小説 言の葉の庭 (ダ・ヴィンチブックス)

著者 :
  • KADOKAWA/メディアファクトリー
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040663999

作品紹介・あらすじ

靴職人を目指す高校生・秋月孝雄は、雨の朝は決まって学校をさぼり、公園で靴のスケッチを描く。ある日、孝雄は、その公園の東屋で謎めいた年上の女性・雪野と出会った。やがてふたりは、約束もないまま雨の日だけの逢瀬を重ねるように。居場所を見失ってしまったという雪野に、彼女がもっと歩きたくなるような靴を作りたいと願う孝雄。揺れ動きながらも近づいてゆく二人の心をよそに、梅雨は明けようとしていた-。圧倒的な支持を受けた劇場アニメーション『言の葉の庭』を新海誠監督が自ら小説化。アニメでは描かれなかった人物やドラマを織り込んだ、新たなる作品世界。

感想・レビュー・書評

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  • 雨が降る景色ならいつまでだって眺めていられる。

    何か
    ささやきそうな風に吹かれるのも心地良いし、
    ちらちら、と動きのある光を追うのも好き。

    この人は
    (今、何を考えているのだろう)
    と、読めない彼の無表情は寂しい。

    『言の葉の…』庭にいると
    自分がつるん、とした人間となって
    誰とも何とも溶け合えない
    ただむき出しの個体にされてしまうから
    つい、
    何もかもに耳を澄ますような読み方、になってしまう。

    雨音に、吹く風に、こぼれる光の中に、
    欠けた言葉(気持ち)を探る様に生きる人達の物語。

    見え隠れする言葉を上手く見つけられた時、
    背景が大変美しい色に塗り変わった様な気がした。

  • 読み始め、少し読みづらさを感じましたが1章、2章と進むうちにぐいぐいと引き込まれました。文章から、雨音が聞こえ、藤の花の香りが漂ってくるかのようでした。秋雄と雪野のそれぞれの一人で地に足をつけているような雰囲気とお互いがともに惹かれていく姿が見ていて切なくて歯がゆくてこの二人だけを追いかけたくなりました。背景にある人々との関係も気になるところではなるんですが....。

    映像を観てはいないのですが、それでも小説として楽しめました。映像もみてみたいです。

  • 原作でもあるアニーメーションの監督が手がけた小説。
    淡い恋愛もの映画でありながら、緻密な伏線が張られた原作も多いに楽しめたが、本作は映画以上のボリュームの物語を書くことで脇役にも様々な背景を与えており、作品単体でも楽しめるし、映画の世界をさらに押し広げることすらしているファンなら読むべき作品だ。
    前々作の『秒速5センチメートル』の映画と小説の関係にも似ているが、本作は主人公である二人以外の人物にも章ごとに“主役”として登場させており、それらの話がすこぶるいい。

    孝雄の兄である翔太とその恋人は、映画では「突然同居をするために実家を出たカップル」という役回りでしかなかったが、劇中で孝雄が翔太の恋人(梨花)と親しげに話していることも本書を読めば納得できるし、何より翔太のストーリーが相当にいい。
    夢を追いかけ、恋い焦がれる孝雄や、失意のどん底から立ち直ろうとする雪野というドラマティックな背景を持った二人とは違い、翔太はうだつの上がらない営業マンで、一見華やかなところに身を置いている恋人の些細なことに嫉妬してしまったりする、リアリティ溢れるキャラクターだ。
    年齢不相応に幼く感じる母親と起こしてしまう諍いや、営業成績からくる精神的なプレッシャーに関する描写は、社会人であれば感情移入の度合いが主役二人の比にならないだろう(それは僕自身が20代営業マンであることに直結しているだろうが)。

    他にも映画では憎き元カレ、伊藤先生や(劇中のベランダでのタバコにはそんな意味が!)ビッチ相澤にも新海監督による暖かな背景が書き加えられていて映画に出てくる全てのキャラクターが愛おしくなること間違いない。

    ラストの章は孝雄の母親の視点で締めくくられるが、どこか現実離れした雰囲気を映画でも見せていた彼女の胸中を覗き込むと、雪野とはまた違った寂しさが見えてきて切ない。

    しかし本当に面白かった。連載期間中に読んでいたら続きが気になって苦しい日々を過ごしていたと思うと、単行本でまとめて読めて本当にラッキーだ。

  • 雷神【なるかみ】のしまし響【とよ】もしさし曇り雨も降らぬか君を留【とど】めむ
     「万葉集」

    「恋」は、「孤悲」。万葉集に、そう表記された例がある。恋しくつのる思いも、相手を気遣うあまり、むしろ孤【ひと】りの悲しみとして秘めてしまうような。
     新海誠監督の「言の葉の庭」は「〝愛〟よりも昔、〝孤悲〟のものがたり」というキャッチコピーのアニメーション映画。
     雨と、庭園の緑の映像が美しいこの作品に、意外にも万葉集の歌が引用されていた。掲出歌は巻11のもので、雷がちょっとだけ鳴って突然曇り、雨でも降らないかしら、あなたを引き留めたい、という歌意。これに応答する次の歌も登場していた。

      雷神のしまし響もし降らずとも我は留まらむ妹【いも】し留めば

    「妹し」の「し」は強調の助詞で、雨が降らなくとも私はここに留まるよ、あなたが止めるのなら、という意味。
     アニメでは、「君」を留めたいと心ひそかに思うのは、27歳の女性。そして「君」は、靴職人を目指す男子高校生。二人は、雨の朝、日本庭園で偶然に出会う。初夏の雨の音と、ノートに靴をスケッチする鉛筆の音。女性はふいに、なぞめいた掲出歌をつぶやき、立ち去ってゆく。そして後に、雨の日の再会―。
     監督自らが小説化した近刊は、登場人物が一人称で語り出し、各自の像をいきいきと造型している。ラストには、映画で描かれていなかった逸話もあり、雨が静かに止む瞬間に立ち会えた気分になる。万葉の「言の葉」とともに、ゆっくりと読み味わいたい一冊だ。

    (2014年5月25日掲載)

  • 新海誠のアニメーション映画「言の葉の庭」の小説版。
    本筋以外にも、映画だけではわからなかった主人公の周囲の人たちの行動の意味や気持ちが描かれている。
    情景描写が美しくて、綺麗で、澄んだ印象の1冊でした。
    読んだ日がたまたま雨の日だったので、尚良かった。

  • とてもきれいだった。
    言葉も、風景も、雨も…。目に浮かぶ。
    恋の切なさとか、喜びとか、嫉妬とか、悲しさとかぜーんぶ詰まってる感じ。

    孝雄くんと雪野さんの、東屋での雰囲気がとても好きだった。

    雨が…ちょっと好きになった。

  • 登場人物の描写で、自分にもこういうところがあるとか、こういう人っているよねとか、細かい所だけど共感する点が多くて、新海さんの観察力に驚きました。
    映画はまだ見ていませんが、あのキラキラした絵でこの話が動くのだと思うと、ドキドキします。
    万葉集の和歌の綺麗さを初めて感じました。

  • 映画を見て、本を購入。
    すてきな作品です。
    絶対にまた読み返すだろうと思う。

    新海さんの作品には、言の葉の庭で初めて触れた。他の作品にもあたりたい、近いうちに。

  • アニメ映画「君の名は」が大ブレイクして
    超有名になった新海誠
    娘に教えてもらってかなり前からアニメとか観てました
    映像がきれいで惹かれます
    この小説も美しかった
    やはり情景がきれい
    挟まれる和歌もいいなあ
    ≪ 雨の中 黙って言葉を 紡いでく ≫

  • 「人間なんてみんなちょっとどこかおかしい。」
    あー、そうだなぁと思う。

    人が追い込まれていく様子は少ししんどかった。
    が、人は、
    どこかでどうにか何とかしながら生きて行く。

    心をほどくものがあれば救われるのに。

    映画は見てないけれど、
    映像あってこその作品という感じがとてもする。
    いつか確認してみたい。

    受け手の様子を見ているような
    「間」のある言葉遣いはとても新鮮。

    「手つかずのコーヒーは音もなく冷め続けていく」なんて、
    やっぱり、連続していて映像的。

    そして万葉集が美しい。

    ここからは余談。

    『夏の野の 繁みに咲ける姫百合の 知らえぬ恋は 苦しきものそ』

    素敵だ。

    『なるかみの すこしとよみて さしくもり あめもふらぬか きみをとどめむ』
    あえての仮名文字。
    素敵だ、ほんとに素敵だ。
    学生のころ、全然勉強しなかったけど
    万葉集だけは好きだった、、、のになぁ。
    忘れるなぁ。

    この歌の返歌がまた素敵。

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著者プロフィール

1973年生まれ、長野県出身。
2002年、ほとんど個人で制作した短編作品『ほしのこえ』でデビュー。
2016年『君の名は。』、2019年『天気の子』、2022年『すずめの戸締まり』公開、監督として国内外で高い評価と支持を受けている。

「2023年 『すずめの戸締まり(1)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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