安倍三代

著者 :
  • 朝日新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784023315433

感想・レビュー・書評

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  • 安倍晋三のルーツは山口県大津郡日置村蔵小田、現在の山口県
    長門市油谷蔵小田にある。しかし、安倍晋三自身が口にするのは
    母方の祖父・岸信介に関することが多い。

    「私は安倍晋太郎の息子だが、岸信介のDNAを受け継いだ」

    「昭和の妖怪」と呼ばれる政治家については没して以降も研究が
    続けられている。それだけ政治家としてのスケールも、存在感も
    大きい。

    では、「安倍家のDNA」はどこへ行ったのか。本書は安倍晋三の
    父方の祖父である安倍寛(「ひろし」ではなく「かん」)からの安倍家
    のルーツを辿る。雑誌「AERA」連載の記事に加筆した作品だ。

    この寛氏が途轍もなく凄い。寒村の素封家に生まれ東京帝国大学
    を卒業し、政治家を志し、その資金を稼ごうと起業するものの関東
    大震災によって打撃を受け、故郷の村に戻る。

    肺結核から脊椎カリエスを発症しながらも、村民の強い要望により
    病床に就きながらも村長に就任。そして、村長を兼務しながら国政
    に打って出る。

    特に戦中の1942年に行われた選挙が圧巻。既に日本の政治は軍
    部に独占され、大政翼賛会が幅を利かせていた時代だ。選挙自体も
    翼賛選挙と言われ、翼賛協議会の推薦候補以外には憲兵や特高が
    目を光らせていた。

    その選挙に非推薦で立候補し、当選した数少ない議員のひとりが
    寛氏である。この時、やはり非推薦で当選しているのが三木武夫
    がいる。

    金権腐敗を糾弾し、軍閥のやりたい放題を批判し、戦争に反対し、
    早期の戦争終結を主張した人である。満州国を「私が設計した」
    と豪語し、敗戦が色濃くなると戦争責任回避の為に東条英機に
    反旗を翻した岸信介とは正反対に位置する政治家だった。

    なのに、安倍晋三には岸信介のDNAを受け継いでいるらしいのだ。
    それは、寛氏が晋三誕生の遥か前に亡くなっており、地元での活動
    に忙しい両親に替わり、母方の祖父である岸信介が遊び相手になっ
    てくれたのもあるのかもしれない。

    だが、安倍晋三の父である晋太郎氏は「俺の親父はエライ人で」や
    「俺は岸信介の女婿ではない。安倍寛の息子だ」と言っていたの
    だけれど、そこは安倍晋三のなかでは「なかったこと」になっている
    のだろうか。

    晋太郎氏には戦争体験があり、終戦が遅れていれば特攻で命を
    落としていた可能性もあったという。だからこそ、平和主義者であっ
    たのだろう。この父方のDNAを受け継いでいたのなら、今の政権
    はどうなっていたかを考えてしまう。

    本書は祖父・寛、父・晋太郎、息子・晋三の生い立ちを章を分けて
    書かれており、晋三の章を描く筆はかなり辛辣でもある。著者では
    ないが、大学卒業後、社会人になってからも政治的な思想は抱えて
    いなかった晋三が、何故、岸信介に依存するようになったのかは
    大いなる疑問である。

    やはり政治家になってから岸信介を知る先輩政治家から「岸先生
    はすごかった」と刷り込まれたのかな。

    尚、父・晋太郎氏の章で彼の異父弟であり日本興業銀行の頭取を
    務めた西村正雄氏が亡くなる前に雑誌に発表した論文が掲載され
    ているのだが、この内容が甥である晋三への貴重な警告になって
    いるのに驚く。読んだかな?晋三は。

    「寛さんも晋太郎さんも立派な人だった。だが、晋三は…」

    地元の人々の多くがそう口にしたという。地元にも三代目に関しては
    危惧を抱く人がいるんだね。おまけに大学で晋三を教えた教授陣も
    かなり辛辣な評価を下している。

    安倍晋三を評して「安倍首相は岸信介教の熱狂的信徒」と言ったの
    は、なかにし礼だった。しかし、いかに心酔してもうわべをなぞった
    だけで、非常に薄っぺらい劣化コピーでしかないと思う。

    思い出してくれないだろうか。安倍寛のDNAを。

  • 面白い。朝日新聞出版というのを差し引いても文句なく面白い。三代各々のコントラストと最後に桐野夏生まで出して、現首相の空疎さを炙りだす。本当に現首相には映画監督になって貰いたかった。
    しかし、政治の貧困と一言で政治家を断罪しても全く無意味で、要はこの国の民度の低さ・劣化度の表出そのものだと思う。改善するには将来の子供たちへの教育しか無いと思うが、こんな現世代がまともに教育を考えられるのか。悲観的になる一方です。どこから改善すればいいんですかね?
    安倍寛については全く知識が無かったのでとても興味深かったです。
    著書には今後も上質なルポルタージュを期待しています。テレビのくだらないワイドショーでコメンテータなんかしないで。

  •  安倍晋三の祖父といえば、誰もが母方の岸信介を思い浮かべるだろうが、本書はあえて父方の祖父、安倍寛(かん)に焦点を当てる。岸の孫としての安倍晋三の評価は、「岸の孫だから」となるだろうが、安倍寛の孫として見ると、間違いなく、「あの寛の孫なのに、なぜ?」となる。詳しくは是非本書を読んでほしいが、安倍寛は、現在の政治家には見いだせない「政治魂」を持つ、傑出した政治家であった。
     1940年、戦争遂行のため一国一党制を築こうとした軍部に応えて政府は大政翼賛会を組織し、各政党は解散して全てこれに合流した。選挙においては、翼賛推薦候補は選挙資金が充当されるなど手厚く支援される一方、非推薦候補には苛烈な弾圧や嫌がらせが繰り返された。特高警察や憲兵は候補者を尾行し、演説の一言一句をとらえて「弁士注意!」と叫んだ。
     投票率が83.16%にのぼる1942年の選挙では、、翼賛推薦候補の当選率が8割を超える一方で、非推薦候補は立候補者613名中、当選者は85人にとどまった。こうした逆風の中で、大政翼賛会にも東条英機にも反対した安倍寛は、地元の熱烈な支持を受け、当選を果たしている。地元の翼賛壮年団までが応援していた。病床に伏していたときですら、布団に寝たままでいいからと請われて、村長を務めたほどであった。
     その父の背中を見て育った息子晋太郎も、父に恥じない政治家になろうと努力した。
     そして3代目、安倍晋三は……….
     本書を読みながら、どうしてこんなことになってしまったのだろうと何度も思わずにはいられなかった。成蹊大学で晋三を教え、後に成蹊大学長を務めた宇野重昭へのインタビューが印象的だった。著名になったもう一人の教え子、作家の桐野夏生については、少し自慢げに微笑んで語る宇野だが、安倍晋三については、
     「正直言いますと、忠告したい気持ちもあったんです。成蹊大に長く勤めた人間として、忠告した方がいいという声もいただきました。よっぽど、手紙を書こうかと思ったんですが…..」
     そう述べる宇野は、泣いていた。
     成蹊大学名誉教授加藤節は、安倍政権は2つの意味で「ムチ」だと言う。「無知(ignorant)と「無恥(shameless)である。祖父にも父にも遠く及ばない凡庸な3代目を、それでも何かが突き動かしている。世襲について、人間について、考える機会を与えてくれる本である。是非多くの人に読んでもらいたい。

  •  安倍総理の父親の安倍晋太郎、さらに祖父である安倍寛という安倍三代を追う。

     安倍晋三の祖父、阿部寛は戦前の厳しい妨害の中で反体制派として選挙を勝ち抜いた。安倍晋三の父、安倍晋太郎は特攻隊として玉砕する寸前で終戦を迎えた。彼らは不遇の中にあっても希望と信念を持っていた。共に東大を出て、地元の人々との強い絆があった。
     父と祖父の人生を追えば追うほど、安倍晋三の異様さが際立ってくる。確かに世襲で地元との絆が薄く、戦争体験もないというのは今の自民党議員の多く問題点だろう。でも安倍晋三はそれだけではない。過去を訪ねても普通なら出てくる特徴のあるエピソードが出てこない。ずっとエスカレートで成蹊を出て、成績は普通。誰に聞いても特別目立たない男という話しか出てこない。思想的なものも政治家としての形も見えてこない。あるのは祖父岸信介への想いくらい。熱い想いというよりは巡り合わせで政治家になっていく。
     そんな安倍晋三が憲法に手をいれるなど歴史に名前を刻もうとしている。その政治的手腕や理念以上に異様な不気味さを抱くのは私だけだろうか。

     安倍晋三の不気味さを浮かぶ上がらせる異色のノンフィクション。

  • なんともはや、安倍晋三にこれほどすごい祖父が(岸信介のことではない)いたのかと、驚いた。著者がいう晋三が空疎であるという点は全く同感。ある種のニヒリズムさえ感じることもある。政治的なニヒリズムは大変怖い。

  •  世襲議員の究極ともいえる存在、政界屈指のサラブレッド(だった)安倍晋三。安倍寛(かん)ー安倍晋太郎ー安倍晋三、安倍三代を青木理(おさむ)が追跡しました。「安倍三代」、2017.1発行。一気に読了です。①51歳で病没しましたが、反骨、反東条、一貫して反戦(平和主義)の安倍寛、魅力的です。三木武夫と同期当選を。②寛は四校から東大、晋太郎は六校から東大。1951年岸洋子と結婚。「俺は岸信介の女婿じゃない。安倍寛の息子なんだ。」が口癖。首相の座を目前に67歳で没。③晋三、16年間成蹊学園。ごく普通で素直、凡庸。

  • 安倍晋三という人物は悪人ではなく物分かりの良過ぎるぼんぼんであろう。彼が率いた長期政権での社会の凋落は彼に付随する利権に群がっていく企業や投資家そして自己愛に終始する為政者に元凶がある。権力を監視する事を諦めずメディアそして私たちが声をあげ続けよう。ちなみに我が家にはアベノマスクがまだ届いていない。

  • 安倍晋三とは何者か。オススメ!

  • 自民党、つまり現在の日本政治について理解するためにKindleにて読了。地に足のつかない、戦争経験もない三代目が、空理空論で政治を動かしてしまう。それが日本の政治制度(精神)のある種の必然的な帰結である、ということを、多くのインタビュー取材を踏まえて描いており、非常に勉強になった。それは日本社会の他の場面でも通用する気がする。次は同じ著者の『日本会議の正体』を読んでいる最中。また安倍晋三のもう一人の祖父・岸信介についても、一冊読みたい。

  • とても良い作品。著者は、ルポを書くということに対して、とても誠実な人なのだろうな。冷静と情熱、読んでいて双方をヒシヒシと感じた。肝心の三代目からはそのどちらも窺えないのが残念だが…

著者プロフィール

1966年長野県生まれ。ジャーナリスト、ノンフィクション作家。慶應義塾大学卒業後、共同通信に入社。社会部、外信部、ソウル特派員などを経て、2006年に退社しフリーに。テレビ・ラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『日本の公安警察』(講談社現代新書)、『絞首刑』(講談社文庫)、『トラオ―徳田虎雄 不随の病院王―』(小学館文庫)、『増補版 国策捜査―暴走する特捜検察と餌食にされた人たち』(角川文庫)、『誘蛾灯―鳥取連続不審死事件―』『抵抗の拠点から 朝日新聞「慰安婦報道」の核心』(講談社)、『青木理の抵抗の視線』(トランスビュー)などがある。

「2015年 『ルポ 国家権力』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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