なつのいちにち

  • 偕成社
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レビュー : 123
  • Amazon.co.jp ・本 (32ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784033313405

感想・レビュー・書評

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  • 濃い藍色に沈む夜空。
    アーケードに連なるちょうちんの灯り。
    露店から漂う林檎飴の甘酸っぱい匂いと
    少しずつ遅れて響く花火の音。
    うちわを手に浴衣を着て着飾った人たち。
    扇風機からの生ぬるい風と
    ラジオから聞こえるプレイボールのサイレン。
    縁側で食べるスイカのみずみずしさと
    喉を刺すキンキンに冷えたラムネの味、
    夕立を予感させる切なく甘い雨の匂い。

    子供の頃はいつまでもいつまでも
    ずっと続いていくような気がしていた長く暑い夏の日。
    けれどもそんなことはあり得ないって、大人になった僕は知っている。
    だから夏の夕方は
    切なくて物憂げで気だるいのだ。

    子供の頃の僕はいつだって冒険への扉を探していた。
    山や川はもちろん、
    押し入れの中も屋根裏部屋も工事現場にだって
    冒険への扉は潜んでいた。

    映画『スタンド・バイ・ミー』や『グーニーズ』に出てくる少年たちのように
    子供だけが入れる秘密基地を作ったり、
    山を探検したり、早朝に起きてカブトムシを捕りに行ったり、
    如何わしい本を探して夜のピクニックに出向いたり(笑)、
    自転車レースしたり、
    アスレチックコースを作ったり、
    毎日が冒険の連続だった。

    この絵本を開くとそんな夏の日が
    鮮烈によみがえってくる。


    あついあつい夏の日。男の子は虫取網を持って出かけていく。
    空にはたくさんのカモメと入道雲。あたり一面のたんぼのあぜ道。
    そして海岸沿いをひた走る男の子。

    兄にいいところを見せるため
    『きょうはひとりでクワガタムシをつかまえるんだ。』

    でっかい牛小屋の前を通り、
    神社の石段をハァハァ言いながらのぼり、
    生命力の光を撒き散らしながら
    山を脱兎のごとく駆けめぐる男の子が本当にかっこいい。

    山は生きものたちの宝庫だ。
    鬼ヤンマやカワセミ、蝶の大群、森の中こだまするセミの鳴き声、
    ショウリョウバッタにてんとう虫、
    そして男の子は
    目標のでっかいクワガタムシをみつける。

    高い木の上にいるクワガタムシは
    子供にとっては鯨ほどの巨大な敵に見えたに違いない。
    案の定、力の差は歴然。何度やっても何度やっても届かない。
    泥まみれになり地面に叩きつけられ、何度も木から落ちながらも
    決してあきらめない男の子。
    そしてついに彼は自分だけの力で、
    クワガタをつかまえるのだ。

    頼りない男の子はいつしか
    たくましい少年の顔に変わる。
    降りしきる雨の中、ずぶ濡れになりながらも
    クワガタをつかまえた喜びを隠しきれない少年をみごとに閉じ込めた
    カラフルで躍動感みなぎるダイナミックな構図が素晴らしい。
    意気揚々と緑の中かけぬけていく少年を見開きのアップでとらえたページの迫力は
    壁に飾っておきたいほどのカッコ良さである。

    子供は屋根から飛んだり、ブランコで回転したり、川で泳いだり、木から飛び降りたり、
    遊びの中から『危険』を体験して
    無意識にその、さじ加減を覚えていく。 
    ここから先は死が待ってるということを
    子供ながらも遊びの中で
    『感覚』として身体が理解していくのだ。

    山の中、巨大な敵に一人で立ち向かっていった少年も
    今日の冒険譚を忘れることはないだろう。
    自分の足を使って、見て触って、肌で感じた『生の体験』は、
    どんなに年月が経とうとも記憶の核となって、 自らを支えてくれる。

    誰もの記憶の底に眠る『あの暑い夏の日』を真空パックしたかのような、
    音や匂いまで閉じ込めた秀逸な絵本なので、
    夏にトリップしたいときに
    何度も見返せるのも嬉しい。

  • 4歳1ヶ月男児。
    自分の子供時代がブワッと蘇ってきて、なんとも言えない気持ちになる。
    今年の夏は、一緒にセミを探したり、バッタを掴めたり、モグラの穴をほったり、虫探し探検をしたり・・・。
    この絵本の男の子のような夏を、これからどんどん過ごしていくんだろうな。がんばれ。

  • 衝撃的におもしろかった!
    構図から、ことば選びから、斬新で新鮮!
    展開もドラマチックで、
    いい映画を観終わった後のような余韻ののこる、
    素晴らしい絵本!

  • 夏にぴったりの絵本。夏休み前に、必ず読み聞かせる一冊。

    少年の頃、あったなあーと。
    そして、いまの子供たちには、
    少年時代は、こうだったんだよーと。

    変わらないもの、変わりゆくもの、
    ちゃんと伝えたいです。

  • “男の子の夏”って感じの絵本。文章は少なめ。夏の暑さとか、匂いとか音が聞こえてくる。
    絵で夏を表現するってすごいなあと思います。

    大人が読んで懐かしく感じるかな。大人が楽しく読んでいる姿もよく見ます。
    もちろん、男子専用絵本ではありませんよ。

    なんだか感覚に訴えてくる絵本ですね。

  • 「なちゅのいちぢち」流石男の子、ツボにはまったよう。最後のページで笑い喜びます

  • ぼくなつを少年だった息子とやった夏を思い出す…それじゃ風情もなにもあったもんじゃないけど、表紙をみるとつい陽水の少年時代が流れてくる。ゲームキャラは上田三根子さんでしたが、この絵本ははたこうしろうさん。
    陽水の歌だけじゃなく、開けば、蝉の声、夏の空気や息遣い、草のにおいなど、五感が子どもの頃の夏を思い出させてくれる。
    虫取り網に麦わら帽子、夢中で追いかけたあの田舎の夏を。
    息子にこんな夏を思い出させる体験させてあげれなかったことを不憫に思う。コントローラーの感覚でも蘇ってくるのかしら。

    映画のワンシーンのようなアングルとか、どれも暑中見舞いにしたくなる、夏らしい場面が素晴らしい。
    暑くてうだるこの時期だからこそ、この絵本で夏っていいなぁと思いたい。

  • 少年が一人、山へクワガタムシを採りに行った、ある夏の日の話です。
    なんと言っても、絵がとても素晴らしいです。
    近頃の、説明の多い絵本と違って、言葉が少ないのも、とても気に入っています。
    セミの声、夏の風、滝の音・・・絵がすべてを語ってくれます。
    懐かしい夏の日が、耳や肌にびんびん伝わってくる感じ。
    あ、匂いまで、、、夏の匂い。

    私は、何度読んでも、じーんと涙が出てきてしまうのです。

  • 今の子どもにもこの爽快さがわかるといいのですが。

    躍動感、達成感。見事な表現です。

  • 子供の頃の理想の夏がこの中にあった。
    どこか懐かしく、どこかかなしいあの頃の夏ともう一度出会える本です。

    ついビックブックも欲しくなりました。

著者プロフィール

はた こうしろう
1963年、兵庫県西宮市で生まれる。絵本作品に『なつのいちにち』『えほん図鑑 へんてこ! りくのぜつめつどうぶつ』『にちようびのぼうけん!』『いっすんぼうし』『ゆき』「ショコラちゃん」シリーズ(文・中川ひろたか)「クーとマーのおぼえるえほん」シリーズ「おとうさんもういっかい」シリーズ『はじめてのオーケストラ』(原作・佐渡裕)『どしゃぶり』『ぶう ぶう ぶう』『ぎゅう ぎゅう ぎゅう』『こちょこちょさん』『まてまてさん』(以上5作・すべて文・おーなり由子)『えほん遠野物語 でんでらの』(原作・柳田国男 文・京極夏彦)などがある。


「2019年 『あなたがおとなになったとき』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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