星に帰った少女 改訂版

著者 :
  • 偕成社
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感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784037270902

感想・レビュー・書評

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  •  「・・・やっぱりにくらしい。ゆるしたくない。だけど、みんながいうように、おとなになったら、きっとおかあさんの気持ちもわかってくるんじゃないかって、気がする。」

    毎日多忙の母と約束した誕生日。母は7時には帰ることを約束してくれ、新しいコートをプレゼントとして買ってきてくれるはずであった。
    それなのに7時を過ぎても母が帰る様子はなく、時間は過ぎてゆくばかり。あきらめは募るばかり。
    そして、髪を乱しながら急いで帰ってきた母親の手には、ある程度予想していた通り、プレゼントされるはずの新品のコートはなかった。
    愕然とするマミ子に追い打ちをかけたのは、母のプレゼント。
    母の使っていたという古びたコートであった。
     「もう、ママなんかきらい!いつも仕事でおそいんだもの。いつでも仕事、仕事、仕事!あたしのことなんかちっとも考えてないんだわ。」

    成長・・・というのだろうか。
    おそらくこの本のテーマの一つには、成長を遂げるためのイニシエーションが盛り込まれている。
    ファンタジィにはよく見られる形式で、通常の暮らしが何らかの形で打ち破られ(それが優しいのか、荒々しいのかの差はあるけれども)、非日常に入り込むことによって、主人公の成長が遂げられるという形式である。
    これは、何もファンタジィに限った事ではないと思っているが、ファンタジィの場合にはその日常と非日常の境目がわかりやすいと思う。
    この作品に置いては、その日常から非日常への橋渡しをしてくれているのが「バス」と言うことになる。
    現実の生活で友人との関わり合いや母への不満などに燻っていたマミ子は、このバスに乗って「過去」へと行くのであるが、そこで出会ったキョウコや子ども達の姿を通して、自分の境遇について考えるようになる。
    今までは同じような生活環境にあった学校の友人達に囲まれて、何の疑問もなく引っかかりもなく過ごしてきたところに、自分とは明らかに違う環境下にある子達に出会った事から、自分の事について考えると言うことにきづいたのである。
    そして、今の自分について考えられるようになった時、彼女は人の置かれた立場やその思いに対しても考えることが出来るようになり、自分だけの感情を優先していた考えから抜け出し、周囲には他人が存在し、関連し合いながら生きているのだと言うことをおぼろげながらも感じるのである。

    この感情の変化を子どもから大人へのイニシエーションそのものであると言うことが出来るかはわからないが、少なからず成長すると言うことは自分以外の存在を認めるところから始まるのではないかと私は思う。
    だからこそ、この話は成長の物語であると言えるのではないかと感じる。
    加えて、成長とは何も子どものみに見られるものではないだろう。
    話の中では、周囲を見渡すことを知ったマミ子とともに、自分の過去と向き合い、それをもとに成長した母親の姿も見て取れる。
    マミ子の成長を促す出来事が契機となって、母親もまた成長するという構成が面白く感じられた。
    不思議な出来事を契機とした母子の成長を描いた物語とまとめてみてもよいだろうか。

著者プロフィール

末吉暁子・作:神奈川県生まれ。児童図書の編集者を経て、創作活動に入る。『星に帰った少女』(偕成社)で、日本児童文学者協会新人賞、日本児童文芸家協会新人賞受賞。『ママの黄色い子象』(講談社)で、野間児童文芸賞受賞。『雨ふり花 さいた』(偕成社)で、小学館児童出版文化賞受賞。『赤い髪のミウ』で産経児童出版文化賞フジテレビ賞受賞。シリーズ作品に「ざわざわ森のがんこちゃん」(講談社)、「きょうりゅうほねほねくん」「くいしんぼうチップ」(ともにあかね書房)など多数がある。

「2015年 『ぞくぞく村のランプの精ジンジン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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