犯罪「事前」捜査 知られざる米国警察当局の技術 (角川新書)

  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784040821474

作品紹介・あらすじ

世界の法執行機関の捜査の最前線で大きな変化が起きている。

事後対応から事前対処への変化だ。事前対処は事前捜査と言ってよいだろう。これには大きくふたつの理由がある。ひとつはテロだ。テロは近年になって規模も数も拡大し、サイバー化かつ国際化してきており、これまでと同じ対応では難しくなってきている。

そして、インターネットの普及がもうひとつの理由だ。テロリストや犯罪者を含めた多くの人々が通信でやりとりをするようになった。地理的制約や物理的制約が減り、テロや犯罪へのハードルが下がったが、防御方法も同時に進歩した。傍受し、位置を特定することができるようになった。

かくして捜査当局は、予防のための体制を整えることになった。もちろん、そこにはプライバシー侵害や冤罪などさまざまな問題がある。 (「はじめに」より抜粋)

はじめに
第一章 ボルチモアの暴動で明らかになった最新捜査技法
第二章 携帯電話の基地局になりすます「モバイル監視」の捜査とは
第三章 最強の盗聴組織とやられっぱなしのSNS
第四章 ダークウェブの児童虐待サイトに捜査のメスを入れることは可能か?
第五章 犯罪やテロを防ぐ事前捜査社会
あとがき

<この流れは止められない。間違いなく、まもなく日本でも同じ状況が展開されることになるだろう。日本の近い未来を今、FBIが可視化している>

感想・レビュー・書評

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  • 【変化しているのは法執行機関なのではなく社会全体であって、それに対応するために法執行機関も変化していると考えるべきなのだろう。その答えのひとつが事前捜査だ】(文中より引用)

    米FBIが隠密に取り入れてきた犯罪「事前」捜査の手法。最新テクノロジーも駆使した方法から浮かび上がってきたのは、プライバシーとセキュリティ、法執行と諜報といった論点を含む、複雑な変化であった。著者は、サイバー関係の小説も多数世に送り出している一田和樹と翻訳家の江添佳代子。

    なんとも渋いテーマなのですが、犯罪捜査手法・議論の最先端を知る上で大変参考になる作品。アメリカの事例を参考としつつ、日本における取組・議論にも触れており、広く目配せがなされていると感じました。

    とある詐欺師の話には驚かされました☆5つ

  • 【258冊目】犯罪の事前捜査が必要となり、可能となった時代という分析から入る。ここからして、日頃から薄々考えていたことと符号して興味深い。
    ●必要性…テロやサイバー攻撃等はいったん被害が発生すると(生命・身体・財産への、及び公の秩序や民主主義という価値への)被害が甚大であることから、犯罪を事後的に捜査するのではなく、事前に予防することが必要かつ重要な時代となってきた。
    ●可能性…犯罪者がICTの発展により地理的・物理的制約を超えるように、捜査機関側にもそれが可能となり、犯罪の芽を摘むことが可能な時代となった。

     また、上記2点のイントロダクションで筆者は本書を貫く重要な指摘をしている。すなわち「テロは国家間の戦争のいち手段としての性格を強く持ち始めた」(p5)という部分。これについては後述。

     その後、FBI及び米国の法執行機関が活用していた捜査手法を、プライバシーや通信の自由等との緊張関係を指摘しながら論じていく。概要を下記。
    ●第1章…データベース化。特に、民間企業がSNSを監視・分析することによって、次に暴動が起こる場所や要注意人物を特定し、法執行機関に提供している話が印象に残った。

    ●第2、3,4章…監視。ここで重要な指摘はなんといっても「スティングレイ」の利用による、携帯電話の盗聴システム。スティングレイの特徴は主に3つ。①「ID情報の一斉収集」偽物の基地局になりすますことにより、周辺の携帯電話に強制的に接続。IMEIやIMSIを収集。②「データ通信の盗聴」本来の通信者であるAとBの間に入り込むイメージ(マン・イン・ザ・ミドル)。③「標的の現在地の追跡」三角測量の要領で。
     そして、このスティングレイの存在を世に知らしめたのが、「天才」と呼ばれた詐欺師、ダニエル・リグメイデンが、自身がなぜ逮捕されたのか刑務所収監後に研究し続けた結果だというのが、物語としての面白みも加えている。

    ●第3、4章…アクティブ・ディフェンス。ガバメント・マルウェアや、法執行機関自身が囮サイトを運用する等。

     いずれも極めて興味深く、捜査機関のみならず、刑事司法に携わる者は必読の一冊だと感じた。

     その他、筆者が本書内でしている重要な指摘を2つ、書き留めておきたい。
     1つは「プレイペン事件」の数ある判決の中の1つ。「モーガン判事は、ハッキングを通して容疑者を通して容疑者を特定する捜査は『家宅捜索を行いたいと願う警官が、ブラインドの壊れた窓を調べるような行為』だと喩えた」「(インターネット)ユーザーもプライバシーの保護が低いことを承知の上でインターネットを利用しているのだから、そのボロボロのマドからFBIが部屋を覗くことは法に反していないという考え方」(p192)。ギョッとするような判決だが、2016年12月の連邦刑事訴訟規則第41条の改定発効はこれを追認した。すなわち、「FBIを始めとした米国の捜査機関は『裁判所に捜査令状の発効を依頼する際には、捜査対象のコンピュータについて知る必要があるので、』コンピュータをハッキングしてもよいと定められた。」(p194)。
     およそ我が国では考えられない措置だが、米国の捜査機関がこれにより強力になるのは間違いない。

     もう1つは、本来法執行機関であるFBIが、国家の安全保障を担っている現実の指摘だ。たとえば「国外から自国に対して行われるサイバー攻撃は軍や諜報機関が対応するかもしれないが、内部に侵入してからのゆさぶりにはFBIや警察組織が当たるのが適当なのかもしれない。」(p130)ここでいう、内部からのゆさぶりというのは、ロシアによるSNS世論操作や、ISILによる過激思想の拡散を通じたテロ誘発を念頭に置いている。いずれも、2010年代後半にかけて重要な問題となったものだ。「サイバー空間におけるFBIの捜査活動の多くは裁判にはならず、アメリカ国内を守ることに向けられるようになっている。犯人を特定し、逮捕し、告訴するという役割は薄れて、『法執行機関』という立場からじょじょに離れている。だが、どこかの機関が国内を守らなければならないとすれば、それはやはりFBIの仕事なのだろう。」(p216)
     ひるがえって、我が国の法執行機関に安全保障の一端を担う自覚があるか、あるいは法執行機関以外の政府安全保障部門に法執行機関が担うべき役割に関する認識があるかと言えば、やはり疑問に思わざるを得ない。

     また、国際協調がますます重要になるテロ・サイバー攻撃対策の分野において、日本だけが技術の導入及び法整備の面で遅れており、ループホールになるのではないかという指摘も付言したい。

  • 東2法経図・6F開架:317.95A/I13h//K

  • 犯罪への対策は犯罪が起きてからの事後対策ではなく、犯罪が起きる前に、どの人間が犯罪を起こす可能性があるのかデータベース化しておき、未然に犯罪の発生を防ぐといった事前対策にシフトしつつあると訴える書籍。ただ未然に防ぐとなると、犯罪をしていないにも関わらずプライバシを侵害されるといった弊害も発生するため、特に日本においての実現性は低いものと考えられる。本書では、事前対策にまつわるエピソードだけでなく、偽物の通信局となるスティングレイや児童ポルノサイトのプレイペンなどのエピソードを交えており、犯罪捜査に関する事例も学ぶことができる。

  • 本書ではタイトルの通り、 犯罪が起こる「前」にどんな「捜査」が行われているのかを著した本。

    今や誰もがと言っていいほど携帯電話等を持ち、 メール以外にSNSなどが連絡手段として使われている。
    一般的なインターネットの他、ダークウェブといった世界もある。
    そこから犯罪の予兆等を発見するためにどんなことが行われているのか。

    当然のことながら、捜査手法など積極的にオープンにはされない。
    著者はあらゆる資料の断片をつなぎ合わせ、 本書を作り上げたと想像する。
    その努力に敬意を表するのみである。

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著者プロフィール

いちだかずき●小説家及びサイバーセキュリティの専門家、明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。I T 企業の経営を経て、2 0 1 1 年にカナダの永住権を取得。同時に小説家としてデビュー。サイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)、『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)、『フェイクニュース新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)、『新しい世界を生きるためのサイバー社会用語集』(原書房)など著作多数

「2022年 『ウクライナ侵攻と情報戦』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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