霧の灯台 (黒ねこサンゴロウ 5)

著者 :
  • 偕成社
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  • Amazon.co.jp ・本 (133ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784035282501

感想・レビュー・書評

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  •   どうしてか、じぶんでもよくわからなかった。

      なにか、たりないものをさがしているような気がした。

      ねじとか、ねじまわしとか、そんなものだ。

      あちこちさがしまわっているが、みつからない。

      いや、いったいなにをさがしているのか、それがわからない。

      おれは、どこからきたのか。

      なぜここにいるのか。

      これからどこへいくのか。

      なんのために?

    気持ちがなぜかささくれ立ち、やせて目つきが悪くなったと
    サンゴ屋のおやじに心配されるサンゴロウ。

    夏が過ぎて秋になり、鳥の研究をする学者・イソキチに、
    南海島まで送り届けてほしいという依頼が入る。

    その依頼を受けたサンゴロウは、「風がかわるような気がした」。

    イソキチを南海島で降ろす。

      おれのさがしているものは、ここにはないな。

      そいつは、めずらしい花でも渡り鳥でもない。それだけはたしかだ。

    あてもなく島や猟師町を回ったが、何もなかった。

    ひとりになったら、あのいらだちがもどってくるような気がした。

    酒が急にまわってきて、ねむった。

    いつのまにか、霧がでていた。

    そして・・・・。

    霧のむこうに、灯台があった。

    そこには、灯台守のカイがいた。

      「歓迎するよ、サンゴロウ。きみを、まってた。」

      なぜだか、そのとき、おれは、ふとおもったんだ。

      おれが、夏じゅうさがしていたのは、この灯台じゃないかな、と。

    サンゴロウは、灯台で霧がしみこんだ服を乾かし、
    しばし滞在することになった。

    灯台とカイには不思議なことがたくさんあった。

    ガラスびんの中にあるミニチュアの船の中に、
    マリン号にそっくりなものがあった。

    サンゴロウが自分の船に似ているその模型に驚くと、
    カイは、でたらめにつくったというが、
    「こんな船に会いたいと、おもっていたのかもしれない」とも言う。

      「うみねこ島の話をききたいな。きみと、きみの船の話を。
      どこからきて、どこへいくのかをね。いいかな。」

      「いいよ。」

      おれは、こたえた。

      それを、話しにきたんだよ。たぶんね。

    この「どこからきて、どこへいくのか」は、
    単に現実的なマリン号の行き先や冒険だけを指すのではない。

    マリン号の航路とは、すなわち、サンゴロウの生き様そのものを指すのではないか。

    サンゴロウは、自分のことを語るために、自分のことを知るために、カイを必要としたのだ。

    人はだれでもそんな存在を必要とするのではないだろうか。

    そして、だれでも必ずそんな相手に出会えるのではないだろうか。

    ふたりは、とりとめもなくいろんなことを話した。

    サンゴロウは、カイのギターを聴いた。

    海の声によくにていた。

    サンゴロウは、カイも海の声を聴いているのだと確信する。

    それはふたりが感性の点で確かにつながっていることを表現するエピソードだ。

    「ワン、ツー、スリーでいこう。ギターが海で、きみは風だ。」

    ギターとフルートの曲をギターと口笛で演奏するふたり。

    カイは、サンゴロウになんのために生きているのかと問う。

    とつぜんきかれて、答えにまよったサンゴロウに、カイは自分が教えるという。

      「きみは、あの船にのるために生きてるんだ。

      そして、あの船は、きみのためにあるんだ。

      きみが生きてるかぎり、船ははしる。」

      「サンゴロウ、だいじなのは、それだけだよ。

      きみが、どこからきて、どこへいくにしても、
      それは、きみがそんなふうにえらんだんだ。

      なんにも心配はいらない。

      きみが死ぬときは、船も死ぬ。ハッピーエンドだ。」

    サンゴロウが、「なぜ、そうおもう?」と問うと、カイは答える。

      「おもうんじゃないよ。ただ、わかるんだ。」

    おそらく、サンゴロウは、この言葉を聞くためにここに来たのではないか。

    そして、サンゴロウがカイを必要としただけではなく、カイもまたサンゴロウを必要としていた。

    カイはあることに後悔を残して灯台に留まり続けていたのだ。

    カイはその言葉で、サンゴロウに、生きている意味を伝えたが、
    サンゴロウは、カイにサンゴロウなりの方法で、それを伝えるという役割を果たすのだ。

      「なぜ、おれを、ここによんだ?」

      「それは、たぶん……きみが、ぼくににてるからじゃないかな。

      ずっと、まってたんだ。話をしたかった。きみと話せて、よかった。ほんとだよ。」

    ケン、ミリ、ナギヒコ、イカマルなど、いままでシリーズを通して、サンゴロウと対話して、
    サンゴロウを映し出す役割を果たした登場人物たちは何人もいたが、カイはこの中でも別格である。

    なぜなら、「のれよ! いっしょにいくんだ!」とサンゴロウが言った唯一の相手であるから。

    私にとって本書は大人になってからはじめて読んだ本であるが、
    おそらく、読み手が成長するごとに、違う味わいでメッセージを返してくるタイプの本だと想像できる。

    本書の表現するものは、小学校中学年では理解できないところもあるかもしれない。

    だが、それでも、なぜ生きるのかを問うものについてはわからなくても出会っておくことをお勧めする。

    本書は、航路で出会う霧が象徴するような重さを持つが、
    それゆえに、私の中でのこのシリーズの価値を引き上げもした。

    私が見つけたものは、私が相手を必要とするだけでなく、相手もまた私を必要とする。

    それは、本でも同じこと。

    だから、本語りを続けるのだ。

    そんなメッセージをもらった気がした。

  • 途中から涙が止まらない

  • 泣ける

  • 旅の途中で出会ったカイの秘密、意外でした~!!
    銀波号の船長、なにやってんだよっ!って言いたくなるし、カイがかわいそうになったな~
    友達に、この事を話したら
    「自分が生きなきゃ、なんにもならないんだから、自分の命も守るべきだ」
    って言ってました^^ナギヒコと同じ考えなんですよね

  • 今回も一気読み。

  • 今も昔もずっとすきなシリーズ。全10巻、何度読み返したのかわからない。とくにこの霧の灯台は素敵です。

  • 『黒ねこサンゴロウ』シリーズ第5巻。

    灯台守カイとサンゴロウの物語。
    ちょっと悲しくも、美しい。

  • サンゴロウシリーズでもっとも好きかも知れない。

    自らの過去の記憶探しで、少しずつ苛立ちを貯めていくサンゴロウ。
    そんな時は、手足のように扱っている船もいつもと違った動きをする。
    このあたりの表現、乗り物好きにはたまらない。

    ほんの短い時間で読み切れるのだが、読み応えは十分にある。

    一人灯台を守るカイとの交流は、シリーズの中でもっとも泣かせる。

  • 霧に閉じ込められたサンゴロウは灯台森のカイに助けられしばらくをともに暮らすことになった。

    このシリーズの最高傑作といえるかもしれません。

  • 子供向けですが、何と言うかシックな雰囲気のシリーズ。どの本も好きだけれど、シリーズの中では一番これが好き。余韻が残ります。

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著者プロフィール

竹下文子(たけした ふみこ)
1957年、福岡県生まれ。東京学芸大学で幼児教育を学び、在学中に童話集『星とトランペット』でデビュー。1995年に「黒ねこサンゴロウ」シリーズで、路傍の石幼少年文学賞を受賞。主な作品に『ちいさなおはなしやさんのおはなし』、『スプーン王子のぼうけん』、『ピン・ポン・バス』など多数。翻訳に『どうやって作るの? パンから電気まで』など。静岡県在住。

「2019年 『まじょのむすめワンナ・ビー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

竹下文子の作品

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