世界をつくった6つの革命の物語

  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023315303

感想・レビュー・書評

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  • 一般に当然と思われている世界を新鮮な目で見られる!
    私たちが当たり前だと思っている日常生活
    しかしそうなるまでには紆余曲折…そして意外な展開から発展した事例がいくつもある
    ~水道水を飲んで48時間後にコレラで死ぬことをまったく心配しないことがどれほどすごいことか…~
    ~エアコンのおかげで50年前には耐えられなかった気候の中で快適に暮らしている人がたくさんいる~
    そうこんな革命の科学の歴史を紐解く本書

    その6つの革命とは
    「ガラス」、「冷たさ」、「音」、「清潔」、「時間」、「光」

    「ガラス」
    レンズの誕生には、別々の数々の事柄の展開が関係している
    ヴェネツィアのムラーノで育まれたようなガラス作りの専門技術(なぜムラーノか…というストーリーも面白い、もともとトルコ人が始めたようだ)、
    修道士が歳をとってから、巻物を読むために使ったカラスの「球」、印刷機の発明が眼鏡需要の急増につながった
    そこから顕微鏡、テレビへと発展が止まらない
    この二酸化ケイ素の依存度の高いこと!
    そしてガラス工房での溶解をきっかけに二酸化ケイ素がテクノロジーを次々生み出す様は圧巻としかいいようがない


    「冷たさ」
    ボストンの氷を暑いカリブへ運ぶという大胆な発想から人工冷却へと展開
    熱帯地方の人口の増加へつながる
    瞬間冷凍の技術や、エアコンの誕生、さらには受精卵の瞬間冷凍と凍結保存など
    思いもよらないほど壮大な影響を与えている
    地球全体の移住パターンが再編、そして大勢の新生児が産まれたのだ


    「清潔」
    シカゴ山のない平坦な土地
    住むには一見快適な地形であるが、実際は勾配がないため下水道に苦労した地域だ
    (ジャッキで町を持ち上げる!というまさかの発想と経緯もある)
    1840年代までシカゴの給水設備はひどく、蛇口からの水を飲むのはルシアンルーレットだったという
    (脱水予防は一体どうしていたのだろうか…)
    流しや浴槽は死んだ魚であふれ、その魚は人間の排泄物に汚染されて死んでいたという負のサイクル…
    (1840年とは、結構最近である)
    1847年に手術前の手洗い提案した医師が非難されることさえもあった
    しかしこの習慣が感染サイクルを断ち切れたのだ(今では当たり前の常識が当時は非常識だった)

    そして塩素革命
    コロナですっかり有名になった「次亜塩素酸カルシウム」
    汚染水の病原菌となる細菌を殺すのに有効であることが発覚される
    が、当初はツンとした刺激臭は、逆に疫病を思わせて、受け入れられない
    (とても飲みたくなる水ではなかった でしょうねぇ)
    薬品による殺菌は受け入れられない 
    しかしニュージャージーの医者は奮闘
    政府当局から受け入れられないため、なんと秘密裡に貯水槽に塩素剤を加えた!
    テロリスト扱いを受けたがやがて認められる(報酬なんかいらないからなんとか安全な水を!という立派なお医者様でした)
    今では当たり前に使われる次亜塩
    コロナ禍でもずいぶんお世話になったし、洗濯の除菌や食器の漂白でもなくてはならない存在だ
    が、そんな効果も知らない昔に…あの目がシバシバするほどの刺激臭を飲み水に入れると言われたら…
    当時の人が猛反対するのもわからなくはない


    「時間」
    時間の歴史は「日時計」から始まり、「ガリレオの振り子時計」そして今一番馴染みのある「原子時計であるクォーツ」
    恐らく一般常識だと思いますが(常識のないワタクシは知りませんでした)、原子時計の原理は…
    石英(クォーツとはもともと石英のこと)などの特定の結晶(石英の透明な結晶が水晶)に圧力をかけると安定した頻度で振動させることができる
    ちなみに石英は二酸化珪素(けいそ)からなる鉱物で、石英の透明な結晶が水晶
    (クォーツ腕時計は水晶で作った水晶振動子を時間の調速、つまり1秒を1秒に、1分を1分に制御する装置に使用している時計のこと)
    時計に正確な時を刻ませるためには一定の周期で振動するものを利用している
    ここまでは一般的な時間の概念である
    ここからの時間は間隔がとてもとても伸びます
    万年単位へワープ!
    それは「炭素年代測定法」というものだ
    特定の放射性元素の崩壊速度を岩石の年代を特定する時計として使える
    地質学的時間を測定することができる
    先史時代の人類の移動など多くのことがわかってきた
    (近頃この発見による様々なニュースが聞かれるようになった)
     

    「光」
    ローレンス・リバモア国立研究所
    レーザーを利用して核融合(水素原子の融合)に基づく新しいエネルギーを作っている(「国立点火施設」という核融合施設がある)
    簡単に言うと太陽で自然に起こっているプロセスを人工的に行う
    そうすることで元手を上回るエネルギーを得ることができる…これはまさに「クリーンで持続可能なエネルギー」
    長きにわたり研究と実験を繰り返してきたが数十年にわたる取り組みにもかかわらず、核融合を達成するために必要となるエネルギーの量が、核融合で発生するエネルギー量を大きく上回ってしまうのだ(これでは生産の赤字現象と同じですね)
    が、ようやく投入以上のエネルギーを核融合後に得ることができるようになった
    最近では2022年にも成功している模様
    まだまだ安定的な再現とコスト面に問題がありそうではあるが個人的に原発問題もクリアになるのでは…と非常に期待している
    (生きているうちは無理かなぁ、次世代かなぁ あと不穏な情報もあるのでよくわからないのが実情)


    科学が得意じゃなくても読み物として十分楽しめる
    そして先人たちの閃きと努力とにありがたく頭を下げたくなる本でもある

  • 以前読んだ『学術書を読む』という本の『良質の科学史・社会文化史を読む』という項目で、高校生でも楽しめる科学史の本として紹介されていた本。
    科学史なんて難しそう、というイメージがあったが、この本はテレビシリーズと同時並行で執筆されたという経緯もあり、構成が巧みでわかりやすく、とても面白かった。

    本書は「ガラス」「冷たさ」「音」「清潔」「時間」「光」という6つの『革命』を取り上げ、それらが認識され、発展し、思いもかけない発明へと進化していく様子を描く。

    私が特に面白かったのは、「ガラス」である。
    はるか古代の旅人がリビアの砂漠でつまずいたことで発見されたガラス。コンスタンティノープルが陥落してトルコのガラス職人集落がヴェネチアに移住し、一つの島に集められたことで技術の刷新が起こり、透明なガラスが生まれた。12世紀から13世紀の修道院では、ロウソクの光の中で本を読むために湾曲したガラスを使っていたことをヒントに眼鏡が作られた。眼鏡のレンズを縦に並べて顕微鏡が作られ、カメラやテレビが発明された。
    さらに、ガラスを細い繊維にすることで、光ファイバーが生まれ、インターネットが誕生したのである。

    一つの発明の誕生には「ある分野のイノベーション、またはイノベーション群が、最終的に、まるでちがうように思われる領域に変化を引き起こす」『ハチドリ効果』が見られる、と本書はいう。ハチドリは、骨格的な制限があるにもかかわらず、花の蜜を吸う間空中に浮かんでいられるような斬新な方法を進化させた。元は花が受粉のために造り上げた生存戦略が、ハチドリという別の生物の羽根のデザインを決めたのである。

    本書ではまた、「ロングズーム」の視点で科学の歴史をとらえることが大事だと述べる。
    「インターネットが誕生した」という一つのイノベーションは、それ単体で注目されがちだが、それまでの間には一見関係なさそうな無数の発見と発明が積み重なっており、科学史としてはそれら一連の流れを理解し評価することが重要なのである。

    身近な事柄から壮大なスケールに発展していくさまをドラマチックに説明してくれる科学史初心者におすすめの本。

  • ・花と昆虫、花とハチドリといった全く別物の生物でありながら「共進化」により進化の中で花がハチドリの羽のデザインに影響を与えている、この序章からして知的好奇心を駆り立てる内容
    ・本書では日常的なものとしてあたりまえである6つの事柄=ガラス、冷たさ、音、清潔、時間、光 によるイノベーションを取り上げている
    ・グーテンベルの活字印刷によって人間は遠視であることに気付き、眼鏡の需要が増加した
    ・ガラスは眼鏡だけでなく顕微鏡、望遠鏡、鏡、光ファイバー、スマホの画面へとイノベーションが続く
    ・顕微鏡により細胞をみつけてウィルスの発見につながり、望遠鏡によって宇宙についての知識を得て、鏡によって自己を認識し宗教などの概念にも繋がっていく。そして現代はガラスによるファイバーを活用した光ファイバーによるインターネット普及と、ガラスでできたスマホ画面によるカメラやSNS活用が行われている
    ・寒い国では無価値の氷を船で熱帯の国へ持ち込むビジネスを試みたが、氷の保存方法など課題があった
    ・やがて人口冷却の発明で食材を保存することへの発展や、空気を冷やすクーラーの発明により砂漠など熱い国に人を動かすことができるようになった
    ・また人口冷却のテクノロジーで精子と卵子の凍結保存により世界中に何百万人も人も増やしている
    ・氷は一見些細な進歩のようにみえて、贅沢品であり必需品ではないが、この2世紀あまりをロングズームでみると新たな命とライフスタイルが生まれ、砂漠に都市が栄えるようになった
    ・音は古代ネアンデルタール人が洞窟で壁画を見ながら歌や声を反響させて聴いていた
    ・その音が拡声器やアンプ、音を電気に変えて電話や通信へと発展していく一方、超音波により妊婦の胎児の性別を事前に区別できてしまうことから、男子を強く要望する中国では多くの女子の胎児が中絶させられるなど影を落としている
    ・私達は普段意識することはないが、清潔さが保たれている都市地下には汚染の川が流れ、デジタル革命に必要なマイクロチップはクリーンルームという綺麗すぎて飲めない水を使用する場所で作られている
    ・19世紀は時計は一般化したが標準化されておらず、地域毎に時間のずれが著しかった
    ・マッコウ鯨の脳油を使ったロウソクが富裕層の間で家庭の灯りに使われていた

  • 人類の歴史を変えた6つの大きな発明について、その来し方行く末を語る本。
    ジャンルは科学史になるだろうが、とにかく完成度の高さがすばらしい。テーマ選定の適切さ、画期的イノベーションはひとりの天才の「ひらめき」というより連鎖的・同時多発的な改良であるとする独創的な論旨、そして何より、わかりやすく明快で、ユーモラスでさえある文章。
    私は読みながら何度も声をあげて笑い、そして感嘆した。めちゃくちゃ面白い、知的昂奮に満ちた良書である。諸手を挙げておすすめ。

    2018/5/21〜5/22読了

  • 花と昆虫の共進化が、その外側のハチドリの進化にも影響を与えるという「ハチドリ効果」視点から人類の進化を見る本です。いきなり「ガラス」から始まり「冷たさ」「音」「清潔」「時間」「光」という6個のテーマで人類の作ったイノベーションを振り返ります。それは直線的な科学史でも技術史でもない、転びまろびつつのドタバタ劇。気づきや思い込みが技術を生み、人間の暮らしを変え、それがまた新しい気づきや思い込みを作り出し、新しい挑戦を作り出していく。例えば、ガラス技術の進展が望遠鏡や顕微鏡を生み、それが物理学、生物学を発展させていく、とか「ガラス」が冒頭に出てくるのは、そのため。ハチドリのいない花はあるけど、花のないハチドリはいない、というアナロジーで考えるとガラス技術なき物理学はない訳です。関係ないように見えることも実は関係している、今、散々言われているイノベーションはダイバーシティから、を歴史で確認していくような感じでした。読み物としての面白さ、抜群でした。だけど読後感は山本義隆「重力と磁力の発見」みたいな重厚感も残りました。

  • 科学と人類の進化を端的に示す良書。
    非常に説得力のある考察だ。
    我々が今取り組んでいることも、全て過去と未来に繋がっていると感じたことは、嬉しい感覚であり、科学との接点に知的な刺激となった。

  • 「革命」というと、「政治」寄りな印象を与えるので、「発明」や「発見」、「進歩」といった、「科学」寄りな印象を与えるタイトルの方がふさわしい気がします。
    が、もしかしたら、そのような微妙な違和感を抱かせることが翻訳者の意図であるならば、それはそれでアリだと思います。

    この本では、人間の生活に大きなインパクトを与えた科学・技術的な発見・進歩を6つ取り上げているわけですが、その切り口もさることながら、各々のストーリーも巧みで、非常によい本だと思います。

    エジソンについては、「いろんな人の特許を横取りした悪い奴」と思っていたのですが、経営者としてのエジソンの姿を知ることで、エジソンの真の素晴らしさに、少し触れることができたように思います。

    ものすごくたくさんの人物、出来事、歴史・経緯、発見を紹介しているにも関わらず、流れを見失うことなく読めるようになっているのは、著者の知見の広さ、考察の深さ、文章力のなせる業なのでしょうね。
    「素晴らしい」の一言です。

    ちなみに、少し気になったのが、科学的な点での誤植が、若干、目立ったこと。
    せっかくの本の良さが損なわれる可能性があるので、慎重にチェックしてほしかったです。

  • 2017ベスト本候補。

  • ユニークな切り口からの発明の歴史。
    風が吹くと桶屋が儲かる式に、思わぬ方向に発展するという話。
    次の発展には周辺の技術が整っている必要がある。

    読書メモ

    1章 ガラス
    グーテンベルクが印刷を発明→書物が普及→メガネの需要
    電子基板や光ファイバー

    2章 冷たさ
    寒いところから暑いところへ氷を船で運んで莫大な利益
    冷やす技術の発明→肉を運べるようになり流通革命
    エアコンの誕生→小型化で家庭にも→暑い地域への人口流入→アメリカ北部から南部への人口移動→保守派が南部へ→大統領選に影響

    3章 音
    音を記録発明、再生する発明→蓄音機
    電話
    国家機密→電気信号のコード化→デジタル化
    ラジオ送信→ジャズの全国流行→アフリカ系アメリカ人の文化が茶の間へ→公民権運動
    真空管→音の増幅→大規模集会→政治集会、音楽会
    タイタニック事故→ソナーの発明→胎児の検診

    4章 清潔
    シカゴの建物を持ち上げて下水道
    清潔の観念、入浴の習慣
    上水道の塩素消毒
    クリーンルームの超純水はきれいすぎて飲めない。

    5章 時間
    ガリレオが振り子から時計を発明。
    高価な懐中時計→デニソンのWmエラリー時計
    ばらばらの時間→標準時間
    より正確なクオーツ時計→CPUのクロック
    原子時計
    過去の時間を測る放射性元素による年代測定

    6章 光
    マッコウクジラの脳油
    電球はエジソンの数十年前から発明されていた。エジソンの電球の発明はスティーブ・ジョブズによるMP3プレーヤーの発明のようなもので、マーケティングと宣伝の達人だった。
    エジソンは学際的な研究開発ラボの先駆けを作る。発明のためのシステム全体を発明した。
    フラッシュライトの発明→スラムの実態の撮影→貧困撲滅運動
    レーザー→バーコード→大規模小売店

    終章 タイムトラベラー
    ほとんどのイノベーションは現在時制の隣接可能領域で起こるが、ときにタイムトラベルのような飛躍をする

  • 大変面白かった。
    身近なものがいかにして生み出され、我々の生活を変えたか、という基本路線はもちろんのこと、それぞれの発明品が思わぬところで新たな発明を生むさまは圧巻であった、世の中うまくできているなという気持ちである。(例えばガラスによって小さきものを拡大することが可能になった結果、疫病の原因が明らかになり公衆医学が発展するなど、ハチドリ効果というらしい。)
    また上記から考えさせられたのは、ある程度原理が把握できる人工的な空間ではなく、自然科学的な事象に触れることでのアハ体験がどんなに重要かということ。コロナでより閉鎖的な自己に親しみのある空間に留まること中で、思考や発想の幅が狭まっているなという焦りはぼんやりと抱いていたが、改めて、未知で予測不能な現象を体験しなくてはという危機感を新たにしました。ありがとうございました。

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著者プロフィール

ライター。7冊のベストセラーがある。訳書は『イノベーションのアイデアを生み出す七つの法則』『ダメなものは、タメになる』『創発』『感染地図』など。

「2014年 『ピア』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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