金曜日の砂糖ちゃん (Luna Park Books)

著者 :
  • 偕成社
4.02
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本棚登録 : 2104
感想 : 275
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  • Amazon.co.jp ・本 (61ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784039652409

感想・レビュー・書評

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  • 静かな絵が好み。タイトルのセンスもかわいい。
    表題作『金曜日の砂糖ちゃん』『草のオルガン』『夜と夜のあいだに』からなる一冊で、わたしはとくに夜と夜のあいだに、がいっとうお気に入り。

  • 少なくとも子ども向けではない、詩集のような難解な物語。絵はとても美しい。

  • 表題のの他にあと2つの話があります。どれも夢のような話ですが、瘉されました。心にゆとりがあるときに、お勧めです。ゆとりがない時には、心に入って来ないかもしれませんが、もったいないですよ。

  • 絵は岩崎ちひろさんのよう。柔らかくて暖かくてリアルな人の描写。3遍の収録で、表題の「金曜日の砂糖ちゃん」は色数が少ないからこその世界観があってぼんやりと引き込まれる。

  • この絵本は、第20回ブラティスラヴァ世界絵本原画展(スロヴァキアの首都で2年毎に行われる国際的な絵本原画のコンクール)、金牌受賞作品です。

    酒井駒子さんの、子どもを主役にした短編ものといえば、『BとIとRとD』の「□ちゃん」を思い浮かべるかもしれないが、本書に収録された3編は、主人公も、物語や絵の雰囲気も異なっている上に、それぞれの完成度がとても高く、尚且つ、味わい深さがあり、そこには、酒井さんの子どもに対する憧れや可能性を表現したものとして、ひとつの完成形を見た思いがいたしました。

    また、それぞれの短編の扉絵一面に塗られた色には、その物語や主人公にとって、きっと大切な意味があるものと思われるので、その辺りも考察できればと思います。


    「金曜日の砂糖ちゃん」
    黒を背景としながらも、どこからか漂ってくるような、この穏やかさや幸福感は何だろう。それは外の地べたで、ごく自然に寝ている女の子の無垢な姿もそうだし、その周囲の花や動物たちから出てくるような泡のような描写も、どこかほのぼのとした雰囲気を感じさせ、ああ、これは生きるものたちの吐き出す息吹が、彼女を取り巻いているのだなと感じ、それはまるで、彼女(金曜日の砂糖ちゃん)に惚れている、彼らの至福感を表しているようでもあるし、カマキリが、彼女の眠りを守っていることにより、完成された、彼女と動物と植物が全て、ありのままの穏やかさで一枚絵に存在する、その世界は、人間と自然とが、そのように共存することの出来る可能性を示してくれているようで、とても感動的に映りますし、それを為すことが出来るのは子どもだと言っているような、酒井さんのメッセージも胸に沁みるものがあります。

    また、扉絵の赤色は、白黒の絵の中でいうと、苺やてんとう虫、鳥の頭にカマキリの目が主であり、それらだけが赤なのは、私には、金曜日の砂糖ちゃんのイメージカラーのように思われ、特に、苺のその鮮やかで瑞々しく見える存在は、静謐な白黒の世界に於いて、より存在感が増したように感じられて、それは彼女の内に秘められた、情熱的で甘い瑞々しさを表しているのではないかと思われて、鳥やカマキリについては、彼女の魅力に思わず赤らめてしまったのではないかと想像すると、これは様々な愛に満たされていることの幸福感なのかもしれないと感じさせられて、なるほどなぁと思いました。

    「草のオルガン」
    一転して、今度はカラーの絵ではあるが、そこから漂ってくる雰囲気は、ちょうど悲しそうな顔をして俯きがちに歩く、少年の心理状態を表しているようで胸に迫るものがあり、その表現も、まずは少年の横顔のアップから始まり、次に、水溜まりに足を入れてしまう足下の描写で、彼が悲しみで頭がいっぱいであることを表しており、その次の、周りの家や塀を含めた、少し離れた視点の描写には、周りの家も、どこか余所余所しさを放ったような哀愁を感じさせられ、晴れた空の絵であるのに、どこかやるせなくて悲しい雰囲気を漂わせている、この酒井さんの絵の表現力には凄いものがあると思います。

    しかし、少年のそんな心境に於ける行動心理によって、偶然辿り着いた場所は、開けた大草原であり、そのどこまでも雄大な風景には、少年の塞ぎ込んだ悲しみとは見事な対照性を持っており、そこで起こる素敵な出来事は、たちまち少年の心を癒やしてくれることから、ここでも、人と自然の素晴らしき共存を描いているようで、また心に残る。

    ちなみに、少年が弾いていた、
    「ドレミッミッ ソラソッソッ ミレ ドーレーミー」のメロディは、「港」という唱歌だそうで、彼には、この大草原が大海原に見えたのだろうか、それとも、遠くにクレーン車が見えることから、海が案外近いとか? いずれにしても、この場面は、そのピアノからは何も聞こえないのに、まるで心のなかでは歌っている少年の内なる声が聞こえたかのように、やって来る彼らの存在が彼にとっての大きな救いや喜びとなり、扉絵の黄色は、少年に差し出したタンポポを表していると思います。それとも、楽しげに歌う様子を想起させられるカナリアだろうか。

    「夜と夜のあいだに」
    今度は黒を背景にしながら、様々な色をさり気なく盛り込んだ雰囲気の中、女の子は、夜中にこっそりと家を抜け出そうとしているように見えるが、その抜け出す前にする、一連の凝った身支度は、完全に大人のそれと同様の拘り具合であり、お母さんのシュミーズを着て、糸と針とボタンをクッキーの箱に入れるそれは、まるでクラッチバッグのようだし、更に、その格好でメイソンピアソンのブラシを使って髪を梳かす姿に、私はまるでお姫さまのようだと感じさせられ、この一見メルヘンチックな雰囲気ではあっても、そこから漂ってくるのは、華やかさというより、女の子の真摯な、それを為したいという仄かに漂う思いの強さであり、その後に待っていた光景には、思わず美しいと感じさせられた、子どもと動物の織り成す奇跡を見せてくれたようでありながらも、最後の鳥の姿には、一抹の寂しさもあるような複雑な終わり方も味わい深く、扉絵の桃色は、発色性豊かな目に眩しいピンクではなく、サーモンピンクに近い、落ち着いたそれからも、大人の女性をイメージしたのではないかと思います。

    それから、本書は物語だけではなく、その本自体の作り方にも拘りがあり、それはまず、本書のデザイナーの「祖父江慎」さんによる、文の活字が一文字、一文字で違うことがあり(何種類かの明朝体が混ざっている上に、例えば「が」では「か」と濁点の「゙」を分けて、それぞれ違うフォントにしているらしい)、その凄さは、裏表紙の本体価格「1400円」の「1」と「4」が違うところまでの拘りようです。

    更に、本書の扉絵の紙が、パラフィン紙まではいかないが、薄い材質となっていて、扉絵の蜂と、その次のページのタンポポがちょうど上手く合わさるような仕組みには、世界に於ける生きるものたちの繋がりが、決して目に見えるものだけではないことを実感させてくれます。

    そして、子どもの頭の上に、花や虫や鳥といった、様々な自然界で生きるものたちが乗っかっている、印象的な表紙からは、子ども特有の純粋無垢さが、彼らにそうさせたいと思わせる、素敵な共存のあり方や、子どもの中に詰まった無限の可能性を感じさせられるようで、そこからは、世界に住むあらゆるものとの繋がりが可能であるような、大きな夢と希望と憧れを感じさせられて、そんな奇跡が子どもの中にはあるのだと思うと、酒井さんが何故、子どもの絵を書き続けているのか、その思いも何だか分かるような気がしてくるのです。


    本書で、ちょうど900回目の感想となりました。
    あと100回で大きな節目となると思うと、よくここまで続いたものだなと思いますが、やっていく内に、どんどん好きなものが増えていくといった、その嬉しさもあると思いますし、私の感想を読んで下さっている皆さんに励まされているのも、とても大きいと思います。改めて感謝の気持ちを申したくて。いつも、ありがとうございます。
    次は、1000回目を目指して、このまま邁進していきたいと思っております。

    • たださん
      aoi-soraさん、おはようございます。
      コメントありがとうございます(^^)

      いえいえ、恐縮でございます。
      私の場合、音楽もあるから、...
      aoi-soraさん、おはようございます。
      コメントありがとうございます(^^)

      いえいえ、恐縮でございます。
      私の場合、音楽もあるから、数が多いのかもしれませんし(^^;)
      でも、嬉しいです。
      ありがとうございます。

      「金曜日の砂糖ちゃん」、少ない文字数ながら、とても味わい深く、酒井さんの絵と共に、じっくりと楽しめる絵本かと思いますので、良かったら、是非!

      こちらこそ、aoi-soraさんの素敵なレビュー、これからも楽しみにしております(^-^)
      2023/08/02
    • Macomi55さん
      たださん
      900回目のレビューおめでとうございます╰(*´︶`*)╯♡
      たださん
      900回目のレビューおめでとうございます╰(*´︶`*)╯♡
      2023/08/02
    • たださん
      まこみさん
      嬉しいコメントをありがとうございます(´▽`)
      密かに抱いていた、まこみさんに追い付く目標は諦めましたが、1000回目の節目は是...
      まこみさん
      嬉しいコメントをありがとうございます(´▽`)
      密かに抱いていた、まこみさんに追い付く目標は諦めましたが、1000回目の節目は是非、達成したいと思います。
      それでは、行ってまいりまーすε=ε=(ノ≧∇≦)ノ
      2023/08/02
  • 小さい頃によんだ。内容的には留守番で一人の子供が連れ去られちゃうだけだったはずだけど未だに絵柄やタイトルが忘れられないからまた読みたい。

  • 何編かの物語と絵。

  • 絵本の感想って難しいけれど、絵を眺めてるだけで幸せでした。

  • とにかく絵が魅力的で、
    本棚に飾りたいなぁと手に取った。

    「金曜日の砂糖ちゃん」
    この年齢の少女を描いたら、
    この作者ほど、
    お洒落に可憐に儚げに描ける人は
    いないのでは??
    題名も秀逸、無駄な説明は無用だ。
    人生のほんのいっとき、
    カマキリに守られて少女は過ごすのだ。

    私が1番好きだったのは2番目

    今日 ぼくは
    さみしいことがあったから
    つまらないことがあったから
    知らない道を とおって 帰る

    この書き出し…
    この少年の気持ち、経験…
    悲しげな表情や足元の水たまりに踏み入れた足、
    真っ黒な壁の中を一人歩く姿…

    私にとっても
    あの日あの時、あの頃の何かしらの記憶に
    行き当たるような気がする。

    オルガンに出会えたように、
    彼の未来にも光さす何かがあってほしい。
    あるはず…と思わされる、
    とても深いお話だと思った。

    最後のお話のラストは少し怖い。

    それきりもどっては 来ないのでした。

    少女はどこに行ってしまったのか?
    さらわれたの?
    それとも、もう大人の女性になったという
    比喩なの?
    自由に読んで良いのだとは思うけど、
    作者の意図も聞いてみたい。
    絵のテイストと結末とのアンバランスさが
    妙に胸につく。

  • ブク友さんの本棚でときどき見かけて気になっていた一冊。頁をめくったとたん、しんとした静謐な空間に踏み込んだ感覚。現実と幻想のあわいに居るような世界観と、アートブックのようなたたずまいに、知らず知らずのうちに惹きこまれていました。余韻が後を引きますね・・・

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著者プロフィール

1966年兵庫県生まれ。絵本作家。著書に『よるくま』『ぼく おかあさんのこと…』『ロンパーちゃんとふうせん』『金曜日の砂糖ちゃん』『くまとやまねこ』(文:湯本香樹実)、画文集『森のノート』 など。

「2022年 『橋の上で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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