選択と捨象 「会社の寿命10年」時代の企業進化論

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.97
  • (9)
  • (21)
  • (8)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 146
感想 : 13
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023314191

作品紹介・あらすじ

【社会科学/経営】市場の力を活用すれば、日本は再生できる! JAL、ダイエーなど、企業再生の修羅場を知り尽くした著者が、ブラック企業・ゾンビ企業の淘汰から始まる日本再生の処方箋を説く。真の改革のチャンスは危機の最中か直前にしかやってこない。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • GとLの世界。グローバルに憧れる日本人は多いが日本ではローカルで地に足のついた仕事をする人がいないと飛躍できない。
    国内企業の悪いのはGに目を向けすぎてLを疎かににしていることかもしれません。

  • 選択と捨象 「会社の寿命10年」時代の企業進化論 2015/6/19

    永久に変化し続けないと淘汰されてしまう
    2015年12月13日記述

    元産業再生機構COO、経営共創基盤CEOの冨山和彦氏の著作。
    2014年10月6日から2014年12月22日まで朝日新聞・朝日新聞デジタルにおいて計10回にわたり連載された「証言そのとき 再生請負人がゆく」をベースに大幅に加筆したものである。

    本書で唯一残念であるのは誤字である。
    P48のタイトル 中小企業の経営者から産業革新機構のCOOへ
    明らかに産業再生機構の間違いであろう。
    朝日新聞出版の編集、校正はどうなっているのか?
    自分が読んだのは第1刷の分であるので、それ以降は修正頂きたいものである。

    カネボウ、三井鉱山、ダイエー、JALなどの企業再生に関して振り返り企業経営において大事な事は何かを語る。
    カネボウに関しては他の書籍でも数多く著者が書いてきているので再読感はある。
    しかしそれ以外の三井鉱山、JALに関しては本書で裏舞台を見ているような思いだった。

    印象的だった提言、指摘、文章を書いてみる。

    永久に変化し続けないと淘汰されてしまう

    多様性を持たないホモジニアス(同質的)な組織では、産業構造の大きな変化には対応できない
    意識的に多様性を高める努力をしなくてはならない
    ⇒外から人材を連れてくる、共同体の発想に染まっていない若手を抜擢する

    あれもこれも(多角化)ではなく、「あれかこれか」(選択と集中)

    ローカル経済圏においては良質な雇用を増やし、経済全体を押し上げるには本当はつぶれるべきなのに生きながらえているゾンビ企業や、若者を酷使するブラック企業には退出してもらうことが大事なのである

    ソニーがまず行うべき改革は、何よりも大人の会社として新陳代謝力を持つこと自前主義の文化や自らの革新性や技術力への過度な期待を捨て去り外部資源を買収・活用できるよう、心も体もフルオープンな会社になること

    大人の会社としては、ものすごいスピードでラディカルなイノベーションが次々と起っているような市場は、若くて小さな会社に譲ればいいのである。

    経営陣選びは「戦う指揮官」を誰にするかということである。
    定年退職者の「あがり」や、社員の論功労賞のポストではいけない。

    Lの経済圏では、顎を引き、地域と顧客に密着して、精緻に緻密に執念深く経営すること
    規模より密度を制することが大事

    「あれかこれか」を選択する場合は、将来世代から見てどちらが好ましいかを基準に決めていくしかない

  • 選択と集中ではなく、捨てることが大事というタイトルからしてすぱっと明確な本。冨山氏の本
    古くて大きな会社に対する処方箋として名著。
    企業再生実務の観点からも非常に示唆深い。
    昭和時代の遺産、歴史を学べる本とも言えそう。
    後段のGとLの世界の課題感も個人的には共感。


    メモ
    ・現代においてイノベーション環境で持続的に成功している会社は、コアをわきまえた上で、事業と機能の新陳代謝と連続的なイノベーションを積み上げている。コアドメイン周辺で起きそうなラディカルなイノベーションシーズは若くて小さな会社を買収していくスタイルをとっている。
    ・運命共同体を形成する約束事としての企業理念やらしさなんてものはグローバル化とイノベーションの時代においては百害あって一利無し。
    ・大人の会社としての新陳代謝とは、若くて小さな会社を取り込んでしまうこと、イノベーション力が競争要因になっている領域は捨て去り参入障壁高く競合密度の低い市場に出ていくことの二つ。例えばgeは航空機エンジン、医療機器、重電といった若くて小さい会社は戦えない領域に出ていった。代わりにデジタル領域やコスト勝負の領域からは撤退してしていった。
    ・カネボウ再建のwhatの話。手触り感がないならそれがわかる人を据えて解決に繋げようという話。
    ・企業は共同体を守り延命することご至上目的になった瞬間に腐敗し、傷んでいく。成長や理念や競争は二の次になる。内向き思考になる。
    ・歴史の真相は中空的なことが少なくない。だからこそ関わる人の動機付け、インセンティブや性格を観察することが重要になる。それこそが結果の決まっていないシナリオの先を予測する最も有効な手掛かりになる。経営観を醸成する根本は人間観を磨くこと。
    ・G型は激しいグローバル競争を意識して戦略的にダイナミックに選択と集中を行う必要。L型は足元を見つめてコツコツとやるべきことを精緻にやること。
    ・地方の基幹産業は農業ではなく、サービス産業。この底上げをしない限り地方経済再生につながらない。
    ・地方で活きていく人々のために行うべきこと
     共働き夫婦が子供2人を育て大学を出せる年収を得られること
     限定正社員やジョブ型雇用の長期雇用を確立すること
     労働者がプライドもって働ける環境を整えること
     すなわちL型新中産階級の構築。
    ・言葉を見に付けていない人間に考えろといっても時間の無駄。

  • ・不要な事業を捨てることが企業の生き残りには重要
    ・企業は箱でしかなく、重要な事業さえ生き残っていればそれでよい、企業組織の存続にはマクロ的には意味がない
    ・これからは、大企業のプレーヤーが多いG(Global)と、小売りや交通、福祉、医療といった地域密着型のサービスが基本となるL(Local)の2つの経済圏がある中で、今後はGDPの7割を占めるLの世界が日本経済のカギを握る
    ・Lの世界では地域と顧客への密着、そして精緻に緻密に執念深く経営することが必要
    ・企業経営の本質とはつまり、「情理」となる共同体の基本原則をよく理解した上で外部環境の変化と折り合いを付け、「合理」(市場競争の経済原理)に基づく冷徹な判断を下すこと
    ・情理に偏り、あれもこれもと捨てずに問題を先送りにするのでなく、合理的判断に基づき選択と取捨を実行出来るかが、今後の日本企業生き残りにかけて重要になってくる

  • 日本の大企業の宿痾をよく分析して書いている。
    が、あまりにも自信過剰な書きっぷりが鼻につく。
    ところで融資の個人保証をやめろという主張はいかがなものか。
    どこの国でも中小企業はある程度、公私混同している。国によって程度は違うが、日本はかなり悪いほうだと思う。とても、現場をふまえた提言とは思えない。

  • 選ぶことは、捨てることである

    ロイヤルティーが事業や仕事でなく、会社に向いている

    永久に淘汰し続けないと淘汰される

    共同体は同質性を保とうとして、暗黙の約束事をたくさんつくる

    要するに、外の企業とは弱肉強食の資本主義の世界で競争するけれど、企業内は運命共同体として、みんな平等で落ちこぼれを出さない社会主義でやっていこうということである

    共同体は多様性を嫌い、同質化を加速させ、大きな環境変化に対する適応力を失っていく

    情理 共同体の構成員としての人々の行動原理
    合理 市場競争の血も涙もない経済原理

    多角化 あれもこれも
    選択と集中 あれかこれか

    企業が滅びでも事業が残り、資本力、経営力のある企業に買収されれば、むしろ新しい雇用を生むチャンスである

    グローバル化の進展により、先進国での雇用で現実に起きたことはなにか。地域密着で対面型のサービス(流通、運輸、社会福祉、飲食、観光)などを提供するローカルな経済圏で働いて給料をもらっている人の比率が上がった

    現代においてイノベーション環境で持続的に成功している会社は、自分のコアドメイン(中心領域)やコアコンピタンス(根源的組織能力)をしっかりとわきまえた上で、事業と機能の新陳代謝と連続的なイノベーションを積み上げている。一方でコアドメイン周辺で起きそうなラディカルなイノベーションシーズは、若くて小さな会社を買収していくスタイルをとる

    cf. GE エネルギー関係のベンチャー企業を買収 コマツ 若いベンチャー企業と連携

    ラディカルイノベーションが主たる競争要因になっている領域は思い切って捨て去り、蓄積的な顧客基盤や経験技術、ノウハウがモノをいう寺領領域や事業モデルにシフトする。血で血を洗う市場から、参入障壁が高く競合密度の低い市場に出ていく

    共同体を守るために、共同体内の当面の調和を犠牲にしてでも果断な決断を行う能力は、洋の東西を問わず、企業が持っているべき根本的な組織能力なのである。それを滅殺するような体質は絶対に一掃しなければならない

    山本周五郎 樅の木は残った

    捨てる決断はボトムアップ型の意思決定では絶対にできず、必ず手遅れになる。トップリーダの専権事項なのだ。正しいタイミングで捨てる判断ができるリーダー人材を育て選抜することは、決定的な意味をもっている

    大事なのは選ぶことと捨てることである

    JALの企業年金は豪華 基礎年金と厚生年金をあわせると月50万 パイロットとCAのカップルなら月100万もあり得た。それが月額10万減るだけの話だったが、あたかも半減されて生活がなりたたなくなるような大騒ぎが始まっていた

    Lの経済圏 小売、卸売、交通、物流、福祉、保育、介護、医療 地域密着型のサービス 地域ごとに違うチャンピョンが存在し得る、棲み分けも可 生身の顧客に密着、対面していないとサービスを提供できないので、いわゆる空洞化は起きようがない

    最近Lの経済圏でどこも深刻化しているのが人手不足

    人口減による国内市場の圧縮圧力と働き手不足の両方の影響下では、なによりも労働生産性を上げることしかない

    団塊の世代が平均寿命を迎えるまでの20年間は、もっぱら消費する側に回る高齢者の数が圧倒的に多くなり、生産する側は働き手不足は構造的に変わらない。

    GとLの世界では経済圏が異なり、両者の間に、かつてのような垂直的な産業関連性がないため、大企業が儲かれば中小企業にトリクルダウンがおこることはほとんどない

    地方自治体と商工会議所などの産業界、金融機関が手を携えて長期的に粘り強く居住の集約化を促進しないといけない。都市計画を再設計し、商店と病院と介護と保育の機能を一カ所に集約するのだ

    鬼怒川温泉の再生 池田頭取が立派だったのは、この温泉街が全体として完全な供給過剰構造にある現実を直視していたことだ

    東京の事務敵職業の有効求人倍率は0.35倍 2014/10 この国からなんとなく東京に出てサラリーマンになるという選択肢は確実に消えつつある

  • カネボウ、JAL、ダイエーなどの実例から得られた事から取捨選択の大切さが伝わってくる。その他の著書とも若干被る部分もある。

  • 読み終わって、爽やかさが残る本であり、歩んできた人生を基礎に、従来の価値観・慣習に囚われない、リベラル・アーツを実現していくための実践論が書かれていた。
    私の尊敬する司馬遼太郎の一節、「東大は西欧文明の配電盤」が引用されていたり、また、岩井克人氏の考え方、会社は人でありモノであるという考え方が書かれていた。
    自分が感じている当たり前のことが、著者がきちんと論理的・経験的に整理して本になっている。
    こんな楽しい読書はありません。
    経営トップにひつような「合理」と「情理」。
    なにも経営トップでない人生ですが、雇われ所長としてもとっても参考になるくだりでした(笑)。

  • 面白い内容。
    そして、大事な問題提起がなされている。
    自分が次世代に何を残していくのか、その為にいま、何を成すべきなのか、考えさせられた。

  •  「選択と集中」を実行するためには、何かを「捨てる」ことが不可欠だが、伝統的な企業ほど、「捨てる」ことができずにいる。数々の企業再生案件に携わってきた著者が企業再生の要諦とともに、日本の産業全体が抱える課題の解決に向けた教育や地方創生のあり方を示した提言書。

     本来は「事業」を行うための道具に過ぎない「会社」を”残す”ことが自己目的化した結果、外部環境の変化に対応できず、経営が行き詰まったカネボウやダイエー、JALなど”かつての名門企業の成れの果て”を目の当たりにした著者は、「残すべきは会社ではなく事業である」との信念の下、一切にしがらみを排して合理的に事業の価値を評価し、残すべき事業を 適正な価格で新たな経営者に売却することが、結果として雇用を守り、さらに今日の日本に必要不可欠な「企業の新陳代謝」が促進できると主張する。

     さらに著者は、グローバルとローカルへの「二極化」が進むとともに、少子高齢化による労働力不足と成長鈍化に直面する日本経済のカギを握るのは、一握りの「グローバル企業」よりも「ローカル」に根ざした非製造業企業群であり、高等教育もアカデミック一辺倒から脱却し、実学中心の専門教育との「二山化」を目指すべきと提言する。利害が複雑に絡み合う政・官・財界を相手に、批判を恐れず、ブレることなく正論を通してきた著者の主張は重く響くとともに、「真のエリートとは何か」を考えさせられる。

全13件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

冨山 和彦(トヤマ カズヒコ)
株式会社経営共創基盤(IGPI)グループ会長
1960年東京都生まれ。東京大学法学部卒業、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。ボストン コンサルティング グループ、コーポレイト ディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画し、COOに就任。2007 年の解散後、IGPIを設立。2020年10月より現職。日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役社長、パナソニック社外取締役、経済同友会政策審議委員会委員長。財務省財政制度等審議会委員、内閣府税制調査会特別委員、内閣官房まち・ひと・しごと創生会議有識者、国土交通省インフラメンテナンス国民会議議長、金融庁スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議委員、経済産業省産業構造審議会新産業構造部会委員などを務める。主な著書に『なぜローカル経済から日本は甦るのか』(PHP新書)、『コロナショック・サバイバル』『コーポレート・トランスフォーメーション』(いずれも文藝春秋)などがある。

「2022年 『両利きの経営(増補改訂版)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

冨山和彦の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×