ぼくらは海へ (偕成社文庫 3185)

  • 偕成社 (1992年1月1日発売)
3.50
  • (0)
  • (2)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 18
感想 : 3
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

Amazon.co.jp ・本 (342ページ) / ISBN・EAN: 9784036518500

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「ブックマーク」にいただいた本のアンケートにあった本を借りてみる。ズッコケ三人組の那須さんの旧作。最初は1980年に偕成社から出ていて、私が図書館で借りたのは10年後余りに偕成社文庫になったもの。私が小学校の頃によく読んだ偕成社文庫はクリーム色の字に水玉の装丁だったけど、水玉時代よりもサイズもひとまわり大きくなってる気がする。

    カバーの袖には、"「学校と塾との往復だけが人生じゃない」誠史たちは筏づくりに熱中し、そして航海に出る。大海原を夢みる少年たちを通し、現代社会の矛盾を描いて、児童文学界に衝撃をあたえた傑作長編。"とある。

    住宅地から自転車で30分ほど、海に近い埋め立て地のあたりは、去年の秋に工事が中断するまでは、立ち入り禁止だった。工事が中断されてから、誠史[さとし]たちはおそるおそる荒れ地へ入りはじめた。塾へ向かう近道だったせいもあるが、海岸線にそって続く土砂の山やまを《アパラチア山脈》と呼び、山脈のむこうへまわりこんだところにあった小さなプレハブ小屋で、誠史たちは塾へ行く前に集まるようになった。

    去年の秋から小屋のあたりですごすようになった、同じ進学塾に通う誠史、雅彰[まさあき]、邦俊[くにとし]、勇[いさむ]に、春になってから、同じ6年3組の嗣郎[しろう]が加わる。嗣郎は家が貧しく、自転車をもってないし、塾にも通っていない。父のいない誠史、妹おもいの雅彰、おとなびた邦俊、転勤族の勇…5人の6年生は、それぞれくっきりと個性がある。

    ある日、勇と嗣郎がつくった船が、他の3人に公開された。船といっても、細長い棺桶のような木の箱が浮かんでいる、ごく簡単なボートだった。その名は「シーホース号」。誠史も乗ってみたが、大きな波にシーホース号はあっけなく横転して、誠史は海へ落ちた。

    ずぶ濡れの誠史をおいて3人が塾に行ったあと、「もっとでかい船つくろうか」と誠史は嗣郎に声をかける。もっと大きな船「ジャンボ・シーホース号」をつくろうと、勇が設計図を書いてきた。

    設計図にしたがって、《アパラチア山脈》のがらくたの中から材料になりそうな材木を探し、釘をぬいたり、板切れをひっぺがしたりして、寸法通りに切っていく。このとき活躍したのは嗣郎だ。父親の大工道具をもちだしてきた嗣郎は、船の骨組みになる角材をひとりで切りそろえてしまった。

    釘をうち、板を張り、1ヶ月ほど苦労してできあがった「ジャンボ・シーホース号」は、進水式の日に、ずいぶん水が入ってくることがわかり、しかも右側の船板ごと雅彰が海に落ちた。

    あいだに、「ジャンボ・シーホース号」をつくる前後の、5人それぞれの暮らしが描かれる。親をみる目、自分自身をみつめる気持ち…私はそこを読みながら、6年生の同じクラスにいた、あの子やこの子のことを思い浮かべた。誠史や雅彰のような子もいたし、邦俊や勇のような子もいた。嗣郎のような子もいた。同じクラスの子のそれぞれの家庭に格差や貧富があることを、6年生の私もなんとなく分かっていた。

    うまくいかなかった「ジャンボ・シーホース号」のつぎに、また新しい船づくりが始まった。こんどはいかだ型の「シーホース三世号」。竹ざおではうまく操れないので、帆を張ることにした。それで海に出てみたが、帆をふくらませると、三世号はしゃっくりをしたようにがくがくする。

    このあたりから6年1組の康彦と茂男が仲間に加わる。康彦が設計図を書いてきて、マストの位置が重要だという。いかだの下にはドラム缶を並べ、甲板には小屋も建てた。試運転はうまくいった。帆は風をはらみ、三世号はかなりのスピードで走りはじめた。

    船のことだけではなく、学校のこと、塾のこと、家族のこと、それぞれの心にうずまく思い、ときに猛りたつ心のうちが書かれている。嵐の日に、三世号を見にいったらしい嗣郎が死んだ。勇は父の転勤でまた引っ越していく。

    そして、嗣郎が死んだあと、埋め立て地に近づかなくなったほかの仲間をおいて、誠史と邦俊は、嵐でかなり壊れた三世号をつくりなおしていた。夏休みも終わりに近い日に、二人は三世号で、太平洋に向かって船出する。大きな海へ、二人は旅立ったのだ。

    物語の舞台は広島とおぼしく、クラスの三分の一くらいは塾へ行ったりしていて、いつ頃の話かなーと思いながら読んでいた。旧作ということもあって、えらい古い話のような気がしていたが、最初に発表された1980年というと、よくよく考えれば、私自身が6年生のときだ!あのころ、すでにズッコケ三人組は読んでいたけど、那須さんにこんな作品があるのは全然知らなかった。

    30年を経て、2010年には文春文庫に入ったそうだ。

    (8/18了)

  • 小6の小村誠史(こむらさとし)、菅雅彰(すがまさあき)、多田嗣郎(ただしろう)、大道邦俊(だいどうくにとし)、立川勇(たちかわいさむ)には埋立地の空き地の小屋に出入りするうちにいつしか廃材で舟を作り始める。物語後半の大展開もさることながら、すべての描写がすばらしい骨太の児童文学作品。

    まず舞台となるのは、海にほど近い埋立地。子どもたちにとっては塾への通う近道の間にあった。工事が中断され、すべてが置き去りにされ、自由に入ることができる小さな小屋が子どもたちを招き入れる。
    小屋で遊んでいるうちに勇と嗣郎が簡単な舟を作る。それをきっかけに子どもたちの中に舟を作るという作業が共通の夢の象徴となっていく。

    誠史の家は、二歳のころに父が亡くなり、母と祖母との三人暮らし。母は誠史を育英塾に通わせ、母子家庭というハンディを振り払える学歴を期待する。勉強はしているのに育英塾でのテストの成績が振るわず、クラスが落ちている。

    雅彰の家は、喘息の妹中心に動いている。喘息の発作がおきるとそれを自分の罪のように感じて不機嫌になる父。父の妹は子どものころに喘息で亡くなっているからだ。かわいそうだという気持ちと両親の関心を集める妹に対する嫉妬心を持ちながら、自分の存在をどこにおいてよいかわからないでいる。舟作りには興味があるものの、泳げないので、舟に乗ることを恐れている。育英塾では邦俊といっしょにトップクラス。

    嗣郎の家は、大工の父が競輪の失敗から飲んだくれて仕事をしないため、母親が内職をして家計を支えている。
    この環境から抜け出したいと考える嗣郎。自分と違う階級の誠史たちとつきあうこともそのひとつ。

    邦俊は医者の父、兄、母の一見恵まれた家庭。家庭麻雀やホームパーティやら形ばかりは恵まれているが、実際のところ、父は愛人宅に泊まり込み帰らない日が続き、母はそれを探偵に調べさせ、知っているものの、夫の前ではおくびにも出さない。すべてを知って茶化し、皮肉る兄。邦俊は育英塾ではいつもトップだが、人とかかわらないことを決めて実行する大人びた態度の少年。

    勇は銀行員の父の関係で転校を繰り返している。「なにかやってみたい。デカいことをやってみたい。」という欲求を持っていた、船が完成する直前、再び転勤が決まる。

    育英塾は、スパルタ式の進学塾。この地域で一番の進学率を誇る。

    工藤康彦(くどうやすひこ)
    児童委員で児童会長にも立候補するようなリーダー的存在。水泳が得意。

    森茂男(もりしげお)
    腕力のある体格のよい少年。康彦とつるんで舟作りに参加してくる。

    嗣郎の事故、そして誠史と邦俊の出航。
    ラストは誠史と邦俊の死を暗示させるものの、雅彰の台詞と読むと決して自暴自棄の出航ではなく、新たな世界への旅立ちというふうにもうけとることができる。
    大人が作った世界に閉じ込められていた二人の旅立ちのような。

    http://hon.bunshun.jp/articles/-/115

  • きょう未明に読了。ときどき話題に上っていて、気になっていたもの。
    男の子だなぁ、という感じの船やらいかだやらの話には共感はあまりできず、そういうもんか、という感じではあったのだけど、ひとりひとりの描かれ方がとてもしっかりしていて、後半かなりひっぱり込まれた。よく話題となる結末は、たしかに衝撃的といえばそうかも、と思いはするものの、「なぜ」の部分がそこまで身に迫って感じられず、穏やかな印象がどこかにあって、ふうん、という感じになってしまった。描かれていた人数が多かったせいかな。那俊ほどの覚悟はなかっただろう誠史は道中なにを思ったろう、と思うと胸が痛い。
    「1980年」というのがやっぱり大きいのかなぁ。

全3件中 1 - 3件を表示

著者プロフィール

那須正幹(なすまさもと):広島県生まれ。児童書の大ベストセラー「ズッコケ三人組」シリーズ全50巻(日本児童文学者協会賞特別賞・ポプラ社)をはじめ、200冊以上の本を執筆。主な作品に『絵で読む 広島の原爆』(産経児童出版文化賞・福音館書店)『ズッコケ三人組のバック・トゥ・ザ・フューチャー』(野間児童文芸賞・ポプラ社)など。JXTG児童文化賞、巖谷小波文芸賞など受賞多数。

「2021年 『めいたんていサムくんと なぞの地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

那須正幹の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×