八月の光

著者 : 朽木祥
  • 偕成社 (2012年6月21日発売)
4.19
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  • Amazon.co.jp ・本 (146ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784037441609

作品紹介

あの朝、ヒロシマでは一瞬で七万の人びとの命が奪われた。二十万の死があれば二十万の物語があり、残された人びとにはそれ以上の物語がある。なぜわたしは生かされたのか。そのうちのたった三つの物語。

八月の光の感想・レビュー・書評

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  • ◆夏の自分課題図書。被爆2世である筆者が取材の上あらわしたヒロシマの、あの日から始まる三つの物語。◆『黒い雨』を思い出すものの、作者の持ち味である情緒豊かな美しい言葉選びに、最初は「キレイ過ぎる」印象。しかし、物語が進むにつれ、増えるにつれ、作者の語りたかったことが力強く立ち現れてくる。「なぜ私ではなかったのか・なぜ私が生かされたのか」。「生かされた人びと」がいかに心を押しつぶされ、生きる意味を見失って苦しんだかを語り、その苦しみを記憶した生に意味があることを見出し肯定する、被害者・被災者を支える物語。◆最終話「水の緘黙」の告白には、涙せずにはいられない。平易な文章で、ルビも付けられているので小学生からでも読むことはできるが、対象年齢は、他者の痛みを想像できる段階にあるもの以上。この本の「意味」が多くの人に伝わりますように。【2013/10/09】

  • 表紙が印象的で、著者が聞いたことあるなあっと思ったので手にとる。
    あ、そうだ「引き出しの中の家」の人だ~、と。
    あれはよかったー。メッチャすき。

    で「八月の光」である。
    読み始めてすぐに、ああ、これはヒロシマの話なのだな、と思う。
    ああ、もうすぐ、次のページをめくれば。
    起きることは分かっている。
    でも登場人物たちはそれを知らずに、いってきます、とでかけてゆくのがなんかつらかった。

    垂れ下がった皮膚、はれ上がった顔。
    本当に、想像の追いつかない、心を止めなければ耐えられない光景だったのだろうと思う。そうゆう話を聞くたびに、それだけの惨状を生み出した兵器を使用した罪はないのだろうか、それに対する怒りはないのだろうか、と思う。繰り返しません、忘れません、と言うけれど・・・・・。
    戦争に被害者も加害者もいいも悪いもないのかもしれない。
    日本だって、731部隊とか、信じられないほどの残虐な行為を行っているし。でもだからといって原爆を受け入れる気にはなれない。

    いや、怒りはあるのか。
    「夕凪の国」だったか。
    「死ねばいい」と誰かに思われた。でも生き残った、生き残ってしまった。
    そう思って生きていた主人公が原爆症で死ぬ。
    あれは落した者をはっきりと意識しての死だった。
    自分は殺されるんだ、と。
    そうだよな、と思う、あれは津波のような自然災害でもなんでもなくて
    それを落とした者がいるのだ。
    が、落した者が本当に、その結果を直視したら、きっと耐えられないだろう。たとえどんなに大義名分があろうと、あの日の苦しみを知ったなら。

    心も体も、未来も、あらゆるものを壊す兵器だ。

    忘れるな、忘れてはならない。
    意味もなく惨い死を受け入れなければならなかった何万もの人を。

    でも本当に忘れないでいられるだろうか?
    つい1年前の3、11のことを忘れたかのようにスカイツリーやオリンピックに湧く国で、何十年も前のことを忘れないでいられるだろうか?
    8、6、8:15 8.9 11:02
    この数字だけは絶対に覚えなさい、と昔先生に言われた。その先生は
    何度も何度もそう言った。
    忘れないように、忘れないように。
    何度も何度も。

    だからこういう物語は必要だと思う。
    忘れないために。

  • とても良い良い、とすすめられて、
    天の邪鬼でもあることだし、
    さらには戦争関連本嫌いである私は手を出せずにいたのですが、
    ようやっと不承不承、読んでみました。
    (戦争関連本は辛いからいやなの)

    すでに原子爆弾をめぐるフィクション、
    ノンフィクションを問わない作品群があまた存在する中で、
    なぜこの本なのか?という問いがあるなら、
    答えは、この本はいろいろな意味で「きれい」、
    ということなのではないかと思いました。
    装丁がきれいで、中の字組もきれい。
    透明感のある文体。

    しかし・・・
    それほどよく書けているとも思えないのが不満。

    書きたい内容と小説としての言葉が求めるものの間に
    乖離もしくは矛盾が生じることがあり、
    それがお互いにしのぎを削るところに「作品」としての面白みがぎりぎり成り立つのだとすると、
    戦争を扱ったものは内容に重きがおかれがちで、
    それが作品としての質を低下させてしまうような気がしてしまうのです。

    3つの連作の中でいえば、最初の「雛の顔」が一番面白くなりそうな可能性があって、
    前半で「真知子」というせっかくよい材料を持って来たのだけど、
    どうしても内容にひっぱられて後半月並みになってしまった。
    結局全体としても、戦争について素敵な文体/言葉で書いてみました、
    みたいになってしまったところが残念。

    戦争関連のフィクションは、
    ベクトルがはっきりしたメッセージ性を排して、
    もっと文学作品としての質に真剣に向き合ったら、
    結果的に効果的なメッセージ性を有した作品になるだろうと思うのだけど、
    素人考えでしょうか。

    戦争関連本が苦手なあまり、
    かなり辛口になったきらいがあります。
    『あのころフリードリヒがいた』とか『夜と霧』のような本は、
    辛くても読む意義があると思えるのですが、
    作品の質が中途半端だと、読まなくてもいい!と思ってしまうのは、
    私の偏った考え方なのかもしれません。

    いろいろと不満はありますが、
    とりあえず、今の若い人に読んでもらうには
    手頃な感じは否めません。
    小学校高学年女子なら読みそうな感じです。

  •  その朝、母の真知子は、「ようないことがあるから、行かん」と勤労奉仕に行くのをしぶった。美しく、気ままな母をたしなめようともせず、祖母タツは昭子に母の同僚へ使いを頼むのだった。
     雲一つない、暑い夏の朝。一級上の道子と女学校に通う道すがら、その時がやってきた。

     ヒロシマの原爆投下をめぐる3つの物語。
     総ルビで、丁寧な言葉で綴られた3編は、あっという間に読めるほどだけれども、言葉のひとつひとつが心に深く深く沈んでいく。教科書にも載っていそうな文章は、昔の作品のようで、出版は昨年。「今」だからこその物語なのだと気づく。
     記憶すること、忘れないでいること。それは決して、とどまっていることではなくて、前を向いて生きることなのだと、今日も教えられたような気がする。

  • 朽木祥というひとは誠意があり、書いていることもまっとうだし、今どきの若い作家に比べたら日本語もちゃんとしているし、特に文句はつけられないんだけど、なんだか強く惹かれるってこともないのよね。
    これは広島に原爆が投下された前後のことを3つの短編にしていて、どれも悪くないけど、最初の「雛の顔」なんて、真知子という母が凄く魅力的な人物なのに、小説として生かし切れていない感じ。
    思うに、この人は「こういうことが言いたい」という観念が先にあって書いているんじゃないかなあ。
    登場人物がいきいきと自然に動いてるという感じはしないのよ。
    広島の惨事から、平和の大切さを学ぶっていうのは大切なことだけど、読み手が登場人物にもっと感情移入できるように書いてあれば、失われたものの大きさが、よりリアルに伝わるんじゃないだろうか。
    児童文学の書き手として有名な人だからこそ、余計そう思うのかもしれないが。

  • 「あの人たちが死に私たちが助かったことにどんな意味を見いだせと、神が考えているのか、私にはどうしてもわからないのです」


     そうか、とうとうあの三月のことを物語で思い返す時期がきたのか……と、読了後しばしぼんやりしてしまった。
     なぜあのひとが死ななければならなかったのか、なぜ自分は生き残ったのか、そういうことに理由を見出さないと生きていけないから考えるけど、本当は理由なんかなくて、ただ生き残ったという事実だけが刃のように冷たく突き付けられているだけで、ともすればその冷たさに負けてしまいそうになる。そういうひとたちがきっといま、本当はいっぱいいて、これからもっと増えていくかもしれない。
     そういうときに何かの救いとなれる力を持った物語がずっと、忘れられずに、書き続けられますように。

  • 静かに始まる文章。一瞬ですべてを破壊された人々の悲しみが静かに伝わってくる。

  • 大好きな朽木祥さんの作品ですが、ヒロシマ原爆投下の物語ということでつい構えてしまう私がいました。
    8月中に読もうと思っていたんですが、落ち着いてじっくりと考えているうちに日々は過ぎ・・・手に取るのに時間がかかってしまいました。
    読んでからも感想を書くまでにずいぶんかかりました。


    収録されているのは「雛の顔」「石の記憶」「水の緘黙」の三編。
    少年少女が主人公です。


    読み手は先(原爆投下)が分かっているから読み進めるのがこんなにも辛いんでしょうね。
    フィクションであったらどんなにいいだろう。
    でも、これは実際に起こったことであり、半世紀を過ぎた今でも苦しんでいる人達がたくさんいるんだと思うとやっぱり重く苦しい読書でした。


    物語はもちろん、あとがきも心に響きました。


    想像してはいましたが、物語に登場するほとんどの人びとには実在のモデルがあるとのこと。
    私は広島に大学時代に住んでいたこともあり、原爆資料館でだったか忘れましたが、影になった人の話を聞いて印象に残っていました。
    「石の記憶」と重ねながら読みました。


    >二十万の死があれば二十万の物語があり、残された人びとにはそれ以上の物語がある。
    この本に書いたのは、そのうちのたった三つの物語にすぎない。
     だが、物語のなかの少年少女たちは過去の亡霊ではない。
    未来のあなたでもあり、私でもある。


    そう。
    他人事でなく「未来の私かもしれない」と読みながら感じたからこんなに苦しくてしんどいんだ。


    こうの史代さんの『夕凪の街 桜の国』『この世界の片隅に』もそうですが、一度読んだだけでは足りない気がします。
    落ち着いて何度も読み返し、冷静に。
    本当にあったことだと記憶しておかなければいけない!と強く感じました。
    そしてそれを次の世代にも少しでも伝えていくことができたらと思います。

  • 人は目にしたものに耐えられないとき、本能的にその記憶を葬ろうとする。どうして自分は女学生を見捨てて逃げたのか。僕は原爆のあの日に耐えきれず、記憶をすりかえ自分の名前すら忘れてしまった。一発の爆弾が多くの理不尽な死をもたらし、生き残った人たちをも苦しめ続ける。投下の直前まであった人びとの確かな暮らしとあまりにも悲惨な死。それを忘れてはならないと思えたとき、僕はいったん死んだ自分の心を取り戻しはじめた。広島生まれで被爆二世の朽木祥さん、物語に登場するほとんどの人びとに実際のモデルがあるそうです。物語の修道士の言葉にもありましたけど、この大切な記憶をあの日を知らない私たちも自分のものとして分かち持ちたいものです。図書室に入れたので、子どもたちにさっそく紹介したいと思います。

  • 実在のモデルを元にした短編物語集。
    あの朝、ヒロシマでは一瞬で七万の人びとの命が奪われた。表紙をめくるとこの文が目に入ってくる。タイトルの”八月の光”の意味がここで明らかになる。
    「雛の顔」ある朝、昭子の母真知子は今日はよくないことがおこると言って勤労奉仕に出かけなかった。昭子は学校へ行く途中で強烈な光に叩かれ吹き飛ばされる。自分は長い間寝付いたものの起き上がれるようになったが、母は市内へ手伝いに行き被爆したことが原因で亡くなってしまう。やっと普通に起きられるようになった昭子は、崩れた土蔵の壁の下に黒い雨で顔を汚したお雛様を見つけ、亡くなった人たちのことを思い出しようやく涙を流すことができた。
    「石の記憶」父が南方で亡くなり母と二人暮らしの光子。爆撃がひどくなるという噂を聞いて母は疎開の準備を始める。来週には越そうと言って銀行に出かけ、原爆が落とされた後母は帰ってこなくなった。3日後、母を探しに行った光子は銀行前にのこっている影が母の座っていた跡だと知る。光子はその跡に母のぬくもりを感じ、何度も石段をさすっていた。
    「水の緘黙」原爆投下後、子どもや女の人の助けを振り切って逃げた僕は、置いてきた人びとの影に追いかけられる幻想が頭から離れず自分が誰か分からなくなってしまった。ある日オルガンの音色に導かれ教会に通うようになる。初めは音楽を聴くために通っていたが次第に牧師と話をするようになり、他の人の経験を知ることで自分に何が起きたかを思い出そうとすることができるようになった。やがて、助けてと言ったと思っていた少女が実は逃げてと言っていたことを思い出し、少女の両親へ少女の最後を伝えることができた。そして生きている自分たちが死んでいった人びとのことを忘れずに伝えていかなければと思い、自分の名前を思い出すことができた。
    重いテーマだがしっかりと書いている。原爆投下後の人びとの様子も誤魔化さず大げさでもなく淡々と描いている。1話2話の登場人物が3話めに描かれていて月日の流れが実感できる。戦争、そして原爆が多くの人生をいきなり変えてしまったということを自分に引き当てて考えることができる。

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