安倍三代

著者 :
  • 朝日新聞出版
3.89
  • (8)
  • (11)
  • (7)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 89
レビュー : 14
  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023315433

作品紹介・あらすじ

【社会科学/政治】母方の祖父・岸信介を慕う安倍晋三首相には、もう一つの系譜がある。反戦の政治家として軍部と闘った父方の祖父・寛、その跡を継ぎ若くして政治の道に入った父・晋太郎だ。彼らの足跡から「3代目」の空虚さを照らすアエラ連載に大幅加筆。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 世襲政治家には人間としての魅力がない。

  •  「3代」の評伝を書く場合、間に挟まれた「2代目」をうまく描けるかどうかが鍵を握ると思うが、本書の「2代目」安倍晋太郎については、子息安倍晋三の凡庸さを強調するためにやや過大な評価を与えているとの印象を受けた。タカ派派閥の清和会にあって、それに背反する「バランス感覚」を称える証言を多く採用しているが、これは取り巻く状況によっては確乎たる識見がないとも言え、「平和主義者」「リベラル」という形容も1980年代までの思想構図の中では疑問が残る。1980年代にポスト中曽根を競ったいわゆる「ニューリーダー」のうち、実務派の教養人だった宮澤喜一や老獪な世話人タイプの竹下登に比べ、晋太郎はひ弱な「坊ちゃん」とみなされ(その点は現在の安倍晋三に通じる)、「所詮は岸信介の娘婿だからな」とよく周りの大人たちが談義していた記憶が個人的にはあるので、余計その感が募る(本書によれば岸を引き合いに出される度にムキになって反駁したというが、そのこと自体が性格的な脆弱さを示している)。

     安倍晋三に対しては、政界入り前は、小器用だがおとなしく目立たない腰の軽いボンボンで、岸信介を敬慕している以外は右翼色の片鱗さえなかったことを明らかにしているが、これはある意味極めて現代的・普遍的で、著者は意外に思っているようだが、私がこれまで実際に見てきた「右翼学生」「右翼青年」「ネット右翼」などにはむしろこのタイプが多かったので、安倍をそうした傾向の先駆と位置付けられると思った。「所与の秩序」に「良い子」として積極的に順応しているからこそ、それを乱す「異分子」に対する被害意識が肥大化する点に、現在の「右傾化」の本質の1つがあると考えられ、安倍を含め政界における「ナイーヴなタカ派」の増大を単に「政治の劣化」「民度の低下」と切り捨てるのではなく、現代社会の構造的変化の反映として分析する必要を痛感した。

  • 安倍晋三のルーツは山口県大津郡日置村蔵小田、現在の山口県
    長門市油谷蔵小田にある。しかし、安倍晋三自身が口にするのは
    母方の祖父・岸信介に関することが多い。

    「私は安倍晋太郎の息子だが、岸信介のDNAを受け継いだ」

    「昭和の妖怪」と呼ばれる政治家については没して以降も研究が
    続けられている。それだけ政治家としてのスケールも、存在感も
    大きい。

    では、「安倍家のDNA」はどこへ行ったのか。本書は安倍晋三の
    父方の祖父である安倍寛(「ひろし」ではなく「かん」)からの安倍家
    のルーツを辿る。雑誌「AERA」連載の記事に加筆した作品だ。

    この寛氏が途轍もなく凄い。寒村の素封家に生まれ東京帝国大学
    を卒業し、政治家を志し、その資金を稼ごうと起業するものの関東
    大震災によって打撃を受け、故郷の村に戻る。

    肺結核から脊椎カリエスを発症しながらも、村民の強い要望により
    病床に就きながらも村長に就任。そして、村長を兼務しながら国政
    に打って出る。

    特に戦中の1942年に行われた選挙が圧巻。既に日本の政治は軍
    部に独占され、大政翼賛会が幅を利かせていた時代だ。選挙自体も
    翼賛選挙と言われ、翼賛協議会の推薦候補以外には憲兵や特高が
    目を光らせていた。

    その選挙に非推薦で立候補し、当選した数少ない議員のひとりが
    寛氏である。この時、やはり非推薦で当選しているのが三木武夫
    がいる。

    金権腐敗を糾弾し、軍閥のやりたい放題を批判し、戦争に反対し、
    早期の戦争終結を主張した人である。満州国を「私が設計した」
    と豪語し、敗戦が色濃くなると戦争責任回避の為に東条英機に
    反旗を翻した岸信介とは正反対に位置する政治家だった。

    なのに、安倍晋三には岸信介のDNAを受け継いでいるらしいのだ。
    それは、寛氏が晋三誕生の遥か前に亡くなっており、地元での活動
    に忙しい両親に替わり、母方の祖父である岸信介が遊び相手になっ
    てくれたのもあるのかもしれない。

    だが、安倍晋三の父である晋太郎氏は「俺の親父はエライ人で」や
    「俺は岸信介の女婿ではない。安倍寛の息子だ」と言っていたの
    だけれど、そこは安倍晋三のなかでは「なかったこと」になっている
    のだろうか。

    晋太郎氏には戦争体験があり、終戦が遅れていれば特攻で命を
    落としていた可能性もあったという。だからこそ、平和主義者であっ
    たのだろう。この父方のDNAを受け継いでいたのなら、今の政権
    はどうなっていたかを考えてしまう。

    本書は祖父・寛、父・晋太郎、息子・晋三の生い立ちを章を分けて
    書かれており、晋三の章を描く筆はかなり辛辣でもある。著者では
    ないが、大学卒業後、社会人になってからも政治的な思想は抱えて
    いなかった晋三が、何故、岸信介に依存するようになったのかは
    大いなる疑問である。

    やはり政治家になってから岸信介を知る先輩政治家から「岸先生
    はすごかった」と刷り込まれたのかな。

    尚、父・晋太郎氏の章で彼の異父弟であり日本興業銀行の頭取を
    務めた西村正雄氏が亡くなる前に雑誌に発表した論文が掲載され
    ているのだが、この内容が甥である晋三への貴重な警告になって
    いるのに驚く。読んだかな?晋三は。

    「寛さんも晋太郎さんも立派な人だった。だが、晋三は…」

    地元の人々の多くがそう口にしたという。地元にも三代目に関しては
    危惧を抱く人がいるんだね。おまけに大学で晋三を教えた教授陣も
    かなり辛辣な評価を下している。

    安倍晋三を評して「安倍首相は岸信介教の熱狂的信徒」と言ったの
    は、なかにし礼だった。しかし、いかに心酔してもうわべをなぞった
    だけで、非常に薄っぺらい劣化コピーでしかないと思う。

    思い出してくれないだろうか。安倍寛のDNAを。

  • 安倍晋三首相と父親である安倍晋太郎、おじいさんである安倍寛の安倍三代を描いたドキュエンタリー。とは言え、面白いのは安倍2代までで、現首相である晋三氏の伝記は至ってつまらない。

    よく言えば、項羽と劉邦の、ちょっと劉邦に似たところがある点か?

    先代2代の強烈な個性はないものの、空気のような敵を作らないおぼっちゃまなのが、現首相。強烈な個性でリーダーシップを発揮するのではなく、強烈な無個性でリーダーシップを発揮するタイプ。

    こんな首相がいてもいいとは思うのですが、青木氏は批判的です。

  • 安倍晋三の男系ルーツを掘り起こしながら
    世襲政治の是非、安倍晋三の今のあり方を問う本。

    AERA連載で版元は朝日新聞出版。

    非常に面白いんだけど、
    安倍寛、安倍晋太郎を反戦政治家として
    絶賛気味に持ち上げながら
    ただし晋三、てめーはダメだ!という
    結論ありきな感じが強いのが難点。

    安倍晋三に関して、語るべきエピソードが
    どれだけ探してもなかったという書き手としての
    恨み節がすごい。

  • 面白い。朝日新聞出版というのを差し引いても文句なく面白い。三代各々のコントラストと最後に桐野夏生まで出して、現首相の空疎さを炙りだす。本当に現首相には映画監督になって貰いたかった。
    しかし、政治の貧困と一言で政治家を断罪しても全く無意味で、要はこの国の民度の低さ・劣化度の表出そのものだと思う。改善するには将来の子供たちへの教育しか無いと思うが、こんな現世代がまともに教育を考えられるのか。悲観的になる一方です。どこから改善すればいいんですかね?
    安倍寛については全く知識が無かったのでとても興味深かったです。
    著書には今後も上質なルポルタージュを期待しています。テレビのくだらないワイドショーでコメンテータなんかしないで。

  •  安倍晋三の祖父といえば、誰もが母方の岸信介を思い浮かべるだろうが、本書はあえて父方の祖父、安倍寛(かん)に焦点を当てる。岸の孫としての安倍晋三の評価は、「岸の孫だから」となるだろうが、安倍寛の孫として見ると、間違いなく、「あの寛の孫なのに、なぜ?」となる。詳しくは是非本書を読んでほしいが、安倍寛は、現在の政治家には見いだせない「政治魂」を持つ、傑出した政治家であった。
     1940年、戦争遂行のため一国一党制を築こうとした軍部に応えて政府は大政翼賛会を組織し、各政党は解散して全てこれに合流した。選挙においては、翼賛推薦候補は選挙資金が充当されるなど手厚く支援される一方、非推薦候補には苛烈な弾圧や嫌がらせが繰り返された。特高警察や憲兵は候補者を尾行し、演説の一言一句をとらえて「弁士注意!」と叫んだ。
     投票率が83.16%にのぼる1942年の選挙では、、翼賛推薦候補の当選率が8割を超える一方で、非推薦候補は立候補者613名中、当選者は85人にとどまった。こうした逆風の中で、大政翼賛会にも東条英機にも反対した安倍寛は、地元の熱烈な支持を受け、当選を果たしている。地元の翼賛壮年団までが応援していた。病床に伏していたときですら、布団に寝たままでいいからと請われて、村長を務めたほどであった。
     その父の背中を見て育った息子晋太郎も、父に恥じない政治家になろうと努力した。
     そして3代目、安倍晋三は……….
     本書を読みながら、どうしてこんなことになってしまったのだろうと何度も思わずにはいられなかった。成蹊大学で晋三を教え、後に成蹊大学長を務めた宇野重昭へのインタビューが印象的だった。著名になったもう一人の教え子、作家の桐野夏生については、少し自慢げに微笑んで語る宇野だが、安倍晋三については、
     「正直言いますと、忠告したい気持ちもあったんです。成蹊大に長く勤めた人間として、忠告した方がいいという声もいただきました。よっぽど、手紙を書こうかと思ったんですが…..」
     そう述べる宇野は、泣いていた。
     成蹊大学名誉教授加藤節は、安倍政権は2つの意味で「ムチ」だと言う。「無知(ignorant)と「無恥(shameless)である。祖父にも父にも遠く及ばない凡庸な3代目を、それでも何かが突き動かしている。世襲について、人間について、考える機会を与えてくれる本である。是非多くの人に読んでもらいたい。

  •  安倍総理の父親の安倍晋太郎、さらに祖父である安倍寛という安倍三代を追う。

     安倍晋三の祖父、阿部寛は戦前の厳しい妨害の中で反体制派として選挙を勝ち抜いた。安倍晋三の父、安倍晋太郎は特攻隊として玉砕する寸前で終戦を迎えた。彼らは不遇の中にあっても希望と信念を持っていた。共に東大を出て、地元の人々との強い絆があった。
     父と祖父の人生を追えば追うほど、安倍晋三の異様さが際立ってくる。確かに世襲で地元との絆が薄く、戦争体験もないというのは今の自民党議員の多く問題点だろう。でも安倍晋三はそれだけではない。過去を訪ねても普通なら出てくる特徴のあるエピソードが出てこない。ずっとエスカレートで成蹊を出て、成績は普通。誰に聞いても特別目立たない男という話しか出てこない。思想的なものも政治家としての形も見えてこない。あるのは祖父岸信介への想いくらい。熱い想いというよりは巡り合わせで政治家になっていく。
     そんな安倍晋三が憲法に手をいれるなど歴史に名前を刻もうとしている。その政治的手腕や理念以上に異様な不気味さを抱くのは私だろうか。

     安倍晋三の不気味さを浮かぶ上がらせる異色のノンフィクション。

  • やや雑多な内容ではあるが、安倍首相の祖父に当たる安倍寛や晋太郎、そして現首相の周りにいた人々に接触し、インタビューの記録をまとめたのが本書。
    安倍寛が抱いていたのは、政治劣化と軍部台頭により矛盾に満ちていた日本社会を是正することだった。地元の日置村にて村長を務めた経験から、民の苦しみをよく知っており、矛盾に立ち向かおうとする姿勢があった。その姿を見ていた晋太郎もまた、戦後日本における在日等の意見をよく聴き、外務大臣として現実的な対話を重ねる、実にバランス感覚溢れる政治家であったという。
    それに対し現首相はというと、何度にもわたり強行採決を繰り返してきたことから先代、先々代の政治的姿勢とは一線を画す。学生時代は凡庸なおぼっちゃん、それが政治の世界で戦争を知らないタカ派政治家と関わっているうち、現在のような姿になってしまった。成蹊大の恩師、加藤節や宇野重昭の声が実に生々しい。

  • なんともはや、安倍晋三にこれほどすごい祖父が(岸信介のことではない)いたのかと、驚いた。著者がいう晋三が空疎であるという点は全く同感。ある種のニヒリズムさえ感じることもある。政治的なニヒリズムは大変怖い。

全14件中 1 - 10件を表示

プロフィール

1966年生まれ。著書『日本会議の正体』『安倍三代』『抵抗の拠点から』など多数

「2018年 『情報隠蔽国家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

安倍三代のその他の作品

安倍三代 Kindle版 安倍三代 青木理

青木理の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
リンダ グラット...
塩田 武士
伊藤 詩織
國重 惇史
ヴィクトール・E...
有効な右矢印 無効な右矢印
ツイートする