月の森に、カミよ眠れ (偕成社文庫)

著者 :
制作 : 篠崎 正喜 
  • 偕成社
3.64
  • (40)
  • (75)
  • (96)
  • (7)
  • (3)
本棚登録 : 574
レビュー : 81
  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784036524303

作品紹介・あらすじ

月の森の蛇ガミをひたすら愛し、一生を森で送ったホウズキノヒメ。その息子である蛇ガミのタヤタに愛されながらも、カミとの契りを素直に受けいれられない娘、キシメ。神と人、自然と文明との関わりあいを描く古代ファンタジー。小学上級から。

感想・レビュー・書評

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  • 月の森の奥に住む蛇ガミと、そこで「掟」を守りながら生きる人々のお話。
    <カミンマ>と呼ばれる村の長の巫女でありカミと契りをかわす娘の昔語りと、神と人との決着を描いています。

    上橋さんの初期の作品なので、少々文章構成が拙かったり世界観はちょっと浅い感じはしますが(あくまでも他の上橋作品と比べて)、古の神話的伝説がベースにあるファンタジーは美しく切ないです。
    キシメの不安や焦りや揺れと、奥深い自然の描写がシンクロするようで、音も光も遮るようなうっそうとした森の中にいるような濃密な雰囲気でした。

    ここから<守り人>シリーズや、「獣の奏者」という傑作につながっていくのですね。
    和製ファンタジー、やっぱりいいなぁ。

  • 私が書きたくてたまらなかったモノの一つを、上橋菜穂子は24年前に描いていたことが判った。

    あとがきで著者は次のように書いている。

    いまも日本は単一民族国家ではありませんが、日本の統一後というイメージが強い平安時代ころにも、日本には多様な民族が住んでいたようです。正史にはほとんど登場しない隼人を主人公にしたのは、漁労や焼き畑、狩猟採集の生活をしていた人々が、朝廷への服従を契機に異なる文化を知り、やがて稲作を受け入れ、強制的に国家に組み入れられていったことで、カミへの意識が変化していったのではないかと思い付き、その変化への葛藤を、3人の巫女に象徴させてえがきたいと思ったからです。(232p)

    この時代は班田収授法が実施されているので、奈良時代だろう。「朝廷」の軍事力は広く知られていて、昔多くのクニが共同して刃向かって多くの人々が血に沈んだことも伝えられている。九州の南が舞台のようだ。隼人族と伝えられている。主人公たちの風俗は、台湾原住民族の狩猟採集風俗を参考にしたのか、全身入墨を施している。九州縄文文化が稲作文化(弥生文化とは言いたくない)を受けいれる過程の「精神の葛藤」は、どの文献にも、どの考古学的遺物にも残っていない。小説として表したのをキチンと見たのも、これが初めてのような気がする。そもそも縄文文化の精神構造がどうだったかもわからないのだから、当然なのではある。

    初潮があった少女を7日間1人籠らせて「月のもののケガレ」を取り除く儀式は、明治時代まで各地で行われていた民俗である。その1番原初的な姿をこの小説は取り入れていて、人類学者としての著者の面目躍如たるところがある。また著者はその原初の姿に縄文的な人類と自然との関わりを観たのだろう。

    ここには、のちの「守り人シリーズ」に出てくるもう一つの世界(ユナーク)や、「獣の奏者」の闘蛇の姿も想起させる場面もあり、上橋菜穂子ののちの物語を語る上でも重要な作品になっている。

    戦後70年の高度成長期を経て、情報革命を経た日本社会は、おそらく縄文から弥生に移った時以上の急激な変革を体験してきたのではないかと、私は個人的に思っている。その時に、その変革の両方の立場に足を置いた主人公を描いて、大きな物語を紡(つむ)いだこの作品の役割は大きい。しかし、ずいぶん前の作品にもかかわらずこれは一般の文庫に入っていない。「守り人シリーズ」とは一線を画している。著者はこの作品を実験作品とみているのかもしれない。だとしたら、のちに本当に日本の古代を舞台にして大いなる物語が紡がれる最初の話になるのか、それともこのままにするのかはこれからだということだ。私は私で、「カミの意識の変化」という時代を舞台に、あたらしいエンタメを描きたい。
    2015年12月3日読了

  • 森の匂いがすると言いましょうか、息苦しいほどの酸素濃度を感じさせるファンタジー。せっかくなので自然の中で読もうと、滝まで登山して読みました。

    後書きによると、アボリジニの文化を素地とした話らしいですが、日本らしさもあり(租庸調や朝廷のくだり)昔は日本の民も、こんな風に山と繋がっていたのでは…と想像させてくれる物語でした。


    印象的だったセリフ↓

    「<掟>をいちどやぶることは、崖からちょろちょろとふきだした、わき水のようなものだ。しだいにまわりをけずり、人にとっては、考える気にもならぬほど長い時ののちに、その水におのが身をけずられて、崖はくずれさる。(201頁)」

    この文章を読んだとき、知り合いの司書さんのお話を思い出しました。
    故郷の県の過去の水路図を調べていたら、現在の貯水がめちゃくちゃであることが分かった。こんな川のせき止め方では、いつか大変なことになるだろうと。

    昔の人の口伝で「○○池には近づくな」「この川には神様がいらっしゃる」と
    いうのにも、何か深い意味があったのかも知れませんね。

    池を埋め立てたその上に家が建つと、私も「ああ液状化…」と思いますけれど、それに似た「畏れ」が口伝を生んでいたのかなと。

    自然に祟られたくないものです。もう祟られてる気もしますが、これ以上は嫌だ。
    とりあえず今年の夏はクーラーを付けずに乗り切りました。脳が干上がるかと思いました。でも元気だ。何とかなるものですね。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「滝まで登山して読みました」
      行動する読書人ですね。
      「何か深い意味があったのかも知れませんね」
      忘れてはいけない何かがあったのでしょうね。...
      「滝まで登山して読みました」
      行動する読書人ですね。
      「何か深い意味があったのかも知れませんね」
      忘れてはいけない何かがあったのでしょうね。そう言った知恵を丹念に掘り起こして、地名の由来を説き明かして欲しいな。
      2012/08/10
    • ダイコン読者さん
      「行動する読書人」
      そう仰って頂けるとカッコイイよくって嬉しいです///
      「行動しないとすぐ筋肉の衰える読書人」ですので頑張って動きます! ...
      「行動する読書人」
      そう仰って頂けるとカッコイイよくって嬉しいです///
      「行動しないとすぐ筋肉の衰える読書人」ですので頑張って動きます! 運動不足こわいですね(^▽^;)

      「忘れてはいけない何かがあったのでしょうね。」
      ですよね。「地名の由来」ですか~それも面白そう。

      文明開化やら戦後からこっち「色んなものを取りこぼして、今に至っているのだろうな~」と想像します。若者が都会へ流れちゃって、田舎の老人からの口伝が伝わらずに途切れたりもしてるだろうな~と。
      知恵を丹念に、掘り起こせたらよいですよね。
      2012/08/12
  • 『獣の奏者』『精霊の守り人』シリーズの作者が1991年に手がけた物語です。
    あとがきによると、九州祖母山に伝わる『あかぎれ多弥太伝説』に惹かれ、オーストラリア先住民アボリジニと暮らしたことに影響を受けたそうです。
    しきたりなどの描写がリアルで、まるで実話のように感じました。
    大きな勢力が少数派の価値観を飲み込んでいくような事は現代日本でも日常的に続いおり、これは日本という狭い土地、湿り気を帯びた日本人が持つ性質なのだろうかと思い至り、少し怖くなりました。
    それでも逞しく生きていく人々の姿に心を動かされます。

  • ううん?
    設定、舞台はいいのに。
    キシメとナガタチの身の上話も入り込めないしラストも好きでないし。
    いつもの、ぐいぐい引き込む感じがなかった。
    タヤタの気持ちが強いけど、どうしてそんなに強いのかわかんなかったのも。
    でも、そこかしこで入る上橋さん独特の物の考えとかには惹かれる。

    けれど、実は、すごく安心している。
    あの上橋さんにもこうした時代があったのだ、と。
    ものすごく性格悪いけど、ちょっと安心した。

  • 神話を元に歴史考証などもきちんとした上で
    それでもフィクションのファンタジーとして仕上げられた作品。

    大和 朝廷が律令制で日本をまとめあげようとしている頃。
    遂にその手が九州地方まで到達する。
    時の流れに違和感や反発を覚えても、従うしかなく
    その中で捨てなければならないものに戸惑い、正しいものがなんなのか迷う。

    同じように神話、古い時代の日本を元にしたもののけ姫でもやはり
    似たようなテーマが取り上げられていたが、
    より実際にもとづいてリアルに穢れや伝統などについても描写されている。
    カミなのか、オニなのか。
    確かに殺した後で祀ればカミになるという都合の良いシステムも存在する。
    飽く迄も人間から見て、都合が良いか悪いか。
    益獣と害獣の判断と同じだ。

    だがそれでも、アツシロたちが間違っていると簡単に部外者が言えるものでもない。
    他の大きな村が勝てなかった朝廷相手に、小さな村が勝てるわけもなく
    働き手を何年も朝廷に取られて村が立ち行くわけもなく
    かと言って米を作ったからと言って搾取されるばかりで暮らしが楽になるわけでもない。
    それでも、このままでは今すぐ村が潰されてしまう。

    アツシロたちも、カミンマも、タヤタも、守ろうとしているのは同じなのだ。
    何を守ろうとするのか、なんのために守るのか、それが違うだけだ。

    それがこんなにも悲しい結末を迎え、
    殺されるとわかっていて尚キシメを愛し、死ぬとわかっていてもそれでも
    キシメを愛しいというタヤタがあまりにも切ない。

    掟は人の命より大事。
    本当にそうなのか、と、現代に生きる自分は思ってしまう。
    大事なのはわかる。だがそれでも、他に方法はなかったのだろうか。

    掟もカミも失われた村で、それでも人は生きていくしかない。


    あとがきで、日本は単一民族国家ではないとすっと言い切っているところが
    先生らしいなと思い惚れ直した。

  • 悪がほろんでハイおしまいというような
    単純な印象ではない
    カミと人の共存

    これでいいのかな
    答えがないままなんとなく
    終わってしまった

    沖縄基地問題もなんとか
    いい方向に解決できますように

    参考:九州祖母山
    『あかぎれ多弥太伝説』

  • 古代日本ファンタジーという私の趣味にどストライクだったため、飛びついて購入した本。
    キシメ、タヤタ、ナガタチ、三人のそれぞれのことを思いながら読んでいたら、胸が締め付けられて仕方がなかった。
    掟は変わらずとも、変化し続ける世の中で、ムラのことを思いながらもタヤタのことも思って、二つの間で悩み揺れていたキシメのことを非難したくもなるけれど、私自身も多くのことに悩みながら揺れながら生きている人間であるからこそ、どうしても憎めなかった。彼女は多くの人と共通した部分を持っているのだと思う。
    あとは向き合えるか、向き合おうとせずに逃げるかのどちらかというだけで。
    自分は殺意を向けられていると分かりながらも、キシメを愛したタユタの最期を思うと、涙が止まらない。
    先日鎌倉の山奥まで登って、自然の緑に囲まれた細い自然の道をとぼとぼと歩いてきた。その時に、人のものではない偉大な何かを感じて、この本を読みながらあの時感じたのはこれだったのではないかと思った。
    今の私たちの生活もこういう失われていくものがあったからこそ、成り立っているのだろうと、別の視点から歴史の流れというものを感じさせてくれた作品だった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「偉大な何かを感じて」
      何かがあるんですね!そういったモノを感じてみたいな。。。
      「月の森に、カミよ眠れ」は表紙が気に入って購入したのですが...
      「偉大な何かを感じて」
      何かがあるんですね!そういったモノを感じてみたいな。。。
      「月の森に、カミよ眠れ」は表紙が気に入って購入したのですが、、、
      現在「守り人シリーズ」をチンタラ休みながら読んでいて、それが終わったら「月の森に、カミよ眠れ」を読み、続けて「獣の奏者」を、、、と思っています。なので、いつになるやら、、、
      2013/04/18
  • 重いテーマで、心に残る一冊。上橋さんの作品は答えの無い問いを投げかけてくるようなものが多く、考えさせられます。「どうしようもないことを、どうにかしたくて、切ない感じ」というか。厳しくも優しい物語です。オススメ。

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著者プロフィール

上橋 菜穂子(うえはし なほこ)
1962年、東京都生まれの児童文学作家、SF作家。
1992年『月の森に、カミよ眠れ』で日本児童文学者協会新人賞、2000年『闇の守り人』で第40回日本児童文学者協会賞、2003年『神の守人 来訪編、帰還編』で 第52回小学館児童出版文化賞、2004年『狐笛のかなた』で 第42回野間児童文芸賞受賞他、2015年『鹿の王』で第12回本屋大賞など、多数の受賞歴がある。
2014年には「小さなノーベル賞」とも呼ばれる世界的な賞、国際アンデルセン賞作家賞を受賞している。

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