世界は貧困を食いものにしている

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  • Amazon.co.jp ・本 (365ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023311817

作品紹介・あらすじ

【社会科学/社会】貧者を救う画期的なシステムであるはずのマイクロファイナンス(小口金融)が、「無法地帯」と化している。グラミン銀行をはじめ、世界の主要なマイクロファイナンス組織で働いてきた著者が、その悲惨な現状を、豊富な実例を交えて告発した衝撃のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • マイクロクレジット、グラミン銀行、貧困を博物館へ。
    ムハマド・ユヌス博士、ノーベル平和賞。
    と思いきや暗雲が。。。
    むしろ、貧困がより深まる構造が発生してしまっているかもしれない。


    貧困の一形態とはどんなものか?

    1日の生活には100円 (約1ドル) 掛かるとする。
    しかし貯蓄や財産と呼べるものはなく一文無しである。
    働かないと明日はない。

    サービスが売れるかは不透明だが、物品 (生活必需品) なら確実に売れるとする。
    今日中にサービスが売れなければアウト。ゆえに材料を仕入れて物品を作って売るしかない。
    しかし、材料の仕入れにはお金が要る。つまり、借金の必要がある。

    そんな生活状況では、担保はおろか、返済ができない可能性もある。
    信用度の低さはサブ・プライムどころか、サブ・サブ・サブ・プライムだ。
    まっとうな金融機関からは借りるのは困難。
    高利貸しから1日あたり100%の金利で借りることになる。

    材料費として100円借りる。
    特別な設備/技術なしでできる生活必需品は安い。
    同境遇の人々との価格競争もある。
    懸命に働いても1日にせいぜい300円しか稼げない。

    この300円から今日の生活費100円、借金返済に100円、金利分100円を賄う。
    が、これが恐ろしい。
    1日中懸命に働いて、振り出しの一文無しに戻っているのである。

    決して資本を作ることができないので、貧困の無限ループである。
    これでは金利を払うために生まれてきたといっても過言ではない。
    しかも、いつか怪我や病気をしようものなら、人生はそこで終わる。


    もし、金利が100%ではなく50%ならどうだろうか?
    1日目には手元に50円残る。
    2日目には100円以上を残せる。
    そうするともう借金をしなくても仕入れができるようになる。
    まるで「金利支払い機」とでも言うべき人生から脱却できる。
    貯蓄ができるので、怪我や病気などのトラブルがあっても人生は終わらない。
    1日中働かなくてよくなるので、教育を受けることができる。

    そのためにはどうすればよいか?
    返済率を上げるために5人組連帯責任を設ける。
    返済率が上がればそれに合わせて金利を下げられる。
    このような枠組みで、少額の貸し出しを行うことで、
    貧困を博物館送りにしてやろうというアイデアがマイクロクレジットである。


    だが、問題が起きている。
    貧困層への貸し出しは「金利が法外に高い」上に、規制が十分及んでいない。
    すなわち超ハイリスク(「超」高い貸し倒れリスク)に対して、
    超超超ハイリターン(過剰な「超超超」高い金利)を設定でき、
    しかもかなりヤバイに取り立てまでも可能な市場ということだ。
    要はとても儲かるのである。

    村の高利貸しからお金を借りた場合、高利貸しは村でお金を使う。
    トリクルダウン式に、貧困層が作った生活必需品も村で売れ、需要を満たす。
    グラミン (村) 経済である。

    これが、儲かるからと村外から大資本が入ってきたらどうなるか?
    村の高利貸しなら10人連続で踏み倒されたらエライことになるかもしれないが、
    大資本なら1000人連続で踏み倒されてもビクともしないだろう。
    しかも、返済率というのは平均で考えることができる。
    つまり、村の高利貸しは安全マージンをかなり大きくとらなければやっていけないが、
    大資本は適切なマージンで済むので、その分だけ金利を安くしてもまったく問題がない。
    かといって、村の高利貸しより大きく金利を下げる必要性もない。
    よって、貧困層は大資本から少しだけ安い金利でお金を借りるようになる。

    あれ?金利が安くなれば貧困を博物館送りにできるのでは?
    だから、大資本が村の高利貸しにとって変われば世界は良くなるのでは?
    と考えるところだが、そうはならない。
    貧困層が支払う金利分は村外に流れ出る。
    したがって、村内のお金は減り、物を売るのは難しくなる。
    経済はグラミン (村) 内では完結しない。
    村外にいる金利分を受け取った人からお金が流れてくる必要がある。
    グラミン (村) ワイドでの競争と物流コストも考えねばならなくなる。
    結果として、貧困の度合いが強まる。

    大資本ほど強い。しかも、市場として、とても儲かるとなればどうなるか?
    海外の大資本が参入してくる。
    金利分は遠く海外のファンドや投資家に渡る。
    グラミン (村) ワイドではなく、ワールドワイドでのビジネスが必要になる。
    だが、貧困層が作るのは設備/技術なしでできる、地元向けの生活必需品である。
    ワールドワイドで競争力のある商品ではないから村外に売るのは部が悪い。
    金利が多少安くなっても、村で流通するお金は減るので、村内でも物は売れなくなる。
    そうなると貧困に拍車がかかる。

    おまけに、外国の投資家に払う金利分は外貨 (日本人投資家なら円で、
    アメリカ人投資家ならドルで受け取りたい) だろうから、
    国の外貨準備高に悪影響を及ぼす恐れもある。


    われわれが銀行などにお金を預けるとき、
    できれば元本は保証して欲しいし、金利は低いより高い方が良いと思う。
    金利がつくということは、金融機関は何らか投資しているわけだが、
    勝算の高い方法で運用して欲しいし、問題があれば妥当な範囲で責任を取って欲しいと考える。

    数ヶ月〜1年単位で業績と説明を求められる投資責任者はどうするだろうか?
    マイクロクレジットを有望な市場と考えるバイアスが働いても不思議はない。

    マイクロクレジットで利益を上げ始めたら、その経営層はどうするだろうか?
    出資者からは利益を上げることを求められる。
    しかし、マイクロクレジットが貧困を解決すると市場はどんどん縮小してしまう。
    立場上、「金利支払い機」を卒業する人が増えると困ってしまうという構造がある。

    われわれは逆転容易な (立ち位置が容易に入れ替わる) 社会を望んでいるだろうか?
    わたしたちは安心と安全を好む。安定を好む。
    貧困層がマイクロクレジットで資本を形成し、教育を受けたなら、
    彼女らは強力なライバルへと育っていくという流れができる。

    マイクロクレジットは事業や教育に直結しているのだろうか?
    マイクロクレジットは事業拡大、教育を受けることによる競争力向上が報われる世界が前提である。
    実際には、高金利で首が回らなくなったところからの借り換え、
    事業や教育ではなく嗜好的消費のための借金に利用されることもある。
    牛乳が儲かるからと、多くの事業者が借金して乳牛を買った結果、
    牛乳の供給過多で事業が立ち行かなくなるなど。
    別格の技術でもないかぎり、できることは競合他者と似てくるし、
    資本が設備と在庫という形になり、それが重荷で事業が立ち行かなくなるケースもある。

    マイクロクレジットが貧困を博物館送りにするという響き、
    それに投資へのリターンの大きさが組み合わさって、
    ステークホルダーが増えて市場は大きく (1000億ドル規模) 成長する。


    貧困ビジネスの収奪構造の上層に居れば、下層の人が怪我や病気で人生が破綻することなく
    「金利支払い機」人生できるだけ長くまっとうしてくれたら安定だろう。
    逆に、下層の人は「金利支払い機」として人生の一部を換金・吸上げられる
    立場を脱することが、貧困と強制苦役から脱却するために不可欠だ。
    これは構造的に利害対立であるから、マイクロクレジット ビジネスで貧困を解決することは難しい。

    マイクロクレジットには、貧困がますます深まる構造的危険性があるのだ。
    これは道徳や倫理に訴えてどうこうできるようなものではない。
    構造的暗黒面には、仕組み (もっとも単純なのは規制) で対策する必要性がある。


    なるほど。一理ある。
    では、例えば「万能利回り比較サービス」があったらどうだろう?
    ありとあらゆる資金調達、リスクとリターンを平準化するのである。
    例えば、日本の一部上場の株式がリスク5%で利回り6%としよう。
    これに対して、貧困ビジネスのマイクロクレジットがリスク20%で利回り100%としよう。
    これらがほぼゼロコストで比較可能、かつ代替可能だとしたら?
    たちまち、マイクロクレジットがリスク20%で利回り24%くらになるのでは?
    イーサリアムなど信用プラットフォーム (システマチックなif-then契約) と仮想通貨システム (手数料ほぼゼロ) を使うと、このあたりの問題は近い将来に技術 + 見えざる手でも改善できるのではないかと思った。

  • 原題:Confessions of a Microfinance Heretic: How Microlending Lost Its Way and Betrayed the Poor (Berrett-Koehler Publishers 2012)
    著者:Hugh Sinclair
    訳者:大田直子
    Book Design:遠藤陽一
    ISBN:9784023311817
    定価:2376円(税込)
    発売日:2013年3月29日
    版型:四六判上製
    頁数:368

     貧者を救う画期的なシステムであるはずのマイクロファイナンス(小口金融)が、「無法地帯」と化している。
     収入改善に何の貢献もしない商品を買って利子60%のローンに苦しむ人々、完済しない限り引き出せないという悪質な預金システム…… ノーベル平和賞を受賞したグラミン銀行の創設者、モハメド・ユヌス自身でさえ、一部のマイクロファイナンス業界を貧者に群がる「高利貸し」として批判する。
     グラミン銀行をはじめ、あらゆるマイクロファイナンスの組織で働いてきた著者が、その悲惨な現状を豊富な実例を交えて告発した衝撃のノンフィクション!
    https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=14811


    【メモランダム】
     本書のウェブサイト
    http://microfinancetransparency.com/


    【目次】
    序文 デーヴィッド・コーテン [001-007]
      うますぎる話
      自分をだます能力
      お金の流れを追うと
      グラミンは銀行
    はじめに [008-012]
    目次 [013-017]
    コロフォン [020]


    第一章 汝、マイクロファイナンスを批判するなかれ 021
    業界の不文律
    マイクロファイナンス神話
    ユヌスの誤算
    興隆と信用失墜の十年


    第二章 メキシコでの洗礼 038
    旅行、失業、そしてメキシコへ
    MFIの大ざっぱなビジネスモデル
    ずさんで楽観的な組織運営
    貧困軽減の兆し


    第三章 モザンビークのボブ・ディランと私 056
    ディランの知らない惨状
    貯金の罠
    変革のための一歩
    メキシコ人、モザンビークに到着
    悲惨な三週間
    ビランクロスの立て直しとチョクウェの「破綻」


    第四章 モザンビークのもう一つの内戦 090
    「マプト問題」とやっかいな泥棒
    FCC問題の表面化
    対決、そして解雇に
    モザンビークでの教訓


    第五章 「先進」世界 108
    トリプル・ジャンプでの仕事
    マイクロファイナンス・ファンドの仕組み
    ファンドの行動原理
    「本人代理人問題」


    第六章 ナイジェリアでは何かがおかしい 127
    かの有名なLAPOと出会う
    死のロード
    無秩序状態の本質を理解する
    防衛手段はゼロ
    顧客を維持するつもりがない?
    涙が出るほど高い利率


    第七章 オランダでも何かがおかしい 159
    矛盾
    ふたたびLAPOとかかわる
    チャンスか、試練か
    対決、そして解雇に


    第八章 法廷で 184
    ちっぽけな訴訟とマイクロファイナンス教
    勝利がもたらした証拠


    第九章 オランダ人を怒らせる 197
    格付け機関の信頼性
    LAPOの金利が公開情報に
    真実を広める


    第十章 モンゴルからの内部告発 217
    模範的な顧客
    マイクロレートの格付け撤回
    史上最大級の格下げ
    カルヴァートへの苦情
    喜ばしい変化


    第十一章 『ニューヨーク・タイムズ』に出る 241
    透明性の勝利 
    P2Pの落とし穴
    キーヴァのきわめて不透明な部分
    違和感
    投資界全体の組織的行為
    苦情の申し立て
    磨き上げられたうわべの正体

    第十二章 破綻、自殺、ムハマド・ユヌス 278
    ニカラグアの「ノー・パゴ」危機
    誰のせいだったのか?
    自殺はインドの日常?
    創始者シンドローム
    何かがおかしい


    第十三章 善人、悪人、貧乏人 307
    「規制のない借金」という宗教
    バラバラな動機
    実践的なアドバイス
    マイクロファイナンス新時代


    付録 マイクロファイナンス経済学入門 340
      理論の欠陥
      無視される「失職」の事実
      市場から絞り出される「利子」
      効果はいまだ実証的されず

    原注 [354-364]

  • 世の中にはここまでEvilなMFIが存在しているのか、そして世間的に名のある財団がそのようなMFIに投資しているという事実に驚愕を受けた。

  • 衝撃でした。マイクロファイナンスの”真実”が書かれています。無知は恐ろしい。ムハマド・ユヌスはもうグラミンバンクには居ません。マイクロファイナンス団体の9割は不当な金利を貧困者に課してボロ儲け。有名なKivaでさえも不透明な運営をしている...など、この本から知ったこと、学んだことは多い。また、著者が実際にMFIやファンドで働いた実際の現場の記述は非常に参考になり、また考察が鋭い。
    満面の笑顔で野菜を売る女性の写真に騙されてはいけない。マイクロファイナンスを始めたいと思う人も、投資しようとしてる人も必ず読むべき本。

  • マイクロファイナンスの裏。
    和訳本だからかちょっと読みにくい。

  • 貧困から抜け出すことにつながると言われていたマイクロファイナンス。実際のところはどうなのか、マイクロファイナンスにかかわった筆者が書いており、興味深い。ごくわずかな成功例をもとにいいもののように見せかけて貧困層から金を巻き上げることにしかなっていないのではないか、という話。

  • 「マイクロファイナンスの世界はカルト教団に似ている。批判は異端と見なされ、許されない。貧困への効果が定説として主張されるが、実証されるのは例外的なケースだけ。それより何より、この分野は高い利益を生んでおり、その利益の源は単純に貧困者たちなのだ」。

    ヒュー・シンクレア『世界は貧困を食い物にしている』朝日新聞出版、読了。貧困への効果で脚光を浴びるマイクロファイナンス。しかし貧困削減に寄与しているのは例外的なケースで、実質的な高利貸しとして機能するMF機関が殆ど。グラミン銀行をはじめ三大陸のMF機関で働いた著者による衝撃の告発。

    グラミンとその他MF機関を分かつのは、前者が1)正規の銀行であること、2)(利用者のために)手厚い金利で預金サービスを提供、3)最大金利は20%が上限、4)預金者と借り手が所有するグラミンは、地域社会に根ざし、地域社会の冨を築くため、利益と利子は継続的に地元で循環する。

    途上国支援に関心のある方は紐解いて損のない一冊ではないかと思う。

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