リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)

著者 :
  • KADOKAWA/角川書店
3.88
  • (3)
  • (1)
  • (4)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 19
レビュー : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040820750

作品紹介・あらすじ

東日本大震災による東京電力福島第一原発事故の被災者の取材で目にしたものは、その約10年前、2004年の新潟県中越地震の被災地の取材で見聞きしたことと 同じことが繰り返されていた。お年寄りの孤独死、アルコール依存症、家庭の崩壊、国などから受けられる補助金の額が異なることによって生じる地域住民間の不和、帰る帰らないの問題……。災害の規模も性質も異なるのに、起きている現象と問題の構造は、中越地震のそれとほとんど変わらなかった。さらに今回の福島県では、放射線の影響が絡み、より復興を難しくさせている。避難指示区域の放射線量はいまだに高く、避難指示区域以外の地域でも、除染で出た放射性廃棄物があちこちに置かれ、日常生活を不安にさらしている。そして放射線もまた、地域の分断を生み出している。放射線量が高い低いという物理的な差だけでなく、放射線リスクに対する考え方の違いが、住民の間に溝を作っているのだ。放射線の問題が、宮城、岩手県の津波被災地とは違う、福島県特有の複雑さの原因となっている。2016年3月で、東日本大震災から5年――。被災地・福島で何が起きているのか。絡み合った一本一本の糸をクローズアップしながら、被災者の実態に迫り、さらに深刻度が増す状況に警鐘を鳴らす。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • 著者は2013年4月から2015年1月まで、読売新聞の福島支局で
    東京電力を担当した記者である。その2年間の取材をまとめたの
    が本書である。

    ナベツネと巨人軍が嫌いなので読売新聞は購読していないのだが、
    本書に書かれていることは全国版紙面には掲載されなかったのか。

    本書発行時には東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故か
    ら5年が経過している。被災地の復興の様子は時折報道されるけ
    れど、未だ前に進めない地域のあることを被災地以外に住んでい
    る人間は忘れがちではないだろうか。

    私もこのところ、原発事故関連の作品を手にすることが少なくなってい
    たことを反省する。

    「事故は収束した」「汚染水は完全にコントロールされている」等々。
    国は言う。けれど、何も終わっていないし、何も始まっていない。それ
    どころか、国策によって進められた原子力発電所の事故の被災者で
    あるのに、国から「棄民」とされようとしている人たちがいる。

    賠償金に絡んだやっかみ、遠方へ避難した人たちに対する批判的な
    目、被災自治体の慢性的な人手不足と中央官庁との温度差、調整
    能力ゼロなのに除染作業の監督官庁に名乗りを挙げた環境省。

    あまり目新しいテーマはなかったけれど、「5年経っても何も変わって
    ないじゃないか」と思う。東電からの賠償金云々については早い時期
    から問題になっていた。国が画一的に線引きしたことによって問題
    となっているのだが、それさえも解決していない。

    それどころか、「除染、終わりました」と言って帰還できる地域を広げ、
    賠償金の支払いを縮小しようとしているではないか。除染が終わって
    空間放射線量が下がっても、原発事故前の生活に戻れるはずもない。

    帰還者の多くは高齢者だし、インフラの復旧は遅れ、数年間、無人で
    あった家屋は修繕しなければ住むことが出来ない。

    原発事故発生直後、民主党政権は多くの会議を設立して非難を浴びた
    が、自民党が政権に返り咲いても同じことをしているではないか。

    東京オリンピックなんてやっぱりやっている場合じゃないんだよね。そこ
    につぎ込む費用が国にあるのであれば、いち早く被災地の復興に使う
    べきなんだ。だって、福島第一原子力発電所で作られていた電機は、
    福島県内で消費されたのではなく、首都圏に送られていたのだから。

    「物事がどんどん悪化していき、声を上げる人が多くなり、最終的に
    もうこれ以上悪化させたらさすがにどうしようもない事態になる。そう
    なるまで、政治と行政の腰は上がらない。」

    そのうちにリンゴは腐っていくという意味でのタイトルだと思うのだが、
    リンゴが腐るのは入れ物である「国」自体が既に腐っているからでは
    ないだろうか。

    これは私の先入観なのだが、読売新聞はあの原発事故があっても
    再稼働賛成の論を張っている。だから、事故5年後の本書のレポート
    は政治を批判しておけばいいとの視点で書かれているのではないか
    と感じてしまった。

    事故以前にも原発推進に邁進していた。著者である記者は、会社の
    方針とどこで折り合いをつけているのかと思う。その視点が欲しい
    かったけれど、本書も紙面掲載の記事をまとめたものではなさそう
    なので無理かな。

    福島第一原子力発電所の事故後、朝日新聞は自社の原発報道を
    振り返る記事の連載をしていた。すべての新聞社がこの視点を持つ
    べきなんじゃないかな。電力会社と国の言いなりになって、安全神話
    の大きな提灯を持っていたのだから。

  • 中越地震を取材した経験のある読売新聞記者が福島で見聞きしたことは

    身内が送ってくれた福島産のりんごを腐るまで放置してしまう
    どうしようもなくなるまで動かない政治・行政の姿が重なって見える

全2件中 1 - 2件を表示

リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告‐記者ノートから‐ (角川新書)のその他の作品

笹子美奈子の作品

ツイートする