みどりのスキップ (安房直子名作絵童話)

著者 :
  • 偕成社
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本棚登録 : 134
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (48ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784033134208

作品紹介・あらすじ

だれかすきな子はいますか?あこがれの子はいますか?みみずくは、であってしまいました。あの子に。つたわらなくたって、いいのです。わらわれたって、いいのです。みみずくはきめたのです。あの子をまもるって。トット、トット、トット、トット。そんなとき…きこえてきたのは、不思議な音でした。小学校低学年から。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は、偕成社刊『安房直子コレクション7 めぐる季節の話』収録の「緑のスキップ」を原本に著作権者の了解をいただき絵本にしたものだそうです。

    原本は未読だが、絵本にすることにより、安房直子さんの文章と、出久根育さんの絵とが、お互いに邪魔することなく、見事に絡み合い寄り添った結果、物語の新たな魅力を引き出した、更なる名作となった印象があり、それは、きりっとした顔、眠たくても堪えている顔、必死に何かを守ろうとする顔に、それでも心が折れてしまいそうな辛そうな顔と、様々な表情を見せてくれる、みみずくの絵に感情移入させられた点も、大きいのだと感じました。

    また、出久根さんの絵の凄さには、今回、徒ならぬものを感じ、みみずくの、光を纏ったような自信に漲る美しさもそうだが、それ以上に凄まじいのが、まるで和紙に描いたような、これぞまさに桜の幻想的美しさだといった、花びら一枚一枚がそれぞれに、朧に儚くて、油断すると気が違って、あちらの世界に足を踏み込んでしまうくらいの、妖しさにも満ちた、昼も夜も思わず感嘆のため息が出てしまう、ここまで来ると、まるで桜でない新たな美しき創造物を見ているかのようです。

    そして、安房直子さんの物語の素晴らしさも同様で、『きれいな女の子が、ちんまりすわっているのを』や、『そのえがおが、とてもあどけなかったので』といった、お人柄を感じさせる上品で心癒される、優しい文体に加えて、前回読んだ「きつねの窓」のような、ハッピーエンドでもアンハッピーエンドでもない、独特なエンディングが印象的でした。

    もしかしたら、フィクションものの創作物というのは、中途半端な感じというよりも、どちらかに傾いた、はっきりとした答えのようなものを提示した方が、読者的には良いのかもしれない。

    しかし、実際に私たちの人生で起こった事を振り返ってみると、どちらかといえば、はっきりとした答えの無い、時に不条理さを感じさせるような無常観を感じる事の方が多くないだろうか?
    それはまるで、時にどうしようもない人知の及ばない何かが介入しているような、そんな不条理さ。

    例えば、好きな人のために一生懸命頑張りました。
    けれども、それは報われる事なく、一瞬の内に叶えられなくなってしまいました。

    もし、そんな光景を見てしまったとき、どうしてあげればいいのか。声をかけてあげるべきなのか、そっとしておいてあげるべきなのか。おそらく、一生懸命考えて迷うと思う。何故ならば、自分がそのような経験をしたときに、どうして欲しいか、よく分からないからであり、それは思いが強ければ強いほどに、より高まり続けて留まることを知らない辛さ悲しさだと思うが、安房さんの物語の場合、『結果こうなりました』という形だけで幕を閉じ、そこからほのかに漂い広がってゆく余韻には、当事者以外の感情の入る余地の無い、その人自身の人生、物語であるイメージが強く、そこに、たとえ何が起ころうと、自分の気持ち次第で人生は生きていけるものだということを感じさせられたのが、無常観と共に、また立ち直っていけるのではといった、希望と一緒くたになっていて、心揺さぶられながらも励まされる点に、とても現実的な感傷を抱かせられたのが、私には印象的でした。

    さらに、この物語の場合は、それを高尚化した不変性を求めているようでもあり、それは安房さんの、『それほど、桜の花はうつくしかったのです』の文章や、出久根さんの絵の印象もあって、あまりに美しすぎる故に、どこか非現実的な儚さを感じさせるところまで至った、それは、私には美しさを通り越した、この世ならぬ危うさを感じられて、それに永遠の愛を重ね合わせているのも、そうした存在は永遠でないからこそ、いいものなのだと言っているようにも思われて、それが、巡りゆく季節の素晴らしさ・・桜は春のあるひと時のほんの一瞬だけ、美しく咲き誇るから、より心動かされるものがあるのだと。

    しかし、非現実的な儚さを美しさの中に見出せたからこそ、一生懸命に人生をかけたくなる、それは、儚さという、見えないものの中にあるものと、人の心の中にあるものとに、似通ったものがあるから、つい求めたくなるのであろう、きっと。
    そして、捉え方を変えれば、それは人間讃歌とも感じさせる愛おしさである。

    それから、『みどりのスキップ』の言葉の意味するところ。私には全くの想定外でした。

    改めて、安房さん、こんな素敵な発想されるのだなって感じましたし、この言葉は、みみずくにとってと、他の者とでは、全く印象や意味合いが異なってくるであろう、そんな点にも、まるで決まった答えの無いような人生に擬えた、安房さんらしい、ファンタジーの中にも確かな現実味を感じさせられる、人生の儚さと愛おしさを知る物語です。

    • たださん
      猫丸さん
      私もそう思います。
      ああした、どちらとも取れない終わり方にも、安房さんの、正直なところ、といった気持ちが滲んでいるようで、なんだか...
      猫丸さん
      私もそう思います。
      ああした、どちらとも取れない終わり方にも、安房さんの、正直なところ、といった気持ちが滲んでいるようで、なんだか切ないですね。
      2023/07/10
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      たださん
      出久根育の原画展ですって、、、観に行きたいなぁ~

      出久根育 『ぼくのサビンカ』絵本原画展 | 教文館ナルニア国
      http...
      たださん
      出久根育の原画展ですって、、、観に行きたいなぁ~

      出久根育 『ぼくのサビンカ』絵本原画展 | 教文館ナルニア国
      https://onl.sc/j2CUw91
      2023/07/26
    • たださん
      猫丸さん
      良いですねぇ(*'▽'*)
      しかも猫の原画が見られるなんて!
      銀座に、このような児童書店があるのは初めて知りまして、行きたいのは、...
      猫丸さん
      良いですねぇ(*'▽'*)
      しかも猫の原画が見られるなんて!
      銀座に、このような児童書店があるのは初めて知りまして、行きたいのは、やまやまなのですが、仮に連休取れたとしても、東京行くだけで、いろいろ厳しくて・・・
      猫丸さん、観に行けるといいですね(^-^)

      『ぼくのサビンカ』は、是非とも読みたいと思います。
      教えて下さり、ありがとうございます(^^)
      2023/07/26
  • ●あらすじ
    花盛りの桜林。
    林の番兵みみずくは、満開の桜の下で、桜の精「花かげちゃん」と出会った。

    あどけない笑顔がかわいい花かげちゃんだが、桜が散ったら消えてしまうのだと言う。
    この日から、みみずくは花かげちゃんの番兵になることを決意する。桜を散らす花見客や雨風や次の季節が決して林を訪れることのないよう、寝ずの番を続ける。たった一度出会っただけの花かげちゃんのために。


    ●感想
    結末はわかっていながら 一本気で健気なみみずくをラストまで見守るのは切なかった。

    みみずくが花かげちゃんを「好きになった」とか「恋をした」とか「愛した」とかは一言も書いていないのが、私はすごく良いなと思った。
    みみずくは、ただ花かげちゃんを守りたくて、抗えないものに懸命に挑んだ。誰かを守りたいと強く願ったときに、周りからは滑稽に見えるほどの純粋な力がわいてくる。
    その力に「恋」などの名前は与えられず、ただ事の顛末が描写されていくだけ。そのおかげで、読み手それぞれの感じ方や経験を重ねやすい、懐の深いお話になっていると思う。

    みみずくの願いかなわず林がいよいよ夏になるというとき、まず不穏な前兆があり、いくつかの僅かな変化があり、不思議な風が吹き、遂にみどりのスキップが林に押し寄せる。
    この一連の流れがとても幻想的で、しかも季節が一つ進む過程のリアリティーも感じられて、素晴らしかった。
    例えばふしぎな風の描写はこう↓
    「このとき、ふしぎな風が、ふいてきたのです。とてもながい足をした銀色の風でした。この風が、すてきなにおいをはこんできました。うめの実のにおいでした。ばらのにおいでした。くちなしのにおいでした。やまゆりのにおいでした。」
    安房直子は風が見える人だったのか。
    季節そのものの姿が見える人だったのか。


    みみずくにとっては辛い結末であるにも関わらず、最後のページの挿絵は意外なほど明るく生命力に溢れていて、それが物語の余韻をさらに深くする。
    若々しい青葉の匂いやキツネの奥さんの淹れた濃いコーヒーの香りが漂い、タヌキの子供たちの楽しそうな声が響いてきそうな初夏の情景。
    花かげちゃんとの別れやみみずくの心情を伝える言葉も何もなく、あっという間に季節が変わって物語が終わる。
    ああそっか、季節の移り変わりはこんな風にダイナミックで儚く、切なく清々しいんだねと思いながら、悲しいような解放されたような気持ちで読み終えた。


    安房直子の文と出久根育の絵が、互いの魅力を高め合っていて、このお話にはこの絵しかないなという感じ。
    ふわっと淡くて儚い雰囲気の中にわずかに緊張感が漂う出久根さんの画風が、繊細で切れ味の良い安房さんの文章にぴったりだと思った。
    特に印象的だったのは最初のページ。
    「みみずくは、大きな目玉を、ぴかぴかさせて、桜の木のてっぺんにとまっていました」
    この一文と添えられた絵を見て、この絵本が大好きになってしまった。


    そういえば、作中ちょっとだけ出てくるキツネの奥さんのことも書いておきたい。
    睡魔に苦戦するみみずくに、ときどき熱いコーヒーを差し入れしてくれるキツネの奥さん。
    情はあるけど、そこまで献身的な風でもなく、みみずくに特別寄り添いすぎはしないし無理もしない。本当に自分の身近にいそうな存在感・安心感があって、こういう人間味あるキャラクターは大好きだ。
    満開の桜林に花見にも入るなだなんて勝手なことを言って四六時中ギロギロ見張ってるみみずくは、周りからしたら若干迷惑そうだし近寄ると面倒そうだ。そんなみみずくにさらっと必要な世話を焼けるキツネの奥さん、結構すごいと思う。
    最後の挿絵でも、夏の林で一人呆然とするみみずくに、ちょっと気にかけるような視線を送っている奥さんが描かれている。
    PTA活動の関係で、去年から地域の子供たちやお年寄りと接する機会がぐんと増えた。人との接し方に悩むときも多いけど、このくらいの感じのおばちゃんでありたいもんだなぁなんて思った。

  • 没後10周年の年に出版された偕成社の「安房直子コレクション」を持っている。
    当時としては清水の舞台から飛び降りる覚悟で買った全集だった。
    そして、没後20周年になる今年は、単行本化が盛んになるらしい。

    この「みどりのスキップ」はその一冊で、物語にぴったりとマッチする挿絵は出久根育さんのものだ。
    表紙と同じ絵が現れるはじめの一ページで、目が釘付けになってしまう。
    「みみずくは、大きな目玉を、ぴかぴかさせて、桜の木のてっぺんにとまっていました」
    大きな目玉をぴかぴかさせて見張っているのは、美しい桜を守るため。
    それもそのはず、みみずくは、満開の桜の下にいた「花かげちゃん」と出会ってしまったのだ。
    可愛い可愛い「花かげちゃん」を守るためなら、絶対寝ないで桜を守るんだ・・
    そう、みみずくはそれはそれは頑張った。
    しかし、ほんの少し眠くなってしまった間に「みどりのスキップ」がやってきてしまった。
    ユーモラスでありながら、なんともうら悲しいのは、ときは流れ季節は巡ることの無常を思うからだろう。
    この世に、変わらぬものなどなにもないのだ。
    どんなに切なくても、それが自然の摂理ならば、身をもって受け入れるしかない。
    安房直子さんの文章は美しくリズミカルだ。
    異界の不思議さをやさしく描く出久根さんの手によって、夢のような春の一冊が復元された。
    今後も新しい画家さんによる工夫を凝らした装いで、安房直子さんの名作が出るという。
    ああ、楽しみだ。
    全集で読んだ一編を、挿絵入りの単行本でまた読めるなんて!
    児童書のカテゴリーに入れたが、大人向けでもある。
    さて、わたしもこの春、「花かげちゃん」に逢いに行きたいな。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      nejidonさん
      偕成社が安房直子コレクションの重版をされたそうです!
      「一部の巻が長らく欠けていた『安房直子コレクション』の重版を行い...
      nejidonさん
      偕成社が安房直子コレクションの重版をされたそうです!
      「一部の巻が長らく欠けていた『安房直子コレクション』の重版を行い、久しぶりに全7巻がそろいました!」
      溜息しか出ません、、、
      2022/01/01
  • 〝みみずくは、桜の木のてっ辺にとまっています...みみずくは、花盛りの桜林に、怪しいものが入り込まないよう、毎夜毎夜、見張りをしている「番兵」でした...ある時みみずくは、満開の桜の下に、綺麗な女の子が、ちんまり坐っているのに気がつきます「あんた誰だい?」「あたし、花かげちゃん。花が散ったら、消えてしまうのよ。あたしは、桜の花の影なんだから・・・」 みみずくはこの子を護るって決めます。そんな聞こえてきた不思議な音 トット、トット、トット・・・〟桜が散って、青葉に染まりゆく情景を描いた心穏やかになる絵本。

  • 安房直子って、凄く切ない話のイメージがあって、、、出久根育のイラストがそれを引き立てそうで読むのが怖い。。。

    偕成社のPR
    「安房直子の名作に美しい挿絵をつけた絵童話

    大好きな花かげちゃんを、寝ずの番で守ろうとするみみずくの、はかない思いと、たからかにやってくるみどりのスキップの様子が、美しい文章と絵で綴られます。」

  • 安房直子さんのせつないお話
    やさしくってリズムのある文
    さすがです

    そして 出久根育さんの絵
    これがまたなんとも素敵

    みどりのすきっぷもすてきなんです

    ≪ はなかげをそっとみまもり はやしには ≫

  • 少し悲しいお話。

  • 森の番をしているみみずくが、かわいい花かげちゃんに出会う。みどりのスキップは、花を葉にかえるようせいで、だれでもねむくすることができる。
    みみずくは一生けん命みはっていたけど、スキップにねむらされて、花かげちゃんはいなくなってしまった。次の年も花かげちゃんには会えたけれど、たくさんのスキップにねむらされてしまった。
    みみずくはがんばった。けど、かわいい花かげちゃんはいなくなってしまった。ちょっとさびしいお話だった。(小4)

  • さくらの花の精、花かげちゃんに出会って恋をして眠らずに守ると決めたみみずく。

    だれも桜林に入れないなんていじわるな気もするけど、それだけ一途なのでしょう。

    シンプルな挿絵がお話をより魅力的にしています。

  • 児童小説の棚にありました。
    絵本と児童小説の間。。って感じかな。

    桜が散ってしまうことは
    みんなが知っていることだけれど
    一生懸命、桜の花を守るフクロウがいるなんて
    ちょっと切ないけれどとっても優しいお話。

    トット トット トット トットとやって来る
    緑のスキップだって決して悪くないんだよなぁ。

    桜のピンクと緑の葉っぱが一緒にいれる時期は短いけれど
    きっと仲良しだと思う。
    とっても綺麗だもの。
    優しいお話でした。
    出久根育さん の絵も素晴らしかった、なんて綺麗な桜でしょう。

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著者プロフィール

安房直子(あわ・なおこ)
1943年、東京都生まれ。日本女子大学国文科卒業。在学中より山室静氏に師事、「目白児童文学」「海賊」を中心に、かずかずの美しい物語を発表。『さんしょっ子』第3回日本児童文学者協会新人賞、『北風のわすれたハンカチ』第19回サンケイ児童出版文化賞推薦、『風と木の歌』第22回小学館文学賞、『遠い野ばらの村』第20回野間児童文芸賞、『山の童話 風のローラースケート』第3回新見南吉児童文学賞、『花豆の煮えるまで―小夜の物語』赤い鳥文学賞特別賞、受賞作多数。1993年永眠。

「2022年 『春の窓 安房直子ファンタジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

安房直子の作品

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