- 本 ・本 (71ページ)
- / ISBN・EAN: 9784034395806
作品紹介・あらすじ
ボローニャ・ラガッツィ賞特別賞、ニューヨークタイムズ・ニューヨーク公共図書館絵本賞などを受賞し、海外からも高い評価を受けている絵本作家が初めて手がける絵童話!
トガリネズミは働きもの。朝おきてから夜ねるまで、毎日きまった予定をこなし、つつがなく暮らしています。でも今日はひとつだけ、いつもと違うことがありました! ひとめ見たら忘れられない、つぶらな瞳のトガリネズミ。そのささやかでありふれた日常を、独特のおかしみをもって描きます。
感想・レビュー・書評
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動物に人間のような生活をさせる物語自体は、よくあると思うのだが、ここでは可愛らしくデフォルメした、それではなく、とても現実的であり、おそらく私たち大人が一般的に体験しているような、ごくごく平凡な日常を描いている点に、素晴らしさがあるのだと思います。
みやこしあきこさんの作品は、「もりのおくのおちゃかいへ」に続いて二冊目だが、彼女が数々の賞を受賞されているのも、今作で納得出来るような、その様々な要素として、まずは、細密で点描のような絵の中に美しさともの哀しさが入り混じる、水彩と木炭の描き方に、やはり惹き付けられて、更にそれを、モノクロとカラーで交互に描き分けているのには、一見、単なる規則性と思わせながらも、ちゃんと物語の展開に合わせて、トガリネズミの心象風景を実に効果的に描いており、読んでいて、強い共感を引き起こす。
例えば、トガリネズミが出勤するために乗る、まだ人の少ない早朝の電車の中のモノクロの静謐さに、何か幻想的でありながら、その顔見知りばかりの空間には、トガリネズミのどこか寛いでいる精神世界も表している、そんな不思議な光景から一変して、電車から降りて外に出たときの、町の人の吐く息の白さで寒さを実感させる、カラーで描いた、冬のクリアな青空の光景には、まるでトンネルを抜けた後にパッと広がる、絶景を目の当たりにしたような鮮やかさであり、それはまさに、晴れた日は一駅前で降りて仕事場まで歩く、トガリネズミの真っ新で晴れやかな気分を、モノクロからカラーへと転換させることで、より効果的に表しているのだと思う。
次にあげるのは、トガリネズミの生活風景であり、上記のような通勤も含めて、彼には決まったルーティンワークがあり、それをコツコツこなしていく中でも、密かに見つけた、ささやかな楽しみや憧れが印象深く、それは仕事帰りに必ず立ち寄るパン屋さんや、趣味の一つのルービックキューブに、夢のモチベーションにするため寝室に貼ったポスターや、朝食に必ず使うお気に入りのお皿と、そこには、お金を必要以上にかけなくても得ることの出来る、人生の喜びを見出せるようで、思わずハッとさせられるものがある。
また、その生活風景には、トガリネズミ自身の姿も印象的であり、表紙の電話を取る姿や、ちんまりと正座している姿の可愛らしさもそうだが、特に私は、テレビを押す健気な後ろ姿や、いいことがあったにも関わらず、どこか哀愁を感じさせるベッドに入ろうとする姿に、心動かされるものがあり、まるで私自身が哀愁感漂わせている姿を、客観的に見せてくれているようで、なんだか切なくなる。
そして、更に印象的なのが、本書に於ける物語を、どこかの数日間ではなく、一年を通して見た人生観として描いている事であり、そこには、彼のルーティンワークの一つである、毎週各曜日に何をするのかを決めていた点にも大切な意味があって、彼にとっては、そこへ向けて、かけがえのない思いの深さを宿らせていた証でもあったが、中には、ここに書かれていない辛く大変な日々もあったと思うし、振り返ってみれば、それだけでは無い、ささやかな幸せもいっぱいあったことに気付くことで、改めて、良い年だったと実感することが出来、そんな人生の幸せを実感するには、目先の数日間だけではなく、年間通してどうだったのかという、広く捉える視点を持つことが大切であることを教えてくれる。
それはきっと、私たちのささやかな日常も、見直してみると、こんなに素敵なことがあったのだということを、トガリネズミを通して、改めて気付かせてくれるようでもあり、そんな思いで更に本書を繰ると、見れば見るほどに愛しさが込み上げてきて、気付いたらきっと、自分の姿と重ね合わせてしまう、そんな日常を愛することへの共感が、また嬉しい気持ちにさせるのだと思う。
最後に、本書のこだわりとして、本編とは関係ないページにまで存在する、思わず目に留まってしまう、素朴ながらも素敵な小物たちがあり、それは、昔から愛用しているブラシ(イニシャルのTはトガリネズミのT?)、鍵に付けた飛行機のキーホルダー、デザインの素敵なビスケットに、裁縫セット、壁に貼ってあるものたち(料理のレシピメモ、博物館のチケット、ドーナッツの割引クーポン券)に加え、果てには、使い古して縮みに縮んだ鉛筆にまで、トガリネズミの生活感が滲んでいるような愛おしさがあり、ついでに書くと、見返しの白を地にした赤と緑のタータンチェックが、彼のマフラーのデザインであるのも、彼の人生に於ける、必要最小限の素敵なものたちに囲まれた、日常の素晴らしさを物語っているようでありながら、まるで、彼自身が本書を作ったのではないかと思わせる、その一つ一つの小物の絵にまで、丹精込めた愛の賜物は、かつて、みやこしさんが南ドイツの森で見かけた、トガリネズミに感じた、
『その繊細で美しい毛並みがずっと忘れられず、この本ができました』
という強い思いが受け継いで、そうさせたのだろうと思わせる、そこにはきっと、人間と同等の愛しさが込められているのでしょう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
絵とともに3編の物語もとても素敵。
可愛らしいトガリネズミに哀愁漂う風景画がなんともいえず、ずっと眺めていたいと思うほど。
ちいさなトガリネズミの一日は、とても規則正しくて見ていても清々しい。
けっして窮屈だとかは感じなくて、晴れの日は一駅前で降りて犬を数えながら歩くとか…何気ない感じも良い。
いいことがあったのは、ルービックキューブがそろったこと。というのも微笑ましい。
トガリネズミのあこがれは、ガレージセールで目に留まりマフラーと交換してもらった古いテレビで見た美しい景色で、南の島へ行くこと。
トガリネズミのともだちは、毎年冬にたずねてくる。
買い出しをして、料理を作り、念入りに掃除して、部屋も飾りつける。
一年ぶりに会うともだちと料理を食べながらむかしの思い出やこれからの夢を語らい、楽器で得意の曲を披露し、みんなで歌う。
とても楽しい時間を大切なともだちと過ごす。
ちいさなトガリネズミが主人公のこのお話は、自分に置き換えて想像するとどうなんだろうと…。
規則正しく生活できてるかなぁとか、今の暮らしを楽しんでいるかなぁとか、ともだちを呼んでいっしょに食べて、語って、楽しんでるかなぁって考えると全くできてないなと、寂しい自分に気がついた。
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特に大人にオススメの素敵な絵本。毛のタッチが繊細で触れたくなる。毎日決まった朝からのルーティーンが丁寧で、仕事もこなすし、年末は友達を招いて食べておしゃべりしたり、充実した毎日だけど時折哀しさもふわっと感じさせる。寒い季節に温かい飲み物を飲みながらぜひ。
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こういうのはなんというのでしょう、ちいさなトガリネズミが、人間のいる世界で人間と同じように電車通勤して仕事をして、買い物をして、お友だちと会ったりして、暮らしているという世界の描き方、きっと文学研究上はなんとかというような名前のついた手法なのかもしれないですが、好きなんですよね私。
そして語られる内容も、働いて、同僚と話して、家事をして、ゆっくりラジオを聴いて、ルービックキューブを楽しんで、時には思い切った買い物をして、遠い世界を夢見たりして、久しぶりの友達との時間を過ごして。なんとも満ち足りた気持ちになった。-
ドーナツのクーポン券!さすがよく見られてますね。って私が見てなさすぎるのかもしれませんが…(絵本作家のみなさんごめんなさい)。またじっくり見...ドーナツのクーポン券!さすがよく見られてますね。って私が見てなさすぎるのかもしれませんが…(絵本作家のみなさんごめんなさい)。またじっくり見てみようと思います!2023/07/24
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あっ、でも、本編で無くて、確か目次に描かれていた絵だったと思います。
その本自体を大切にしたいような丁寧な作り込みに、思わず、トガリネズミ自...あっ、でも、本編で無くて、確か目次に描かれていた絵だったと思います。
その本自体を大切にしたいような丁寧な作り込みに、思わず、トガリネズミ自身が本書を作っているのではなんて、思ってしまいました。
他にも博物館のチケットとかあったり、それだけで、彼の生活ぶりや嗜好を想像出来て面白いですよね(^^)2023/07/25 -
なるほど、細かいところからも色々想像できますね。絵本の楽しみ方を教えていただいた気分です♪なるほど、細かいところからも色々想像できますね。絵本の楽しみ方を教えていただいた気分です♪2023/07/25
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トガリネズミは、丸い見た目がすごくかわいいです。規則正しい生活をしているところは、家族にいたらいいなと思うし、パーティーとかも楽しんでいるところは、ぼくも仲間に入りたいと思う。でも、ぼくは、あわてんぼうだから、トガリネズミにはなれない。なんでもやってもらって、友だちというよりは、お母さんと子どもみたいになりそう。
トガリネズミ、大好き。
それから、絵がきれい。一番好きなシーンは、みんなでテレビを見ているところ。すごく気持ちよさそう。幸せって感じ(小6) -
読書初め。みやこしあきこさんを読むのはこれが二冊目。物語が始まる前の一つひとつの挿絵から引き込まれてしまった。小さな物の細部まで丁寧に温かく優しいタッチで描かれていて、大好きな絵だなぁと改めて。「トガリネズミのいちにち」、「トガリネズミのあこがれ」、「トガリネズミのともだち」の三編の物語たちは、日々の生活を細かく切り取っていて、派手なことは起きないものの、淡々とした日常こそ平和で尊いものだと思わせてくれる。トガリネズミみたいに「うん、いいとしだった」と小さく呟くような一年を積み重ねていきたい。どの場面も愛おしく、新年早々読んで良かった絵本。
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とにかく絵がカワイイ、ノスタルジックな雰囲気も好き
日常の生活に幸せが詰まっていると再確認できるような作品 -
子へではなく自分用に買った一冊。クリスマス版の装丁に惹かれて。トガリネズミの日常がなんとも愛おしい。じわっと心が温まる絵本。
子がもう少し大きくなったらクリスマスの時期に一緒に読みたい。 -
とがりねずみの1日が人間のように描かれている。
ほのぼのする。
著者プロフィール
みやこしあきこの作品





