
    時代が生み出した、連続婚活サギ女・木嶋佳苗の100日にわたる裁判傍聴記。

    傍聴記には、木嶋佳苗の生まれた地や、生い立ち、家族のこと、地元や関わった人へのインタビューも絡められており、
    木嶋佳苗に関しての情報はめいいっぱい詰まっている。

    しかし、筆者の言うとおり、これを読んでも木嶋佳苗がどんな思いで沢山の男性と関わり、大金を手にしてきたのか、
    それは佳苗にしかわからない。

    この裁判は女性からの興味が多く、佳苗ガールズと呼ばれる傍聴希望者が沢山いたのだそう。
    男性は「不美人」とゆうだけで、目をつむり、「大丈夫、自分は騙されない。」と被害者達を哀れに思うだけなのだろう。

    男性も、この時代背景や「もしこれが逆の立場だったら・・・?」と考えて読んでみてほしい。

    セックストイショップ経営者でもあり、ライターでもある筆者、北原みのりさんとゆうフィルターを通して読む木嶋佳苗は、
    独自の世界観(身体に染み込んだ処世術のようなもの)を持っていて、それを誰にも語らない、頑固で頭の良い女だと思った。

    また、この傍聴記を北原みのりさんが書いたことが、かなりストライクでした。朝日出版さんありがとう。

  • 2日で読み終わりました。
    あっという間、3人の殺害をしたとされる彼女はさぞかし貧しい生育環境だったんだろうと浅はかな先入観。実にインテリジェンスな育ちをされていました。ただ、両親が彼女と本当の意味で向き合えてこられたかはどうなんだろうか。心を許していた父親の友人の方は少なくとも彼女の将来を真剣に考えていたのだろう。幼い頃の過ちを毅然と指導できなかった周りの大人たち。
    男と女の関係。すごく絶妙な価値観が本人の中でもぶつかり合っていたと思われるがどういう折り合いをつけていたのか。
    昨今、そして今後加速度的に深刻になるであろう社会問題が凝縮されていた。男女格差。殺害された方々も含まれるであろう社会が自由を推し進めることや地域の教育力の低下による他者との交友関係を構築できずに孤独死。同居しているのにも関わらず目も合わさないほどの疎遠な親子関係。また逆も然り。
    社会問題を見つめる視点の一つとして提示したい教材でした。
    そして、端的に読みやすい文章でした。

  • 読みやすくて、あっという間に読んでしまった。
    キジカナとほぼ同世代のわたし。
    なんであの容姿で、一億円近くの金額を男性たちから巻き上げられたのか?
    当初からとても興味があった。

    揺るぎない自信と、魅了する声と、知性と…容姿の不器量さをやすやすとカバー出来る、さまざまな魅力、いわば吸引力がカナエにはあったのだと思う。
    悪女の見本みたいだ。

    美人が女を売り物にするのは納得できても、ブスが女を売り物にするのは、許せないのが同性というもの。
    モヤモヤしながらも、読み進めるうちに、カナエの手腕に不謹慎ながら感服してしまった。

    と同時に被害者たちの孤独と純粋さが可哀想に思えた。
    男って哀しいなー。と。

    カナエはきっと、人に心の内をさらけ出すことのない人生だったのだろう。
    プライドが高く、自己顕示欲が強く、上昇志向も人一倍ある。
    人に負けたくない、田舎者とバカにされたくない!という心の叫びが聞こえるようだった。
    人にブスと言われようと、私はこんなに男に貢がれるような女なのよ、すごいのよ。と常に思っていたのではないか。
    きっと貢がれることで自分の存在価値を見出していたのだと思う。

    カナエの哀しさも、垣間見れたような気がした。
    プライドの高い彼女は、きっと認めないだろうけれど。

  • 「不美人を笑う男たちを利用した不美人の犯罪」。婚活サイトで出会った男たちを「ケア」しながら騙し、あげく殺した木島佳苗のルポで、エンタメ+社会批評として最高に面白い。著者が公判で目撃した佳苗は決して「不美人」ではなかった。毎回服装と髪型を変え、女としての自分を演出しながら、被害者の男たちにいらだち、弁護士と談笑する佳苗。「リングイネ」を知らない検事に対して「そんな男に佳苗を裁いてほしくない!」という著者の絶叫には笑ってしまったが、「リングイネ」を知っている男の方がかえっていやらしいんじゃないか? このエピソードからしても佳苗のやったことは女子の女子による女子のための犯罪という感じがするけれど、著者が主張するように、バブル期からバブル崩壊の狭間の日本社会が生んだ必然的な犯罪というのもすごくよくわかる。本書のスピンオフである『毒婦たち』(上野千鶴子、信田さよ子との鼎談)とあわせて読むべし。

  • ライターが女性である事で、内容が女性よりだ、とかいろいろ言われているけど、私は女性だから気づけたと思われる視点が書いてあるだけで第三者の率直な表現だと感じました。

    佳苗、あんたすごいよ…

  • ノンフィクションなので「面白い」と言っては語弊があるけど
    検察側、原告、裁判官、傍聴者、全ての人が木嶋佳苗の法廷での態度、発言に驚き 翻弄された様子にすっかり冒頭から惹きこまれた。

    確たる証拠がないにしても 状況証拠が揃いすぎているにもかかわらず
    法廷での木嶋佳苗は全くオドオドとしたところがなく堂々と持論を展開している。
    その“持論”がかなり無理があり、常軌を逸しているとしか思えないんだけど それを“正論”だと思わせるような説得力があるのが佳苗だ。
    髪の毛を綺麗に巻いていたり オシャレな洋服に身を包み 法廷に現れ 奔放に振舞う佳苗。すっかり一人舞台ではないか。。。
    ひたすら突っ走る佳苗を誰も止められないのかと思うと
    ここまでの度胸に恐れ入ってしまう。
    騙された何人もの男性たちはそういう佳苗ワールドに惹きこまれてしまったのだろうか?そう考えるととても怖い。
    2度ほど傍聴を経験したことがある私。
    ここまで凶悪事件ではなかったけど 厳粛な空気が漂うはずの法廷内であるはず。
    恥しげもなくむしろ自慢げに自身の性体験を語る佳苗の様子に
    驚く北原さんの気持ちがよく分かる。

    木嶋佳苗、ビジュアルはそれほどでもなかったかもしれないけれど
    これほど人を惹きつける話し方や雰囲気を持っている上に
    とてもアクティブでさまざまなことに挑戦する身軽さ。
    北原さんによると声がかわいらしく さまざまな所作が優雅で見とれるほどらしい。しかも頭の回転も早い。
    天賦の才と言ってもいい。こういうものってやろうと思ってやれるものではない。
    違う方面で発揮できていれば また違う佳苗の人生が待っていただろうにと思って止まない。

  • 2012.5.29読了。

    恐るべし、佳苗。まさに、佳苗劇場であった。そして私も佳苗のことが知りたくて、グイグイ読んでしまった。
    不謹慎であるが、本としてとにかく面白かった。

    序盤の、著者のこの言葉に私も考えた。

    要介護の高齢者と同居する60歳前の男性に34歳の女が“嫁ぐ”理由は何だろう、と。それは愛だろうか?それは努力できることなのだろうか?
    過酷な婚活市場の中でN氏は何を差し出したのか、そして女に何を求めていたのだろう。

    まさにそれ。
    彼らは佳苗に何を差し出したのか。
    ただ、彼らは佳苗から「今まで自分には存在しなかった女という存在」を「お金」で買ったのではないだろうか。だって誰にしても自らの意思で佳苗にお金を差し出しているのだから。そう、自らの意思で。

  • 面白かった。
    男と女について考え直した。
    不謹慎だけど、亡くなった方々は幸せのまま死んでいったんじゃないかな、自分だったらおんなじように心酔してたと思う。でもやっぱり、罪を犯した人がヨイショされてる感じは嫌だった。筆者の方の描写が丁寧で想像しやすかった。裁判もっといきたい。

著者プロフィール

北原 みのり Kitahara Minori
作家、女性のためのプレジャーグッズショップ「ラブピースクラブ」を運営する(有)アジュマ代表。2021年アジュマブックススタート。希望のたね基金理事。著書に『日本のフェミニズム』(河出書房新社刊)など多数。

「2022年 『パパはどこ?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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