作品紹介・あらすじ
静かな海辺の街で暮らす和佐泉は、毎朝の日課で海岸を散歩中、ひとりの男と出逢う。少し猫背の立ち姿、振り向いて自分を映した黒目がちの瞳-叶宗清は、海での事故以来、病院で2年間目覚めないままの弟の靖野によく似ていた。旅行中だという宗清の飾らない人柄を疎ましくも羨ましく、眩しく感じてだんだんと惹かれていく泉。だが泉には、同じように好意を寄せてくれる宗清には応えられないある秘密があって…。
感想・レビュー・書評
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全体的にストーリーはよく練られていて、そこはさすが一穂先生って感じでした。主役2人以外の登場人物もきちんと描かれていましたし、靖野が目覚めるまでバイトを新たに雇わないマスターも、陰口に本気で怒る真帆も、全てを受け入れる泉の父も、みんな温かくて素敵でした。
ただ、泉と宗清の恋愛が中心に描かれているにも関わらず、物語全体として浮かび上がってくるのは紛れもなく家族の話で、どっちが軸なのか定まりきらず、最終的にどちらも中途半端で終わってしまった印象でした。また主役2人の思いも微妙に噛み合ってないまま終わったようにも感じました。例えば、泉は、宗清に救われて孤独な狭い世界から外に出ることができましたが、宗清にとっては、泉と出会ったことよりも、靖野という弟に生きて出会えたことの方が大きかったんじゃないかなと感じました。
先生が色々な要素を盛り込んだ素晴らしい作品を書かれる方だというのは、他の作品でよく知っています。また次の作品、期待して読んでみます。
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弟に似た男×弟を看病する兄
正直、表紙が…ちょっとオジサンな感じに見えたので、疲れたオジサンと青年の海辺の街での物語かな?とか思ってました…
ちょっと宗清のイメージじゃないなぁ…。
本当は20代の若者同士のお話です。
とある海辺の町で、海での事故以来意識不明の弟の看病をしながら暮らす泉。ある日日課の散歩の途中で海岸で知り合ったのは弟に印象の似た宗清。
長めの休暇を取ってのんびり暮らす彼と時には海岸で、時には行きつけの飲み屋で、そしてだんだんと一緒に過ごす時間が増えて。いつしか我儘を言ったり。いつか東京に戻る宗清に甘えている自覚はあっても、彼に勘違いさせてはいけないと思ってはいても、その関係を断ち切れない泉。
2年間献身的に弟の看病をしてきた泉は『誰にも言わない』という宗清の言葉に弟が事故に遭う前夜のことを語り始め…
いくつかのことが絡み合ったお話で、2人の関係が馴染んできてから、後半にそれが明かされるストーリーですね。
ちょっとご都合的すぎない?って思うところはありますが、読んでてなんで泉ってここまで弟に尽くすの?みたいな部分とか、宗清がこの町にやってきた理由とか、宗清と弟が似てる理由とか色々わかります。
個人的にはショートストーリー部分の弟が『本当のこと』を宗清に話す場面がすごく好きでした。
以下ネタバレ
兄が俺に捧げてくれた二年間に対して返せるものを、ほかに思いつかなかった。
兄に告白した直後に海で意識不明で見つかった弟。
事故とも自殺ともとれる状況に泉は前夜の自分の態度についてずっと思い悩む。
弟からの告白にどう答えればよかったのか。自分のせいで弟は…。
そんなときやってきた宗清はお互いの母の秘密を携えていた。
弟と宗清が似ているのも道理で、過去に泉と宗清はお互いの母によって、取り替えられていた。
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読まないとーと思いつつ積んであったのを、病院の待ち時間の暇つぶしに、と読み始めたら最後まで一気読み!でした。
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webでも読んでいたのですが、改めて本で読むと感動や切なさが胸にぐぐんと来て、最後はやっぱりぽろりと涙してしまいました。
お互い口には出せない秘密を抱えた者同士が、2人の世界だけで許しあい秘密をさらけだせる関係になっていくのを見ていると、触れてはいけないタブーを覗いているみたいな心境になってドキドキしました。
一穂さんは本当にドキドキさせてくれるなぁ~!!
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情緒的で沁みるBL。一穂さん作品はひねった設定多いけど、どうやって思いついてるんだろうか。
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藤たまきさんのあとがきの、兄弟のかんじもちょっと見てみたかった、に激しく同意!
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web連載時は後半で明かされた“秘密”にテーマを持っていかれたような気がして、あまり好きじゃないなと思った。その後、一穂さんを作家買いしようと決めてから遅れての購入。読みなおし、すべてを知った上で泉(受)視点の宗清(攻)を追って読むと…気安さが思慕になっていくのが丁寧に綴られていて、じわじわとキてしまった。思いがけずに。
“秘密”の部分はあくまで彼らを取り囲む要素のひとつで、ちゃんと泉の恋愛がメインなんだと気づけたのが良かった。包容攻、大好物!だし。限界に近かった泉を救ったのが宗清だったというのも意味があると思えた。“秘密”がなければ萌えだったものが、それがあったことによって別の物語に昇華されてしまったのは否定できないけど、ちゃんと二人の恋愛を描いてあったのが良かったです。
最後に、オマケのイラストやSSでチラッと登場した生きて動いている靖野。さわやかな風貌に加えて、サラッと自分の恋心(というか苦悩?)を相手の負担にならないように抑え込んでいるところが非常にツボでした。(ビジュアルも好み!)フルールの小説部門はなくなっちゃったって聞くけど、スピンオフでて欲しいな。
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内容(「BOOK」データベースより)
静かな海辺の街で暮らす和佐泉は、毎朝の日課で海岸を散歩中、ひとりの男と出逢う。少し猫背の立ち姿、振り向いて自分を映した黒目がちの瞳―叶宗清は、海での事故以来、病院で2年間目覚めないままの弟の靖野によく似ていた。旅行中だという宗清の飾らない人柄を疎ましくも羨ましく、眩しく感じてだんだんと惹かれていく泉。だが泉には、同じように好意を寄せてくれる宗清には応えられないある秘密があって…。
それぞれの親同士の恋愛は成就しなくて、その子同士も恋して、こちらは成就しました、ってことでいいのかな。
風景とか情景とか、自分の心の中にもあるような気がする郷愁を煽る文章が好き。
心情も、キレイなところもあったり、そうでないところもチャンと書かれてたりするのもいい。
宗清:「血がつながっていないと知った時、心は騒がなかったか。だったら、と思いはしなかったか。」
とかね、そうだよね、人ってそう思うよね。それに対して、これが答えだよね。
靖野:「兄が捧げてくれた二年間に対して返せるものを、ほかに思いつかなかった」
あ~いいなぁ。
二年の寝たきりで、目覚めたとき、そんなにすぐに身心共に健康にもどれるもの?ってところが気になって仕方がない。お話の本筋には関係ない感想なんだけど。
でも☆マイナス1。
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著者プロフィール
2007年作家デビュー。以後主にBL作品を執筆。「イエスかノーか半分か」シリーズは20年にアニメ映画化もされている。21年、一般文芸初の単行本『スモールワールズ』が直木賞候補、山田風太郎賞候補に。同書収録の短編「ピクニック」は日本推理作家協会賞短編部門候補になる。著書に『パラソルでパラシュート』『砂嵐に星屑』『光のとこにいてね』など。
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